日本経済新聞

1月10日(火曜日)

日本経済新聞 関連サイト

ようこそ ゲスト様

コンテンツ一覧

トップ > 社説・春秋 > 記事

エネルギーを考える 強靱な電力網築く改革に踏み出せ

2012/1/10付
小サイズに変更
中サイズに変更
大サイズに変更
印刷

 東日本大震災で露呈した日本の電力供給体制のもろさをどう克服するか。政府は制度改革の論点をまとめ、夏までに結論を出す。

 電力不足の長期化を避けるには、省エネを一層強め、太陽光など自然エネルギーを最大限活用する仕組みが要る。欧米より割高な電気料金がさらに上がるのを抑え、産業空洞化に歯止めを掛けなければならない。強靱(きょうじん)な電力網につくり直すため、抜本的な改革に踏み出すときだ。

節電へ時間別料金制に

 政府の「電力改革および東京電力に関する閣僚会合」が昨年末にまとめた論点整理は、家庭向けの売電の自由化や、電力会社の発電・送電事業の分離など、ひと通りの論点を挙げた。だが、何から着手してどう進めるのか、改革の道筋は示していない。

 何よりも重要なのは、企業や家庭ができるだけ安いコストで電気を安定して使えるようにすることだ。電気を効率よく使う次世代送電網(スマートグリッド)などの技術革新も踏まえ、短期、中期の課題を整理し、順序立てて改革を進める必要がある。

 当面の課題は、今年も予想される電力不足をどう乗り切るかだ。需要がピークになる冬の夕方や夏の午後の対策がカギになる。節電を強いるのでなく、省エネを動機づける新たな仕組みが要る。

 昨年夏の電力危機では、政府がピーク時の需要を15%減らす目標を掲げ、37年ぶりに電力使用制限令を出した。大企業の電力消費は最大29%減ったが、工場の操業時間の変更などで社会への影響は大きかった。制限令の対象でない家庭の節電は6%にとどまった。

 制限令のような法的手段に頼らずに節電を促すため、時間帯別料金制の導入を急ぐべきだ。需給が逼迫する時間は料金を高く、それ以外は安くする仕組みである。

 夏の午後などの料金が上がれば、安い夜間電力を使う給湯器や蓄電池の普及に弾みがつく。効率のいいエアコンや発光ダイオード(LED)照明、断熱性の高い建材への買い替えも期待できる。

 政府は、電気をどこで、どれだけ使ったかが分かる次世代電力計をすべての家庭に普及させる目標を立てている。こうした「見える化」を早く進め、自発的な省エネを後押ししたい。

 消費者が料金の安い電力会社を選べるように、家庭向けの自由化も急ぎたい。企業が自家発電で余った分を家庭に売ったり、太陽光の電気を集めて地域で配ったりするビジネスの芽が出ている。

 経済産業省は電力会社ごとに与えている免許制度を、発電、送配電など事業ごとに見直す案を検討している。こうした仕組みを取り入れ、発電事業への新規参入と価格競争を促すことは重要だ。

 送電部門の改革では、自然エネルギーをどう普及させるか、災害時の安定供給をどう確保するかの2つの視点が欠かせない。

 北日本には風力や地熱、西日本には太陽光発電の適地が多い。今は、発電しても、電力会社の送電線を借りる「託送料」が高く、参入の壁になっている。自然エネルギーは天候に左右され、地域の電力会社だけが取り込むと電圧などが不安定になる問題もある。

全国送電網の再設計を

 まず託送料を下げ、自然エネルギーによる発電会社が送電線を使いやすくする規制改革が必要だ。地域をまたぐ基幹送電網も整え、電気を融通しやすくする体制をつくりたい。昨年の大震災と原発事故の後に電気の広域融通が円滑にできず、電力不足の一因になった教訓を生かすべきだ。

 東京電力が原子力発電所の事故による損害賠償や廃炉の費用を捻出するため、同社の発電所を売る案が取り沙汰されている。東電の経営問題と電力市場全体の改革は本来は次元の違う話だが、発送電分離を検討するよい契機になる。

 東電以外の9電力会社を含めて発送電分離を考えるなら、今のような電力会社の地域割りの意味は薄れる。富士川を境に50ヘルツ、60ヘルツと東西で異なったままになっている周波数を統一することを含め、日本全体で送配電網を再編する大きな設計図が要る。短期間での実現は容易でないが、今から検討を始めるべきだ。

 電力改革が日本の産業や家庭にどんな利益と影響をもたらすか。それを見定めながら改革を続ける不断の取り組みが重要になる。

小サイズに変更
中サイズに変更
大サイズに変更
印刷
関連キーワード

東京電力、太陽光発電、スマートグリッド、省エネ、自然エネルギー

【PR】

【PR】



主な市場指標

日経平均(円) 8,420.99 +30.64 10日 10:51
NYダウ(ドル) 12,392.69 +32.77 9日 16:30
英FTSE100 5,612.26 -37.42 9日 16:35
ドル/円 76.84 - .87 -0.33円高 10日 10:31
ユーロ/円 98.17 - .20 -0.42円高 10日 10:31
長期金利(%) 0.980 ±0.000 10日 9:23
NY原油(ドル) 101.31 -0.25 9日 終値

モバイルやメール等で電子版を、より快適に!

各種サービスの説明をご覧ください。

日本経済新聞の公式ページやアカウントをご利用ください。

[PR]

【PR】

ページの先頭へ

日本経済新聞 電子版について

日本経済新聞社について