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ウーノ「非力な彼に出来る事は、考えること。そして考えた策を具現化さする為、彼は動き出します。全ては、勝つ為に──。『ナンバーズ〜魔法が使えない男リベンジ!〜』始まります」
No.14 俺達は雑草軍団だ
 チンクの状態を確認した俺は、自分の部屋に戻らずスカリエッティの研究室を目指した。
 目的は勿論、一也が言ってた『運命』ってヤツを変える為だ。機動六課に捕まって牢屋にぶち込まれてた時、一応策は考えてきた。けど、コレだけじゃ不充分なんだ。策を実行するのは、ある情報が必要になる。それから人手と準備をして、策を具現化させる事が出来る。
 そういう訳で、俺は研究室に足を運んだ。
 研究室では、相変わらずスカリエッティは研究に没頭してて、ウーノがサポートをしている。全く代わり映えしない光景だな。ちょいと思ったのだが、二人って夜ちゃんと寝てるのか? 睡眠は摂らないと、マジで辛いからな。

「隼樹さん!」

 俺に気付いたウーノが、作業の手を止めて駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「え? あ、は、はい……大丈夫です……!」

 肩を掴んで、頭から足まで確認するように見てくる。顔が近いから、恥ずかしくて直視出来ない。
 俺が無事なのを確認したウーノは、ホッと安堵の溜め息をついた。

「そうですか……良かったです」

 おおっ、ウーノまで俺の心配をしてくれてたのか。ヤッベ、メチャクチャ嬉しいんですけど。

「ははは。無事で何よりだよ、隼樹君」

 スカリエッティも椅子を回転させて、こっちに向きを変えた。
 すると、俺達の様子を見てスカリエッティが、堪えるよう口に手を当てた。

「しかし……ウーノ、こうして見るとキミは本当に彼の母親のようだよ」
「なっ!?」
「はあ!?」

 突然、何を言い出すんだこの変態医者は!?

「我が子を心配する母親のようだよ、今のキミは」
「ド、ドクター!」

 顔を真っ赤にさせて、ウーノが声を上げた。いつも冷静なウーノが、ここまで恥ずかしがるのを初めて見るな。つーか、想像した事も無いし、想像し難いわ。
 しかし、ウーノが母親ねぇ。いや、こんな美人が母親だったら、メッチャテンション上がるよ。もう、超甘えちゃうよ。絶対、友達に自慢するよ。クッソー、何で俺の母親はウーノじゃないんだ?
 いやいや、待て待て。今は、そんな事を悔しがってる時じゃねーだろ。そりゃウーノが母親ってのは、凄く魅力的な事だけど、それはまた別の機会に考えるとしよう。早く本題に入らないと、どんどん聞きづらくなっちまう。
 よし。意を決して、俺は口を開いた。

「あの、ちょっといいですか?」
「ん?」

 口論していたスカリエッティとウーノが、俺の声を聞いて振り向いた。

「ちょっと聞きたい事があるんです。その……皆さんが、これからやろうとしてる計画とか色々……」

 俺が尋ねると、二人は顔を見合わせた。
 今まで、スカリエッティ達の行動に関心や興味を持ったり、こうして聞く事が無かったからな。多少は驚かれて当然か。
 一つ頷いてから、二人は俺に顔を向き直した。

「悪いが、ソレは出来ない相談だね」
「え……?」

 断られた。
 な、何でだ? 何で教えてくれないんだ? ホワイ?
 心中で疑問を訴えると、スカリエッティが理由を語り出した。

「確かに、キミは私達側の人間だ。しかし、あくまでキミは私達の客人のようなものだ。戦闘要員でも無いキミに、私達の計画を教える必要は無いだろう?」
「はあ……」

 いや、そりゃそうかもしれないけど、それじゃダメなんだ。今後の計画──特にドゥーエの行動の把握と黒幕についての情報は、絶対に必要なんだ。
 もっともな理由だけど、簡単に引き下がる訳にはいかない。

「あの……別に計画に参加するって訳じゃないですから、ちょっとだけでも……」
「隼樹さん」

 俺の言葉を遮ったのは、ウーノだった。普段通りの真剣で、凛々しくて綺麗な顔つきの彼女と目が合う。

「申し訳ありませんが、コレは決まった事です。貴方に、私達の計画を教える事は出来ません」
「いや、でも……」

 コレは、かなりマズイ展開だ。
 ここまで頑なに、情報を教えてくれないなんて正直予想外だった。特に、スカリエッティが教えてくれなかったのが、意外だった。スカリエッティなら、自慢話でもするような感じで、愉快気に計画の内容をペラペラ話してくれると思ってた。
 けど、そのスカリエッティまで計画の内容を俺に明かしてくれない。

「私は別に話しても構わなかったのだが、ウーノがどうしてもと言ってね」
「え?」

 俺が心中に抱く疑問を読んだかのように、スカリエッティが言った。

「出来る限り、キミを危険な事に巻き込まないようにしたいと思う、ウーノの親心のようなものさ」
「ドクター!」

 再び顔を赤くさせ、ウーノは声を上げた。だが、恥ずかしがってる様子では、イマイチ迫力に欠ける。
 なるほど、合点がいった。あのスカリエッティまで口を閉ざしていたのは、ウーノが進言したからなのだ。
 しかし、意外と言えば意外だな。ナンバーズとは、ある程度の親交は深めたと思うけど、ここまでウーノから心配されてるとは正直驚きだ。スカリエッティからは俺の母親呼ばわりされてるし、こっちまで恥ずかしくなってきた。でも、ウーノのような美人から心配されて、嬉しかったりする。

「そういう訳だから、計画の内容については諦めてくれるかい?」
「はい。そういう事なら仕方ないですね」

 これ以上は無理だな、と悟った。あまり無理に聞き出そうとすれば、ウーノの心遣いにも悪いしね。
 本人から直接情報を聞き出せなかったけど、他にも方法はあるだろう。時間もまだ少しはあるだろうし、焦らずにいこう。
 だけど、このまま戻るのもアレだな。
 そうだ。どうせなら、これからの出来事をスカリエッティ達に話そう。未来の様子を先に話しておけば、敗北という運命が変わるかもしれない。
 期待を込めて、俺は口を開いた。

「あの……」
「ん? 何だい、隼樹君?」

 スカリエッティが尋ねてくるが、俺は答えられなかった。
 ──こ、声が出ない……!?
 最終決戦でナンバーズが負ける未来を語ろうとすると、急に声が出なくなったのだ。息は出来るし、体に違和感も無い、意識もハッキリしてる。それなのに、声が出ない。まるで、何か呪いでもかけられたように、未来に関する事を話そうとすると、喋れなかった。
 気味が悪くなった俺は、ふと思った。
 もしかして、コレが運命の力なのか? 運命の抑止力ってヤツか?
 未来を変えようとする俺の行動を、見えない力が止めている感じだ。

「隼樹さん? 顔色が悪いようですが、体調が優れないのですか?」

 俺を心配して、ウーノが声をかけてきた。
 大丈夫です、と答えて俺は研究室を後にした。


     *


 通路を歩く足取りは、重かった。
 情報は得られなかったし、未来について話す事も出来なかった。
 結局、出来ないのかな、運命を変えるなんて。一也が言ってた。運命ってヤツは俺一人でどうにかなる程、ヤワじゃなくて強大だ、と。もし、そうなら……俺に何が出来る? 情報も聞けなくて、未来の事を話せない俺に、戦う力も無い凡人の俺に、何が出来る? 何か出来る事があるのか?
 あぁ、ダメだ。またマイナスの方向に考えがいっちまう。こんな気持ちじゃ、未来を変えるなんて到底無理だ。
 落ち込むと同時に、自分のダメさに腹が立ってきた。
 苛々を募らせ、複雑な思いで溜め息をついた時だった。

「隼樹さん!」

 後ろから呼ばれて、俺は足を止めて振り返った。
 ソコに居たのは、ウーノだった。研究室で、スカリエッティの作業を手伝ってたハズなのに、抜け出してきたのか?

「ウーノさん。どうしたんですか?」
「少し、貴方の事が気になったので」
「え?」

 どうやらウーノは、俺の事が気になって研究室を出てきたようだ。そんな事しちゃ、スカリエッティに「母親みたい」って言われても無理ないだろう。俺は大歓迎だけどね。

「隼樹さん。どうして急に、私達の計画を知りたいと言い出したのですか?」

 ああ、やっぱりその事か。そうだよな。ソレ以外で、気になる事なんて無いもんな。

「それは……」

 さて、どうするかね。一也の事を話すと、また更に心配かけたり、下手したら叱られそうだな。でも、だからって黙りするのも良くないしな。
 しばし悩んだ俺は、一也の事は伏せて、素直に自分の気持ちだけ教える事にした。

「勝ちたいって思ったんです」
「勝ちたい?」

 怪訝そうに首を傾げるウーノに、「はい」と答えて続ける。

「俺、元の世界でも怠け者で、ダメな男だったんです。大学には行ってたんですけど、特にやりたい事も見つからなくて、就職意欲もロクになくて……毎日ダラダラ過ごしてました」

 自分のダメな面を話してて、恥ずかしくなってきた。

「一応、企業の面接には何回か行ったんですけど……全然ダメで……ダメ出しまでされちゃいました。でも、悔しいとか、いつか見返してやるとか、そんな風に思った事無いんです。自分がダメなのは解ってるから、やっぱそんなもんかって逆に諦めてました。そんな事があってから、就活もやらなくなって、大学や家で遊んでばっかいました……。
 でも、そんな俺が、今回は勝ちたいって思ったんです」

 失いたくないんだ。
 ナンバーズと過ごす時間が楽しくて、居心地が良くて、手放したくない。
 戦いで負けたら、ナンバーズは捕まってバラバラになる。そうなったら、今の生活は戻ってこない。
 それに、ドゥーエは死ぬ。殺されるんだ。死んだら、本当にそれっきりだ。死んだ人間は生き返らないってのは、世界の決まりのようなもの。ドゥーエは怖いけど、綺麗で、一緒に居て楽しいって思う時もあった。
 嫌だ。失いたくない、死なせたくない。
 それに、一也の言葉で火も点いた。今まで、面接官にダメ出しされても何とも思わなかったのに、一也の見下した言葉にムカついた。
 単純な理由だ。気に入らないから、潰す。

「初めてなんです、こんな気持ち……! 今までの人生で、こんなに勝ちたいって強く思ったのは……!」

 コレが、俺の理由だ。
 勝ちたいって思ったから、戦って勝ちたい。まあ、俺の場合はナンバーズみたいにドンパチ派手にやるより、どっちかっつーと地味な方だけどな。だって、ドンパチやる度胸なんて無いもん。ビビりなんだから、しょうがないだろ?

「そうですか」

 俺の理由を聞いて、ウーノは一つ息を吐いた。
 それからウーノは、意外な言葉を口にした。

「分かりました。私達の計画の内容を、貴方にお教えします」
「えっ!?」

 全く予期してなかった言葉に、俺は本気で驚いた。

「い、いいんですか?」
「はい。今の隼樹さんの話を聞いていたら、何だか協力したくなりました。勝ちたいと言う貴方の気持ちは、私もよく解りますから」

 真剣な表情を崩して、ウーノは微笑みを浮かべた。

「ただし、無理はしないで下さい。貴方に何かあれば、妹達も心配しますから」
「はい、勿論です。俺だって、出来るだけ無茶な事はしたくないですからね」

 くぅ〜! ウーノ、マジお母さんだね!

「そう言えば、この件は妹達には?」
「あっ、出来れば内緒で」
「分かりました。では、ココでは何ですから、研究室に戻りましょう。ソコでお話します」
「はい。ありがとうございます」

 礼を言って、俺はウーノの後に続いた。
 さっきまで意気消沈してたが、ウーノの情報提供の約束で少し希望が出てきた。俺が計画を知る事が出来るってのは、つまり運命に抗える可能性があるって事だ。この世界の奴に、この世界の未来を教える事は出来ないが、俺が動く分には問題無いのかもしれない。
 ふと俺は、ちょっと気になってた事を訊いてみようと思った。

「あの、ウーノさん。一ついいですか?」
「何ですか?」
「どうしてウーノさんは、その……ここまで俺の事気にかけてくれるんですか?」

 研究室で知ってから、ずっと引っ掛かってた。特別仲が良い訳でもないのに、どうして俺の事を凄く心配してくれるのか、不思議に思ってた。
 俺が質問すると、ウーノは足を止めて振り返った。

「そうですね……ハッキリ言ってしまえば、貴方が自分で言ったような『ダメ人間』だからです」
「は?」

 思わず俺は、間抜けな声を出した。
 おいおい、本人の前で『ダメ人間』って言いますか?

「常にマイナス思考で、何かやろうと言う意欲も無く、このままで大丈夫なのかと不安で不安で仕方なく思って放っておけないんです」

 頬に手を当て、やれやれと言う風に小さくかぶりを振るウーノ。
 ──メチャクチャ俺の事心配してんじゃん! 俺以上に心配してるよ! それにこの『しょうがない子ね』的な仕草は、もうお母さんみたいだよ! ウーノ、やっぱお母さん決定!
 クソッ、スッゲー恥ずかしくなってきた。
 穴があったら入って、一生引きこもりたい。


     *


 その日の深夜。
 俺は、空き部屋に一人佇んでいた。
 いや、正確には部屋に居るのは俺だけじゃない。俺以外にも居るが、ソイツ等は人間じゃない。ガジェットってロボット。勿論、中にはサードの姿もある。
 部屋の幅もあって、流石に全機は集まれてないが、それでもかなりの数が所狭しと並んでる。
 さて、揃ったところで早速本題に入るか。

「皆に集まってもらったのは、管理局との最終戦の事で話があるからなんだ。実は、スカリエッティ達とは別に、俺なりの作戦を考えてきた。はじめに言っておくと、機動六課や他の局員は眼中に入って無い」

 機動六課を相手にしないって発言に、数機のガジェットが互いに見つめ合ってる。そりゃ、怪訝に思うよな。何てったって、機動六課は敵組織の精鋭部隊だからな。
 けど、だからこそ連中との戦いは避ける。相手にしない。

「連中の強さは、多分俺より皆の方がデータとかで解ってると思う。ぶっちゃけ、同じ人間とは思えない連中だよ。特に隊長・副隊長クラスは化け物だね。そんな連中と戦っても、悪戯に戦力を減らすだけで全く意味が無い。だから、俺は別の所を攻めようと考えた。
 ソレは、事件の黒幕で管理局のトップ──最高評議会だっ……!」

 ウーノとスカリエッティから、色々と聞いた。最終戦の計画、自分達のスポンサーであり黒幕の正体、そしてドゥーエの動きとかね。
 話を聞いて、ドゥーエが最高評議会を暗殺する事を知った。俺は慌てて、その暗殺を中止にするよう頼んだ。黒幕の最高評議会が死んだら、俺の策は破綻しちまうからな。俺の必死さが伝わったのか、スカリエッティは暗殺中止を呑んでくれた。それさえ約束してくれれば、後はこっちの仕事だ。
 まっ、ソレもガジェットが協力してくれればの話だけどね。

「機動六課やデカイ組織は確かに強い……。けど、奇襲で崩す事が出来る……! 六課の連中や他の局員が、ナンバーズと派手にドンパチ戦ってる間に……その隙を衝いて潰す事が出来る……!
 俺は、勝ちたい……! ここで勝たなきゃ、俺達はボロクソに負けて、刑務所行きやスクラップだ……。俺は、そんなの嫌だ。御免こうむる! 正義だ何だと抜かして、裏で悪事やってた最高評議会(クズども)の代わりに捕まって人生台無しにされるなんて、そんなの納得出来るか!? 俺は、そういう偽善者が大嫌いだっ!」

 そんな俺以上に最高にクソみたいな連中のせいで、ナンバーズを犯罪者扱いされてたまるかよ!
 ガジェットだって、連中の道具としてじゃなく、もっと違う活かし方をすれば全然危険じゃねぇ。スクラップになんか、させるか。
 だって、友達なんだぞ?

「俺の計画には、皆の協力が必要なんだ。だからお願いだ! 俺に力を貸して下さい!」

 俺は頭を下げて、心から頼んだ。
 一人じゃ何にも出来ない情けない奴だけどさ、皆が協力してくれれば勝てるかもしれないんだ。無理強いはしないけど、やっぱ出来れば協力してほしい。
 そう思ってると、肩をポンっと軽く叩かれた。顔を上げ、俺の肩を叩いた人物を見た。サードが、笑みを作って俺を見ていた。

「アンタのソレ、愚問だったみたいよ」
「え?」

 言われて俺は、前を向いた。
 部屋に居るガジェット全機が、コードやらアームやらで『OKサイン』を出していた。
 ──お前等……! ホンット、機械のクセに良い奴等じゃんか……! 泣くぞ、この野郎! 涙もろく無いハズなのに……! ちくしょう……この世界に来てから、他人の優しさに触れ過ぎたかも……。
 何とか涙を流さず、抑える事が出来た。

「勿論、私も協力するわよ。アンタは、私が護るからね!」
「あ、ありがとう、サード」

 そんな可愛い笑顔で言われたら、照れちゃうだろ。
 ああ、顔が熱い。誰か扇風機持って来て。
 ともあれ、コレで人数は揃ったな。
 待ってろよ、最高評議会、一也。絶対にぶっ倒してやるからな!
 俺達が、勝つんだ!



 結成する。
 精鋭とは程遠い、雑草軍団が結成された。
 底辺の底辺に位置する存在が、集って世界のトップに噛み付くべく、牙を研ぎ始める。
 反逆の旗を掲げる。
 打倒・最高評議会──!
あの腹黒女と隼樹が対談!?

次回『腹黒くても根っからの悪って訳じゃないと思う』


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