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ドゥーエ「『ナンバーズ〜魔法が使えない男リベンジ!〜』始まります。読まないと……殺しますよ?」
No.8 二番目は綺麗で超危険です
「同居生活?」

 用件を聞いた俺は、片眉を上げた。
 朝食を食べ終えた後、俺はスカリエッティに呼ばれて研究室にやってきた。また、どうせロクでもない事を頼まれるんだろうな、と思っていたら案の定だった。
 今回、俺に頼まれたのは、現在管理局に潜入してるナンバーズと一週間同居生活をしてほしい、という内容だ。正直、不安な気持ちが大きいな。いや、そりゃあナンバーズは皆美人だけどさ、中にはノーヴェみたいな暴力女やディエチのようなあまり話をしない女とか、色々居る訳よ。必ずしも、チンクやセイン逹と言った接しやすい人とは限らないんだよ。でも、断る正当な理由が思い浮かばないんだよな。嘘でもいいから、それっぽい理由を作れたらいいんだけど、俺は嘘が苦手だから、すぐにバレる。
 結局、『NO』と言えない俺は、引き受ける事になるんだよね。

「分かりました。でも、何で今更同居なんて?」
「彼女は、今まで独りで潜入任務を続けていてね。アジトに戻る事は殆ど無く、ウーノや妹逹とも長らく顔を合わせていない。そこで、彼女の孤独を少しでも和らげようと思い、キミに行ってもらおうと言う訳だよ」

 ハア、と俺は頷いた。
 理由を聞いて、他人事とは思えなかった。
 俺も、最初は独りだった。この世界には、俺の知ってる人や俺を知ってる人は誰一人として居なかった。今でこそ、一緒に暮らしてるナンバーズと親しくなって、笑ってるけど、来た最初の頃は本当に不安だった。不安で寂しくてたまらなかったよ。けど、チンクが優しく接してくれたり、トーレが訓練に付き合わせてくれたり、ナンバーズが支えてくれたから、不安も寂しさもいくらか払拭された。誰かが傍に居る事って、スゲー大事なんだなって実感したよ。
 だから、そのナンバーズが寂しがってるなら……まあ、行ってやらないでもないな。

「引き受けてくれて、助かるよ。本当なら姉妹の誰かを向かわせるのが一番なんだが、皆忙しい身だからね」

 そこで暇人の俺に、白羽の矢が立ったって訳か。
 つーか、このスカリエッティってマッドサイエンティストでありながら、親馬鹿でもあるよな。独りにさせた娘の心配してさ、居候の俺に頼む程だもん。
 なんて思ってた時、ふと俺はある問題に気付いた。

「ちょっと待って下さい。俺が管理局に出向くのって、マズくないですか? だって、地下の一件で管理局側に顔見られちゃってるし……」
「なに、軽く変装でもしていれば大丈夫さ。それに、局員全てがレリック事件を捜査してる訳じゃないからね」

 なるほろ、と一応納得はするも、やっぱり少し不安だった。
 言うなれば、敵地に向かうようなもんだからな。ヤベ、アジト出る前から緊張してきた。

「ああ、そうだ。娘逹が一緒に行けない代わりに、別の者を同行させる事にしたよ」
「別の者?」

 スカリエッティの言葉に、俺は怪訝そうに片眉を上げた。
 別の者って誰よ? 俺の知る限りじゃ、アジトに居るのはスカリエッティ、ナンバーズ、ガジェット三タイプ、ついでに俺のハズなんだけど。他にも、俺の知らない誰かが居るのか?
 俺が考え込んでると、研究室の扉が開いた。研究室には、通路に繋がる物と奥に通じる物と二ヶ所あって、今開いたのは奥に通じる扉だ。
 開かれた扉から入ってきたのは、今日も綺麗なウーノともう一人綺麗な女の二人だった。
 ん? 二人? 一人知らないの増えてね?
 ウーノと入ってきた女は、光を浴びて輝く金髪をツインテールにして、若干幼く見える顔立ちだが目は鋭く、黒のスーツに黒のミニスカートを履いて生足を晒してる。身長は170センチはありそうで、胸が大きい。この間見た、シグナムってピンク色のポニーテール巨乳と同じくらいだ。しかも惜し気もなく晒してる生足が、細くて綺麗だ。
 しかし、こんな美少女がアジトに居たっけ? 全然記憶に無いんだけど。

「あの……スカリエッティさん? こちらの方は……?」
「紹介しよう!」

 俺が謎の美少女について尋ねると、スカリエッティは何故か急にテンションを上げた。
 何故だか解らんが、嫌な予感がある。

「彼女は私が開発した、人型ガジェット一号──別名『サード』さ!」
「サード?」

 名前を聞いて、俺の中で何か引っ掛かった。
 ガジェットでサードって……えええええっ!?

「サードォォォォ!? サードって、あのサード!? デカイ真ん丸ボディのサード!?」
「その通り! 元ガジェットⅢ型だよ! 私の技術によって、見事に生まれ変わったのさ!」
「マジでかァァァァァァァァ!? いや、変わりすぎでしょ! もう完璧別人じゃないっすかァァァ!」

 某SF大江戸コメディ漫画のツッコミ眼鏡の如く勢いで、俺は声を上げてツッコんだ。
 だってお前……あのサードが、衝撃的なビフォーアフターを遂げたんだぞ!? 極太りした女がダイエットに成功したとか、そんなレベルの話じゃねーよ!
 俺が衝撃を受けていると、サードらしき女が話しかけてきた。

「ちょっと、アンタうるっさい! 何そんなに驚いてるわけ?」
「いや、驚くわ! いや、驚きますよ! って言うか、貴女ホントにサードなんですか?」
「当たり前でしょ。地下でアンタとノーヴェを助けて、ヴィヴィオを高い高いしてあげたサードよ」
「マジでかァァァァァァァァ!?」

 見た目通りの綺麗な声で、女も自分がサードである事を認めた。

「え……? ってか、サードって性別『女』だったの?」
「いいえ、ソレは違います」

 俺の疑問に答えてくれたのは、ウーノだ。

「純粋な機械であるサードに、性別などありません。ただ、ガジェットにはAI──つまり、人工知能が搭載されていて、ある程度の意思はあります。今までの事は、先ほどサードが語ったように、ちゃんと記憶してあります。Ⅲ型のボディにあった人工知能を取り外し、人型ボディに組み込んだのです。ボディの方は、私達戦闘機人と違って完全に機械で構成されており、外側は人工皮膚で覆われています」
「そ……そうなんですか……」

 な、何か……俺の知らないところでえれぇ事が進んでたんだな。どおりで最近、サードの姿を見なかった訳だ。スカリエッティ逹に、改造されてたのか。
 いや、しかし、何でよりによって女型? 人に化けるなら、別に男でもいいじゃん。そう言えば、戦闘機人も今のところ全員女だし……。何なの? スカリエッティの拘りか何か? これじゃあ、もう完璧女版ター●ネーターじゃん。つーか、サード中身も完璧に女じゃん。
 全くの別人と化したサードに、俺は何とも言えない複雑な想いを抱く。Ⅲ型の外見だと男友達みたいな感覚で接してたが、美少女に変身されたら今まで通りに出来ねぇ。
 そう思ってると、サードが声をかけてきた。

「外でのアンタの護衛も兼ねて、私も同行するから。まあ、これまで通りよろしく」
「は、はい……こちらこそ」

 いや、だから無理だって。相手が美少女だと、緊張して敬語になっちゃうから。馴れ馴れしく接する事なんて、出来ないですから。
 俺達の友情は、何処にいっちゃったんだろう? とちょっと切なく思った。


     *


 サードの衝撃暴露から一時間後、俺はアジトの入り口に立っていた。隣には、勿論サードが居る。
 早速、今日からNo.2さんと同居するので、アジトを出発するのだ。見送りには、アジトに居る全員が来てくれた。コレって、かなり嬉しい事だと思わない? 家族でもない付き合い短い他人を見送ろうなんて、良い人達だよね。
 しかも、見送りに来てくれたのは、スカリエッティやナンバーズだけじゃないんだぞ。なんと、ガジェットまで来てくれたんだ。ⅠからⅢ型までの数十機が、通路に所狭しと集まってる。更にコイツ等、言葉を話せないから、代わりに大きな横長の旗にカタカナで『イッテラッシャイ』と書いて掲げてるんだぞ? ヤッベ、ちょっと感動しちゃったよ! お前等、皆大好きだァァァ!
 俺達の友情が、確かにソコにあった。

「あーあ。隼樹が居なくなったら、ちょっと寂しいな」と言ってくれたのは、セインだ。
「しばらくは、隼樹の手作りおにぎり食べれないっスね〜」俺のおにぎり、そんなに気に入ってくれてたのかウェンディ。
「私も、隼ちゃんが居ないと寂しいわ〜」猫なで声で言うのはクアットロ。皆の前で弄ってくるから、その地獄から抜け出せると思うとちょいホッとする。
「隼樹、お前……いや、自分で決めたのなら私は何も言わん。頑張ってこい」何やら気になる事を言ったのは、トーレだ。え? どういうこと? 凄い気になるんですけど。
「まあ、その……とっとと行ってこいよ!」ノーヴェは相変わらずだな。あれ? 頬が少し赤いのは、気のせいか?
「気をつけて……」とディエチが言った。う〜ん、あんまり会話した事ないからか、ちょい素っ気ない感じだけど、仕方ないか。
「No.2は、身内には優しいから心配するな。それから、ヴィヴィオの面倒も私達でちゃんと見ておくから大丈夫だ」
「隼樹お兄さん、行ってらっしゃい!」

 微笑むチンクと笑顔で挨拶をするヴィヴィオ。ヤベッ、可愛いんですけど。チンクなんて、天使ちゃんマジ天使な感じに近い可愛さだ。あれ? 天使ちゃんマジ天使って何?

「それでは隼樹さん。短い間ですが、妹をよろしくお願いします」丁寧にお辞儀をしてくるウーノ。
「は、はい」

 ウーノに頼られてる感じで、若干緊張してきたな。

「では、頼んだよ隼樹君。サードも、隼樹君の護衛や目的地までの案内を頼むよ」最後にスカリエッティから言われた。
「はい」
「はいはい、分かってるわよ」

 どうでもいいけど、サードってちょっと生意気そうな性格だな。上手くやっていけるか、ちょい心配だ。
 さて、そろそろ行くかな。
 見送り一同を見回して、俺は声を出した。

「それじゃあ、行ってきます」

 こうして俺は、サードと共にアジトを後にした。


     *


 アジトを出て、俺はサードに案内されて街中を歩いていた。
 サードの中には、目的地の位置や道のりがインプットされているから、安心して任せられる。外見は変わっても、頼りになるな。
 ちなみに、俺は帽子にサングラスと言うベタな変装をしている。地下の一件で、一部の局員には顔が知られちゃってるからな。まあ、用心の為だ。
 サードの案内で、俺は目的の場所に到着した。見上げれば、高級マンションのような建物が目の前にある。管理局の局員が使ってる、寮みたいな所だ。かなりデカくて、家賃とかも高そうな感じだな。俺みたいな貧乏人には、一生縁の無い所だ。けど、その一生縁の無い建物の前に俺は居るんだよな。
 入り口に目をやると、硝子の自動ドアが開いて、一人の局員が建物から出てきた。
 綺麗な緑色の長髪の女で、顔も整っていて、間違いなく美人の部類に入る。青を基調とした局員の制服を着ていて、有能な女性社員みたいな感じに見える。
 正直、ちょっと見惚れてた。
 すると、相手の女もこっちに気付いて、近付いてきた。

「貴方が塚本隼樹さん、ですか?」
「え? あっ、はい!」

 ニッコリと微笑む女に急に声をかけられ、俺は慌てて返事をした。近くで見て、改めて綺麗だと思った。
 ん? 俺の名前を知ってるって事は、もしかして……。
 俺が思い当たると、女はサードに笑みを向けた。

「貴女が彼の護衛のサードですね?」
「そうだけど、アンタがNo.2?」

 緊張してる俺と違って、サードは全く物怖じしていない。その度胸が凄く羨ましいな。

「そうです。立ち話もなんですから、どうぞ中へ」

 No.2に招かれ、俺達は建物の中に入った。
 エレベーターを使って、上の階に移動する。先頭を歩くNo.2の案内で、建物の一室に入った。
 中は結構広く、大きな窓があって開放的な空間になっている。高い階に位置するから、窓から街を見下ろす事が出来る。はっはっはっ! 人がゴミのようだ! 一回声に出して言ってみたい名台詞の一つだ。
 俺達が部屋を見ていると、No.2が飲み物を用意してくれた。

「どうぞ、おかけになって下さい」
「あ、どうも」

 No.2に促され、俺は軽く頭を下げて椅子に座った。隣にサードが、向かいNo.2が座る。

「申し遅れました。(わたくし)、戦闘機人No.2のドゥーエと申します」

 柔らかい笑顔で、ドゥーエが自己紹介をした。
 うん、チンクが言ってたように、優しそうな人だな。
 そう思って、油断したのが悪かった。

「隼樹さん」
「は……はいっ!?」

 ドゥーエに呼ばれた俺は、思わず畏縮しちまった。
 さっきまでの笑顔が消えて、目を鋭くさせて、こっち睨んでんだよ。しかも何か妙な迫力もあって、俺の足は早くも小刻みに震えてる。俺はチラッとサードに視線を向けた。
 サードは、口元を引きつらせて顔が蒼くなってた。
 ──機械(ロボット)をビビらせるって、どんな迫力ゥゥゥゥ!?
 親友のビビり具合を見て、俺は内心にシャウトした。
 完全にビビってる俺達に、ドゥーエは静かに語り出した。

「ドクターから既にお聞きになってるとは思いますが、私は管理局に潜入任務として潜り込んでます。本来なら、正体がバレるリスクを減らす為に、貴方達の同居は断るつもりでしたが、他ならぬドクターの命令だったので招き入れました。
 ですが……もし、私の正体がバレるような事をしたり、任務の邪魔になるようでしたら……」

 ソコで一旦言葉を切り、ドゥーエは何処からともなく、鉤爪(かぎづめ)を手に構えた。鋭い鉤爪は、部屋の明かりを受けて、銀色の鈍い光を放つ。

「殺しますよ……?」

 恐ッえええええええええ! 物凄く冷たい目で睨まれたんですけどォォォォォ!
 チンク姉! この女のどこが優しいんですか!? 全っ然優しく無いんですけど! 隙あらば命()りにくる殺し屋みたいだよ! 隣に居るサードなんて、怯えすぎてガタガタ体震わせて俺にしがみついてるから! 今にも泣きそうな顔してるって言うか、もう泣いてるよ! オイル? オイルなの!?
 この時、俺は本気で命の危険を感じた。地下騒動も怖かったが、あの時は相手の局員に俺とノーヴェを殺す気は無かった。
 でも、ドゥーエさんは違う。周囲の熱を下げるようなドゥーエの雰囲気から、本気で殺す気が伝わってきた。初めてだが、コレが『殺気』ってヤツか。
 トーレが言おうとしたのは、多分この事だろうな。
 漏らさなかったのは、僥倖(ぎょうこう)と言えるだろう。


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