各分野で活躍している鳥取のなでしこたちは、連載で紹介する女性以外にもまだまだ数多くいます。とても全員を紙面で紹介することはできませんが、今年話題になりそうな、なでしこたちのほんの一部をご紹介します。【遠藤浩二、田中将隆、川瀬慎一朗】
カヌーをしていた両親の影響で、物心がついた頃からカヌーに乗っていた。本格的に始めたのは小学4年から。すぐに「大きな大会に出たい」と思ったという。専門は激流の川を下るカヌースラローム。昨年10月の日本ジュニア選手権のスラローム女子カヤックシングルで優勝。今年7月のジュニア世界選手権の代表選手に内定している。現在、米子東高2年。夏場は激流を求め、県外にまで出かけ、冬場は陸上部に交じって長距離を走り込んでいる。カヌーの魅力は「同じ川でも毎回違う顔を持つところ」だとか。2年前に初めて出場したジュニア世界選手権は予選敗退。今年は「どんな結果になるか分からないけれど、まずは初戦突破を目指します」(境港市在住)
兵庫県豊岡市出身。幼少期から書道家の祖父母、母から書道を学んだ。白黒の世界から一転、色の世界に飛び込みたいと多摩美術大に入学。卒業後はテキスタイルデザイナーとして活躍した。24歳から2年間渡仏し、帰国後に墨を基調として抽象画を描く独自のスタイルを確立し、国内外から注目されるようになった。浦富海岸の美しさにほれ込み、2008年6月から岩美町内にアトリエを構える。人が見守る中で即興で作品を描く「舞書」を、三徳山(三朝町)や石谷家住宅(智頭町)など県内外で精力的にこなしている。「今年はイタリアなどで舞書を行い、山陰の空気や美しさを海外の人に伝えたい」(岩美町にアトリエ、本名・植村桂子さん)
声優を目指したのは小さな頃に漠然と「アニメキャラになりたい」と思ったのがきっかけ。「声優」と名の付く本は何でも買い、訓練方法などを片っ端から実践したという。高校生になると、東京の声優養成所に高速バスで通い始めた。「今もバス停を見かけると鳥取を思い出します」と笑う。上京すると、間もなく声優として多くのアニメやゲームに出演するように。歌声合成ソフト「VOCALOID」シリーズでキャラクターの声を担当し話題になった。今年は養成所に通い始めて丸10年。「初心に帰る年」と位置づける。「何か悩んでも、鳥取で海と山を眺めながら自分を見つめ直せます。苦労をかけた両親にはすごく感謝しています」(県出身)
小学5年の時、女優の安達祐実さんが拳法の伝承者を演じたドラマ「聖龍伝説」を見て「かっこいい」と地元の空手道場に通い始めた。高校3年でインターハイ優勝。「完璧なものはなく、常に究極の形を追い求めるところ」が魅力という。大学1年の時、先輩に紹介され、鳥取市で道場を開く日本代表の元コーチ、井上慶身さんに出会った。「改めて空手は奥が深い」と感銘を受け、1人で演舞をする形を極めようと卒業後は鳥取県庁に就職。井上さんの道場に通っている。鳥取を「力をくれた場所。飛躍できた場所」と話す。昨年は国体と全日本選手権で3連覇。今年は世界選手権に挑む。「一日一日大切にして前進するのみ。目標は世界一です」(鳥取市在住)
倉吉市出身の北尾真奈美さん(33)と琴浦町出身の井勝めぐみさん(36)で結成され、2001年にメジャーデビュー。全国の刑務所でコンサートによる慰問を続け、「受刑者のアイドル」とも呼ばれる。刑務所での公演は今月中に300回に達しそう。昨年3月の東日本大震災後は、被災地での公演も精力的に行ってきた。2人は「他人を思いやれる心の大切さと、家族の絆を感じられる故郷(鳥取)があるからこそ頑張れる」と話す。各分野で頑張っている女性に向けて「『今』という時間を大切に、自分を信じて生きてほしい」とエールを送っている。
絵画好きの父の影響で子供の頃から絵を描くのが好きだったという。高校卒業後、鳥取環境大に入学。鳥取市の映画館「鳥取シネマ」でアルバイトをしていた際に、同館のフリーペーパーや割引券のイラストなどを描いた。次第に「もっと腕を磨きたい」と思うようになり、20歳の時に大学を中退し、大阪芸術大付属大阪美術専門学校に入学。卒業制作のカラフルな色遣いで笑った人の顔を描いたイラストが目に留まり、2010年6月から県総合情報誌「とっとりNOW」の表紙を手がけている。「笑顔を見た人は笑顔になる。今年は、県外や世界の人に作品を見てもらい、多くの人に笑顔を届けたい」(鳥取市出身、本名・大倉さゆりさん)
「ですです」と方言を使ってうなずく姿は鳥取県民そのものだが、出身は神奈川県。警察官だった父の影響で高校卒業後、地元の神奈川県警に採用された。4年目には同県警の女性として初めての機動隊員に。そこで鳥取県出身の現在の夫と出会ったことが転機となった。夫が鳥取県警に入り直した06年に結婚し、鳥取に移住。長男を産んで専業主婦に。しかし、子育てが一段落すると「やりたかった交通事故の捜査をやっていない」。自身も鳥取県警の門をたたき、昨年4月に晴れて再スタートを切った。現在は倉吉駅前交番で勤務する。「鳥取の子育て環境が整っているからこそ、私も夢を追いかけられる。やりたいことがあるお母さんは、まずやってみては」(倉吉市勤務)
父親の影響を受け、小学1年から将棋を始めた。教わって1週間たった頃。まだ駒の動かし方しか知らなかったが、イベントで10枚落ちのプロ棋士と対局。「女流棋士になりたい」と思うようになったという。高校1年で県内初のプロ女流棋士に。恵梨子の「梨」の字は、祖父が「梨の花のように白く可愛らしく」との思いを込めて付けたという。現在は、東京都内で暮らし、日本文学を専攻する大学2年生。将棋の魅力は「勝った時のうれしさ」と「世代を超えて交流できるコミュニケーションツール」と語る。「昨年は自分の弱さに改めて気づいた1年だった。今年は強い将棋を打てるようになりたい」(三朝町出身)
人口最少県の鳥取県だが、昔から多くの先輩“なでしこ”たちが活躍してきた。代表作「こほろぎ嬢」の映画化や関連図書の刊行が相次ぎ近年再評価が進んでいる作家、尾崎翠(1896~1971)は岩美町出身。戦後、日本の国連加盟に尽力した日本の初の女性外交官、山根敏子(1921~1956)は父親が県出身者。80歳ごろまで法廷に立ち続けた日本初の女性弁護士、中田正子(1910~2002)は離婚問題など民事裁判を中心に、鳥取市で弁護士活動を続けた。
最近では、「私の男」で直木賞を受賞した作家の桜庭一樹さん(40)は米子市出身。バルセロナ五輪に出場したマラソンの山下佐知子さん(47)は鳥取市出身で、昨年は第一生命監督としてチームを全日本実業団女子駅伝優勝に導いた。
芸能界でも、ともに鳥取市出身の瀧本美織さん(20)や蓮佛美沙子さん(20)ら若手女優の活躍が目立つ。
毎日新聞 2012年1月1日 地方版