2010年08月22日

『御利益』(その三)

『御利益』(その三)

如月マヤ

 エビスとダイコクが忘れていたのも無理はない。加門根村(かもねむら)のトミ婆さんが亡くなってからというもの、ここ数十年、そこからエビスダイコクに手を合わせる者がいなかったからだ。巨大スクリーンは、トミ婆さんが作ったちっぽけな祠に通じている。神社と名前がついてはいるが、当然神社庁の記録にも残っていない。この神社の名は……。
「なになに? と、び、か」
 違う。「び」じゃなくて「み」。……おや、青山文彦君、どうしてここに? 大学院をやめた後、塾で講師のアルバイトをしていたんじゃなかったっけ?
「と、み、か?」
 そうそう。トミ婆さんのマイ神社、その名も戸美加門……。
「かもん。ああ! 富、カモン!」
 エビスとダイコクは同時にひっくり返った。
「違うよぉ」
「カモンって英語だしな」
 そう突っ込んだものの、エビスは、戸美加門根神社(とみかもねじんじゃ)と書かれた額がぼろぼろで、ほとんど文字が読み取れないのに気がついて肩を落とした。それに、加門根という字(あざな)も今はもう残っていないのだ。
 その昔、加門根村は貧しい農村だった。トミ婆さんは、皆が仲良く助け合い、村の暮らし向きが良くなるようにと願いをこめて、石を積んで小さな祠を建てた。婆さんは、人の形に見えなくもない石を二つ拾ってきて、恵比寿と大黒天に見立てて祠に収めたのだった。祠に命名をしてくれたのは、顔見知りの坊さんだ。この村には寺社がないので、葬式があると隣村から住職を呼ぶのだった。すり切れた袈裟で身繕いした坊さんは、精進落としの帰り道、祠に戸美加門根神社の額を奉納すると、小粒な神社に向かって恭しく般若心経を上げた。その後ろで、トミ婆さんがありがたそうに「なんまんだぶなんまんだぶ」と唱える。坊主が神社に命名して般若心経を上げ、般若心経なのに婆さんは南無阿弥陀仏と手を合わせる光景……。珍妙でくらくらする。
 しかし神仏たちは、こういう隔たりのない心を喜ぶ。形式が大切なこともあるが、絶対条件ではない。神仏にとっての絶対条件は、人の心の持ち方なのである。心がなければ形は意味を成さないのだ。人間のおおらかで素朴な心は、人にとっては徳となり、それが神仏には、人間のために働く活力源となる。それゆえエビスダイコクの元では、ちっぽけな祠が、いや、祠はなくともトミ婆さんと坊さんのその思いが、巨大スクリーンとなってエビスダイコクの注目を集めることになったのだ。
 けれど、神仏に通じるそれだけの徳がありながら、それは目に見えず、手で触れるものでもない。耕しても耕しても口を糊するだけの生活で村人の気持ちはすさんでいたから、トミ婆さんの思いに同調する者はいなかった。皆の思いを一つにしたところで何の得がある、それで腹がふくれるものか、という村人の言い分ももっともだったが、それでもトミ婆さんは、ほっこりした笑顔で祠に手を合わせ続けた。
「心の中で思っていてもいいんだけんど。でも、こうやって手を合わせる場所があると、心が落ち着くだね。今日も一日、おかげさまで過ごせましたで。ありがたいことありがたいこと、なんまんだぶなんまんだぶ」
 トミ婆さん、昔話に出てくるような、しみじみといい婆さんである。しかしたまには、神社と名のついた祠に柏手を打ってやっちゃあくれまいか? まあ、それはともかく。トミ婆さんのお徳は、婆さんの死後もたっぷり残っている。トミ婆さんのお徳の恩恵に与り、それによって新たな徳を積む者が現れるまで、手つかずだ。戸美加門根神社にやってきた青山君、果たしてその人物となれるのか?
 
 巨大スクリーンの中で、青山君は感心したように、しきりと頷いている。
「なるほど、こいつは縁起がよさそうだ。富カモンとは。なんてストレートな言霊なんだろう」
「言霊ってね、君……。まあ、いいけどさ」
 エビスは、どう突っ込んでいいものやら、いささか迷う。
「で、この人いったい誰?」
 エビスの問いかけに毘沙門天が答えようとしたとき、ダイコクがエビスの衣の端をくいくいと引っ張った。ダイコクの目は、巨大スクリーンに映った青山君に釘づけになっている。
「ねぇ、エビス君。あれってなんだろねぇ……」
 青山君は頭の上に、ぴんとまっすぐ大きな羽飾りをつけている。
「かぶいちゃってるんじゃないの? 江戸時代にもいたけどさ。かぶきものだよ」
 そう言ったエビスは、しかし、ごくりとつばを飲み込んだ。
「あの羽……。頭のてっぺんから生えてるのかな?」
「それなら僕たち、こんなに驚かないよねぇ」
 なんと、青山君の脳天から超極太の矢が深々と突き刺さり、身体を串刺しに貫いているのであった。どう見ても射駒姐さんの仕業である。
「あの矢って、人間には見えないんだよねぇ?」
「そういう意味じゃ、人間って幸せかもな」
「それにしても、いやだなぁこの人、ずいぶんとげとげしてるよねぇ」
「曖昧も困るけどさ、とげとげしてるやつは始末が悪いよな。あれじゃあ、周りの人間もたまったもんじゃないよ」
「なんでも他人のせいにするから、運も逃がすんだよねぇ。それが面白くないから、ますますとげとげするんじゃなぁい?」 
「苛々してる暇があったら、その分、気持ちを落ち着けるなり切り換えるなり、すればいいのにな」
「そういう人なら、なにも、こんな所まで来て拝まなくたっていいのにねぇ」
「頼まれなくたって、俺たち神仏は応援してるもんなのにな」
 エビスとダイコクはかしましい。
「布袋オヤジさんに任せればいいのにぃ。僕たち、難しい人は苦手なんだもぉん」
「そうそう。布袋オヤジに頼んでくれないかなあ」
 やっと、エビスとダイコクは渋面の毘沙門天に話を振った。
「ううぬ。エビス殿、ダイコク殿、文句が多いぞ! 布袋殿は忙しいのだ。えり好みせずに仕事を引き受けられよ!」
「だってぇ」
「布袋オヤジの方がうまくきめてくれるのにさ」
 エビスダイコクはいつまでも、ぶちぶち文句を言って腰を上げない。これではまるっきり伸夫みたいである。あ、すっかり忘れていたが、伸夫……。伸夫こそ、布袋オヤジに面倒を見てもらえばいいのだ。江川家の神棚に、布袋像ではなく恵比寿と大黒天の像が祀られているのは、いったい何の因果であろう……と、エビスダイコクが思ったかどうかはさておき。布袋のオヤジは今日も、相棒のハーレーを駆って自分の持ち場を巡回しているのだろう。貫禄のお腹周りにスキンヘッド、腕のタトゥーは青海波に宝づくしである。布袋オヤジは、おめでたさとはひと味もふた味も違った、苦み走った魅力を醸し出しているのだった。そんな布袋オヤジは、仕事のしかたも渋くてかっこいい。仁義に厚いのが布袋流で、わがままな人間の自分勝手な願いを、本人の面子まで考えておさめてくれる。自己都合で優柔不断に甘んじている伸夫も、言ってみれば、わがままで自分勝手な人間の一人である。だからエビスダイコクにしてみれば、できれば伸夫のことは布袋のオヤジに丸投げしたい。

「それに、この若者は、エビス殿とダイコク殿にご縁があるのだぞ」
 と、毘沙門天は続けた。
「それゆえ弁財天殿は、急所を外したそうなのだ」
「えええっ! そそそそ、そぉなのぉ?」
「急所も何も……。串刺しなのに?」
 エビスもダイコクも、言葉が続かない。いったいどうやって、あんな極太の矢を脳天から突き刺したのか? そもそも、あんな太い矢はありなのか? なんでそんなものを持っていたのだろうか? 考えるだけで射駒姐さんが怖ろしい。というか、これで急所を外したという、姐さんの論理がわからない。そこがいちばん怖ろしい。
 実のところ、射駒姐さんは、青山君がエビスダイコクに縁があるのだとは言わなかった。射駒姐さんは青山君をあっさり片づけると、「こいつはエビスダイコクの獲物だよ」と言い捨てて、面白くなさそうに、また酒瓶をかついで出かけてしまったのだった。獲物とは、あまりにもあんまりな。姐さん、何かほかの言葉は……使わないか。そうだよね。射駒姐さんだもんね。なので毘沙門天は、そのことはエビスダイコクに言わないでおいた。どうやら毘沙門天は、ここの個性的な面々をとりまとめているうちに、苦労性という名の一種の思いやりを身につけてしまったらしい。
「この若者はなあ、青山文彦というのだが、射駒神社の泉を濁してしまったのだ」
 毘沙門天が苦々しげな顔をして言った。
「ひええっ!!」
 エビスとダイコクは息を飲んで固まった。エビスは大魚をぎゅっと抱きしめたし、ダイコクのお腹はぷるるるる。毘沙門天は腕組みをして頷いた。
「弁財天殿に射抜かれるのも、もっともであろう」
 エビスとダイコクは、こくこく何度も頷いて同意した。エビスもダイコクも、そのことだけは納得できる。
 
(続く)
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2010年06月12日

『御利益』(その二)

『御利益』(その二)

  如月マヤ

 エビスとダイコクが怖れているのは、射駒神社(いこまじんじゃ)に住まう弁財天のことだ。この射駒弁天、福の神は福の神なのだが、ここだけの話、少々性格に難がある。
「よよよよ、よその弁天さんはみんな、やさしいお姉さんばっかりなのにねぇ」
 ダイコクは頬を引きつらせながらも、声をしぼり出した。エビスも、瞳孔が開いたままの表情でこくこく頷き、同意する。エビスとダイコクは、弱々しく声を揃えた。
「なんで射駒姐さんは、あんななんだろねぇー」
 これには毘沙門天も深く頷く。一瞬、ほかの弁財天たちの、たおやかないい匂いが思い浮かんだが、慌てて咳払いをしてごまかした。しかし、エビスダイコクにそれを気取られる心配はなかった。エビスとダイコクの頭の中では、射駒姐さんの暴走ぶりが反芻されており、毘沙門天の鼻の下がどのくらい伸びたかなど、気にかける余裕はないのだった。
 そもそも射駒神社の縁起によると……。弁財天に懸想した一人の行者が、術を使い、自身を馬に変えて近づこうとしたのだが、それを見破った弁財天は琵琶を弓矢に持ちかえて、行者の邪心を射抜いてこれを退けた。自らを恥じた行者はその後、心を入れかえ修行を積むと、立派に衆生を導いたのだった。それにちなんで、ここの弁財天は射駒弁天と呼ばれる。「射駒の弁天様は悪縁を退ける」ことから「良縁を結ぶ」に転じ、厄除け幸運祈願の信仰を集めるようになったのだった。
 それはそうと、この縁起、どこぞの欧州神話と似ているが……。まあ、伝説とはそんなものである。古代に本当に起こったことなど、伝説に置きかえられているうちに、うやむやになっていくものだ。ここの弁財天様には、清らかで鋭く、かつ重厚な力がある。昔々それを観じた人間たちは、鋭く発せられるそのクリアな力強さを、放たれた矢にたとえて感じ取っていた。だが、時代が下るにつれて、そのたとえから、民衆受けする話が形作られていったのだ。
 だから射駒姐さんは、参拝客がこの由来を知って「へえー、そうなんだー」と納得するたびにご立腹だ。
「人間どもときたら、わかっちゃいないったらないよ! ここだよ、ここ!『邪心を射抜く』とあるだろう! それと、はい、ここっ!『行者はその後、心を入れかえ』ました! これがわからなくて、それでアンタ、いったいぜんたいどうするって言うのさ!」
 そうなのだ。ここの弁財天様には、助平心で目が曇った人間を喝破して、正しい道に戻す力がある。射駒伝説、当たらずと言えども遠からず……か? 射駒姐さんの放つ一本の矢は、人間の邪心を射抜いて魔を祓うと同時に、真の心のありかを的にして突き刺さり、その人本来の生き方を指し示す。まったくもって、芸に無駄がない。鮮やか。よっ、射駒屋! さすがは芸能の神様でもある。伸夫とは大違いだ。
 あ、そうそう。伸夫はやっと神棚の前を離れ、お寺のばあちゃんに生麩を売ったところだ。毎度どうもと頭を下げるつもりで、曖昧にへこへこと何度も頭を下に振っている。お寺のばあちゃんも律儀にまた、何度も振り返って伸夫に会釈するから、表の自動販売機にぶつかるところだった。ああ危ない。伸夫、しゃきっとせんかい、しゃきっと!
 
 で、射駒姐さんの話に戻る。射駒弁天が力を発揮するということは、人間たちは、己の邪に気づいて目が覚めるよう仕向けられるということだ。人間としては、たまったものではないかもしれない。その日も、こんなことがあった。
 一心に手を合わせる女性……。
「えっとぉ。今、気になっている人がいるんですけど。なんで彼のことが気になるのかなぁって、私、いろいろ瞑想とかやってみて、その人と私は、前世では結ばれなかった関係だとわかったんですね。彼の魂は本当は私と結ばれたいと強く願っているのに、それが叶わなくて苦しんでいるんです。実は彼、家庭がある人なんですね。だけど、彼の魂を救ってあげるのが、今生での私の使命なんですよね。だから、その使命を果たさないと、私もカルマが残って苦しむと思うんです。それだからぁ……」
 射駒姐さんが、すぱっと矢を放った。いつの間に矢をつがえていたのか、素早い。というか、話を最後まで聞いてない。せめて「わかりました」と、神様らしく頷いてから矢を射ればいいものの、おもむろに矢をつがえる間も取りはしない。あっさりすっぱり、それに何が起こったのか、さっぱりだ。
 たまたま居合わせたエビスとダイコクは、目をぱちくりした。これまた居合わせた毘沙門天は、驚愕を面に出さないよう、心の中で「平常心、平常心」と自分に言い聞かせている。エビスとダイコクは、「あああ、あのぅ……?」と、おそるおそる姐さんに声をかけた。
「ん? 要するに、その男と一発やりたいってことだろ。叶えてやるよ。何発だって、軽い軽い」
 ちょ、ちょっと姐さんてば……。いや、神様は単純明快なのである。えてして人間は、自分の欲求をうまく包み隠すために知恵をしぼるが、そうしているうちに、自分の本心がどこにあるのかわからなくなってくる。何が本物で何が偽りなのか、自分で自分の心を見わけることができなくなってしまうのだ。それを正すのが神様の努めというものだ。ただ、その正し方に神様それぞれの個性があって……。
 件の女性はどうやら、その後、相手を振り向かせることができて願いは叶うが、結局なんだかんだあって、とんだ代償を払うことになるようだ。本人の気づきによって、代償は大きくもなれば小さくもなる。そうなる前に心を磨いて、目の曇りが取れれば状況も変わるのだが。果たして?
 エビスが腕組みをして、うめく。
「俺もせっかちな方だけどさ。それにしてもこれじゃあ、身も蓋もないっていうか、人間にはわけわかんないっていうかさ。もっとも、神様の理屈って、人間にはわけわかんないみたいだけどな」
 ダイコクも同調する。
「そうだよぉ。姐さん、芸能の神様でしょ? 仕組むにしても、人間にわかるように、話にひねりを入れて救いを持たせるとかさぁ。ちっとばかり、人当たりを柔らかくしないとねぇ」
 そこでエビスダイコクは口をつぐんだ。姐さんが横目でこちらを見やったからだ。エビスダイコクはひくっとした。色気のせいじゃない。姐さんは弓に矢を二本つがえ、エビスダイコクにひたと狙いを定めている。すすすすす、素早い。「何かい? アタシの御利益にケチつけようってのかい」の前置きもなかった。殺気すら浮かばない目が怖い。
「ふふふふ、福の神がそんなことしちゃだめだよぉ。僕たち七福神でしょぉ? 数が減っちゃうよぉぉぉ!」
 ダイコクは必死で説得を試みる。エビスは「ひっ」と発したまま、固まってしまった。
「待たれよ!」
 と割って入ったのは、毘沙門天だ。ワンテンポ遅れてしまった。が、射駒弁天のスピードについていくのは至難の業だ。仕方がない。
「弁財天殿! ダイコク殿に一理ありますぞ。六歌仙はありだが、七福神でなければ日本語の語呂がよくない。ここはひとつ、我ら七福神のご縁に免じて……」
 またまた最後まで聞かずに、射駒姐さんはすいっと弓を下ろす。説得のポイントが違う気もするが、まあいい。エビスとダイコクは、へなへなとくずおれた。射駒姐さんはそれを横目で見やって、「ふん」と衣の襟を正すと、今度はちゃんと「アタシは忙しいんだよっ」と言い捨てて、ぷいっと出かけてしまった。酒瓶をかついでいたから、福禄寿と寿老人のところへ、憂さ晴らしに飲みに行くのだろう。こんな時の射駒弁天をなだめられるのは、人生の酸いも甘いもかみわけた年寄り連中にかぎるのだ。

「あの時は……って、あの時だけじゃないけど、ほんとに怖かったよねぇ」
 ダイコクはお腹をぶるっと震わせる。
「まさに、触らぬ神に祟りなしだよな。……って、俺が言ってどうする」
 エビスの突っ込みにも切れがない。
「弁財天殿には、人間でいた頃の記憶がまだ残っておるのだろう。それゆえ、あんななのだ。そのうちに、福の神らしく円くなって……くれるの……かも……」
 毘沙門天の語尾は曖昧。自信なさそう。伸夫の曖昧がうつったか? 白虎だけは、射駒弁天と聞いて、さきほどから嬉しそうだ。目がきらきらしている。射駒弁天は白虎とよく遊んでくれるのだ。射駒弁天が遠くまで放つ矢をくわえて戻ってくると、ごほうびに、天界のお菓子を食べさせてくれる。「ううぬ、簡単に手なずけられおって」と毘沙門天は面白くない顔をするが、実を言うと非常に助かっているのだった。がっちり武具をつけた格好で、白虎の気がすむまで一緒に走り回るのはしんどい。息が切れる。毘沙門天のイメージダウンもはなはだしい。それを見透かしているのかいないのか、射駒姐さんは白虎を可愛がり、毘沙門天が散歩のついでに立ち寄ると、いつも白虎を存分に遊ばせてくれるのだ。……あれ? 姐さん、ほんとはいいヒト?
「でででで、その姐さんが、僕たちに何の用なのぉ?」
 ダイコクが話を本題に戻した。まだ緊張している。エビスは姐さんの言いつけを忘れないように、メモを手にした。みんなひとまとまりで七福神のはずだが、このあたり、姐さんとの間になぜか序列ができている。毘沙門天は「もうじきわかる」と言ってから、あごひげを撫でて首をかしげた。
「しかし、そうは言ってもなあ。なにしろ、弁財天殿の矢で射抜かれたのだ。そう簡単に、エビス殿とダイコク殿につながれるとは思えん。いったいどこからご縁が結ばれるやら……」
 と、その時、エビスダイコクの住まいに轟音が響いた。天井から巨大スクリーンが下りてきたのである。同時に、もうもうと埃が舞い上がる。
「エビス殿、ダイコク殿、これはどうしたことだ! 神の住まいに埃とは、これはいったい!」
「わわわわ、忘れてたんだよぉ。だって、だって……」
 ダイコクはエビスに目配せした。互いに、「せーの」と声を揃える。
「これが下りてきたの、何十年ぶりなんだもぉーん!」

(続く)
posted by まやちんの友達 at 18:58 | Comment(0) | 「御利益」 | 更新情報をチェックする