1979年の米国のスリーマイルアイランド事故や、1986年の旧ソ連のチェルノブイリ事故のように、原子力発電所の安全設計において想定している事象を大幅に超えるものであって、原子炉の燃料が重大な損傷を受けるような大事故のことを「シビアアクシデント」(過酷事故)といいます。
「アクシデントマネジメント」とは、シビアアクシデントに至るおそれのある事態が発生しても、それが拡大することを防止し、万が一シビアアクシデントに拡大した場合にも、その影響を緩和するための対策です。
アクシデントマネジメントの導入
日本を含め、各国で行われてきた安全研究などから、シビアアクシデントに関する知識が豊富になってきており、現在の発電所の能力をフルに活用することによって、事故の防止やその影響の緩和による安全性向上のための方策が明らかになってきました。
欧米ではすでにアクシデントマネジメント(過酷事故対策)がとられてきましたが、日本でも、1992年5月に、原子力安全委員会がシビアアクシデントに対するアクシデントマネジメントの整備を勧告し、7月には国が各電力会社にアクシデントマネジメントの整備を要請しました。
勧告では、日本の原子力発電所が現在の安全対策によって十分に確保されており、さらなる安全規制は必要ないことを認めたうえで、さらに事故に対するリスクを低減させ、安全性を高めるために、電力会社は自主的な努力を行うべきとされています。
各電力会社は、この勧告を受け、アクシデントマネジメント対策を行っています。
アクシデントマネジメントによる安全対策
過去事故の研究を通じて、過去事故に至るプロセスを検討した結果、次の機能を強化することが対策として有効であることがわかりました。
- 原子炉停止機能の強化
- 原子炉および格納容器への注水機能の強化
- 格納容器からの除熱機能の強化
- 電源供給機能の強化
原子力発電所の安全設計では、「原子炉を止める」「原子炉を冷やす」「放射能を閉じ込める」という3つの機能ごとに対策がとられていますが、アクシデントマネジメント対策は、これらの機能を高めることになります。
例えば、アクシデントマネジメントでは、異常が発生し、非常用炉心冷却装置(ECCS)もすべて故障した場合を想定し、本来、消火用に使うポンプで炉心に注水し、燃料を冷却するといった対策を考えます。そのため、いざというときに消火用のポンプも動員できるよう、消火用の設備にそのための設備を備えておきます。
このようにアクシデントマネジメントでは、異常事態に際して、本来はほかの機能のために用意されている設備までフル活用し、異常事態の拡大防止と影響の緩和のための対策を行います。
アクシデントマネジメントは、このような施設や設備の整備のほかに、シビアアクシデントが発生したときに迅速に対応するための詳細なマニュアルの整備、通報連絡体制、教育・研修なども含まれます。
各電力会社は、各発電所のアクシデントマネジメント策を整備し、その内容を取りまとめた報告書を、2002年5月に国に提出しました。原子力安全委員会もレビューを行い、各電力会社の対策は妥当であると評価されています。