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ノーヴェ「『ナンバーズ〜魔法が使えない男リベンジ!〜』始まるぞ。……何だよ、文句あるのか?」
No.4 苦手なモノは苦手だ
 ミッドチルダにやってきて、七日目を迎えた。
 ベッドから起き上がった俺は、椅子に座って机に突っ伏した。浮かない顔で、盛大に溜め息をつく。
 正直、もう限界だ。これ以上は耐えられそうに無い。
 え? トーレの訓練相手? いやいや、違うよ。確かにトーレとの訓練は、週二って事で続けてるよ。これでも粘り強く交渉して、何とか週二にしてもらったんだ。あれ以来妙にトーレがやる気出して、日数を減らすのに苦労したもんだ。いや、別にトーレが嫌いってんじゃなくて、痛くて疲れる事が嫌いなの。寧ろトーレは好きですよ? あの気の強い性格がいいよね。
 俺が耐えられないってのは、ココでの食事だ。朝から晩まで、キャロリーメイトキャロリーメイトキャロリーメイトって、どんな生活だよ!? 二日目で、もう味噌汁と白米が恋しくなったよ。それからキャロリーメイトを見るたびに憂鬱な気分になって、テンション下がりっぱなしだ。ナンバーズは全く気にしてない様子だけど、俺はそうはいかない。舌に刺激が欲しい。このままだと、●魂の監察のように『あんパン地獄病』にかかっちまう。俺の場合は、『キャロリーメイト地獄病』だけどね。
 いや、ホントにヤバいんだって。このままじゃ、精神だけじゃなくて味覚までおかしくなっちまう。俺自身を救う為にも、人間らしいまともな食事がしたい。もうレトルトでも冷凍でも弁当でも何でもいいから、飯と呼べる食べ物が欲しい。
 そんな訳で、俺はこれからスカリエッティの所に行って、買い物をする為の外出許可を貰いに行こうと思う。今日の俺は一味違うぞ。外出許可を貰うまでは、絶対に引き下がらないからな。
 意気込む俺は部屋を出て、スカリエッティの研究室を目指した。


     *


「ああ、構わないよ」

 ──アッサリ許可が下りたァァァァァ!
 反対覚悟で頼んだら、意外とアッサリ許可が下りたんで俺は内心でシャウトした。
 外出には制限がかかるとか言ってたのに、軽い感じで許可してくれたよ。一週間過ごしたとは言え、まだまだ警戒するべきだろう。外部に情報が漏れてもいいのか? 俺が外に出て、アンタ等の存在を公言しない根拠なんて無いんだぞ。そこら辺解ってるの?
 訝る俺の前で、スカリエッティは続けた。

「ただし、私の娘同伴と言うのが条件だが、いいかね?」
「え? あ、ああ……全然いいですよ」

 なるほど、そういう事ですか。
 外に出るのは構わないけど、一人で行くなって事だ。ナンバーズの誰かを同伴させる事で、俺の行動を見張るって魂胆だろう。俺が妙な動きをしないか監視して、問題が起これば即アジトに逆戻りになり、人体実験の処分を受ける事になると思う。ヤベー、ただ買い物に行くだけなのに、妙に緊張してきた。
 もしかして、コレって命懸けの買い物になるんじゃね?

「そうだね……確か、ノーヴェが空いていたね。彼女に同伴を頼むとしよう」

 ──ノ、ノノノ、ノーヴェだとォォォォォォ!?
 恐ろしい名前を聞いて、俺は内心にシャウトした。よりにもよって、ノーヴェを同伴させるだと? いやいやいや、ノーヴェは勘弁して下さい! ウーノや他の()はいいけど、ノーヴェだけは駄目なんです!
 この一週間、俺はナンバーズとそれなりに親しくなれたつもりだ。世話役のチンクは勿論、性格が明るいセインやウェンディは向こうから話しかけてくれるし、トーレとは訓練を続けてるし、クアットロは相変わらず俺をからかってくるし、ディエチは殆ど無口であまり会話した事ないけど、最初の頃よりは多少マシになった。
 だが、ノーヴェだけはダメなんだ。何が気に入らないのか、いっつもカリカリしてる様子で親しくなれそうにねーんだよ。アイツ、絶対俺の事嫌ってるよ。別に何か悪い事した訳じゃないけど、明らかに嫌われてるよ。そういう点じゃ、ディエチよりも関わり難い。嫌いじゃないけど、超苦手なんだよ。

「それでは、ノーヴェを呼んできますので少々お待ち下さい」
「あ、は、はい……分かりました」

 辛い現実を想像して、思わず苦笑いで答えちまった。
 ウーノが研究室を出て、ノーヴェを呼びに行った。
 大丈夫なの? そのコンビで本当に大丈夫なのか? ダンジョンクリア出来るのか? ゲームクリア出来るのか?
 不安を胸に募らせ、俺はウーノが戻るのを待った。


     *


 そんな訳で、俺とノーヴェの異色コンビでミッドチルダの首都・クラナガンにやってきました。
 流石、高度な文明が発達してるだけあって、街には高層ビルが何本も聳え立ってる。ただ、魔法世界である事を考えると、近未来都市に違和感を憶える。
 しかし、そんな事よりも問題なのはノーヴェの方だ。同伴してるノーヴェは全身タイツじゃなくて、Tシャツにジーパンと言う男っぽいラフな格好をしている。
 お前、普通の服持ってんじゃん! 何でアジトでは、常時全身タイツなんだよ!? 意味分かんねーよ! アレか? 着替えるのが面倒なのか? 一日中パジャマで過ごす休日のお父さんか?
 って、そうじゃねーよ! 問題は服装じゃなくて、ノーヴェの様子だ。
 一っ言も喋らねーんだよ。
 アジト出てから、全く会話してないからね。無言の状態が続いて、超気まずい空気が出来上がってるから。空気が重くて、何か息苦しく感じるんだよ。ただ買い物しに来ただけなのに、何でこんな緊張しなきゃいけないんだ? 周りは賑やかなのに、俺とノーヴェの所だけ別空間だよ。
 重い沈黙に耐えきれずに、俺は意を決してノーヴェに話しかける事にした。

「あ、あの~」
「んだよ?」
「いえ……何でもありません……」

 いやァァァァ無理無理! ちょっと声かけただけで睨まれたよ!
 まだ何もしてないのに、もう疲れた。ノーヴェと一緒に居るだけで、精神的に辛い。ノーヴェのように常にイライラした奴は、下手に話しかけない方がいいんだよな。どこに地雷があるか分からないから、関わらないのが一番なんだ。ヤベーな……コレ以上機嫌悪くなったら最悪、手が出るぞ。殴られるぞ? ああ、ヤベーよ、帰りてーよ。

「そうだ、帰ろう」
「何でだよ?」
「すいません!」

 背後から凄みの声でツッコまれて、俺は謝った。どうやら、手ぶらで帰るのは不可能のようだ。ノーヴェの一言で、完全に退路を断たれちまった。
 ちくしょう。他のナンバーズとだったら、絶対こんな空気にならなかったのにな。買い物に行きたいなんて言うんじゃなかった。今日一日我慢して、明日にするべきだったんだ。失敗した。
 ええい、今更後悔しても遅い。俺に出来る事は、とっとと買い物を済ませてアジトに帰る事だ。余計な事は一切言わずに、質問だけするんだ。下手に親しもうとするから、失敗するんだ。そうと決まれば、買い物だけに集中するぞ。
 しばらく歩いて、一つの建物に目が止まった。出入りしてるのは、主に主婦と思われる人達ばかりだ。主婦が多く集まる場所となると、大体の見当はつく。けど、念の為にノーヴェに確認するとしよう。怖いけど。

「あの、ノーヴェさん?」
「あ?」
「いや、その……あの建物、何ですか?」
「スーパーだよ」

 ぶっきらぼうに答えるノーヴェは、相変わらずしかめっ面だ。

「くだらねー事で聞くんじゃねーよ」
「す、すいません。その……ありがとうございます」

 ヤベー、殺されるかと思ったぜ。ノーヴェ相手だと、質問するのも命懸けだ。
 こんな危険な買い物は、他には無いぞ。ああ、何で外に出てまでこんな思いをしなきゃいけないんだよ?
 帰るに帰れないので、ノーヴェに気付かれないよう諦めの溜め息をついて、スーパーに入った。店内には、食材を求めてやってきた主婦が沢山居る。俺も出入口付近に用意されてる買い物籠を一つ持って、ノーヴェと一緒に主婦に混じって食材を見て回る。食材の調達なんて親に任せっきりだったから、良し悪しを見分ける方法なんて分からない。手にとって見て、適当に選ぶしかないな。食材の種類が分からない時は、ノーヴェに聞いて確かめる。相変わらず無愛想で、質問するたびに心臓がドキドキする。俺はミッドチルダ出身じゃないから、文字も食材の種類も分からないんだから、しょうがないじゃん。
 特に何を作ると決まってる訳じゃないけど、一通りの食材を揃えた。ナンバーズの人数を考えて、最終的に買い物籠が二つになった。ついでに、米袋をノーヴェに持ってもらった。一瞬殺されるかと身構えたが、渋々ながら持ってくれた。
 レジで会計を済ませ、スーパーの外に出た。両手にそれぞれ中身がパンパンに詰まった袋が二つずつ──計四つの袋を持っている。ノーヴェには、変わらず米袋を二つ持ってもらってる。

「重い……!」

 袋の持つ部分が指に食い込んで、痛い。アジトに帰るまで、もつかどうか分からない。

「男のくせに情けねーな」

 四つの袋に苦戦する俺を見て、ノーヴェが毒づいた。米袋だって重いハズなのに、ノーヴェは軽々と肩に担いでる。
 やっぱ戦闘機人って、半端ねぇ。
 結局、ノーヴェとはロクに会話が出来なかった。何で俺がノーヴェに嫌われてるのか、考えてみたけど答えは見つからない。
 ひょっとして、最初の日に俺が飲み物ぶっかけたのを、まだ根に持ってるのか? もう一週間になるんだから、そろそろ許してくれ。
 会話も無いまま、俺とノーヴェは街中を歩いていく。このまま何事も無く、気まずい空気のままアジトに帰る事になると思ってた。
 しかし、この後、俺達は大変な事態に遭遇する。
 無言で歩いてる途中で、ノーヴェが足を止めた。

「ん? どうしたんですか?」

 振り返って尋ねるが、ノーヴェは答えない。不機嫌とは違う険しい顔で、どこか一点を見つめている。視線を追うと、人気(ひとけ)の無い路地裏だった。
 もう一度聞こうとしたら、突然走り出した。

「ちょっ……! 待ってくださいよ!」

 重い四つの袋を両手に、俺は路地裏に入ったノーヴェの後を追いかけた。
 路地裏に入ると、ノーヴェが地面に屈んで何かを抱えていた。建物に太陽の光を遮られ、薄暗くて見えづらいが、人を抱えてるように見える。恐る恐る近付いてみると、ノーヴェに抱えられてるのは小さな女の子だった。年は5、6歳くらいで、金色の長髪、着ている衣装はボロボロになってる。細い腕には黒い鎖が巻かれていて、先には四角いケースが繋がっていた。

「何で……?」

 目の前の光景に、俺は片眉を上げて怪訝な顔になる。
 こんな薄暗いて人気の無い路地裏に、どうして女の子が居るのか? 何でケースが繋がった鎖が、腕に巻かれているのか? 俺の中で疑問が浮かんできた。
 女の子は気を失ってるようで、目を閉じて静かに息をしている。
 女の子とケースを交互に見て、ノーヴェが口を開いた。

「そういえば、今日は『マテリアル』と『レリック』が移送される日だったな」
「マ、マテリアル? レリック?」

 知らない単語が出てきて、俺は首を傾げた。
 しかし、ノーヴェは俺の問いには答えず、女の子とケースを見て何やら考え込んでる。俺の事など完全に無視してるな、コイツ。どうやら俺は、『嫌い』じゃなくて『大嫌い』のようだ。
 ややあって、ノーヴェは俺に女の子を差し出してきた。

「持ってろ」
「え? ちょっ……待っ……!」

 両手に袋を持った状態で、無理矢理女の子を持たされた。
 俺に女の子を預けたノーヴェは、例のモニターを宙に出した。モニターには、アジトに居るウーノが映っていた。

『どうしたの、ノーヴェ?』
「ウーノ姉。路地裏で、気絶してるマテリアルとレリックを見つけた」
『何ですって?』

 ノーヴェからの報告を聞いたウーノが、モニターの中で僅かに驚いて見せた。

「レリックケースは一つだけど、鎖の長さから見てもう一個あるみたいだ。マンホールから引き摺った跡があるから、多分地下で落としたんだ。これからレリックを探しにいく」
『分かったわ。こちらも妹達とガジェットを向かわせるわ』

 通信を終えて、ノーヴェはモニターを閉じた。
 どうやら、ノーヴェはレリックって代物を探しに地下に行くみたいだな。ハッ、ご苦労なこった。

「オイ、行くぞ」
「え?」
「『え?』じゃねーよ! お前も一緒に来るんだよ!」
「えええええええ!?」

 冗談じゃない。今からやろうとしてるのって、絶対ヤバい事だろ? そんな事に付き合って、万が一にも時空管理局とか言う警察組織に見つかったら、人生おしまいじゃねーか!
 断れ! 断るんだ、俺!
 ここは勇気を振り絞って、全力で断るべきだ。

「いや、それは……」
「行、く、ぞ!」
「はい……」

 ダメでした。語気を強めて詰め寄ってくるノーヴェに抗う事など、臆病な俺には出来ませんでした。くぅ……泣いていいですか?
 拒否権の無い俺は、大人しくノーヴェの指示に従った。買い物袋を路地裏に置いて、俺が女の子とケースを持たされた。俺は荷物係か?
 少しズレてるマンホールの蓋を開けて、ノーヴェが先に下に降りる。続いて俺も、慎重に地下に降りた。
 下水道は路地裏よりも暗く、薄気味悪い場所だった。

「あたしから離れんじゃねーぞ」
「は、はい」

 ノーヴェを先頭に、俺は下水道を進み出した。


 偶然か必然か? 謎の女の子との遭遇で、隼樹は下水道に(いざな)われる。
 第一試練・聖王争奪戦!


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