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余録:スマホのような言葉の短縮は別に現代の若者の特技で

 スマホのような言葉の短縮は別に現代の若者の特技ではない。平安時代の歌人、曽祢好忠(そねのよしただ)は丹後掾(たんごのじょう)という官職なので「曽丹後掾」と呼ばれたが、やがて「曽丹後」、はては「曽丹」で通った。当人は「いつ『そた』といわれるか」と嘆いたとか▲平安貴族もこうだから、万事せっかちな今では次々に短縮略語が誕生する。で、最近の流行は「ステマ」である。何でも「ステルスマーケティング」の略で、ステルスは「隠密」、マーケティングは「販売促進」をいう▲つまり客には宣伝であるのを隠した宣伝がステマである。たとえばサクラを使って口コミで商品を宣伝したり、店の前に行列を作らせたりするのは昔からの伝統的手口だ。今日風のステマは、そのサクラによる口コミや行列をネットの世界で作り出すのがミソである▲飲食店のネット人気ランキング「食べログ」で、店に好意的な口コミ投稿や、店舗紹介ページへのアクセス数増加を有料で請け負う業者が多数いたことが分かったという。いわばランキングを人為的に押し上げるサクラ業だが、運営会社では39業者を特定したそうだ▲かねて同じようなサイトを見るたびに、サクラを使っていないかとの疑いが頭をよぎるネットの口コミ情報だった。だがこれほどの「業界」ができていたと聞けば、さすがに鼻白む。ネット情報の信頼性を根本から揺るがすだけに運営会社では法的措置も検討中という▲良くも悪くも匿名が持ち前のネット空間とあれば、顔を隠した情報操作が横行するのも成り行きなのだろう。ここはたやすくステマに踊らされない用心深さが求められるネット消費社会である。

毎日新聞 2012年1月7日 1時02分

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