米ドッド・フランク法(金融規制改革法)のうち、最も論議を呼んでいる1つで、銀行の自己勘定取引の禁止などを定める「ボルカー・ルール」の適用方法の草案がリークされた。銀行関係者やロビイスト、議員らは内容の分析や、草案に対する態度決定に追われている。
リークされたのはボルカー・ルールの主要な要素を列挙した9月30日付の全文205ページのメモ草案。「アメリカン・バンカー(American Banker)」のウェブサイト上に5日掲載され、関係者の大きな話題になっている。
規制当局者はこのリークに憤っている一方で、ウォール街ではボルカー・ルールに伴う打撃を小さくしようとする銀行関係者やロビイストたちの新たな戦線が開かれた形だ。連邦預金保険公社(FDIC)は来週11日にボルカー・ルールに関する法施行規則を公表し、一般コメントを求める予定だが、それに先だってその草案がリークされたわけで、銀行ロビイストはこれを数日間検討する機会ができる。
長年、銀行はプロプライエタリー(自己勘定)トレーディングデスクから大きな利益を得てきた。株や国際商品に投資し、レバレッジをかけることも頻繁で、多くの点でヘッジファンドのように行動していた。米政府監査院(GAO)7月の報告によれば、2006年6月から10年12月までの期間の銀行持ち株会社大手6社の自己勘定取引収入は156億ドル(現在のレートで約1兆2000億円)で、全体の収入のごく一部だった。しかし、金融危機にまたがる5四半期間では同取引は158億ドルの損失を出し、それまでの4年半の利益が吹き飛んだ。
議会は昨年可決したドッド・フランク法でこうした自己勘定取引活動を事実上禁止したが、法運用のためのルール作りを規制当局に委ねた。5日の草案リークは、このルールがどう形成されつつあるかを多くの銀行関係者やロビイストがうかがうことのできる最初の機会を提供した。
ボルカー・ルールは既に、大手米銀で大きな変化を引き起こしている。幾つかの銀行は自己資金で取引するトレーディングデスクを閉鎖したし、同ルールの適用されない中小会社に転職したトレーダーも少なくない。同ルールが銀行業界の収益とリスク志向にどう影響するかは、このルールが実際に施行されるまでは推測が難しいだろう。
同ルール実施に伴うコストを推定するのは尚早だが、野村証券インターナショナルの米株式調査アナリスト、グレン・ショア氏は、銀行は自ら直面する出費の一部を転嫁するから、「最低でも」米企業の資金コストを押し上げるだろうと述べた。銀行にとってのコストは年間少なくとも20億ドルになるかもしれない、と同氏は書いている。
「アメリカン・バンカー」のウェブサイトに掲載されたリーク文書は「草案」と銘打っており、FDIC、連邦準備理事会(FRB)、通貨監督局(OCC)、そして証券取引委員会(SEC)が執筆した。11日のFDIC理事会会合のあと、FRBとSECは早ければ来週中に会合する見通し。複雑なデリバティブ(金融派生商品)ルールに焦点を当てている商品先物取引委員会(CFTC)もこの問題を取り上げるとみられるが、ルールに関して討議する計画は当面ない。メモ草案では一般コメントの締め切りを12月16日としているが、この期限は数カ月間延期される可能性もある。
ある銀行ロビイストによれば、メモ草案では銀行のトレーディングは「主として手数料、仲介料から、あるいは、銀行が自ら取引勘定に保有している債権担保金融ポジションの価値上昇に帰属しないその他の所得から、収入を生み出すように考案されなければならない」と示唆する文言が盛り込まれているという。
そうなると、債券トレーディングデスクにとって問題が生じる恐れがある。同部門のトレーダーは通常、後日顧客に高い価格で売却するのを見越して手持ち債券を積み上げているからだ。一部のウォール街専門家は、債券の積み上げをトレーディングから排除すると、トレーディングデスクが縮小し、利益が損なわれるだけでなく、投資家が競争的な価格で即座に売買するのが一段と難しくなってしまうと懸念している。
一方、メモ草案を執筆した政府機関の当局者はリークにいらだっている。リークの結果、FDICの来週の会合を前に、文言変更の圧力につながる恐れがあるためだ。あるいは逆に、規制当局者は、文言を変更すると業界の圧力に屈したとみられるのを避けるため、変更しないようにしなければ、と別の圧力を感じるかもしれない。