絶対もうかる、1年で倍になる——。出資法違反容疑で逮捕された矢吹寿雄容疑者(42)が実質経営していた宝石販売会社「グランドキャピタル」(本社・東京都新宿区)は、金貨のほかにも宝石、健康食品などで手広くマルチ商法を展開していた。その「広告塔」として、自民党の安倍晋三幹事長やペルーのフジモリ元大統領、紅白歌合戦出場歌手らが利用されていた。
「お若いのに健康食品で成功された」。03年7月、東京都内であったパーティーで、当時、官房副長官だった安倍自民党幹事長は、「浪越勝」と名乗っていた矢吹容疑者をこう紹介したという。
「米国カリフォルニア州の通信制大学の日本事務局が設立された」として催された記念パーティー。同大学に出資すれば額に応じて学位が授与される仕組みだった。大阪府警などは、同事務局は実質的に矢吹容疑者が運営していたとみる。「学位授与証をみさかいなく配っていた」と矢吹容疑者の知人は振り返った。
パーティー参加者によると、安倍氏は会員約40人を前に北朝鮮問題などを約20分間講演し、記念撮影にも応じた。その後、安倍氏の秘書が会員らを首相官邸に案内した。参加した会員は「『安倍さんに会える』と誘われた。半信半疑だったのに本物が来たので驚き、矢吹容疑者を信用してしまった」と語った。
逮捕容疑となった「ペルーインカ帝国3千年記念金貨コイン」事業では、「社の環境事業部の最高顧問はフジモリ元ペルー大統領」と宣伝。01年2月に同社が主催した九州旅行には、フジモリ元大統領や、自由連合代表の徳田虎雄・衆院議員も同行した。
同社との関係について、安倍氏の事務所は「後援会員の紹介だったので引き受けた。当時は健康食品の会社の会合という認識で、問題になっている会社とは知らなかった。官邸見学はスケジュールが空いていたこともあり、引き受けてしまったが、今後は気を付けたい」。また、徳田氏の事務所は「(自由連合の)候補者に頼まれ宮崎のホテルで講演した。どういう会社なのかわからなかった。講演料はもらっていない」とし、フジモリ元大統領は自身のホームページで「この企業の顧問でもなく、何の関係もなかった」と説明している。
矢吹容疑者は、「旧皇族の後継者」を名乗って結婚披露宴を開き、祝儀をだまし取ったとして詐欺罪に問われている政治団体「有栖川宮記念」代表北野康行被告(42)=東京地裁で公判中=とも交流があった。破産管財人によると、同社顧問の肩書を与え、家賃を肩代わりするなどして計220万円払っていた。
さらに、紅白歌合戦に出場経験のある演歌歌手らを招いてディナーショーを開いたり、パンフレットに登場させたりしていたという。
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大阪、大分両府県警は17日、グランドキャピタルの元経営企画室長、藤岡亨(33)=東京都板橋区大山西町=、元管理部長、小林哲也(35)=同中野区本町4丁目=、元事業本部営業部長、沢石裕公(29)=同武蔵野市吉祥寺南町3丁目=、元幹部社員、津田圭介(33)=埼玉県川口市木曽呂=の4容疑者を出資法(預かり金の禁止)違反容疑で逮捕した。両府県警は、別の元幹部2人についても同容疑で逮捕状を取り、行方を追っている。
(09/17 13:45)
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