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【シリーズ現場】

足りぬ臨床工学技士 小松の3病院 募る不安

高校で進路指導担当教諭(右)にCEの説明をする県臨床工学技士会のメンバー=能美市の寺井高で

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 人工呼吸器など生命維持管理装置の操作や点検をする臨床工学技士(CE)が、小松市で不足している。市内では3つの病院でそれぞれ1〜2人が日夜フル稼働。各病院は募集もしているが、採用できても、医療機器の進歩による作業の複雑化に追いつかず、「いつか重大なミスが起きるのでは」という不安の声も聞かれる。

  (白井春菜)

機器複雑化 重要度高く 若手の育成急務

 二〇〇七年の臨床工学技士法改正で、医療機器の保守点検が義務づけられたことを受けて、小松市民病院は翌〇八年四月、臨床工学室を新設した。同室ができるまでは、医療機器の操作や管理は看護師などが本来の業務とともに行っていた。

 定期的な点検が十分でないために修理に出すことが多く、金沢市の医療機器業者に預けて一週間ほど使えないこともあった。現在年間で約三十万円の修理費用は、当時は三百五十万円ほどかかっていたという。

 同室に勤めるCEは前田智美さん(38)ただ一人。院内の医療機器の取り扱いを一手に引き受ける。勤務は平日の日中が中心だが、患者の病状に合わせて休日、深夜の呼び出しもある。「生命に直接かかわる装置を扱うやりがいは大きいが、重圧もある。二十四時間三百六十五日、気は抜けない」という。

 前田さんは業務の合間を縫って、機器の使い方が一目で分かるマニュアルを作ったり、院内で勉強会を開いたりと、周知に努めている。それでも、一日数件は各科から「調子がおかしい」と機器が持ち込まれる。

 小松市八幡のやわたメディカルセンターもCEは一人。同病院の人事を担当する勝木グループの中田勉人事部長は「最低でも三人は必要。CE一人に負担がかかりすぎないよう、人手が足りない部分は臨床検査技師などほかの職種が補っている。各分野の業務に専念してもらいたいのだが…」と苦しい実情を明かす。

医療機器が並ぶ臨床工学室で機器の点検をする前田さん=小松市民病院で

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 両病院とも機器の整備不良による事故などは起きていないが、職員に負担がかかることで引き起こされる人為的ミスが起きる懸念は常に抱いている。

 同市園町の田谷泌尿器科医院では、CE一人が透析業務にあたるが、院内で事務系の仕事をしている別のCEの助けを借りることが多い。「若手のCEを採用したいが、なかなか応募がない」と頭を抱える。

 慢性的な人手不足に、県臨床工学技士会も対策に乗り出した。八月から同市を皮切りに、県内の高校を回って進路指導担当教諭などにCEの仕事内容や魅力を説明。北陸では唯一、小松短大に専門課程があることや、今年国家試験に合格した学生五人に約八十件の求人が殺到したことなどをアピールした。

 同会事務局長で、自身もCEである西木裕一さんは「近年の法改正でますます重要度が高まっている医療職種。知識だけでなく、患者さんや他の職種と接する能力も必要。小松短大では三年課程で国家試験を目指す。早めに若手育成の手を打たなければ」と危機感を募らせている。

 ◇後記◇ 病院にいるのは医師と看護師だけではない。作業療法士、言語聴覚士、社会福祉士など、二十種以上の専門職が協力して患者を総合的にケアしている。

 その中でまだ知名度が低いCE。医学、工学の知識に加え、患者の不安を取り除く心遣いも必要な“スーパーマン”。パワフルな人ばかりだろうと想像していたが、出会ったCEは皆、物腰柔らかな人ばかり。「患者を救いたい」の一心でがむしゃらに働けるのだという。

 もっともマンパワーには限界がある。若手が育つ土壌がなければ、制度の崩壊も免れない。Uターン就職を増やし、医療の地域格差を解消するため、小中学生にも医療職を積極的に紹介する必要があると痛感した。

  臨床工学技士  クリニカルエンジニア(CE)。1987(昭和62)年に制定された臨床工学技士法に基づき、医学、工学の知識が必要とされる国家資格。呼吸、循環、代謝に関する生命維持管理装置の操作や保守点検を担い、医師や看護師らと協力してチーム医療にあたる。県臨床工学技士会には現在、105人が所属している。

 

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