殺人容疑で指名手配していた張志揚容疑者が自殺した愛知県警中署前。よもやの展開となった=9日午後10時過ぎ、名古屋市中区【フォト】
東京都台東区で日本語学校に通う台湾人留学生のリン・シエイさん(22)とシュ・リツショウさん(24)が刺殺された事件で、殺人容疑で指名手配された台湾人の張志揚容疑者(30)が9日、名古屋市内で任意同行中に隠し持っていたナイフで首を切って自殺した。警視庁蔵前署の捜査本部が同日夜、発表した。逮捕寸前まで追い詰めながら、容疑者に自殺を許したことに批判が出そうだ。
手配犯の居場所を突き止めるまでは完璧だったが、最後の最後で、取り返しのつかない事態を招いてしまった。
捜査本部によると、9日午後6時20分ごろ、殺人容疑で全国に指名手配していた張容疑者を警視庁の捜査員が名古屋市中区の「SKE48劇場」で発見。任意同行を求めた。
捜査関係者らによると、捜査本部は張容疑者が同日開かれるAKB48の姉妹グループ、SKE48のコンサートチケットに応募して抽選で外れていたことをイベント関係者からの通報で知り、それでも必ず現れると踏んで、会場外に設置されたモニター前などで張り込んでいた。
ほどなく、騒いでいる張容疑者を発見。捜査員が肩をたたいて「張さんか」と尋ねると、張容疑者は一気にテンションを下げ、素直に「はい」と答えた。この様子を目撃した会場警備員によると、張容疑者の周囲を10人ぐらいの捜査員が取り囲んでいたという。
その約20分後、任意同行した愛知県警中署に警察車両が到着した際、車内で突然、張容疑者がズボンの中に隠していたとみられる果物ナイフ(刃渡り約11センチ)で自分の首を刺した。搬送先の病院で午後8時ごろに死亡が確認された。
捜査員が任意同行前に「身体検査」を行ったが、ナイフは発見できなかったという。逮捕状は中署で執行する予定だった。警視庁の藤永和也組織犯罪対策2課長は「任意同行の在り方に問題があったかを調査する」と険しい表情で話した。
張容疑者は、車内での事情聴取に「泥棒をやった。林さん、朱さんに申し訳ないことをした。果物ナイフでやった」などと容疑を認める供述をしていたという。
張容疑者は、1月5日午前9時ごろ、東京都台東区内のマンションで、同じ日本語学校に通う林さんと朱さんの首や背中を刃物で刺して殺害した疑いが持たれ、前日(8日)に指名手配された。
知人には「大阪に行く」といって行方をくらましたが、携帯電話の位置情報が愛知県内で途切れていたことから、警視庁は捜査員を名古屋市に派遣し、当たりをつけていた「SKE48劇場」で発見した。
捜査本部は、張容疑者を容疑者死亡で書類送検する方針という。
(紙面から)