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一体改革:税・社会保障 「中間層」重なる税負担

 政府・与党は6日の社会保障改革本部で、消費税率を14年に8%、15年に10%に引き上げることを柱とする税と社会保障の一体改革の素案を決めた。野田佳彦首相は11日に全野党に協議を申し入れ、年度内に消費増税法案の国会提出を目指す。ただ、自公両党は協議に応じない姿勢を明確にしており、法案成立は見通せない。また、国民の負担増は消費増税以外にも復興増税などが続き、家計が負担に耐えきれなければ消費が縮み、景気に冷や水を浴びせるリスクも抱える。

 ◇年収500万円世帯、年31万円増

 素案に盛り込まれた消費増税だけでなく、復興増税や、すでに決まっている所得税の控除縮小などが重なり、家計の負担増は今後、避けられない。政府は89年の消費税導入時や97年の5%への税率引き上げ時は、所得減税を先行させるなど、税制全体で負担増を抑え、景気への影響が及ばないよう配慮した。しかし、先進国最悪の財政事情を抱える今回は消費税以外で減税する余裕はなく、「消費増税では初の純増税」(財務省幹部)だ。

 政府は一体改革とは別に、東日本大震災の復興財源のうち約10兆円分を臨時増税で賄う方針。所得税を13年1月から25年間、2・1%増税し、地方税の個人住民税も14年6月から10年間、年1000円上乗せされる。既に、子ども手当導入にあわせて所得税の年少扶養控除が11年1月から廃止されているほか、今年6月からは住民税の同控除も打ち切りになる。13年1月からは給与所得控除に上限が設けられる。子ども手当(12年度から新手当に移行)も導入時に比べて、縮小が決まった。

 大和総研がこれらの負担増に加えて消費税が10%に引き上げられた場合の影響を試算したところ、夫婦と子供2人世帯で年収が国民平均に近い500万円の場合、実質可処分所得(収入から社会保険料や税負担を引いた額)は11年から31・4万円減少。このうち消費税の負担増は年16・8万円だ。野田首相は日本経済を支えてきた「分厚い中間層の復活」を掲げるが、負担の直撃は避けられない。

 年収1000万円なら消費増税で29万円、全体で70・8万円、同300万円でも消費増税10・7万円、全体で24・1万円の負担増となる。15年1月からは、所得税の最高税率が引き上げられ、相続税も増税される見通しで、富裕層の負担はさらに重くなる。

 消費に回せるお金が減れば、景気への影響が心配だ。第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストの試算では、最初の消費増税前の13年度は、駆け込み需要が実質国内総生産(GDP)を0・5%押し上げるものの、増税後は買い控えが生じ、14年度のGDPを1%圧迫。15年度で0・6%、16年度も0・3%程度GDPを押し下げる。内閣府の経済見通しでは、復興需要が本格化する12年度でも、実質GDPは前年度比2・2%増にとどまる。この後の、消費増税の影響はあなどれない。

 このため素案は、負担感が重くなる低所得者に、増税負担分の一部を還付する制度など負担軽減策も盛り込んだ。ただ、仮に平均所得以下の世帯に対象を限ったとしても、年1兆円規模の財源が必要で、実施には限界もある。

 素案は、社会保障の安定財源を確保し持続可能な社会保障制度を確立すれば「人々の将来の不安を減らし、消費や経済活動を拡大させる」と強調する。全体で国民に負担増を求める今回の改革だが、国民の将来不安を払拭(ふっしょく)するためにも、増税による歳入の手当てとともに、社会保障の機能強化と効率化を同時並行して進める必要がありそうだ。【赤間清広】

 ◇制度改革「政権公約」回帰

 「(一体改革は)どの政党が政権を取っても必ずやらないといけない。野党にもご理解いただけると思っている」。小宮山洋子厚生労働相は6日の閣議後の記者会見で、野党の協力に期待を寄せた。しかし、土壇場で素案に「新年金制度創設」など民主党マニフェストの目玉が盛り込まれたことに野党は猛反発している。社会保障制度改革でも与野党の歩み寄りは難しそうだ。

 政府・与党が昨年6月にまとめた原案では、全額税で賄う最低保障年金の創設といった民主党の新年金制度案を事実上棚上げし、後期高齢者医療制度の廃止も明示を避けた。いずれも政権交代の契機となった公約。自公両党の拒否感は強く、与野党協議につなげるためにあえて表現をぼかしていた。

 それが昨年12月に入って増税議論が現実味を帯びると、民主党内は「マニフェスト回帰」に染まった。特に八ッ場ダム(群馬県)の建設再開を決めた政府が「マニフェスト違反」との批判にさらされると、マニフェスト重視派は勢いを増した。

 その結果、党「社会保障と税の一体改革調査会」事務局長の長妻昭元厚労相の主張で「新年金法案の13年国会提出」や「後期医療廃止法案の12年提出」が素案に明記された。また、税と年金保険料を一括徴収する「歳入庁」創設、年金保険料の「流用」解消などマニフェストにあった項目は続々と加わった。

 政府が党の要求を次々のんだのは、素案の年内策定にこだわり、マニフェスト重視派に譲歩を重ねたためだ。だが、党内調整に手いっぱいで野党に目を向ける余裕はなかった。自公両党が嫌う政策が並び、結果的に与野党協議へのハードルを自ら高めてしまった。

 そもそも今回の改革案は、政府がアピールしたいものさえ成立のめどは立っていない。

 低所得者の基礎年金に加算する案は、保険料未納者も対象とすることに強い異論がある。非正規雇用労働者への社会保険適用拡大には、パートを多く雇う外食産業などが猛反発している。医療費の自己負担に上限を設けている高額療養費制度の拡充は、外来患者から別途100円を徴収する案を見送ったことで財源が不明瞭なまま。

 社会保障の持続可能性を高め、充実させる代わりに消費増税--。一体改革の理念は、大きく揺らいでいる。【山田夢留】

 ◇消費税法改正、道険しく 自公協議入り、めど立たず

 「多くの国民が大局に立った議論を渇望している」。野田首相は6日に開かれた内外情勢調査会互礼会でこう呼び掛けた。だが、その後あいさつした自民党の谷垣禎一総裁は「国民との再契約が必要」と述べ、衆院解散・総選挙前の協議を拒んだ。

 首相が年度内の法案提出にこだわるのは、自公政権時代の09年3月に成立した改正所得税法の付則104条が「消費税を含む抜本改革を行うため、11年度までに必要な法制上の措置を講ずる」と規定しているため。自公政権が成立させた法律が規定しているのだから、協議に応じるべきだとの理屈だ。

 また、野党が引き上げ時期や税率を明確にするよう求めていたこともあり、政府は増税のスケジュールだけを記す「プログラム法」ではなく、消費税法そのものの改正案の提出を目指す。古川元久国家戦略・経済財政担当相は6日の記者会見で「(時期と率を盛り込んだ)素案を見ればプログラム法と言えるわけがない」と述べた。プログラム法では改めて消費税法改正案を出さなくてはならないが、同法を改正してしまえば、閣議決定だけで引き上げられる。

 だが、早期の解散・総選挙に追い込みたい自民、公明が協議に応じる見通しはまったく立っていない。与党内も一枚岩ではなく、消費税法改正への反発が出るのは必至。首相が、法案提出を強行する構えの中、解散・総選挙含みの緊迫した状況が続く。【小山由宇、小倉祥徳】

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 ◆一体改革素案骨子

 ◇消費税

・税率(現行5%)を14年4月に8%、15年10月に10%に段階的に引き上げ

・15年度以降の共通番号制定着を前提に給付付き税額控除を導入。それまで簡素な給付措置を行い、低所得者に配慮

 ◇所得税・相続税

・所得税の最高税率を45%に引き上げ。課税所得5000万円超の人に適用

・相続税の控除額を5000万円から3000万円に縮小。最高税率を50%から55%に引き上げ

 ◇社会保障改革

・低所得者への年金加算

・年金受給のための加入期間を25年から10年に短縮

・65歳以上の低所得者向け介護保険料軽減措置を強化

・パート従業員の厚生年金適用拡大

 ◇政治・行政改革

・衆院議員定数を80削減

毎日新聞 2012年1月7日 東京朝刊

 

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