きょうのコラム「時鐘」 2012年1月9日

 海岸線を守る防風(ぼうふう)林(りん)が各地にある。黒々とした巨大な松林も一本一本は、心もとないほどに細く、強い海風のため幹(みき)はそろって陸側に倒れかかっている

松の木は一本では弱く、集団で強さを発揮する樹木(じゅもく)なのだという。東北の被災地で津波にも負けなかった一本の松が希望の象徴(しょうちょう)になっている。本来ひとりでは生きていけない細長い松が、あの大津波に耐えてひとり立ちしていることに勇気づけられるのだ

正月、松の内が開けたばかりに「成人の日」がやってきた。松にあやかって言えば、人間もひとりで生きてはいけない。集団の中で互いに助け合って力が発揮(はっき)される。だが、大人になることは、あの一本松のように、ひとりで生きていくことでもある

家族・学校・職場・地域などさまざまな集団から離れ、自分ひとりの力を見つめる時が必要だろう。ひょろ長い若松が、育ててくれた大きな森や林から一人旅に出て、青年の樹(き)になって故郷に帰る。伴侶(はんりょ)を得て新しい自分の集団を築いていく

20歳の年輪を刻(きざ)んだ日のことはだれも忘れない。ふるさとの温(ぬく)もりと、ひとり立ちの厳(きび)しさを思うからだ。