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全国の原発から出る使用済み核燃料を再処理する工場(青森県六ケ所村)が、今月中旬にも試験運転を再開する。青森県の三村申吾知事が昨年末、県内の原子力施設の安全対策を了承した[記事全文]
政府は航空自衛隊の次期戦闘機に、米英など9カ国が共同開発した最新鋭機F35を採用することを決めた。今後十数年かけて42機を導入する。維持費を含めた総額は約1兆6千億円に[記事全文]
全国の原発から出る使用済み核燃料を再処理する工場(青森県六ケ所村)が、今月中旬にも試験運転を再開する。
青森県の三村申吾知事が昨年末、県内の原子力施設の安全対策を了承したのを受け、再処理の事業主体である日本原燃が運転に踏み切る。
これは、おかしい。
政府は福島第一原発の事故を受け、再処理でプルトニウムを取り出し、再利用する核燃料サイクル事業も見直す方針だ。
原子力委員会はすべての使用済み燃料を再利用するコストが、再処理せずに地中に埋める「直接処分」の2倍になるとの試算もまとめている。
こうしたデータをもとに、再処理問題の本格的な議論を始めようとする矢先の再開は、事業継続の既成事実を積み上げる意図があるとしか思えない。
再処理工場での試験運転は、06年3月から始めた。しかし、高レベル放射性廃液を高温炉でガラスと混ぜて固める工程がうまくいかず、08年に中断する。11年3月の再開直前、福島の事故が起き、止まっていた。
青森県の検証委員会は、電源車の設置など、電源を喪失した際の対策を有効だと評価した。報告書は「再処理施設は原子炉と違い、常温・常圧の環境下で化学処理が行われる」などと、原発との違いを強調している。
原発との違い自体はその通りだ。地元の六ケ所村が再開を求めてきた事情もあろう。
だが、福島の原発事故が迫っているのは、「安全神話と低コスト幻想」に基づいた原子力事業全体の見直しである。
私たちは「原発ゼロ社会」に向けた道筋を提言してきた。原子炉の寿命を40年とする政府の法改正案は、その線に沿うものとして評価する。こうして脱原発を進めていけば、核燃サイクルは根本から崩れる。
一定程度の原発を維持するにしても、再処理事業の妥当性はすでに大きく揺らいでいる。核燃サイクルの究極の目的である高速増殖炉にいたっては、巨費を投じた原型炉「もんじゅ」がほとんど稼働せず、もはや実用化は夢物語である。
腑(ふ)に落ちないのは、政府の対応だ。原子力行政の根幹にかかわる話のはずなのに、試験運転の再開は「国が承認する、しないという段階ではない」(枝野経済産業相)という。
日本原燃は、再処理後にプルトニウム混合酸化物(MOX)燃料をつくる工場の建設も再開する予定だ。
こんな事業者任せの見切り発車を認めてはいけない。
政府は航空自衛隊の次期戦闘機に、米英など9カ国が共同開発した最新鋭機F35を採用することを決めた。
今後十数年かけて42機を導入する。維持費を含めた総額は約1兆6千億円にのぼる。
選定作業に6年をかけた重要な政策決定だが、民主党政権が支出規模に見合う努力や工夫をしてきたようには見えない。
たとえば、レーダーに探知されにくいステルス能力や高性能エンジンなど、欧米が秘匿する最新技術を満載した次世代機が対象になることは、早くからわかっていた。
その分野は日本も研究開発を進めている。なのに、独自技術の開発を急がせたり、交渉のテコに使ったりはしなかった。
そして試乗もせず、書類審査だけで判断した。先方の提案をうのみにしたに過ぎない。
F35は候補の中では唯一の次世代機で、米空軍も次の主力機に予定する。中国やロシアが同じ能力開発に取り組んでいることを考えれば、選択に妥当性がありそうにも映る。
しかし、疑問点も多い。まだ開発途中で、いくつもの不確実性を抱えているからだ。
日本が求めた納入期限は16年度だが、不具合が多く、開発が遅れ、運用開始が18年以降にずれ込む恐れがある。ふくらむ経費負担をめぐっては、米国議会でさえ異論が噴き出している。
成り行きを見極めるため、少なくとも1年は選定を先延ばしにすべきだった。
むろん防衛省は、防衛計画の大綱が定める「戦闘機260機体制」に穴があくと反対したに違いない。だが、この数字が日本の防空体制にとって、どれほどの合理性があるのか。改めて国会で議論するいいきっかけになっただろう。
私たちが求めた情報開示も、「日本の能力水準や各社の営業秘密」の保護を理由に、あまりにも不十分だった。やはり「結論ありきの茶番」と疑われてもやむをえまい。
それだけではない。F35は従来機と違い、レーダーや電子装置など頭脳部分への日本企業の参入は認められない。機体製造の一部には参画できても、航空機産業への打撃は深刻だ。
戦後一貫して続いた戦闘機生産が昨年秋に途絶え、高い特殊技能をもつ1千社を超す関連企業の存続が危ぶまれている。
今回の選定からは、野田政権が空の安全をどう考えているのかが何も見えなかった。
深刻な財政難の折から、政府は防空体制をめぐる戦略を抜本的に立て直す必要がある。