「我々の目的は正しいと信じてこつこつやってきた」。機械メーカー「トロムソ」(尾道市因島重井町)の橋本俊隆社長(67)の言葉に熱がこもる。同社は稲のもみ殻をすりつぶして固形燃料化する機械「グラインドミル」を開発し、09年夏から販売を始めた。日本人の主食、米から大量に出る廃棄物の資源化に挑んだ因島の小さな企業に、全国の自治体や業者が今、熱い視線を浴びせている。
もみ殻は、国内で年間約200万トン発生するといい、非常に硬く、多くの農家が処理に苦慮している。化石燃料など既存のエネルギーからの脱却が叫ばれる中、「何とかクリーンエネルギーを生み出せないか」と考えていた橋本社長。06年の創業から従業員数人と開発に取り組み、試行錯誤を経て完成したのが重さ約1・2トンのグラインドミル。
もみ殻を投入すれば、自動ですりつぶしから圧縮、加熱や成形までこなす。できあがった長さ約30センチ、直径約5センチの円筒状の固形燃料「モミガライト」は、熱量が1本あたり約4000キロカロリーと薪(まき)にも負けない。長時間燃え続け、窒素や硫黄化合物などの有害物質も出ないため、暖炉の熱源として効果が高い。
機械を導入した秋田県の農業系NPO法人はモミガライトの製造・販売に取り組み、長野県木島平村は、もみ殻を使った苗床づくりに活用する。寒冷地や米どころを中心に、視察に訪れる団体が後を絶たないが、意外にも地元・広島県内での導入はまだゼロという。
昨年3月11日の東日本大震災。報道で寒さに震える人々を目の当たりにし、モミガライトを送る態勢を整えたが、被災地には当時、使い慣れない物資を受け入れる余裕はなかった。橋本社長は「電気やガスがストップした時、人間が頼れるのは身近にあるものだけ。一時しのぎでも構わない。非常用の備蓄燃料として、復旧までの一助にしてほしい」と祈りを込める。【豊田将志】
毎日新聞 2012年1月6日 地方版