北半球の各地に生息するマリモは、日本が起源である可能性が高いことが、北海道釧路市教委の「マリモ研究室」の研究で分かった。同研究室の若菜勇学芸員が約10年間、世界各地のマリモのDNAを収集・解析し、最も古いタイプのマリモが日本に集中しているのを突き止めた。渡り鳥を介して欧米に広まったとみられるという。
若菜学芸員は02年ごろから、日本とアイスランド、カナダ、西シベリアなど世界各地のマリモの標本約1200点をデータベース化するとともに、生体試料34点のDNAの変異の度合いを比較した。
その結果、国の特別天然記念物に指定されている同市の阿寒湖のマリモをはじめ、国内の個体の多くが、変異が起こっていない「祖先型」であることが判明。琵琶湖の個体は変異後の「進化型」としては最も古いタイプだった。
一方、欧米の個体の大半は、琵琶湖よりも新しい進化型だった。アイスランドの湖など一部には祖先型があり、これらは渡り鳥の飛来地だったという。
このことから、若菜学芸員は、渡り鳥が日本列島のマリモを餌として食べ、他国の飛来地でフンや体についた細胞や胞子から分布が広がった可能性が高いと結論付けた。欧米に渡った時期は、間氷期(13万~7万年前)か最終氷期(7万~1万年前)以降と考えられる。経路はシベリアなどでのデータが乏しいため、確定できていない。
若菜学芸員は「何となくヨーロッパ発祥かなと考えていたので、予想外の結果に驚いている。今後は進化の道筋や、球形化する性質をどう獲得したのかなどの研究を進めたい」と話している。【山田泰雄】
北半球の高緯度地方に広く分布する淡水生の緑藻類。「毬藻(まりも)」の和名は、1897年に阿寒湖で球状の個体が発見されたのを機につけられた。糸状の組織が水中を漂う「浮遊型」、石に付着する「着生型」、一つにまとまった「集合型」があり、大型の球状マリモが群生するのは世界に阿寒湖とミーバトン湖(アイスランド)の2カ所しかない。水深、日照、水の流れなど複合的な要素が絡んで球状になるとみられている。
毎日新聞 2012年1月9日 10時02分(最終更新 1月9日 10時11分)