税と社会保障の一体改革素案に向けた政府案では、消費増税に伴い、中小企業の税負担を軽減する「免税点制度」「簡易課税制度」の見直しが盛り込まれた。国に納める消費税を本来より少なくできる「益税」問題を改善し、公平性を確保する目的だ。増税への国民理解を促す効果が期待できる半面、中小・零細企業の税負担が重くなる懸念もある。【小倉祥徳】
消費税は、顧客が支払った分を小売店などがいったん預かった上で国に納付する。小売店などは、預かった消費税から仕入れなどにかかった消費税を差し引いて納付するが、零細事業者などには計算の事務負担が重いなどの理由で、消費税そのものの納付を免除する「免税点制度」を設けている。課税対象となる売上高が1000万円以下の零細企業や、設立後2年以内で資本金1000万円未満の企業が対象だ。
ただ、「益税」との批判は根強く、免税対象の事業者は消費税導入時の売上高3000万円以下から04年に縮小された。一方、設立後2年以内の新規企業を対象にした優遇措置では、一部の企業が免税対象となる零細子会社を2年ごとに設立・解散させ「課税逃れ」を図っているとの指摘があった。このため、8%への増税時には、親会社の売上高が5億円超なら子会社は免税扱いとしない。
一方、簡易課税は、課税対象の売上高が5000万円以下の企業を対象に、業種に応じて売上高の50~90%を仕入れ額と見なし、消費税の納税額を計算する制度。これも中小企業の事務負担軽減が狙いだが、実際の仕入れ額が「みなし」よりも少ないと益税になる。「みなし仕入れ率」は、消費税導入時の80~90%から引き下げられてきたが、より実態に近づける方針だ。
ただ、簡易課税の対象は、09年度に納税した事業者の41・6%(145万社)に及ぶ。「みなし仕入れ率」を大幅に変更すると、税負担が急に重くなるケースも生じ、中小企業などから「死活問題だ」と猛反発を受けそうだ。このため政府案ではみなし仕入れ率の具体的な変更案は明記せず、「実態調査を行ったうえで」決めることにした。
仕入れ額の適正把握のため、税額などを記した書類を売り手が買い手に発行する「インボイス制度」の全面導入も課題だったが、事業者の事務負担が増すうえ、今回の改革案では納税額などをより精密に計算する必要がある「軽減税率」の導入が見送られたことから、先送りされた。
毎日新聞 2012年1月5日 東京朝刊