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[31089] 【一発ネタ】 もし平賀才人が色々と超越する筋肉をもっていたら 【ゼロ魔才人魔改造】
Name: 義雄◆285086aa ID:b6606328
Date: 2012/01/05 03:00
このお話はフィクションでファンタジーでおバカです。
実在する人物、団体、物理法則、異世界、クリストファー・リーヴ、筋肉とはあんまり関係ありません。
新年一作目がこんなお話でなんかごめんなさい。才人のビジュアルは各人の想像にお任せします。
※このSSは小説家になろう様にも投稿しています。




 むかしむかしあるところに、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールという女の子がいました。
 ピンクブロンドのふわふわした髪の毛に、絶世の美少女と言わんばかりの容貌、学年トップの明晰な頭脳を持ち合わせた、神さまからたくさんの祝福を受けた女の子です。
 だけど、彼女にはたったひとつ欠点がありました。
 高飛車なところ? スタイルに恵まれないところ?
 いいえ、個人の嗜好によっては長所となりえるところじゃありません。
 彼女は魔法が使えなかったのです。

「わたし、ゼロじゃないもん……」

 魔法が使えないものは貴族と認められないトリステインです。家族の風当たりこそ厳しくないものの、プレッシャーは感じてしまいます。
 おさないころから、日々おこたることなく彼女は魔法の特訓に励んでいました。
 雨にも負けず、風にも負けず、姉のいじわるにも負けず。十年近く努力をかさねました。
 それでも彼女は魔法が使えません。

「わたし、ゼロなのかなぁ……」

 親ばかなヴァリエール公爵は、魔法学院に一縷の望みをたくしました。
 そこの学院長であるオールド・オスマンならなにか手がかりをつかんでくれるのではないかという期待があったのです。
 ですが、どんな授業を受けても、図書館の本を読んでも、彼女は魔法が使えません。すべて爆発になってしまうのです。
 一年間、なんら進展がみられないまま時間だけが無情に過ぎていきました。

 翌日に召喚の儀式を控えた夜、ルイズは夜空に浮かぶ双月を見上げていました。
 明日失敗すれば落第です。そうなればきっと実家に連れ戻され、結婚を強いられることでしょう。
 ルイズは結婚自体はイヤではありませんでしたが、貴族の義務を果たせないまま日々を過ごすことには耐えられません。

「始祖ブリミルさま、どんな使い魔でもいいです。明日の召喚がうまくいきますように」

 これまでの人生で一番必死に祈りました。膝をつき、自然、ぎゅっと目がとじて握った手にも力がこもります。
 しばらくそのままの姿勢で、心の中でひたすらにお願いを繰り返しました。
 三十分ほどたったころでしょうか。ルイズはようやく立ち上がりました。

「あ、流れ星!」

 夜空をまっすぐにつっきる光はすぐに消えてしまいましたが、彼女の目にはその美しさが焼きついていました。

「きっとブリミルさまがわたしの願いを聞いてくれたんだわ」

 彼女はウキウキしながらベッドにもぐりこみます。その日、魔法学院に来てから一番深い眠りにつくことができました。





*****





 翌日、ルイズはどきどきしながら使い魔召喚の儀式をむかえました。
 色々な事情があって彼女の順番は最後、ひかえめな胸をおさえながら自分の番を待ちます。
 次々と成功して、人生のパートナーを得ていく級友たちの姿は、彼女にとって少し眩しいものです。
 それでも、けなげな少女はじっと頭の中で呪文を繰り返しながら待ち続けます。

「それでは、ミス・ヴァリエール!」
「はい!」

 とうとう彼女の番がやってきました。
 大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせながら杖を掲げます。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし……」

 ふと、少女は不安に襲われました。
 銀のゲートが出てこなかったらどうしよう。ゲートが出てきても使い魔が来なかったらどうしよう。そもそも爆発したら……。
 その不安は恐怖となり、どうしても最後の文章が紡げません。

「ミス・ヴァリエール?」

 担当教官であるミスタ・コルベールが心配そうに見守っています。
 いつもはルイズをからかってばかりいるゲルマニアからの留学生も、遠くから落ち着きなく見つめています。
 その視線に後押しされて、つっかえつっかえ続けます。

「使い、魔を……召喚…………」

 せよ、という言葉を言ったか言わないかのとき、空に瞬くものがありました。
 ルイズが疑問に思った次の瞬間、目の前の地面が大爆発をおこしました。
 その威力は凄まじく、普段彼女がやるような失敗魔法の比ではありません。地面がめくれあがり、大量の土砂が空中に舞いあがります。トリステイン魔法学院はあっという間に土煙に覆われてしまいました。

「な、なにが起きたんだ!?」

 コルベール先生は視界を確保しようと魔法で風をおこしました。シャルロットというガリアから来た小さな生徒もそれに倣って風をあやつります。
 しばらくして土煙が晴れたとき、みんなは信じられないものを見ました。
 ルイズの目の前に、大きな大きな穴ができていたのです。大きさは十メイルほどでしたが、深さは計り知れません。地下からは轟々と風の唸るような音が聞こえてきます。覗き込んでみても底は全く見えず、火のついた薪を投じても果てしなく落ちていくだけでした。
 また、奇跡的にもけが人はなく、大穴の前にいたはずのルイズですら土まみれになっただけでした。なにはともあれ一安心です。
 それから、どうしたものかとコルベール先生は悩みます。
 なぜなら、使い魔召喚の儀式は神聖なもの。ちょっとやそっとのハプニングでやめるわけにはいきません。ところが今起きている事態はちょっとやそっとのハプニングではありません。残るのはミス・ヴァリエールだけだし、一度中断すべきかと決めかけたそのときです。

「うわっ!」
「ゆ、揺れた……?」

 不可思議な感触が皆を襲いました。
 これは明らかに尋常なことではないとコルベール先生も決意し、召喚の儀式は中断されました。急いでオスマン学院長に知らせたり、学院が上を下にの大混乱に陥っているときも奇妙な揺れはおさまりません。
 あとになってわかることですが、この揺れはハルケギニア中で起きていました。
 そんなことを知らない魔法学院の先生たちは、授業そっちのけで謎の大穴を調査しなければならないと決定しました。
 調査隊には空気を送り込むための風メイジ、ギトー先生。土のスペシャリストであるシュヴルーズ先生。万一変な怪物がいたとき戦うためのコルベール先生が選ばれました。混乱していたこともあってそれが決まったのは日も沈み切ったころ、この暗さでは危ないということで、調査は翌日に持ち越されました。

 その間、使い魔が召喚できなかった少女はほっとかれました。なんせ未曽有の事件です。大貴族とは言え小娘一人にかまっている暇はありません。
 ルイズは仕方なく部屋にこもり、シーツにくるまって色々と考えごとをして、やがて眠りにおちました。





*****





 翌朝、絶好の探索日和です。大穴の淵にたくさんの先生が集まり三人の探検隊を見送ります。
 授業は中止になったので、その様子を見物している生徒もたくさんいました。ルイズもその中の一人です。
 みんなが見守る中、調査隊はフライを唱えます。いざ穴に飛び降りようとした瞬間、信じられないことがおきました。
 大穴から人間が飛び出してきたのです。

「っはー、あぶねーあぶねー」

 それは男でした。一同は誰一人その事実を疑えません。なぜなら、彼は裸だったのです。
 大多数の生徒は美術の時間に習うロマリア彫刻を連想していました。彼は素晴らしく均整のとれた体をしていたのです。隆起しすぎることのない筋肉、絶妙なバランスの肢体、若干背は低いものの人類として非の打ちどころがない完全体です。それでいて顔立ちはおさなく、ハルケギニアには珍しい黒髪の持ち主です。赤髪の女子生徒なんかは思わずじゅるりと舌なめずりしてしまいました。
 彼はきょろきょろと辺りを見まわし、それから自分が裸であることに気づき、慌てて局所を隠しました。それから、その体ににつかわしくない少年らしい声で弱々しく助けを求めます。

「る、るいずぅ~」

 これに驚いたのはヴァリエールさん家のルイズちゃんです。
 穴から飛び出た裸のマッチョマンが自分を呼んでいる、それも明らかに彼女のことを知った様子で。周囲の視線も彼女に突き刺さります。頭の良いコルベール先生は「彼はひょっとしてミス・ヴァリエールの使い魔なのでは?」と凄まじい直感を発揮します。
 この日、彼女はかけがえのないパートナー、使い魔を得ました。





*****





 ムキムキ男は平賀才人と名乗りました。日々筋トレをしまくっているむさい男です。
 でも、彼は平民ながらも凄まじい男だと、一緒に過ごしていくうちルイズは知りました。

 まず、シュヴルーズ先生の授業です。
 ルイズが指名されると、例の如く爆発を起こしてしまいました。
 しかし、才人は爆発の瞬間小石を握りしめ、教室に一切被害を出しませんでした。それどころか予備の小石を全力で握りしめ、鉄の『錬筋』すら成功させます。極限まで圧縮することで原子核と電子がなんちゃらかんちゃらトンネル効果でなんやかんやとルイズにはさっぱりわからないことを言っていました。

 次に、彼は洗濯が苦手です。なんせ筋肉のカタマリみたいな男ですから、微細な作業は苦手としています。ビリビリビリビリ何枚もルイズの高い制服を破いてしまいます。
 これにはルイズも怒りました。罰として鞭打ちをしたり、食事を抜いたり、犬のしつけを参考に色々試してみます。
 ですが、いずれも才人には通用しません。
 鞭打ちしても筋肉の鎧が跳ね返します。終いには鞭のほうが壊れてしまいました。爆発魔法でやっつけようにも目くらましにしかなりません。
 食事を抜いても近くの森に行ってシカやイノシシ、ひどいときにはオオカミやクマを狩ってきて食べました。「筋肉を維持するためにはタンパク質が必要だ」とルイズにはよくわからないことを言いながらもっしゃもっしゃワイルドに平らげていきます。彼にかかっては平民の戦士五人分と言われるオーク鬼すら赤子のようなものでした。
 ついでに言えば、「ルイズももっと食べないと」とわっしわっしとパワフルに少女の頭を撫でます。そのたび彼女は頭が握りつぶされないか、気が気ではありません。もっと言えば撫でられた直後は少しだけ世界が大きく見えます。平民だとか貴族だとかそんなチャチなものは気にしなくなりつつありました。

 さらに、彼はとてつもなく強いです。
 ルイズに対してだけでなく、彼はギーシュやマリコルヌなど他の貴族に対しても異常なほどなれなれしい男でした。
 その気安さが色々と問題を引き起こし、ギーシュはある日才人に決闘をふっかけました。
 結果は言うまでもありません。七体のワルキューレは青銅のソフトボールになってしまいました。
 それがキュルケの琴線に触れ、フレイムに拉致されかけたこともあります。ですが、サラマンダーの力をもってしても才人を引きずることはかなわず、逆にたかいたか~いと持ち上げられてしまいました。虎のように大きなフレイムは重さも相応で、とても軽々ともち上げられるものではありません。後になってルイズが聞いたところ、才人は身長百七十サントくらいのくせして、体重は五百リーヴル(約二百三十キロ)ほどあるそうです。凄まじい圧縮筋肉です。
 学院にフーケがやってきたときもパンチ一発でゴーレムを粉砕しました。フーケの正体がミス・ロングビルであることにルイズは驚きました。だけど、それをすんなり逃がした才人にはより驚きました。彼は「だってテファが……」とごにょごにょ言っていましたが、マッチョマンがそんな女々しく言い訳しても気持ち悪いだけでした。

 最後に、なんでこんなことを知っているんだということも知っています。
 彼はルイズが虚無の担い手であることを見抜いたばかりか、アンリエッタ姫がウェールズ皇太子に惚れているやら、アンドバリの指輪がどうたらこうたら、変なことまで知っていました。
 それでいてハルケギニアの常識みたいなところには疎く、それがまた変なところです。
 キュルケはギャップ萌えと言っていましたが、なんだか違うような気がします。


 ある虚無の曜日、ガリアからの留学生であるシャルロットに才人はお呼ばれしました。当然ご主人様であるルイズもついていきます。
 行先はなんとガリアの首都リュティス、それもヴェルサルテイル宮殿はグラン・トロワでした。これにはルイズも仰天しかけましたが、よくよく考えると才人の筋肉の方が非常識だと思い、落ち着いてジョゼフ王にあいさつしました。
 彼はそれをスルーして、才人に、親しげに声をかけました。

「久しいなサイト! 見た目も変わっておらん、おまえは本当に時間を超えたのか!!」
「ジョゼフさんお久しぶりです。シャルルさんは元気ですか?」
「それはもう、元気だとも。今日の政務が終われば駆けつける予定だ。すべておまえのおかげだ!」

 ガリア王ジョゼフは才人と肩を組んでがっはっはと大笑いします。
 この世ならざる光景でした。ルイズはもはや疑問しか浮かびません。その様子を見かねてか、才人はぽつぽつと説明しました。



 実は以前違うルイズに召喚されたこと、戦争や陰謀が絶えない世界だったこと。そして、ガリア王家に起きた悲劇。
 違うジョゼフと相対し、そのことを知った才人は我慢できなかった。もっと違う選択肢があっただろう。やりなおせなかったのかと。
 それに対してジョゼフは静かに首を振るだけでした。
 間違っている。その思いが膨らみ、才人は思いつきました。



 過去に遡ればいい、と。



 どうすれば昔に、それも物理的に戻れるか。才人はハルケギニアに来る前、なにかの本で読んだ内容を覚えていました。
 すなわち、光の速度を超えれば過去に戻れると。
 あとは非常にシンプルな話、彼はただひたすら走っただけです。それが凄まじく速く、光すら超越しました。たったそれだけの話。途中足が地面につかなくなり、成層圏付近を光速で飛び回ったのはほんのお茶目。

 三年前に戻り、父王が崩御する直前のジョゼフに才人は会うことができました。そして、これから先なにが起きるか、つたない言葉で懸命に説明しました。
 最初ジョゼフは不審者の言葉だと取り合いません。それどころか衛兵も呼びました。まぁ、才人は光速に至る過程で服が燃え尽き、全裸だったので仕方ありません。それらはすべて才人が筋肉でねじ伏せました。それでもジョゼフは全裸のマッチョマンの言うことなんて信じません。
 ならばと、才人はジョゼフに虚無の習得方法を教えました。ジョゼフがそれにしたがって習得した魔法は『記録』、それをもって才人の瞳に残った記憶を読み取ったのです。
 結果、彼は才人の言葉を信じました。そして弟のシャルルを問い詰め、兄弟はわかりあえたのです。

 さて、感動的なシーンでしたが才人は三年後に帰らないといけません。別に三年たてば元通りだし、残って良い気もしたけれど、なんとなく帰らないといけない気分になったのです。
 どうすればいいか悩みます。うんうん唸って考えます。そして一つの解決策を思いつきました。



 逆回転すればいいんじゃね、と。



 才人はガリア兄弟に見送られ、さっきとは逆方向に走り出します。ぎゅんぎゅん加速して、ついには時を超えました。
 この世の法則を超越し、才人は無事三年後に帰ることができました。ルイズが召喚前夜、そして召喚直前に見た光は才人が走る姿だったのです。
 ところが、完全無欠に思われたこのプラン。少しばかり計算ミスがありました。走行距離が足りないせいで時間が戻り切らなかったのです。
 それどころか入射角を間違えたせいで魔法学院の敷地に大穴を開けてしまいました。これには才人もびっくりです。
 大穴の深さはおおよそ八百メイルにも達します。スカイツリーより深く、光も届かない地の底で、才人はこれまた仰天すべきものを見ます。光が届かないと言いましたが、視界には困りません。才人ほどの筋肉にもなると発光することもできるのです。
 それはさておき、風石の大鉱脈です。
 才人は風石というものを直接見たことがなかったせいで「綺麗な石があるなぁ」という感想しかありませんでした。ただ、それがぶるぶる震えて今にも暴発しそうなのが素人目にもわかります。
 自分が考えなしに着地したからだなと反省した才人は、とりあえずこれをなんとかすることにしました。
 と言っても作戦は至ってシンプルです。
 握りつぶす。ただその一言で説明できます。

 こうして人間掘削機になった才人は風石を圧縮し、延々と続く大鉱脈をすべて封印してしまいます。それが終わるころにはすでに日も暮れていて、仕方ないから才人は大穴の底で眠ることにしました。
 翌日、寝坊したと思い込んで飛び起きた才人が勢い余って飛び出してきたというのが、召喚の儀式の真相です。

「……じゃあ、わたしアンタを召喚してないじゃない」
「そこらへんは別にいいんじゃない?」
「なんで前のルーンが消えてるのよ」
「タイムパラドックスとか、そんな感じだと思う」

 色々な疑問はとけましたが、イマイチ要領を得ない使い魔の言葉にルイズはため息しか出てきません。

「こまかいことはよい! 今宵は宴をひらくとしよう!!」

 ガリア王の言葉が真理をついているような気がして、ルイズはもう一度ため息をつきました。



 それから、才人はトリステインからガリアに出向し、そこからさらにエルフとの外交官に任命されるという複雑なことになりました。彼はサハラに赴き、エルフと一緒に効率的な筋トレグッズの開発に精を出します。
 その筋トレグッズのおかげで、ヴァリエール家の次女は見る見る健康体になっていったり、長女が結婚出来たりともう筋肉様様です。
 ハルケギニア全土で『始祖ブリミル』と『大いなる意思』に変わり『大いなる筋肉』『我らの筋肉』として才人が崇められるのはまた別のお話。
 ロマリアが『光の国』改め『筋肉の国』になるのももっと別のお話。

 とにかく、平賀才人の筋肉のおかげで、一人の苦労人をのぞいて、異世界には平和がもたらされました。



 めでたしめでたし。



[31089] 【一発ネタ】 もし平賀才人が次元を超越する筋肉をもっていたら 【ゼロ魔才人魔改造】
Name: 義雄◆285086aa ID:b6606328
Date: 2012/01/06 22:03
このお話はフィクションでファンタジーでおバカです。
実在する人物、団体、物理法則、異世界、アーノルド・シュワルツェネッガー、筋肉とはあんまり関係ありません。
ちょいやっつけですが、前日談です。アレだったら同作者のチラ裏一発ネタやら空に挑むやらトリスタニア納涼祭やらも読んでいただければ幸いです。
※このSSは小説家になろう様にも投稿しています。










「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!」

 そう言って少女は杖を一振り。すると、いきなり爆発が起きてあたりは土煙に覆われてしまいました。
 ここはトリステイン魔法学院、二年生の進級をかけた使い魔召喚の儀式が行われています。あたりに散らばる色とりどりの頭髪をもつ生徒たちは、呼び出したばかりのパートナーと戯れています。
 桃髪の少女は、普段失敗ばかりしているので、監督のコルベール先生の配慮で順番を一番最後にされていました。時間がかかるという判断です。その考えは正しくて、いつも授業でやるように少女は失敗ばかり繰り返しています。同級生も慣れたもので、彼女の爆発を揶揄するよりもこれから共に過ごす使い魔にばかりかまっています。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!」

 もう十回は繰り返したでしょうか。再び爆風が視界を遮ります。毎度毎度風で砂塵を吹き飛ばすコルベール先生は、異変に気づきました。
 銀のゲートが宙に浮かんでいたのです。

「わぁ……」

 ルイズは心底嬉しそうな顔をしています。それもそのはず、彼女はこの瞬間、生まれてはじめて魔法に成功したのですから。
 浮かんでいるゲートは二十サントほどの楕円形です。出てくるのは小鳥かな、それとも学院長のモート・ソグニルみたいなネズミかな。カエルはイヤだなぁ。胸は期待で膨らむ一方です。
 彼女のわくわくに答えるように、ゲートからなにかが出てきました。

「……へ?」

 肌色の、少し細長い物体です。それが五本。
 最初ルイズはなんなのかまったくわかりませんでした。それがもうワンセット、合計十本になったときようやく理解が追い付きます。
 指です。それも人間か亜人の指です。
 それはゲートの両端に指をかけて、ミシミシと銀鏡をひろげはじめたのです。

「あ、あわわわわ……」

 こいつはどえらい事態です。
 サモン・サーヴァントのゲートは、ふつう召喚するものの大きさにみあったものが出てきます。それを無理やり押し広げるなんて、始祖ブリミルに喧嘩をうるようなものです。
 ルイズはもうがたがた震えるしかできません。使い魔と交流を深めていた生徒もどうしようどうしようと慌てふためいています。ガリアからの留学生であるタバサと、コルベール先生だけが杖を向けつつ身構えています。
 二十サントほどのゲートが広がり、一メイル、二メイルになろうかというころ、変化が起きました。なにかが悠然と歩み出てきたのです。
 それは黒髪の少年でした。青と白のパーカーにジーンズ、ナップサック。日本でならどこででも見かけることができる、いたって平凡な男の子です。
 ですがここはハルケギニアのトリステイン。黒髪も珍しければ服装も見たことがないものです。
 年若い少年少女には地獄の使者のようにしか見えません。
 そして、それは大体あっていました。





*****





 平賀才人と名乗った平民は凄まじいという形容以外思いつかない、とびっきりな男でした。
 ですが、そこらへんは大体同じなので省きます。
 大きな差異が現れたのは、アンリエッタ姫の依頼を請けてからのことです。 
 馬よりグリフォンよりも才人が走った方が速いので、椅子を三脚抱えてそこに三人を座らせて走ったり、アルビオンくらいの高さならジャンプで届くけどと言ってワルドを唖然とさせたり、決闘しようとしたワルドをギーシュが全力で引き留めたり、空賊船を軽く沈めそうになったり、紆余曲折ありました。
 そして舞台はアルビオン、ワルドとルイズの結婚式にうつります。
 描写もへったくれもありませんが、ワルドはレコン・キスタのスパイだったのです。
 えらく貧弱なスパイもいるんだな、と才人に思われているとはつゆ知らず、ワルドは高々と笑います。

「偏在、ね」
「風は偏在する! 風を最強たらしめているこのスクウェアスペルを破る手段など、貴様にはあるまいガンダールヴ!」
「あるよ」

 自信満々に叫んだワルドの言葉を、才人は一瞬で返しました。
 決闘の時も攻撃する前にびんた一発で沈められたので仕方ないのですが、分身しても攻撃が通らなければ意味がないということをワルドは華麗に見落としています。

「俺の世界にはさ、『シュレディンガーの猫』っていう思考実験があるんだ」

 ねこ、にゃーとルイズは思いました。ワルドもなにが言いたいのかわからず、杖を構えたまま続きを待ちます。ここらへんトリステイン貴族はよく教育されています。

「それの派生実験である『シュワルツェネッガーの筋肉』」

 また筋肉か。奇しくも敵味方の考えが一致します。才人はそんなこと気にせず言葉を紡いでいきます。しかし、少しだけ様子が変でした。震えていたのです。

「筋肉は力をいれれば高速で振動する」

 力をこめすぎれば筋肉がぶるぶる震えるだなんて、貴族でなくとも知っていることです。みなからすればそれがどうしたという気分です。才人の震えはより速く、激しくなっていきます。

「それは量子論的には、二重存在なのではないかと。そう考察したシュワルツェネッガー筋肉博士っていう偉人がいるんだ」

 あまりに素早く震えているからか、不気味な地鳴りのような音が才人から響いてきます。ワルドどころか王党派のみなさんもドン引きです。
 ルイズは至って平然としていて、そんな自分に気づいて少し自己嫌悪を覚えました。

『そして、それは正しかった。あんたら風に言うんなら……』

 子爵は目を見張りました。今まで震えていたマッチョマンが、二人になったのです。もはやファンタジーではなくホラーです。

『筋肉は遍在する』

 二人が四人になり、それが八人になり、教会の中の筋肉率が際限なく上昇していきます。
 暑苦しく、地獄というものが存在するならきっとここでしょう。ハルケギニアにはマッチョが少ないため、視覚的ダメージは余計にひどいです。
 子爵は膝ががくがく震えているのを自覚しました。
 
『鍛え抜かれた筋肉は並行世界すら超越する』
「……ふぅ」

 才人が狭い教会内で百人を超えたあたりで、ワルド子爵は気絶してしまいました。
 ウェールズ皇太子含め、みんな意識を落としたのはほんのご愛嬌でしょう。
 唯一無事だったルイズは自己嫌悪を通り越して、病院に通うことを検討しだしました。





*****





 さて教会での出来事はともかく、ニューカッスル城の前で五万もの兵士が待機しているのに変わりはありません。
 当初、才人はこの世界のことだし、筋トレしたいしとスルーを決め込んでいましたが、遍在筋肉である百一匹キンちゃんが身体を動かしたいと主張したので、軽く蹴散らしに行きました。
 押し寄せる百一体の筋肉の前に五万程度、物の数ではありません。千切っては投げ、と言うとリアルに千切れるのでグロ映像ですがそこらへんは手加減して、まるでお手玉のように、あるいは大玉ころがしのように、どんどん兵隊たちを片づけていきます。ある才人は二人でタッグを組んでジャイアント・スウィングをかまして軍を蹴散らし、ある才人はダブルラリアットでぐるぐる回転しながら蹂躙していき、ある才人はシンプルに走り抜けるだけで人を跳ね飛ばしていきます。
 空中にあるロイヤル・ソヴリン号あらためレキシントン号すら走り高跳びの要領で飛び乗り、動力なんてわからないから適当にパンチ一発で堕としました。蚊トンボのようなやわさです。
 地獄のような光景を王党派は見守ることしかできませんでした。一緒に突撃しようものならまとめてやられかねなかったのです。才人たちが偉そうな貴族っぽい人をハンマー投げの応用でお城に投げ込んでくれたので、それを受け止めることに終始していました。
 その中には運よく首謀者であるクロムウェルもいました。少し情けない形ではありますが、レコン・キスタはここで滅亡したのです。

 クロムウェルの話で黒幕はガリアであるということがわかりました。
 その話は狭い室内で、百一体の才人にムキムキと囲まれながら行ったので、偽証などできるはずもありません。想像するだけできつい光景です。
 傀儡とはいえ巨大組織のトップに立った男。アンドバリの指輪を用いて才人を洗脳しようとしましたが、一切意味はありませんでした。むしろ血行が少し良くなった気がすると喜ぶだけです。健全な精神は健全な肉体に宿ります。宇宙レベルの健全な肉体を有する才人に精神操作なんて通じるわけありません。
 ついでにシェフィールドという黒髪美女も捕らえられてしまいましたが、本筋には関係ないのでそこらへんは省略します。

 黒幕を知ったみなはどうしようかと悩みます。
 なんせガリアはハルケギニア一の魔法大国です。レコン・キスタにひっかきまわされたアルビオンでは対抗できません。そもそもしらばっくれるかもしれませんし、真っ向から叩き潰される可能性も否定できません。
 みんなうんうん悩みます。ルイズも才人も頭をひねります。
 ふと、才人が本人の中では名案を出します。



 ガリア王ジョゼフに筋トレさせればいい、と。



 先ほども言いましたが、健全な精神は健全な肉体に宿ります。
 ジョゼフに筋トレさせれば他国を制圧しようなんてバカな考えは浮かばないだろうと、才人はこのアイディアを自画自賛します。これがたったひとつの冴えたやりかただと言わんばかりです。むしろ周りは醒めた目で見ています。
 結論が出ればあとは行動あるのみです。制止の声も聴かず、才人はニューカッスル城を飛び出しました。百人の才人はもちろん残したままです。
 土地勘がないので当然迷子になります。ウェストウッド村というところに迷い込みますが、そこで偶然少女と出会いました。耳が長く、金髪も美しく、胸もありえないほど大きいティファニアという少女でしたが、才人には使命があります。ガリアというか、大陸の西端に向かう方法だけ聞いてさっさとお暇します。
 が、偶然というのはすごいことです。いざ出ようとした才人の前に、なんとフーケが現れたのです。彼女は咄嗟に二人の間に割り込みました。
 フーケはどうすればいいと、ティファニアを背後にかばい緊張しまくりました。しかし才人は、「あ、お久しぶりです。また今度」とだけ言い残して走り去っていきました。後にはぺたんとしりもちをついたフーケあらためマチルダ姉さんが残されるのみでした。

 アルビオン大陸の西の端、才人は一人たたずんでいました。ぐっと膝を折り曲げ、大地に力を伝え、跳躍。要は立ち幅跳びです。それだけでガリア王国の首都、リュティスまであっという間についてしまいました。世界記録なんて目じゃありません。
 隕石のようなスピードでヴェルサルテイル宮殿のグラン・トロワに衝突してしまいます。大理石程度では筋肉の衝突に耐えきれるはずもなく、グラン・トロワは跡形もなく崩壊してしまいます。
 才人は「ちょっと勢いをつけすぎたかなぁ」と反省しました。多様な筋肉が存在する現代社会の建造物と、ハルケギニアの昔ながらの工法では全く耐久力が違うのです。反省していてもはじまらないのでガリア王ジョゼフを探します。青髪を目印にがんばって探します。三十分ほどして、ようやくお目当ての人物を見つけました。

「……おまえは、だれだ」

 なんと、ジョゼフ王はがれきの下敷きになっていたのです。
 自慢の青い髪は血で濡れ、半分赤くなっています。そのせいで才人は最初わかりませんでした。
 なにはともあれ怪我を放置するわけにもいきません。応急処置としてジョゼフの筋肉に語りかけて傷口をふさぎます。
 傷口をふさいでも失われた血液、体力が元に戻るわけではありません。乗っかっているがれきを軽々と撤去してジョゼフを柔らかな芝生の上で休ませます。ついでにがれきを粉砕して他に下敷きになっている人の救助にとりかかりました。
 ジョゼフからすれば、通りすがりの得体のしれない男が人命救助に励んでいるようにしか見えません。才人が原因で崩壊したなど、想像することもできません。五メイルもある大岩を片手で粉砕していく姿を見て、彼はまさかブリミルの使者ではないかと考えます。ブリミルが、罪深い自分をさばくために遣わした使者であると。
 いきなり建物が崩壊したこと、杖もつかわず重いものを粉々にしていくところ、手をあてただけで傷を癒したところ、色々とつじつまがあいます。ジョゼフの中では、もう才人は始祖の使いでした。

「余を断罪しに来たのか……なら、昔語りを聴いてもらおうか」
「?」

 何か言い出したぞこのおっさんと、作業を続けながら才人はジョゼフの言葉に耳を傾けます。
 がれきの撤去が大体終わったころ、ジョゼフ王の話は終わりました。

「そんな……兄弟のすれ違いとか哀しすぎる」
「……シャルルのために涙してくれるか。始祖の使いは慈悲深いな」

 才人はぼろぼろ泣いています、号泣です、滝のような涙です。ほっとけばしぼんでしまうんじゃないかと心配してしまうくらい泣いています。
 その姿を見てジョゼフは胸をうたれました。今まで失っていた感情が少し、ほんの少しだけ心に灯ったのです。 

「決めた」
「なにをだ?」
「俺、ちょっと時間遡ってきます」
「は?」

 その日、ハルケギニアの空に光の河が現れました。
 アルビオンに百体の平賀才人を残して、ハルケギニアに真の平和をもたらすため、平賀才人は時をさかのぼる―――。



もし平賀才人が色々と超越する筋肉をもっていたら、につづく


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