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クアットロ「ただ弄られるだけの男、馬鹿で嘘がつけない馬鹿正直な男、何の力も持たない無力な男。けど、そんな無力な男が巨大な存在を崩すのって、面白そうだと思わない? 『ナンバーズ〜魔法が使えない男リベンジ!〜』始まりますわ」
No.15 腹黒くても根っからの悪って訳じゃないと思う
 深夜、俺はサードと共に自分の部屋を出た。眠気を押し殺して、気だるげな足取りで通路を歩く。
 ──超眠い……。
 大きく欠伸をかき、目の端に涙の粒が浮かんだ。良い子は寝てる時間だし、良い子じゃない俺でも寝たいよ。フカフカのベッドで、サードと一緒にグッスリと朝まで眠りたい。
 しかし、寝れない。今から部屋に戻って、眠る事は許されない。何故かって、呼ばれてるからだよ。誰かって? ソレは部屋に着いてからのお楽しみって事で、お願いします。
 薄暗い通路を進んで、俺は指定された部屋に入った。室内には明かりが点いていて、一人の女が俺達を待ってた。

「は~い。お待ちしてました」

 こっちに手を振ってニッコリ微笑むのは、クアットロだ。
 クアットロ。皆はもう知ってると思うけど、丸眼鏡に茶髪の女でナンバーズの一人だ。んで、俺の天敵でもある。このアジトに着て、最初に俺を弄ってきたのは他でもないクアットロだ。あの一件のせいで、ノーヴェにメッチャ睨まれたからな。今でもよく覚えてる。その日から、俺はクアットロに会うたびに弄られてんだ。まあ、今じゃもう慣れてきたけどさ。
 しっかし、そのクアットロがわざわざこんな時間に俺を呼び出して、一体何の用だ? 俺には心当たりはないけど。

「お待たせしました。それで、俺に何か用ですか?」
「ちょ~っと隼ちゃんに訊きたい事があるの」

 笑みを顔に張り付かせて、クアットロが歩み寄ってくる。
 どうでもいいけど、クアットロでずっと笑ってるよな。何が面白いのか、毎日ニコニコニコニコと笑顔が絶えない女である。まあ、可愛いからいいけど。
 目の前で立ち止まったクアットロは、笑顔のままで目を鋭くさせた。その顔を見た瞬間、背中に寒気が走った。

「コソコソと動いて、一体何を企んでるのかしら?」

 顔を近付け、耳元で囁かれた俺は鳥肌が立った。
 傍で控えてたサードが、腕を引っ張って俺をクアットロから引き離した。俺と同じモノを感じたのか、サードは警戒している。
 一方、クアットロは普段と違った妖しい笑みを浮かべて、こっちを見てる。
 いやいやいや、何この人? 雰囲気が、ガラリッと変わったんですけど!? S的な性格なのは予想してたけど、スゲー危険な感じがするぞ? 顔なんて、ニコニコが消えて悪女な笑みになってるよ!
 クアットロの豹変ぶりに、俺は動揺を隠せなかった。漫画とかで、眼鏡をかけてる女が実は腹黒くて性格悪いってのは見た事あるけど、実際に目の当たりにするとマジでビックリだ。
 それにしてもクアットロの奴、俺達の動きに気付いてたのか。こりゃあ、下手にごまかすより素直に言った方がいいな。今のクアットロは、普段には無い危ない感じがする。
 しかし、ロボットとは言え女の子に庇われるとは、情けないものだな。今に始まった事じゃないけど。

「えー、最終戦で皆とは別に、俺なりの作戦を立てまして……」
「ふぅん。作戦、ねぇ」

 目を細め、クアットロは疑いの眼差しを向けてくる。
 見据えられるような目を向けられて、俺も目を逸らさず向き合う。ニコニコ笑いをやめたクアットロは、SMの女王様な雰囲気で、体のラインが浮き出てるボディスーツのせいもあって妖艶さも感じる。最初は、クアットロの豹変ぶりに驚いたけど、こうして少し落ち着いて見ると、かなり魅力的だ。普段とは違う、クアットロの裏の魅力だ。
 ただ、妙な違和感がある。多分、コレがクアットロの素なんだろうけど、初めて見た気がしない。前にも、見た記憶があるんだ。
 俺が疑問を抱いてると、クアットロが口を開いた。

「まあ、ガラクタ達をどう使おうと貴方の自由ですけど、私達の夢の邪魔だけはしないで下さいね」

 小馬鹿にしたように笑うクアットロに、俺は眉根にシワを寄せた。
 庇ってくれてるサードの手を見ると、握り拳を固めてる。表情をうかがわなくても、怒ってるのが解る。
 俺も今のは聞き捨てならないな。俺の事が気に入らないのは、別に構わない。けど、アイツ等を──ガジェットを馬鹿にするのは不愉快だ。その中には、勿論サードも含まれてる。

「クアットロさん」
「何かしら?」

 クアットロは、まるでゴミを見るような冷たい目をしてた。

「確かにガジェットは、クアットロさん達のような戦闘機人や一流魔導師に比べたら大した事ないです。けど、それでもやり方次第じゃ、その……何て言うか、“上”を引き摺り下ろす事も出来るんです。それに、アイツ等やサードはロボットだけど、スッゴい良い奴等なんです! だから、ガラクタって言ったのは撤回してくれませんか?」

 アイツ等を馬鹿にされると、気分が悪いんだよ。こんな俺を護ってくれて、こんな俺の作戦に乗ってついてきてくれるアイツ等は、紛れもなくスッゲー良い奴等だ。
 だから、ガラクタとは呼ばせない。
 この世界での俺の友達だから、ソコは譲れない。
 俺の話を聞いて、クアットロは顔をしかめた。コイツのような奴にとって、俺が言った事は理解し難いんだろう。今まで、そういった考えをしてこなかったんだろうし、妹が傷ついても平然としてる性格の奴だからな。

「ねぇ、隼ちゃん」
「はい?」
「貴方が考えた作戦、私に教えてくれないかしら?」

 俺の作戦に興味を持ったのか、急に話を変えてきた。
 そんな事より、俺としてはガジェットを認めてほしいんだけど、断って更に機嫌を悪くさせるのも怖いしなぁ。しょうがない、ここは俺が折れるか。

「はい、分かりました。けど、他の皆には黙っててくれませんか?」
「分かったから、早く話なさい」

 少し苛ついた様子で、話すよう促してきた。
 俺は、クアットロに作戦の内容を話した。初めはしかめっ面だったクアットロだが、内容を聞いてく内に、その顔に笑みが浮かんできた。一言で表せば、『邪悪な笑み』かな。

「へぇ〜。まあ、なかなか面白そうじゃない。素人の隼ちゃんにしては、上出来ね」
「あ、ありがとうございます」

 むむ、まさか誉められるとは思わなかった。不覚にも、ちょっと嬉しくなった。
 するとサードが、肘で少し強めに小突いてきた。多分、クアットロ相手に気を許したのが嫌だったんだろう。
 分かった。俺が悪かったから、小突くのは止めてくれ。

「分かったわ」

 サードの小突きを止めると、クアットロが口を開いた。

「もし隼ちゃんの策が上手くいったら、ガジェットを馬鹿にした事は取り消してあげるわ」
「ほ、本当ですか?」
「ええ」

 よーし、言ったな。こうなったら、意地でも作戦成功させて、ガジェットを認めさせてやる。
 密かに俺がテンションを上げてると、今度はサードがクアットロに話しかけた。

「ところでアンタってさ、普段は猫被ってるわけ?」

 清々しい程ストレートに訊くな、サード。
 一方、ストレートな質問を受けたクアットロは全く動じず、普通に言葉を返す。

「そうよ。猫被るのって、結構疲れるのよね〜」

 ふぅ、と一つ息をついてから、クアットロは髪を分けてるリボンを(ほど)いた。
 後ろで左右に分けられてた茶色の髪が、バサッと下ろされた。
 背中を隠す程の長い髪を下ろしたクアットロを見て、俺は驚愕すると同時に今まで抱いてた違和感の正体に気付く。

「ああっ! ドゥーエさんだ!」
「え?」

 突然、声を上げた俺に二人とも驚いてる。
 しかし、俺は二人の反応に構わず、クアットロを指差して若干テンションを上げて続けた。

「そうだそうだ、そんな感じです! 誰かに似てるな〜、見覚えあるな〜、って思ったらドゥーエさんだよ! あ〜、スッキリした!」

 胸のつっかえが取れて、俺はまじまじとクアットロを見る。
 あのサディスティックな瞳、怪しい笑みに妖艶な雰囲気、何か覚えがあると思ったらドゥーエと似てるんだ。
 頭にドゥーエを思い浮かべながらクアットロを見てると、ある事に気付いた。さっきまで高圧的な態度だったクアットロが、何やら頬を赤らめてるのだ。

「じゅ、隼ちゃん? それって、どういう事かしら?」
「え?」
「だから、その……私、ドゥーエ姉様に似てるのかしら?」
「ああ、はい。似てますよ。いや、何となく雰囲気が誰かに似てる気がして、んでクアットロさんが髪を下ろした時にドゥーエさんの姿が被ったんです」

 眼鏡外したら、多分ソックリなんじゃないか? それに、個人的には髪下ろしてる方が良いと思う。髪型だけで、随分と印象も変わったからな。
 猫被ってる方も良いけど、素のクアットロはもっと良いと思うわ。大人な雰囲気で、さっき言ったようにドゥーエに似た感じでもあるしね。

「ドゥーエ姉様に似てる……うふふふふ!」

 俺の感想を聞いたクアットロは、ブツブツ呟いたかと思ったら、笑い出した。
 ──お〜い、大丈夫か? 戻ってこ〜い。
 心中で呼び掛けた時、クアットロが顔を向けた。

「も〜う、隼ちゃんったら良い子ねぇ〜! 何か困った事があったら、遠慮なくお姉さんに言いなさい!」
「え? あ、は、はあ……」

 何か、エラい上機嫌になったな。
 隣に居るサードも、クアットロの変わり様に唖然となってる。
 そんなにドゥーエさんに似てるって、俺の言葉が嬉しかったのか? そりゃまあ、ドゥーエはスゲー美人だから憧れるのも何となく分かるけど……。まっ、いいか。
 心の中でまとめ、そろそろ帰ろうとした時だった。

「あっ、そうだわ」

 何か思い出したように、クアットロは声を出した。

「ガジェット好きの隼ちゃんに、面白い物をあげるわよ」
「面白い物?」

 はて? ガジェットで面白い物とは何だ?
 頭の中で疑問符を浮かべる俺とサードを、クアットロは半ば無理矢理引っ張り、別の部屋に連れてきた。扉を開けると、中は真っ暗で何も見えなかった。先頭のクアットロがスイッチを押して、明かりを点けた。
 天井の明かりに照らされ、室内にある物を見た俺は、驚きに目を見開いた。

「どうかしら? 本当なら、『ゆりかご』の駆動炉を護らせる駒なんだけど、何機か貴方に貸してあげるわよ?」

 上機嫌なクアットロは、部屋にある物の能力を教えてくれた。
 ──コ、コイツ等が加わればスゲー心強いぞ! 作戦の成功率も上がるし、もしかしたらドゥーエの死亡を回避出来るかも……!
 俺は、今日ほどクアットロに感謝した事はない。普段は猫被ってて、中身腹黒いけど、接し方次第じゃそんなに悪くないかも。


     *


 その日、いつも通りに俺は自分のオフィスに居た。
 最終戦の時が迫っているが、何ら恐れる事も心配する事は無い。隼樹の奴が、何か企んでる感じだったが、全く問題無い。この世界で起きる出来事は、既に決まっているのだ。どんな小細工をしようと、変わらないモノは変わらない。展開に多少の変化が生じたとしても、万が一にも結果は変わらないのだ。
 仮に、奴がナンバーズの戦闘力を上げる為の強化案を考え、実行したとしても時間が無い。グズグズ時間をかけていたら、管理局に居所を突き止められるからな。例え強化出来たとしても、所詮は付け焼き刃だ。そんな浅知恵で勝てる程、機動六課は甘くはない。
 機動六課の強さを目の当たりにすれば、さすがに隼樹も諦めるだろう。彼女達の手にかかれば、ナンバーズなど雑魚に等しい。
 粉砕、玉砕だ。
 そうなれば、もう奴と顔を合わせる事も無くなり、邪魔者も全て消え去る。理想的な形だ。
 仕事を終わらせ、俺はモニターを一つ出した。画面に映っているモノを見て、口元を吊り上げる。
 まあ、もし万が一、億が一に不測の事態が発生したとしても、コレ(・・)がある。コレ(・・)で、邪魔者を殺せばいい。だが、あくまで不測の事態が発生した時だけだ。まだ試作段階で、テストも終了していない。不安要素もある現段階では、出来れば動かすのは避けたい。しかし、コレ(・・)の出番は無いだろう。ゴミ共は、管理局の精鋭部隊である機動六課が掃除してくれる。
 白い悪魔と恐れられる高町なのは、金色夜叉の異名を持つフェイト・T・ハラオウン、夜天の主にして部隊長の八神はやての三人に敵う者など存在しないのだ。
 最終戦の日に、俺は奴の悪あがきを見届けてやるとするか。
『ゆりかご』が空を飛ぶ時、隼樹の最初の一手が……!?


──おっしゃあ! 言わせたぞ、その言葉……! 俺が欲しかった言質を、皆の前で……!


次回『逆転への一手』


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