東日本大震災発生から3月で1年を迎える。岩手、宮城、福島3県では、仮設住宅や各県が民間から借り上げた「みなし仮設」が11万戸以上あり、多くの人が不自由な生活を余儀なくされている。避難生活は全国各地にも広がる。
被災地の復興が、日本全体に与える影響は大きい。国や自治体は、まず被災者らの日々の生活基盤を確かなものとしなければならない。その上で、復興に向けて本格的な歩みを始める年としたい。
津波で甚大な被害を受けた3県沿岸部市町村の多くが、震災復興計画を作った。政府も復興の基本方針を策定する復興庁を来月にも設置する。復興を支える復興特区法に基づく申請の受け付けも先月始まった。
遅ればせながら政府の支援の仕組みが整った。特区では、農地の再開発手続きなどが緩和され、被害が特に激しい地域に新規立地する企業の法人税も5年間免除される。高台移転事業にも交付金が使える。だが、たとえば高台移転については、住宅の建築費は自己負担のため住民合意は困難が予想されている。政府はまず被災者の声にしっかり耳を傾けるべきだろう。
特区制度については事業効果を精査するのは当然だが、復興の起爆剤として切り盛りしていく姿勢も同時に示してもらいたい。
被災地に残る大量のがれきも復興の妨げになっている。広域処理が欠かせない。全国の自治体は受け入れに努力してほしい。
東京電力福島第1原発の事故で放射能汚染が広がった。政府は先月、原子炉の冷温停止状態を宣言したが、住民帰還への道筋は見えない。
警戒区域や計画的避難区域は4月にも見直される予定だ。年間20ミリシーベルト以下の「避難指示解除準備区域」は、除染やインフラ復旧の進度を踏まえて段階的に解除するとしている。
徹底的な除染が基本になるが、モデル地区の除染現場では試行錯誤が続く。福島以外でも国が費用負担する除染重点地域が指定された。的確な除染方法を示すことを含め、政府が責任をもって取り組むべきだ。
避難区域見直しには、地域コミュニティーの分断を懸念する声が強い。汚染された土壌などを保管する中間貯蔵施設の立地問題も難題となる。政府は双葉郡内へ設置したい意向を表明したが、地元の意見を受け止め、慎重に進めてもらいたい。
長期間、帰還のメドが立たない被災者のケアや、補償問題も喫緊の課題だ。東電を含め、誠意ある対応が必要なのは言うまでもない。
原発の「安全神話」崩壊を受け、エネルギー政策も大きな転換期を迎える。政府は中長期のエネルギー政策を今夏、まとめる。新しい政策は「脱原発依存」と電気の安定供給、温暖化対策という相反するような目標を追う道筋を示す必要がある。
当面、定期検査で停止中の原発再稼働が問題になる。再稼働しない場合、代替の主力電源は火力だが、燃料費がかさみ、電気料金に跳ね返りかねない。国内経済への大きな打撃になるだけに、政府は安易な値上げを防ぐよう監視を強めるべきだ。
料金を再稼働の「人質」にしてはならない。再稼働の条件は、あくまでも安全の確保だ。政府は安全評価(ストレステスト)に加え、今回の事故の調査結果も踏まえて検証し、自治体や住民の理解を得られなければ、再稼働を認めるべきでない。
核燃料サイクル計画の終了も決断すべきだ。原発依存を高めるという前提が崩れたことに加え、危険性が大きく、経済的にも割に合わないことがはっきりしているからだ。
青森県六ケ所村に建設中の再処理工場は、大量の使用済み核燃料を中間貯蔵している。計画がなくなれば、その最終処分を迫られる。最終処分は、原発保有国共通の難題だが、核燃料サイクルや原発推進に投入してきた人材や予算を動員し、この問題に取り組むべきではないか。
供給力を高めるには電気事業への参入促進が欠かせない。特に風力、太陽光などの再生可能エネルギーは、政情不安な中東への依存度を引き下げ、地球温暖化対策にも資する。7月に始まる固定価格買い取り制度で、適正な価格設定を求める。
新規参入者が不利にならないよう送配電事業の中立性を確保する必要もある。政府が、大手電力の発電と送配電事業を切り離す「発送電分離」の検討を始めたことに期待したい。送電網を全国規模で統合すれば、発電量が不安定な再生可能エネルギーを、より大量に受け入れられるというメリットもある。
一方、発送電を分離すると供給責任の所在があいまいになり、安定供給を損なうとの指摘がある。大手電力の資産である送電網の切り離しは財産権の侵害にもなりかねない。政府には、こうした課題を克服し、分離の実効性を確保する制度改革を打ち出してほしい。
節電も大きな需給対策だ。それには、需要が集中する時間帯とそれ以外の電気料金格差を拡大したり、家庭で使用量をリアルタイムで把握できるスマートメーターの普及促進も大事な課題になる。
毎日新聞 2012年1月10日 2時30分