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隼樹「『ナンバーズ〜魔法が使えない男リベンジ!〜』始まります。俺に平穏を下さい」
No.6 天才 対 非才
 ガジェットⅢ型とか言うデカいロボットに助けられ、俺とノーヴェは地上に出る事が出来た。
 地獄から生還したような気分で、太陽の光を浴びる。
 地下でバタバタしたけど、もう終わりだろう。目的の(ブツ)は無事だし、このままガジェットに乗ってアジトに帰って、とっとと寝よう。
 しかし、安心したのも束の間、次の災難が俺達を襲ってきやがった。

「ガジェットに乗っている二人! 止まりなさい!」

 またまた局員が来たんですけどォォォォ! そりゃそうだよな! 地下だけに局員を送るだけの単純配置で、終わる訳ないですよねェェェ!
 空を飛んで追ってくるのは、金髪の局員だ。しかも、また女だ。年は十代後半、長い金髪をツインテールにして、黒のミニスカ制服の上に白いマントを羽織ってる。遠目だが、顔もスタイルも抜群に良くて美人だ。
 なんて暢気にしてる場合じゃねぇ! この女も綺麗な顔して、鎌なんて超物騒な武器持ってんだよ! 超怖ぇよ! しかも、鎌が何か機械っぽいしさ! アレ、ホント魔法使いか?

「ちっ! 武器が無ぇ状態じゃ、まともに闘り合えねぇな……! 引くぞ!」

 悔しそうに顔を歪めるノーヴェだが、状況の悪さを考えて撤退を選んだ。
 ガジェットⅢ型は飛行して逃亡を図るが、残念な事に速さは追っての局員の方が上だった。見る見る距離が縮まってきて、捕まるのは時間の問題だ。追跡を振り切ろうと、ガジェットⅢ型がアームを伸ばして金髪局員に妨害を仕掛ける。が、呆気なく金色刃の鎌に切られてしまった。
 ガジェットⅢ型ァァァ! もうちょっと頑張ってくれよォォォ!
 俺が内心にシャウトした直後だった。
 前進していたガジェットⅢ型が、突然動きをストップした。

「そこまでです!」

 前を見ると、もう一人局員が増えてやがった。
 栗色の髪を同じくツインテールにして、金髪局員とは真逆で白い服を着てる。どんな感じと聞かれたら、正直『アニメ服』としか答えようがない。超恥ずかしい格好だ。もし俺が女でも、アレは絶対に着ないね。

「時空管理局・機動六課スターズ分隊隊長、高町なのは一等空尉です!」
「時空管理局・機動六課ライトニング分隊隊長、フェイト・T・ハラオウン執務官です! 貴方達が持ってるレリックと少女をこちらに渡して、投降して下さい!」

 前には白い局員、後ろには金髪局員が居て、またも挟み撃ちの形になってしまった。ツイてないにも程があるだろう。地下での追い詰められた状況が、地上でも再現された。自分の不運さに、もう泣きたくなってきた。隣に居るノーヴェも、苦虫を噛み潰すような顔してる。逃げられないって悟ってんだな。
 完全に諦めていた俺だったが、ふと妙な事に気付いた。まだほんの数分──一、二分だが、何時まで経っても局員が迫ってくる様子が無い。険しい顔で鎌や杖を構えて、警戒してる感じだ。
 何でだ? 何で二人は、さっさと俺達を捕まえないんだ?
 俺は考えた。もしかしたら、この異変が突破口かもしれない。
 その時、俺は手に持ってる物に考えが至った。
 ──ああ! もしかして、コイツを持ってるからか? 地下で会った……ギンガ、だっけ? とか呼ばれてた局員が、このレリックって代物は危険な物だって忠告してきた。って事は、二人は『動かない』んじゃなくて『動けない』んだ……! 下手に動いて、レリックを持つ俺が妙な事をするのを警戒してるんだ!
 異変の正体に気付いた俺は、コレが突破口だと思った。相手が動けない今の状態は、千載一遇のチャンス。ココを逃せば、今度こそアウトだ。普段使わない脳味噌を働かせて、俺は必死に考えた。
 そして俺は、圧倒的な閃きを得る。
 いや、そりゃ確かにこの策を使えば、二人から逃げられる事が出来ると思う。でも、コレやっちゃうと、後でノーヴェや他のナンバーズに怒られると思うんだよなぁ……。でも、このまま何もしないでいたら、相手も痺れ切らして捕まえに来るだろうし……。ああ、もう! やってやるよ! 務所暮らしより、いっそ美女にこっ酷く怒られた方がマシだ! もしかしたら、半殺しの目に遭うかもしれないけど……。
 (はら)を決めた俺は、意を決して閃いた策を実行する事にした。

「あ、あの……!」

 俺の声に、二人の局員は身構えた。まだまだ警戒は解いちゃいない。
 隣に居るノーヴェも、怖い顔でこっちを見てくる。

「貴方達は、このレリックって物を渡して欲しいんですよね?」
「そうです。ソレは、危険な物なんです。ちゃんとした場所で管理する必要があるんです」

 鎌を持った金髪局員が、俺の問いに答えた。
 さ~て、緊張が高まって心臓の音がバクバク激しくなってきた。汗も流れて、体がガチガチに固まってきた。いくらか緊張を解く為に、俺は一度深呼吸をする。
 頼むぞ。頼むから、上手くいってくれ……!

「じゃあ渡します」
「えっ!?」
「なっ!?」

 俺の言葉が予想外だったのか、二人の局員は意外そうに驚いてる。そりゃ、素直に物を譲り渡す悪者なんて、そうそう居ないもんな。
 ついでに、俺の隣に居るノーヴェも驚いてる。

「テメェ! 何勝手な事言ってんだ!?」

 ノーヴェ様ご立腹です。怖い顔をして、耳元で怒鳴ってきます。耳痛っ! 
 だが俺は、怒るノーヴェに構わず行動に移る。

「うおりゃああああああああああああ!」

 ありったけの叫び声を上げて、力一杯二つのレリックケースを下の市街地に向けて放り投げた。ケースが重かったから、投げたと言うより落としたと言う方が正しいな。

「ああっ!?」

 俺の信じられない行動に、二人の局員とノーヴェは同時に声を上げた。
 落ちていくケースに意識が向いて、二人の局員は完全に隙を見せた。
 ココだ!

「ガジェットⅢ型! 全速力──いや、ちょっと不安だから、少しスピード落として逃げろォォォォォォ!」

 俺の指示に従ってくれるか一抹の不安があったが、ガジェットⅢ型は動いてくれた。
 二人の局員が居る前後の間──横に向かって、ガジェットⅢ型は宙を走る。

「おま、お前、何やってんだよ!?」
「すいません! すいません! でも、こうするしかなかったんです!」

 額に青筋を浮かべて声を荒げるノーヴェに、俺は謝った。
 後ろを振り向くと、二人の局員は慌てた様子で落ちていくレリックを拾いに行ってる。レリックが本当に危険な代物なら、俺があんな行動をしたら間違い無く回収に向かう。どれ程の規模かしらないが、街中で被害が出たら大問題だからな。物の数が二個だったのが、幸いだった。一個だったら、一人しか動きを封じられないからな。
 ソコを利用した策が、まんまと嵌まったぜ! 何かスゲー大胆な事したみたいで、ちょっとテンション上がってきた! 後はこのまま逃げて、ナンバーズからのお叱りを受けるだけだぜ! うぅ、怖い……!
 危機を脱した直後で、気が抜けた時だった。

「げっ!?」

 前方に見える人影に、俺は顔を歪めた。
 認めたくないが、新手の局員のご登場だ。ピンク色の長髪をポニーテールにした、新たなコスプレ美女だ。しかも、今までで一番胸がデカイ! 最高レベルじゃねーかって、興奮してる場合じゃねェェェ!
 相手の今度の得物は、剣だ。またまた物騒な武器を……!

「ココは通さん!」

 しかも、さっきの二人と違って攻撃してくる気満々だ。レリックを手放した事で、切り札を失ったからな。
 躊躇無く剣を構えて、猛スピードで接近してくる。
 ヤバいヤバいヤバいヤバい! 狙いはガジェットだろうけど、“足”が無くなったら下に真っ逆さまだ!
 俺の中で、かつてない危険信号が鳴り響いた。
 漫画とかだったら、都合良く仲間が助けに入るんだろうけど、現実は非情なんだよな。

「え!?」

 今度こそ諦めモードに入った俺の隣で、ノーヴェが驚きの声を上げた。
 次の瞬間、俺の視界が変化した。


     *


「全く……世話の焼ける妹と男だ」
「トーレ姉」

 気がつくと、俺達は廃墟のような場所に居た。周りには、崩れかけた建物や瓦礫が転がってる。俺達以外に、人の気配は全くしない。まあ、気配なんて俺にはよく分かんないけど。
 俺達の前には、腕を組んで見下ろしてくるトーレが立ってた。
 って、トーレ!?

「ト、トーレさん!? どうしてココに?」
「どうしても何も、ウーノの命令でお前達の救援に来たんだ。着いた途端、機動六課の魔導師に迫られてたから、私のISで助け出した」
「トーレさぁぁぁぁん!」

 俺は思わずトーレの足に抱き付いた。安心した途端、涙が小さな滝のように出てきた。

「ありがとうございます! もう死ぬかと思いましたァァァァァ!」
「ええい! ひっつくな、鬱陶しい!」

 そんな酷い事言わないで下さいよ! ホントにダメかと思ったんですから! もう、トーレ最高! 俺のお姉さんになって下さい!
 俺がトーレの足に抱き付いてると、ノーヴェが立ち上がった。

「すまねぇ、トーレ姉」
「全くだ。だが、無事でよかった。レリックは失ったが、『器』を得ただけでも充分だろう。戻るぞ。お前もいい加減離れろ、隼樹!」

 トーレに怒られ、俺は足から離れた。
 ああ、やっと帰れるんだ。
 安心した俺だったが、すぐに気を落とす。帰ったら、きっとレリックを投げた俺の行動を咎められる。ああ、憂鬱だ。折角助かったのに、何この気分?
 俺が溜め息をつくと、肩を軽く叩かれた。振り返ると、俺達を乗せてたガジェットⅢ型がいた。コイツも一緒に助けられたようだ。

「お互いよく無事だったな」

 俺の言葉に答えるように、ガジェットⅢ型は真ん中の黄色いレンズを点滅させた。
 そう言えば、コイツにも地下で助けられたんだよな。相手は機械だけど、一応礼は言っておくか。

「あ~、地下では助かったよ。ありがとう」

 俺の礼に、ガジェットⅢ型はまた点滅して反応した。
 つーか、俺の背中に居る女の子、ずっと起きないんだけど。あれだけの騒ぎの中で起きないって、どんだけ肝が太いんだよ。
 絶対、将来大物になるね。
 しばらくして、ルーテシアと言う少女とアギトって妖精2と合流した。なんでも、ルーテシアは召喚魔法や転送魔法に優れてるらしいから、移動に便利なんだと。ルーテシアは、紫色の長髪に黒のドレスが特徴の大人しそうな少女だ。アギトの方は、赤色の髪に明るい性格でルーテシアとは正反対な奴だ。
 何でこんな子供二人が、スカリエッティやナンバーズの協力してるのか疑問に思ったが、すぐにどうでもよくなった。
 だって、俺関係ないもん。
 ルーテシアの集団転送のお蔭で、俺達は管理局に気付かれる事なく、その場を去れた。


     *


 地下騒動から何とか生還出来た俺は、アジトに戻ってた。
 ナンバーズ全員とスカリエッティが集まってる研究室に、俺も居る。
 集まった理由は他でもない。今回の一件についてだ。一同の前で、俺とノーヴェが連れてきた女の子をスカリエッティとウーノが何やら調べてる。
 しかし、俺にとってはそんな事どうでもよかった。
 それよりも、自分の処遇が気になってた。
 ──ヤベー! 気分は死刑執行を待つ囚人のようだよ……! 超帰りてぇ! でも帰れないし……でも怖いし……。あんだけ必死こいて収穫がガキ一人だけって……しかも、レリックを失くした原因は、管理局を巻く為とは言え、俺が投げ捨てたからだし……絶対怒られるよ……! いや、怒られるだけじゃ済まないかもしれない! 俺にはよう解らんが、結構大事な物っぽかったし……! どうしよう? もし責任を取る為とか言われて、改造手術とかされちゃうのかな? シ●ッカーみたいにされちゃうのかな? マジどうしよう? 改造手術が失敗したら、俺死ぬのかな? 俺死んじゃうのかな?
 ネガティブ思考が働いて、マイナスのイメージが俺の中で膨らんでいく。

「フフフ。どうやら、この『器』は本物のようだね」

 スカリエッティが、何やら嬉しそうに言ったが、こっちはそれどころじゃねーんだよ。人生が懸かってんだよ!

「隼樹君」
「は、はいっ!?」

 検査を終えたスカリエッティに呼ばれ、俺は上ずった声を上げた。
 き、来たぁ……! ついに、この時が来ちまった……。
 恐ろしい処分内容を思い浮かべる俺は、恐怖で足をガクガク震わせてた。
 しかし、スカリエッティの口から出たのは、俺が予想してたのとは全く別の言葉だった。

「今回は、キミのお蔭で貴重なマテリアルを手にする事が出来た。それに、ノーヴェを護ってくれた事も感謝するよ。ありがとう」

 スカリエッティからの思わぬ礼の言葉に、俺はポカンとなった。
 てっきり、レリックとか言う物を投げた事を咎められると心中で構えてたが、その事に関しては全く触れてない。完全にスルーして、礼だけ言ってくる。
 不思議に思って、俺は訊いてみる事にした。

「あ、あの……」
「ん? 何だね?」
「いや、その……俺、レリックってヤツを放り投げちゃったんですけど……」
「なに、レリックも集めているが、今回はオマケみたいな物だよ。それよりも、この『聖王の器』を確保出来た事の方が大きい。礼こそ言えど、文句や責める事などしないさ」
「そ、そうですか……」

 何だかよく分からないが、とりあえず助かったみたいだ。
 ああ、良かった。お咎め無しで、本当に良かった。ずっと緊張してたから、安心したら気が抜けちゃったよ。
 さて、疲れた事だし飯にするかな。ちなみに、路地裏に置いてきた食材やら米は、セインが回収してくれてた。
 エエ娘や。


     *


 昼飯を食い終えた俺は、通路を歩いてた。
 満腹になった腹を擦りながら、俺は一人通路を歩く。昼飯は、おにぎりだ。料理ド素人の俺でも作れる料理と言ったら、コレくらいしか無かったんだよ。それでも、キャロリーメイト地獄よりは全然マシだ。おにぎりの中身も色々で、久しぶりにまともな味を堪能する事が出来た。
 おにぎり万歳。
 ナンバーズからも、まあそれなりの評価を得れた。トーレには助けられた礼もあったから、一番高い肉入りのおにぎりを用意した。少し戸惑ってたが、食べて、悪くないと言ってもらえたので、ホッとした。
 んで、昼飯を終えた俺は、自分の部屋に向かってた。今日は色々あって、とにかく疲れた。さっさと部屋に戻って、ゆっくり寝たい。

「おい」

 だと言うのに、一番苦手な奴に声をかけられた。
 俺が恐る恐る振り返ると、案の定ノーヴェが立ってた。相変わらず眉根にシワを寄せて、不機嫌そうな顔をしてる。

「その……アレだ……」

 あ? アレじゃ解んねーよ。
 つーか、何か様子おかしくね? いつもの迫力が無いような、頬が少し赤いような、とにかくいつもと様子が違う。アレ? ノーヴェってこんなに可愛かったっけ?
 口ごもってたノーヴェが、突然声を大きくして言った。

「きょ……今日は、ありがつ……!」

 その瞬間、通路は沈黙に包まれた。
 気まずい空気の中、固まって見つめ合う俺とノーヴェ。
 ──か、噛んだァァァァァ!
 ノーヴェの失敗に、俺は内心にシャウトした。
 あのノーヴェが、台詞を噛んだよ! ヤベーよ、恥ずかしさで顔真っ赤になってるよ! いや、気持ちは解るよ! 俺も初めてココに来て、食堂で自己紹介した時に同じ失敗したからスゲー解るよ!
 俺が激しく同情してると、ノーヴェは涙目になって、体をプルプルと震わせた。

「ば……馬鹿野郎ォォォォォ!」
「えっ!? ちょっ……ぼぐぁ!」

 殴られた。
 ノーヴェの鉄拳を左頬に受けて、俺は背中から床に倒れた。コレ、八つ当たりじゃね?
 俺を殴り倒したノーヴェは、踵を返して走り去っていった。

「いって~!」

 地味に呟きながら、俺は殴られた左頬を押さえた。幸い、顎は外れてないし、歯も抜けてない。
 マジであり得ねぇ、あの暴力女……! 噛んだのは俺のせいじゃねーだろう? ああ、もう最悪! 一瞬でも、アイツを可愛いと思った俺が馬鹿だった!
 俺が床に倒れてると、大きな影がかかった。影の主は、ガジェットⅢ型だ。多分、俺とノーヴェを助けてくれた奴だろう。
 怪訝な顔をすると、太いアームを伸ばしてきて肩を軽く叩かれた。まるで、『ドンマイ』と励まされてるみたいだ。
 ヤッベ、このガジェット優しい!
 ふと起き上がって周りを見れば、ⅠからⅢまでのガジェットが数十機集まってた。そして、よく解らんが全機がアームやらケーブルやらを伸ばしてきて、俺は胴上げされた。
 ホントによう解らんが、この日から何故かガジェットに懐かれた。
 後でスカリエッティに話して訊いてみたら、「非才の身で管理局のエースを出し抜いた一件が、ガジェットに影響を及ぼしたのだろう」と言われた。
 今日の俺の感想。ノーヴェはやっぱり苦手。管理局はコスプレ集団。ガジェットは良い奴。


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