ノーヴェ「『ナンバーズ〜魔法が使えない男リベンジ!〜』始まるぞ。って何で、あたしがもう一回言うんだよ?」
No.5 NOと言える人になりたい
嫌だな、と俺は溜め息をついた。
俺は今、ノーヴェと一緒に地下水路を進んでいる。背中に地上で拾った金髪の女の子を背負って、手にはレリックケースとやらを持って前を歩くノーヴェに続く。
正直、超帰りてぇ。レリックってヤツが、どんな大事な物か知らないけど、俺カンケーねぇじゃん。それにさ、この女の子と今あるケース持ち帰って、出直した方がリスクが少ないと思うんだよね。だって、俺を連れていく事がマイナスだもん。非戦闘員でビビりなんて、足手まとい以外の何者でもないよ。もう既に、地下水路の雰囲気にビビってるからな。
路地裏以上に暗くて、殆ど暗闇だよ。人間は情報の殆どを視覚から得てるから、視界が悪いとスゲー不安になるんだよな。前を歩くノーヴェの背中が、ぼんやりと見えるから何とか進めてるけど、一人だったら絶対無理だね。
それに、不安の種は場所だけじゃねーんだよ。ぶっちゃけ俺達がやろうとしてるのって、少女誘拐と盗みだよね? 結構重罪だぞ。こんなん警察──この世界じゃ時空管理局だったな──に見つかったら確実に逮捕されるだろ。前科もんにはなりたくねーよ。俺は厄介事には関わらず、平穏平和に生きたいんだ。
でも『NO』と言えない小心者の俺は、嫌々ながらもノーヴェについていくしかなかった。こうなったら、時空管理局が来る前に、さっさと目的の物を見つけて、とっとと地下からおさらばするぜ。
しばらく歩いて、広い場所に出た。暗闇に慣れてきた目で、やってきた広場を見渡す。天井が高く、複数の石柱が並んで立っている。地下を流れる水が、この広場に集まっていた。もしケースを地下水に落としたなら、ココに流れ着いてる可能性があるな。
「二手に別れて探すぞ。見つけたら声上げて呼べよ」
「はい」
ノーヴェの機嫌を悪くしないように、すぐに答えて行動を開始した。
広い場所で、しかも暗い中で物を探すのは結構大変なんだぞ。内心で愚痴りながら、俺はレリックケースを探す。
それにしても、背中の女の子はホントに大人しいな。ずっと寝てるよ。まあ、五月蝿くなくていいんだけどね。女の子とケース持って、重いけど。
あー、早く見つけて帰りてぇな。やる気なく、ダラダラと広場を回ってた時だった。
「ん?」
浅い水の中に、黒い物体を見つけた。
まさかまさか、と思いながら俺は、近付いて持ってるケースと見比べた。ケースは同じだった。
ビンゴ。
「ノーヴェさん! ありましたよ!」
「ホントか!?」
俺の呼び声を聞いて、ノーヴェが駆け付けてきた。
「コレですよね?」
「ああ、コイツだ。間違いねぇ」
念の為、ノーヴェにも確認してもらった。違って怒られるのは嫌だからな。
意外と早く見つかって、俺は心底安堵した。
だが、災難が起こるのが人生なんだ。完全に安心しきってた俺達の前に、アイツ等が現れやがったのだ。
レリックケースを確保して、さあ帰ろうと踵を返した時だった。
「ソコの二人! 止まりなさい!」
「えっ!?」
突然の鋭い声に、俺とノーヴェは同時に驚いた。
俺達の前に、なんと人が居るのだ。
紫色の長髪に青色の長いリボンを付けて、可愛さレベルの高い少女が立っていた。黒と紫のジャケットを羽織り、下には体にフィットした白のアンダースーツを着ていて、身体のラインが分かるエロい格好だ。左腕には籠手をハメて、両足にはローラーブーツを履いている。何だかノーヴェの武装に似てるのは、気のせいか?
「私は、時空管理局・陸士108部隊所属、ギンガ・ナカジマ陸曹です!」
──じ、時空管理局キタァァァァァァァ!
衝撃の展開に、俺は内心にシャウトした。
ここで時空管理局と遭遇かよ!? どんだけ運が悪いんだよ、俺は! もうホント、今日は厄日だよ。苦手なノーヴェが同伴したり、厄介事に巻き込まれるわ、極めつけは時空管理局に見つかっちゃうわ。もう最悪!
それにしても、随分と若くて可愛い局員さんだな。ホントに局員なのか疑っちまうけど、武装してるっぽいから本物なんだろうな。俺の世界じゃ、ただのコスプレとしか見られねーけど。
現れた局員は、凛とした顔つきで俺達を見据えていた。
「貴方逹が持っている女の子とケースを、私に渡して下さい。そのケースの中身は、とても危険な物なんです!」
捜査官っぽい事を言って、ケースを渡すよう迫ってくる。
危険って、どれぐらいなんだよ? この場から解放されるんだったら、ケースでも何でもくれてやるよ。でも、ここで渡したら、ノーヴェや他のナンバーズに怒られるだろな。
俺が戸惑い、ノーヴェが警戒していると悪い展開に突入した。
「ギン姉!」
「ギンガさん!」
──え、援軍が来たァァァァァァ!
また俺は内心にシャウトした。
ギンガと名乗る局員と似たような青髪のボーイッシュ少女、オレンジ髪でツインテールな少女で、二人の年は十代半ばくらい。青髪の少女は武装までギンガと同じで、ツインテールの方は二丁拳銃なんて物騒なもん持ってやがる。さらに赤髪の男の子に、白い帽子にマントを羽織ったピンク髪の女の子が居る。赤髪のガキは大きな槍を持って、ピンク髪のガキは特に武器らしい物は無いように見えるけど、代わりに小さな竜を従えてる。竜使いか?
──ふっざけんじゃねーよ! 時空管理局に見つかった時点でアウトなのに、更に数なんか増えたらチェックメイトだろ? マジあり得ないよ! ああ、もう終わった。俺の人生、完璧に終わったよ。この状況を切り抜けるなんて、100%不可能だね。捕まって、取り調べと言う拷問を受けて、裁判にかけられて、ブタ箱にぶちこまれるんだ。
絶望した俺が、ネガティブ思考を働かせた時だった。
急に後ろから、首に腕を回された。
「動くんじゃねぇ!」
「なっ!?」
目の前の局員一同が、驚きの声を上げた。
声には出さないが、俺も驚いてる。
何故なら、後ろに居るノーヴェが俺の首を絞めてるのだ。空いてる手で俺の腕を掴んで、完全に人質を取った犯人になっている。
「一歩でも動けば、コイツの首をへし折るぞ……!」
「くっ……!」
局員は悔しそうに歯を食いしばる。
どうやら、俺がノーヴェの仲間とは考えてはないようだ。一緒に居るところを見たんだから、仲間だと疑われると思ったんだけどな。
つーか、結構苦しいんだけど……。ノーヴェの奴、半ば本気で首絞めてんな?
しかしノーヴェ、お前のやり方は間違ってるぞ。
俺は局員一同に聞こえないように、出来るだけ抑えた声でノーヴェに囁いた。
「ノ……ノーヴェさん……」
「んだよ? 話しかけんじゃねーよ」
「すいません、すぐに終わります。ノーヴェさん、首は腕じゃくて、後ろから手で掴んで下さい」
「あ?」
俺の意見に、ノーヴェは怪訝そうに目を細めた。
正直、怖いっす。
「腕を回して首を絞めると、その腕を狙われる危険があるんです。相手の中に銃持ってる奴が居るから、狙い撃ちされますよ」
「……テメェ、素人じゃねーな?」
「いいえ、素人です」
俺の事が嫌いなノーヴェだが、意見を一蹴する事はしなかった。
首を絞めていた腕を素早く引っ込めて、後ろから手で首を強く掴んできた。だから本気でやるなって、痛いんだよ! まあ、相手が俺を本気で人質と思ってるのは、ノーヴェが半ば本気で首を握るように掴んで、俺がマジで痛がってるからなんだろうけど。俺、演技下手だからな。ノーヴェは見事な悪役っぷりだよ。あっ、本物の悪人だったな。
人質作戦の効果で、ギンガ逹局員は動けずにいた。その間にノーヴェは、俺を人質に局員一同から離れていく。
その時、俺達が入ろうとしてた通路の入り口から、音が聞こえてきた。俺達を含めた全員が、通路入り口に目を向けた。風を切るような音は、大きくなって近づいてくる。
おいおい、また管理局の増援じゃねーだろうな? これ以上数が増えて、囲まれたらマジで脱出不可能になるぞ。
俺の不安は、しかし杞憂に終わった。
地下広場にやってきたのは、奇妙な形をしたロボットの大軍だった。
「ガジェットだわ!」
ギンガが乱入してきたロボットの名前を叫んで、局員一同は臨戦態勢に入った。
ガジェットとは、スカリエッティが造った自律型のロボットだ。缶のような形をして真ん中に黄色いレンズがあるⅠ型、戦闘機の形をしたⅡ型等の複数の種類がある。俺が見た事あるのはⅡ型までで、ソレ以降のシリーズは見ていない。だってカッコ悪いんだもんよ。
まあ、味方の援軍が来てくれたのはいいんだけどさ……。
「いや、数多すぎね!?」
やってきたガジェットの数に、たまらず俺は声を上げた。
だって、ザッと見ても五十機位居るんだぜ? どんだけ量産してんだよ! しかも相手五人に対して、十倍の数で攻めるってどんだけ卑怯なんだよ! 流石悪者はやる事が違うっすね!
俺が多すぎるガジェットの数ツッコむと、ノーヴェに強く引っ張られた。
「いでででっ……! 襟食い込む! 襟食い込む!」
俺が必死に痛みを訴えるが、ノーヴェは完全に無視して先を走る。
このクソガキ! テメーいつか痛み目に遭いやがれ、コノヤロー!
心中で毒づいて、俺はノーヴェの後を追いかける。荷物は全部俺が持ってるから、重くて仕方ねぇよ。メチャクチャ疲れる。もう全部放り捨てたいが、そんな事したらノーヴェに殺されそうだから必死に耐える。
後ろの方から、時折爆発音が聞こえて、地下通路が揺れる。派手に暴れてるみたいだけど、やり過ぎるなよ? ココが崩れたら、全員一巻の終わりだからな。
地下崩壊を危惧しながら、通路を進んでる時だった。
「止まれ!」
地下に響く鋭い声パート2で、俺達は足を止めた。
通路の先に立ち塞がるのは、二人の少女だ。一人は赤い帽子に赤いゴスロリの格好をした赤毛の少女で、手にはハンマーが握られてる。もう一人は、一言で表すなら妖精だ。手のひらサイズの小さな妖精。水色の長髪に黄色い『×』の髪止めをして、片手に青い本を持ってる。
また変なの出てきたよ! 何なんだよ、さっきから!? 局員って言うより、コスプレ女子にしか見えないんですけど!?
「動くなよ、お前等! 地下騒動の重要参考人として、機動六課まで来てもらうぞ!」
嫌だァァァァァ! 絶対行きたくねェェェェェ!
ハンマーを持って連行を迫ってくる少女は、俺の目には小さな脅迫者に見えた。口は悪いし、ハンマーなんて凶器持ってるし、どっちが犯罪者か分かんねーよ。
横目でノーヴェを見ると、眉根を寄せて険しい顔をしてる。
「大人しく、投降して下さい!」
妖精が投降するよう言ってくるが、絶対に嫌です。捕まったら人生終わりですから。
ああ、やっぱり来るんじゃなかった! 例えぶん殴られる事になっても、断るべきだったんだ! 俺の馬鹿っ!
情けない自分に毒づき、俺は泣きたくなった。
後ろの広場では五人の局員が交戦中で、前には二人の局員が立ち塞がって逃げ場が無い。
絶体絶命の状況になった時だった。
通路の堅い壁が、音をたてて突然壊れた。しかも、崩れた壁の中からデカイ影が現れて、二人の局員に突っ込んだ。
「うわあああああ!」
「きゃあああああ!」
影の突進を受けて、二人の局員は反対側の壁に激突した。
「何っ!? 何っ!?」
俺はと言うと、突然の出来事にテンパってた。無茶苦茶な展開が続いて、正直訳が分からなかった。
「落ち着け、馬鹿っ! ガジェットⅢ型だ!」
俺の頭を叩いて、ノーヴェが言った。
壁を破って現れた影は、球体で大人以上の大きさだった。下部には蟹のような足が備え付けられ、上部の二ヶ所からアームが伸びてる。球体の中心には、他の型と同じく黄色いレンズが付いてる。
「コイツに乗って離脱するぞ! 早くしろ!」
「ちょっ……待っ……! うおおおお!?」
荷物を抱える俺の体は、ガジェットⅢ型のアームに持ち上げられた。パニクる俺を、ガジェットⅢ型は機体の天辺に乗せてくれた。
コイツ、機械だけど意外に良い奴かも。
ノーヴェも俺の隣に着いて、逃げる準備が整う。
「よしっ! 地上に出るぞ!」
ノーヴェの声を合図に、俺達を乗せたガジェットⅢ型が穴の中に戻っていった。
ああ、早く帰りたい。
次回『天才 対 非才』
隼樹「何で急に次回予告やってんだ? しかも何? このサブタイトル? まさか白い悪魔や金色夜叉と俺が勝負したりしないよね? しないよね!?」
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。