オットー「僕達の世界にやってきた、二人のイレギュラー。一人は自分の野望の為に、一人は自分と自分以外の人達の未来の為に、衝突する。『ナンバーズ〜魔法が使えない男リベンジ!〜』始まります」
No.13 一度喧嘩を売ったら引き返せない
この隼樹とか言う奴、とんだ大馬鹿だ。
お前みたいなアリンコ一匹で、どうにかなる問題じゃないんだよ。
俺がこの世界にやってきたのは、もう七年前になる。ロストロギアの影響で、ミッドチルダにやってきた俺は、時空管理局に保護された。最初は非現実的で不可思議な現象に、面食らって混乱したが、以前に学校の連中から聞かされた話を思い出した。俺のクラスに居た『オタク』が、聞きたくもないのに、しつこくあるアニメの話をしてきた。深夜にやっていた『リリカルなのは』とか言う、理解に苦しむ作品だ。何度もしつこく話してきたから、嫌でも内容を覚えてしまった。
だが、まさか、この時に聞いた話が役に立つとは思ってもみなかった。時空管理局とは、そのアニメに登場する組織なのだ。信じ難い事態に陥った俺は、事実を確認する為に独自に調査をする事を決めた。まずは、時空管理局に入局して、職と寝床を確保した。それから、管理局のデータベースにアクセスして、過去に起こった事件を片っ端から調べた。すると、そこには驚きの結果が記録されていた。ジュエルシードと言うロストロギアを巡った『P・T事件』、長年に渡って管理局が捜査してきた『闇の書事件』と二大事件が地球で起こっていたのだ。しかも、事件を解決したのは、まだ小学校低学年の女の子と言うのだ。事件の詳細を見ても、全てカスオタクから半ば無理矢理聞かされたアニメの内容と一致していた。
その時、俺は確信した。この世界の流れは、図らずも俺が得てしまったアニメの内容と同じ運命である事を──。
同時に、俺の中で一つの野望が生まれた。第三期では、時空管理局のトップである最高評議会が元凶である『J・S事件』が発生する。その事件で、『戦闘機人』や『生命操作技術』等の魔法とはかけ離れた科学技術が登場する。未来を知る俺は、ソレ等の技術を奪う事を計画した。最高評議会を始末して、邪魔なスカリエッティ共も逮捕して、連中の技術を奪い、事件のほとぼりが冷めた頃に俺が使うのだ。しかし、派手な事はしない。馬鹿な奴は、派手な事をしたがるが、俺は違う。そんな事をしても、手掛かりを残したりして自分の首を締めるだけだ。裏で暗躍し、行動範囲は狭く極一部に絞る。
そうして俺は、徐々にだが、確実に富、名声、権力、力を得るのだ。最高評議会の始末やスカリエッティの逮捕は、俺が動かずとも機動六課や他の局員が勝手にやってくれる。俺は、ただソレを眺めていればいい。下手に介入せず、傍観して、事件が解決した後でスカリエッティの技術を手に入れればいいのだ。
そう。運命は決まっているし、俺の計画は狂わない。現に、地下騒動と機動六課襲撃が実現している。
俺は、目の前で睨んでくる隼樹を睨み返す。
だと言うのに、この馬鹿は変えられると思ってる。決まった運命を──。
馬鹿がっ……! お前程度の凡人が、いくら足掻いたところで何も変わらないんだよ! もう決まってる事なんだ! スカリエッティが捕まる事も、ナンバーズが負ける事も、全部決まってんだっ!
コイツは、馬鹿だ。
しかし、コイツは単なる馬鹿じゃない。地下騒動の時、運もあったとは言え、あのエース・オブ・エースを出し抜いた事がある。そんな奴が、俺憎さだけで、こんな馬鹿げた挑発をしてくるか? いや、ソレはあり得ない。つまり、何か策があるのだ。
「ククク……面白い!」
思わず笑いが漏れて、隼樹が顔をしかめた。
「興味が湧いてきた。お前の考えた戦略……素人の浅知恵にな……!」
そうさ、恐れる事はない。挑んでくるのは、いかにも人生の負け犬って感じのクズ一人だ。
歯を覗かせ、不敵な笑みで言ってやった。
「いいだろう……! お前の無謀な挑戦、受けてやる……!」
俺の言葉に、隼樹は更に険しい表情になった。気圧されないよう、必死に堪えてるのが見え見えだ。
「運命ってヤツは、お前のようなちっぽけな人間の力で、どうにかなる程ヤワじゃない……! 寧ろ、強大! 人の手など届かない鉄壁の巨壁……! 打ち破れる訳が無い……!
お前の付け焼き刃な素人アイデアが、どこまで通用するか楽しみにしてやる……!」
無力だ。
ナンバーズ共々捕まって、自分の無力さを思い知り、後悔するがいい。
*
「大丈夫なの、アンタ? あんな事言ってさ」
「悔しかったから、勢いでつい口から出ちゃったんだよ……。あ〜あ、言うんじゃなかった……一時のテンションに身を任せるもんじゃないな……」
場所は、数日ぶりのスカリエッティ達のアジトだ。サード、ディード、オットーの三人と通路を歩いてる。
全壊に近い機動六課隊舎を後にして、アジトに帰ってきた。牢屋から出れて一安心したいところだが、そうも言ってられない。
隊舎前で、一也と勝負する事を決めちまったからな。
俺が落ち込んでると、隣を歩くサードが呆れた口調で言った。
「よく聞き取れない部分もあったけど、アレって宣戦布告でしょ? まあ、相手は局員で私達の敵だけど……アンタ、ちゃんと勝算あって言ったの?」
「まあ、はあ……」
俺は曖昧に返す。
いや、そりゃ一応牢屋の中で策は考えてきたよ。だけど、いざ相手に挑んだら自信が無くなってきた。一也の力説とか、不敵な態度で余計に不安になってきちゃったんだよな。今更ながら、あんな事言って後悔してる。
ヤバい、超不安だ。でも、もう後戻り出来ないから、やるしかないよな。それに、一也に勝つ云々前に、このままじゃナンバーズが捕まっちゃうしな。ソレは、絶対に嫌だ。
結局、やるしかないんだよな。
おっと、先に二人にも言っとかないとな。
振り返って、後ろを歩くディードとオットーに声をかけた。
「あっ、俺が藤堂に宣戦布告した事は、他の皆には内緒にしてね? お願い」
「はあ……。隼樹兄様が、そう言うのでしたら私達は黙ってますが……」
「どうして言ったらダメなの?」
黙ってる事を約束するディードだが、オットーは不思議に思ってる。
そこら辺を解ってないオットーは、まだまだ子供だな。
「いや、面倒な事になるからだよ。俺が局員に喧嘩売った、なんて他の皆が知ったら騒ぎ出すと思うんだよね」
ただでさえ、一也に喧嘩売っちゃって参ってるのに、その上ナンバーズから俺の行動を注意されたりするの面倒だもん。
面倒事が嫌なら、最初から一也に突っ掛からなければいいじゃん、て思うだろうな。でもさ、何か引き下がれなかったんだよ。
「隼樹!」
通路の先から、耳に響くような大きな声が聞こえてきた。目を向けると、先に戻ってたナンバーズだった。久しぶりに会うせいか、自然と笑顔になる。
「皆!」
「この馬鹿っ!」
「ええええっ!?」
再会の挨拶しようとしたら、いきなり怒鳴られたよ。案の定と言うか何と言うか、怒鳴ってきたのはノーヴェだ。
「管理局に捕まるなんて、ドジ踏んでんじゃねーよ!」
「す、すいません……」
相っ変わらず、ノーヴェは怖いな。いや、いつも以上に迫力がある。普段よりも眉間に深くシワを寄せて、鋭い目なんて相手を射殺せそうな感じだよ。
拳の一発や二発は、覚悟しといた方がいいかな。
そう思いながら俺が身構えると、ノーヴェは意外な言葉を続けた。
「ま、まあ……無事で良かったよ……」
「へ……?」俺は耳を疑った。
「だ、だから……無事で良かったって言ったんだよ! 馬鹿!」
「す、すいません! その、ありがとうございます」
マジで俺は、自分の耳を疑った。
言葉通りに捉えるなら、ノーヴェは俺の事を心配してるみたいだ。いや、ちょっとビックリした。だって、あのノーヴェだぞ? 常にカリカリしてて、俺を気に入らないと言った感じで睨んでるノーヴェが、俺の心配をしてたっぽいんだぞ?
ん? よく見ると、ノーヴェの腕に包帯が巻かれてるな。
「ノーヴェさん? その……腕は、どうしたんですか?」
「あ? こんなもん、大した事ねーよ」
「そうですか……。でも、あまり無理しないで下さいよ?」
「う、うっせーな。大丈夫だって言ってるだろ!」
「す、すいません」
ノーヴェに謝るの、コレで三回目だよ。
つーかさ、そんな顔を真っ赤にする程、怒らなくてもよくね? こっちだって、心配して言ってんだからさ。あれ? 何か、ノーヴェの様子おかしくね? 何か、モジモジしてね? ちょっと気になるけど、ココでツッコんだらまた怒鳴られそうだから止めとこう。触らぬ神に祟りなし、だ。
ノーヴェとの会話を終えると、次にトーレが口を開いた。
「全く。ドゥーエの調べで、捕われた場所が機動六課だったからよかったものの……もし本局辺りにでも捕われていたら、いくら我等でも救出は難しいところだったぞ」
「すいません。って、捕まってる場所、ドゥーエさんが調べてくれたんですか?」
「ああ。戻ってきたサードから事情を聞き、後にドゥーエからお前が捕まってる場所の情報が送られてきたんだ」
正直、意外だった。
てっきり、俺はドゥーエから見捨てられてると思ってた。最悪、管理局への情報提供を恐れて殺しに来るんじゃないか、とすら考えてた。
けど、実際は違った。ドゥーエが、俺の居場所を調べて特定して、トーレ達に教えていたのだ。もしかしたら、俺を助ける為に──。
まあ、ドゥーエの真意は他人の俺には解らないけど。
「地下の件といい、今回の件といい、お前は本当に手間のかかる男だ」
腕組みをして、呆れたようにトーレは溜め息をついた。
でも俺は、落ち込みはしなかった。
手間がかかる手間がかかる、と言いながらも結局はトーレも俺を助ける事を選んでくれたと思う。そうじゃなきゃ、あんな事は言わない。
「隼樹が捕まったって聞いて、あたし等心配したっスよ〜!」
「まあ、こうして無事に戻ってこれたから良かったよ。とりあえず、おかえり隼樹」
ウェンディとセインも、笑顔で俺を迎えてくれた。
「そうそう。隼ちゃんのお友達も心配してたわよ?」
クアットロが言うと、彼女の後ろに沢山のガジェットが並んでた。真ん中の黄色いレンズをチカチカ点滅させて、挨拶してるみたいだ。
不覚にも、俺は泣きそうになった。
──お前等、皆……良い奴等じゃんか……!
帰る場所があるってのは、良いもんだ。自分の帰りを待ってくれて、迎えてくれる人の存在が、たまらなく嬉しい。
ヤベッ、涙が出てきやがった。
「お兄さ〜ん!」
皆にバレる前に涙を拭こうとしたら、通路の奥から声と共に小さな女の子が駆けてきた。
足にしがみついてきたのは、ヴィヴィオだった。
「ヴィヴィオ」
「隼樹お兄さん、おかえりなさい!」
顔を上げて、俺に笑顔を向けてくるヴィヴィオ。
お前な、感動してるところに、その笑顔はないだろう。追い打ち以外の何物でもねーよ。良い娘だよ、この娘スゲー良い娘だよ!
「ほらっ、涙拭きなよ」
ヴィヴィオのせいで更に泣いてしまうと、ディエチが指で涙をソッと拭ってくれた。
アンタも、ソレ卑怯だろ! 普段はあんま会話とかしないのに、こういう時に急に優しくしてくれたりとか、惚れちゃいますよ?
ふと俺は、一人の女の存在に気付いた。最初は、いきなりノーヴェに怒鳴られたり、皆と再会出来た喜びで気がつかなかったけど、一人知らないのが混じってる。多分、ディードやオットーと同じ後から動いたナンバーズだろう。
ピンク色の長髪で、額当てみたいな物をつけてる高身長の女だ。高さはトーレと同じか、少し下位かな。着ている服は、やっぱりボディスーツだ。アレ、何とかならないの?
「初めまして、隼樹。No.7のセッテです」
「ああ、初めまして。塚本隼樹です」
何だろうな。普通に挨拶されただけなのに、妙な違和感がある。何つーか、こう、喋り方、口調が機械的な感じなんだよな。ホラッ、カーナビとかの音声ガイドみたいな感じだよ。
見た感じ、この娘もあんま喋らなそうだな。でも、結構可愛いよ。胸も大きいし。
いや、しかし、新しいメンバーも加わって賑やかに……なるのか? 新しい三人は、性格があんまり明るそうじゃないしな。まあ、だからって俺がどうこう言う事じゃないか。ソレはソレで、三人の個性ってヤツだしな。
懐かしく皆を眺めてると、ある違和感を憶えた。何か、いや、誰か足りないような気がする。見た目小さいけど、存在感があって頼りになる……ああっ!
「チンクは? そう言えば、チンクが居ないんだけど……どうかしたんですか?」
あれ? 何か、急にナンバーズの何人かが表情を曇らせたぞ。
ノーヴェなんか、歯を剥き出しにして鬼のような形相で固めた拳震わせてる。場の空気も重苦しくなったし、もしかして俺、地雷踏んだ?
困惑してると、トーレが重い口を開いた。
「こっちだ。ついてこい」
トーレに続いて、俺達は通路を進んだ。
着いた所は、壁に作られた大きな棚に生体カプセルが並べられた広い部屋だ。カプセルの中には培養液が入っていて、裸の女が漂ってる。全部のカプセルに全裸の女が入ってて、ソレがズラリと並べられてるから男の俺には正直目のやり場に困る場所だ。前にアギトって赤い小悪魔な感じの奴が、スカリエッティを“変態医者”と呼んでたが、コレじゃそう呼ばれても仕方ないよな。つーか、前から疑問に思ってたんだけど、何で実験体は皆“女”なんだよ? 男でもよくね? いや、裸の男が並んでるの見るよりは女の方がいいけど。実験の相性に、女の方がいいのか?
トーレの案内で、一つのカプセルの前に着いた。その中には、やはり全裸になってるチンクの姿があった。ただ、他と違うのは治療の後を示唆する包帯が所々に巻かれてる点だ。
「任務中に、管理局の魔導師と交戦して負傷した。かなり損傷が酷い状態で、復帰するのに時間がかかるそうだ」
トーレの説明を聞いて、見た目以上に深刻な状態である事を知った。
「チンクお姉さん……」
ヴィヴィオも落ち込んだ様子をしてる。そういや、チンクの世話を受けてたんだっけな。大好きなチンクが傷ついて、ヴィヴィオも悲しいんだな。
「チンク姉をこんなに傷つけたあの鉢巻……! アイツは、あたしの手で絶対ぶっ壊してやる!」
「壊しちゃダメよ~。回収しなきゃ~」
チンクが傷ついて、ノーヴェは相当怒ってる。いつもカリカリした様子のノーヴェも、教育係だったチンクには甘えてたみたいだからな。慕ってる姉を傷つけられて、怒り心頭に発するって感じだ。
そんなノーヴェとは反対に、クアットロは普段と全く変わらない様子だ。何が楽しいのか、ニコニコ笑って。他のメンバーと違って、チンクが傷ついた事を特に気にしてない感じに見える。姉妹が傷ついても、何とも思わないのかね? 正直ちょっと不愉快に思ったけど、小心者の俺は意見なんか出来ません。
しかし、俺の知らないところで派手に暴れたらしいな。一也の言う通り、地上本部って所も襲撃したと見える。主力のナンバーズが負傷したり戦闘不能になってる現状から推測するに、やっぱり武力で管理局に勝つのは無理だな。
あーあ。傷ついたチンクを見たら、何だか負けられない気持ちが強くなっちゃったよ。まあ、帰って来て早々に弱気発言したけど、もう御託言ってる場合じゃねーな。
いい加減、肚決めるとしますか。
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