きょうの社説 2012年1月6日

◎世界農業遺産の活用 市町の知恵比べもみたい
 能登の市町にとって今年は、昨年6月に世界農業遺産に認定された「能登の里山里海」 を生かす新たな一歩となる。昨年は日本初という認定のインパクトもあり、おのずと視線が集まったが、認定効果を持続させるには、地域づくりの新鮮な話題を途切れさせずに発信する必要がある。

 能登の各首長は新年の抱負で、そろって世界農業遺産の活用を挙げた。当初予算から事 業化される今年は、市町独自のアイデアや創意工夫が一層問われることになる。これから作業が本格化する予算編成では、市町の知恵比べにも目を凝らしたい。

 石川県は今夏、電気自動車向けの充電スタンドを能登の観光拠点に設置し、エコドライ ブによる半島振興策を推進する。世界農業遺産の活用は県にとっても施策の柱だが、地域に根ざした資源を掘り起こし、磨きをかけるのは、住民に最も身近な市町の役割である。

 世界農業遺産に認定後、能登では新たな地域づくりのエネルギーが生まれたようにみえ る。たとえば、輪島市の千枚田では昨秋から発光ダイオード電球を使ったライトアップ事業を展開し、幻想的な夜景は冬の観光資源になった。のと鉄道の観光ツアーも好調で、新年度はすでに約400本の誘致に成功している。能登町の農家民宿群「春蘭(しゅんらん)の里」も宿泊者を着実に伸ばしている。

 春蘭の里は地域のリーダーが住民主導型の仕組みをつくり、農家民宿の経営を軌道に乗 せた。一方、のと鉄道は名物ガイド「ポッポ屋」の解説が人気を呼んでいる。これらの事例は地域の最大の資源は人であることを教えてくれる。自治体に求められるのも、このような人の力、意欲を引き出すようなアイデアである。

 元日には羽咋市の気多大社と妙成寺が初詣シャトルバスを共同運行する新たな試みもあ った。神社と寺院が宗教の枠を超えて手を結ぶのは画期的だが、それぞれ文化財を豊富にもつ能登を代表する観光施設であり、連携強化で大きな相乗効果が期待できる。

 このような地域の潜在的な可能性をいかに引き出していくか。そのヒントは足元の土壌 にまだまだ埋まっているはずである。

◎イラン原油禁輸 難しい判断迫られる日本
 欧州連合(EU)加盟27カ国が、核開発疑惑が深まったイランへの追加制裁措置とし て、同国産原油の輸入を禁止することで原則合意した。米国も既に金融取引面からの制裁強化策を決めており、原油輸入量の約10%をイランに頼る日本は大変難しい判断を迫られる状況になった。対イラン制裁の強化で原油価格が高騰するリスクが高まっており、その備えを急ぐ必要もある。

 日本はこれまで、イランの核開発阻止のため、国連決議に従って資産凍結などの制裁措 置をとってきたが、米欧とは異なる関係をイランとの間で築いてきており、米国の制裁強化策には特に厳しい選択を余儀なくされる形になっている。米国の措置は、原油輸入などでイラン中央銀行と取引をする外国の金融機関に対して、米銀行との取引禁止の制裁を科し、イランから手を引かせようというものだ。米国で金融業務を続けるとなると、イランとの原油取引を停止せざるを得ないのである。

 どの国の金融機関を制裁対象にするかは大統領の判断次第で、状況によって対象から除 外できる特例措置もある。このため、日本は邦銀を対象外とするよう米国に求め、イランからの原油輸入を継続したい考えであるが、制裁強化を求める米欧が、従前通りの原油輸入を容認するかどうか。場合によって輸入量の削減も選択肢として考えておかねばなるまい。

 米国が制裁措置を発動し、EUも禁輸に踏み切ることになれば、イランは大きな痛手を 被ることになる。しかし、その分、原油価格がはね上がり、経済に打撃を受ける恐れが強まるというジレンマを国際社会は抱えることになる。実際、EUの禁輸合意で原油先物相場が上昇している。

 火力発電の依存度が高まる日本にとって、原油高騰は震災復興をバネに景気回復を図る という政府のシナリオを崩すことになりかねず、警戒を怠れない。石油輸出国機構(OPEC)加盟国には、イランの原油生産量を補う生産余力があるとされるが、政府は先を読んで原油の供給元確保に手を打っておく必要もある。