2009-09-29
蟹守、および箒について(2)
「明日、考える」と言った前回のエントリーから一か月が経ってしまいました。別に忙しかったわけではないのですが。
一応、続きです。
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なぜ出産の場面に蟹が登場するのかという問題だが、そのヒントは、蟹という生き物がどのような人間の生活の場面で登場するのかということにあるような気がする。
ただ現代の生活では、食事の時か海で遊んでいる時ぐらいしかこの生き物に遭遇しない。そこから、神話や古代の世界の出産の場面における蟹の象徴的な意味を解釈することは不可能だろう。
しかし、過去の「文字化されていない資料(史料)」即ち、「民俗」がその空隙を埋め、想像を助けるものになってくれる。
そんな「民俗」の中でも「蟹年(カニドシ)」という長野県の習俗は、この問題について考える上で非常に興味深い。
旧地名でいうところの北佐久・小県・諏訪の三郡で正月六日の六日年のことを「蟹年」という。新年のやや暖かい日に、子供を小川にやって沢蟹を捕えさせ、それをこの夕の年取の肴にするか、萩や豆木の串に刺し、戸口に挾むことで流行病除になるといわれていたそうだ。蟹が捕れなくなってからは、代りに蟹の絵を描くか、カニという字を書いた紙片を挾んだという。
旧下伊那郡では、これと同じことを節分にする。カニカヤ、もしくはカニヒイラギ(蟹柊)などともいって、家の大小の入ロに同じものを挿す。イワシの頭を柊に挿して魔除けにする習俗は有名だが、ここではそれが蟹になっているのだ。
六日を蟹年とする所では、その蟹を炙るか、カニと書いた紙を火に当てて「稲の虫も菜の虫も葉の虫も焼けろ」と唱えていたそうだが、これは、害虫としての蟹を送る「虫送り」的なまじないの意味が強いと考えられるだろう。
しかし、重要なのは戸口に蟹を飾る点である。イワシの臭気が魔除けになると考えられてきたように、蟹の「はさみ」が柊のように鬼の目突きになると考えられたのではないだろうか。
死人が出た際に、刀や包丁を死体の側において悪い霊が取り付かないようにするのは、現在でもかなり一般的に見られるものであるが、刀や鋏、包丁などは、魔除けの力を有していると古来から考えられてきたのである。そして、出産の際の赤ん坊もまた、「あの世」と「この世」の境界にある存在であり、「悪いもの」を祓う呪具として「蟹」が必要だったと想像できるのである。
もちろん、この仮説を立証する術はなく飛躍もあるだろう。しかし、より多くの蟹に関する昔話や習俗、或いは刀や鋏の呪術的な意味について、多様な民俗資料を収集し比較検討することで、より具体的な立論が可能になると自分などは信じている。
このような古典的な民俗学の方法は、現在では、あまり試みられなくなっており、こういったネタで論文などを書いた日には学界から干されること請け合いだが、ブログなので今後も気楽に考えながら続けていきたい。次回は、箒についてつらつらと述べて一応、この話をしめたいと思う。
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今度、谷川の本を読んでみますね!