パルコ
ブロードウェイ・バウンド
作 ニール・サイモン
演出 青井陽治
出演 真田広之/新井康弘他
PARCO劇場
1月7日まで
●柿おとし
ブライトン・ビーチの冬は厳しい。常に雪に閉ざされたままだ。社会に出て働 き始めたユジーン(真田広之)は、コメディ作家になることを夢見、兄スタンリー (新井康弘)がチャンスをつかめる仕事を持ってくることを願っている。そんな 中、仲の良かった筈の父と母の間に亀裂が入る。やがて巣立っていく子供たちと 残された親たち、希望に満ちあふれ生き生きとしているユジーンとスタンリーに 比べると、彼らの祖父であるベン(下元勉)、父ジャック(近藤洋介)や母ケイ ト(河内桃子)の描かれ方は実に対称的だ。残念ながらニール・サイモンの自伝 的連作と言われているこの3部作の内、第1作の「ブライトン・ビーチ回顧録」 は見ていないが、前作の「ビロクシー・ブルース」と今回の作品を見て感じたの は、主人公ユジーンの傍観者の目だ。前作では新兵たちを苛める鬼軍曹に対して、 徹底的に反抗するユダヤ人の友人エプスタティンの姿が描かれた。もちろんユジー ンの初恋や初体験も大事な要素ではあったが、彼は徹底してエプスティンの記録 者であって、それ以上ではなかった。今回も両親の、危機から離婚に至る過程を 作家としてつぶさに我々に報告してくれる。兄スタンリーが母を見捨てようとす る父に対して激しく怒りをぶつけた時も、ユジーンは自分が怒るべきだったと思 いながら、結局父と兄の争いを冷静に見てしまうのである。ニール・サイモンは そんな自分の作家的資質を認めながら、一方苦い思いで自己批判しているのであ る。確かにユジーンとスタンリーのふたりがコメディの案を練るのに死ぬほど苦 しんだり、普段の家族の何気ない可笑しさを描写する時は、コメディとして実に うまい見せ方をする。しかし今回は特に両親の離婚という現実が、この作家の人 生に対する悔いみたいなものを感じさせる。ただ人生に別れはつきものだ。悲し い別れではなく、今後もそれぞれがそれぞれの道を力強く生きていく。そんな幕 切れが逆に涙を誘う。新井が前作に続いて存在感がある。(89年12月22日 ソワレ、2h45+15)
■たぶん編集長が書くであろう「ティンゲル・タンゲル」について。そのレビュー を強く意識した構成に興味を持った。ブリキの自発団から3女優が参加し、さら に上々颱風をゲストに迎え、ダンスあり、芝居あり、コンサートありといった贅 沢な公演だ。コンサート場面はちゃんと商売になっているし、劇団四季を除けば ミュージカル劇団としての可能性を一番持っている劇団だと思う。後はダンスが 若干心許無いことと、構成が散漫な印象を与えるのが残念だった。
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