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きょうの社説 2012年1月9日
◎成人の日に 古里との絆も深めてほしい
大人の仲間入りをした新成人の皆さん、おめでとう。成人式の会場で、小中高時代の同
級生と再会するのを楽しみにしている方も多いと思います。懐かしい仲間と一献酌み交わし、人生の節目の日を楽しんでください。今年、元日を20歳で迎えた新成人は122万人を数えます。前年よりも2万人減り、 ベビーブーム世代が成人し、ピークを迎えた1970年(246万人)の半分以下になりました。少子化で日本という国が、少しずつしぼんでいく現実を映し出しています。 「失われた20年」という言葉があります。バブル経済が弾け、不況に沈んだ1990 年代から2000年代初頭までを、「失われた10年」と呼んできましたが、リーマン・ショックを機に、さらに10年が追加されました。 ある企業が新成人500人を対象にした調査では、日本の未来が「明るいと思う」とい う人はわずか20・2%にすぎず、「暗いと思う」は79.8%を占めました。 皆さんは日本が好景気に沸いた時代を知りません。ちょうどバブル経済が崩壊したころ に生まれ、下り坂の20年を歩んできました。なぜこんな不利な時代に生まれてきたのか、と愚痴をこぼしたくなる気持ちも分かりますが、嘆いていても得るものは何もありません。世界を見渡せば、私たちの国は、まだまだ飛び抜けて豊かで、生活にも余裕があります。そんな国に生まれた幸せに感謝し、北風に立ち向かってほしいと思うのです。ここで、聖教新聞の依頼で、作家の伊集院静さんが若い世代に贈ったメッセージを紹介したいと思います。 一 人より早く起きなさい 二 人の倍は働きなさい 三 たくさんの人に会いなさい 四 人のために生きなさい 五 ハンディを生かしなさい 早起きは、生き方を変える契機とし、時間を無駄にしないため。人より多く働き、学生 は2倍勉強し、多くの人に会って何かを学ぶ。自分中心に生きるのではなく、他人を思いやる。ハンディに不満を漏らさず、成長の糧にする。 こんな時代だからこそ、真っ当に、真っすぐに生きてほしいという願いが込められてい ます。 この珠玉の言葉にもう一つ、「古里との絆を深める」という一項を追加できないでしょ うか。東日本大震災は、人と人とのつながりの大切さを実感させる契機になりました。一方で、多くの福島県民が原発事故で、泣く泣く古里を追われました。成人式で、多くの仲間と絆を深めると同時に、かけがえのない古里との絆にも思いを巡らせてほしいと願っています。
◎加賀鳶はしご登り 分団がそろい踏みしてこそ
金沢市消防出初め式で、加賀鳶(とび)はしご登りが昨年6月の事故を教訓とした安全
対策を施して再スタートした。残念だったのは、はしご登りを披露する48分団のうち、20分団が演技を辞退する状況に至ったことである。金沢百万石まつりの転落事故を受け、難度の高い4演技には命綱を着ける安全対策が決 まった。命綱をめぐる見解の相違や準備不足などで分団の対応が分かれたが、「火消しの心意気に反する」と抵抗感を示す団員の思いは理解できるし、事故防止策を徹底する考え方も当然である。大事なのは伝統継承へ向け、時間をかけてでも、分団が足並みをそろえられるような結論を導くことだろう。 加賀鳶はしご登りは、江戸に勇名をはせた加賀藩邸の大名火消し「加賀鳶」の伝統を継 ぐ、全国に誇りうる文化である。出初め式ではしご登りが披露されるのは、地域の安全は地域で守るという「義勇消防」の気概を伝統の技を通じてアピールし、1年の防災への心構えを市民に訴える重要な意味がある。そうした啓発効果も考えれば、統一感を欠いた状況が続くのは好ましくない。 東日本大震災では、避難誘導や水門を閉鎖する途中などで死亡、行方不明となった消防 団員は計254人に上った。災害時に住民の安全確保の先頭に立つ消防団は地域の財産であり、団員の献身的な活動には頭が下がる。 加賀鳶はしご登りは、金沢の消防団にとっては、そうした義勇消防の使命感を胸に刻む 場でもある。いまが伝統を引き継ぐ新たな基盤づくりの時期だと思えば、多少の混乱も生みの苦しみの一つと言えるのかもしれない。
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