「(一体改革は)どの政党が政権を取っても必ずやらないといけない。野党にもご理解いただけると思っている」。小宮山洋子厚生労働相は6日の閣議後の記者会見で、野党の協力に期待を寄せた。しかし、土壇場で素案に「新年金制度創設」など民主党マニフェストの目玉が盛り込まれたことに野党は猛反発している。社会保障制度改革でも与野党の歩み寄りは難しそうだ。
政府・与党が昨年6月にまとめた原案では、全額税で賄う最低保障年金の創設といった民主党の新年金制度案を事実上棚上げし、後期高齢者医療制度の廃止も明示を避けた。いずれも政権交代の契機となった公約。自公両党の拒否感は強く、与野党協議につなげるためにあえて表現をぼかしていた。
それが昨年12月に入って増税議論が現実味を帯びると、民主党内は「マニフェスト回帰」に染まった。八ッ場ダム(群馬県)の建設再開を決めた政府が「マニフェスト違反」との批判にさらされると、マニフェスト重視派は勢いを増した。
その結果、党「社会保障と税の一体改革調査会」事務局長の長妻昭元厚労相の主張で「新年金法案の13年国会提出」や「後期医療廃止法案の12年提出」が素案に明記された。また、「歳入庁」創設、年金保険料の「流用」解消などマニフェストにあった項目は続々と加わった。
政府が党の要求を次々のんだのは、素案の年内策定にこだわり、マニフェスト重視派に譲歩を重ねたためだ。だが、党内調整に手いっぱいで野党に目を向ける余裕はなかった。自公両党が嫌う政策が並び、結果的に与野党協議へのハードルを自ら高めてしまった。
改革案は、政府がアピールしたいものさえ成立のめどは立っていない。低所得者の基礎年金に加算する案は、保険料未納者も対象とすることに異論がある。非正規雇用労働者への社会保険適用拡大には、パートを多く雇う外食産業などが猛反発している。医療費の自己負担に上限を設けている高額療養費制度拡充は、外来患者から別途100円を徴収する案を見送ったことで財源が不明瞭なまま。
社会保障の持続可能性を高め、充実させる代わりに消費増税--。一体改革の理念は、大きく揺らいでいる。【山田夢留】
毎日新聞 2012年1月7日 0時37分