警察庁が自転車の原則車道走行を打ち出す中、東京都は歩道を走らせる道路整備方針を崩していない。車の交通量や路上停車の需要、沿道商店街の意向などがその理由で、自転車の通行を前提とした幅広の歩道「自転車歩行者道(自歩道)」を第一に整備していくという。だが、有識者は「自転車の安全走行や利用促進にマイナス」と懸念している。【馬場直子、北村和巳】
都は自転車の走行空間の整備を重要施策として、10年3月に「整備方針」を作成。道路幅や交通量に応じた整備手法の基準などを示した。
手法の選択は、まず歩道幅を4メートル以上確保できるか検討し、可能な場合は自歩道を造って植樹帯や線で歩行者と自転車の通行を分ける。不可能な場合は車道左端に線を引いて自転車レーンを整備するなどとした。
方針作成にあたった道路管理部安全施設課は「自転車を車道に下ろす発想はなく、歩道上で歩行者と分ける方向になった」と説明。実際、歩道上の走行空間は49キロ整備したのに対し、従来の車道を整備する自転車レーンは6・8キロにとどまる。
警察庁は11年10月、全国の都道府県警に「自転車は車道」と通達した。だが、都道路建設部計画課は「現時点では自歩道に自転車を通す」と明言。自転車レーンの整備は「沿道の停車や荷降ろしができないとの声は無視できない。そもそも都内は停車需要が高い」と説明する。
都が新規建設を予定する都道は歩道幅を4メートル確保しているケースが多く、整備方針に従えば自歩道が増えることになる。
安全施設課も「東京は道路が狭い割に車の交通量が多い。自転車を急に歩道から下ろすのは難しく、車道に余裕もない」と指摘する。都内の歩道のうち自転車が通行できるのは63%で全国の46%より高く、警視庁も歩道から車道への急激な転換には慎重だ。
自転車行政に詳しい住信基礎研究所の古倉宗治研究理事は「交通弱者の安全歩行より、沿道の需要を優先する国や都市は先進国にない。世界の東京として恥じるべき選択。歩道走行は交差点で自転車が事故に遭う危険性を高める」と懸念する。
毎日新聞 2012年1月5日 東京夕刊