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2012年の国際政治の焦点 - 米国に注目する3つの理由
昨夜(1/4)、NHK-BSの国際ニュースを見ていたら、藤原帰一が出演していたが、その解説があまりに無内容で、視聴者をシラケさせるピント外れのもので落胆させられた。二流の新聞記者の浅薄なペーパートーク以下の代物。新年冒頭のテレビ出演で、もっと気の利いた中身のある話を披露できないものかと、おそらく(米国政治を専門と公称している)三浦俊章なども鼻白んだことだろう。鎌倉千秋が「今年の世界政治の注目点は?」と質問したのに対して、キリッとした顔で返した答えが、中東情勢と台湾情勢の2点だった。しかも、理由や根拠については特に分析も洞察もなく、頭の中がカラッポではないかと疑う安直な説明でサラッと流した。軽い。何の説得力もない。NHK-BSでは、元日の夜に、ダワーとマコーマックが対談して世界と日本を語る大型特集があった。新春企画に相応しい濃い中身で、知識人の言葉を聞けた番組だった。ダワーのNY-OWSの取材もよかったが、特にマコーマックが高江を取材して述べた沖縄論が素晴らしかった。高江を詳しく取り上げた報道に初めて接した気がするし、頭が下がる思いがする。しかし、不思議に思うのは、2人が外国人だということだ。日本の政治や社会の問題について、それを正面から見据えて掘り下げられるのは、外国の知識人しかいなくなった。日本の中に物事を真剣に考える知識人がいない。


粗悪で浮薄なアカデミー官僚しかいない。誰が考えても、今年の世界政治のホットポイントは米国である。凝視すべきは米国の情勢だ。「世界経済の注目点」を鎌倉千秋に問われたならば、それは欧州と答えるのが正解だろう。「世界政治で」と設問されているのだから、答えは米国に決まっている。その意味は二つある。第一は内政で、格差と貧窮が進み、経済と政治が行き詰まる中、オキュパイ運動の次の段階が大統領選にどう影響するかという問題である。この問題こそ、いま世界が固唾を呑んで見守っている最大の関心事に他ならない。米国政治の伝統である民主・共和の二大政党制が根本から揺らいでいて、大統領選の年なのに国民は選挙に期待と関心を向けず、全体の16%に至った貧困層は絶望と焦燥をつのらせている。第三極の候補が出現する可能性もある。正月のNHKの報道は、ずっとアイオワ州の予備選挙に密着していたが、その報道でも主役は現地のOccupyの抗議者たちの活動で、共和党の候補者争いは脇役の扱いだった。デモインに詰めかけた世界中のプレスが、同様の編集方針でこの報道を伝えたはずである。つまり、NHKの報道の方が藤原帰一よりも問題意識が先に行っているのだ。藤原帰一は、オキュパイについて一言も番組で触れなかった。これまでも聞いた覚えがないが、一体この専門家はどういう神経の持ち主なのだろう。この岩波文化人に唖然とするのは私だけだろうか。

第二に安保外交の問題がある。誰も言わないが、今年、アフガンで米国は戦争に敗北する可能性がある。ベトナムと同じ惨めな潰走で戦争終結を迎えるかもしれない。全土でタリバン軍が蜂起してカブールに侵攻、首都を陥落させてカルザイ政権を打倒する図は、今年の国際政治の事件として決して想定の範囲外ではないだろう。現在、パキスタンと米国との関係が微妙になっている。今年、そうした情勢が現実になったとき、パキスタンは新政権を承認する方向に転ずると思われる。米国にこの地で戦争を継続する財政余力がなく、撤退を進めるしか方途がない以上、軍事的にアフガンがタリバンに制圧奪還されるのは時間の問題だ。その場合、イランとアフガンの地続きの2国、さらにパキスタンを加えた3国が、アジアの中央部で広大な反米イスラム地帯を形成するという構図になる。まさしく米国が最も恐れる事態の出現であり、従来の枠組が根底から崩れてアジアの政情が一変する。現在、反米はイランのみだが、それが3倍に拡張して東に延伸、中国と接するのだ。これは、ラムズフェルドが設計してオバマが構築中の「不安定な弧」の戦略が、内側からリバースをかけられて逆崩壊するダイナミックスに他ならない。米国のアジア戦略である中国封じ込めと反イスラムの2本柱が倒潰し、アジアでの米国の安全保障上の地位が無化されることを意味する。そうなれば、激動はイラクに波及するところとなり、中東全般の情勢にも影響する。

こうした米国をめぐる内外の情勢への観点が、本来、国際政治学者から年頭に示されるべき有意味な議論だろう。加えて、私が米国に神経質になる理由として、米国内での右翼テロ発生の危険性がある。具体的には、昨年ノルウェーで起きた悪夢の惨事の米国版であり、ちょうど1年前にTucsonで起きた銃乱射事件の拡大版の危惧である。第一がOccupyと大統領選をめぐる内政で、第二がアフガン戦争が動く安保外交とすれば、第三は米国の社会問題として項目を整理できる範疇だ。悪い予感がしてならない。現在、大統領選で共和党に本命候補はなく、オバマが低支持率のまま再選か、ロムニーが薄氷で勝利を得てもリベラルに妥協して政策に変化なしという見方になっている。Tea Partyや保守層が求めるのは、レーガンのようなタカ派の指導者であり、米国の右翼系はストレスが極まった状態にある。Occupyの台頭は目障りで仕方ないだろうし、不況が蔓延する中、黒人の大統領が器用に詭弁を弄するのを見るのは頭痛の種に違いない。無論、こうした予想は的中するより法螺で終わった方がよく、杞憂で済めばそれに越したことはないのだが、米国人の意識の不安定は、暴発と自傷に向かう可能性が小さくないのだ。ネグリは欧州が縮小すると言ったが、紛れもなく、米国こそ縮小の途上にある。世界経済におけるGDP比、ドルの為替価値、軍事力のパワーバランス、どの指標をとっても米国は衰退の坂を転がり落ちている。超大国の威信失墜は歴然。

人にはアイデンティティと自負心の心理がある。米国人は、それを縮小させ低下させ、現実に釣り合った大きさの自我に変えなくてはならない。均衡させなくてはならない。中国人(アジア)に対して、ブラジル人(中南米)に対して、イスラム教徒とアフリカ人に対して、嘗ての、ひたすら尊大で傲慢に振る舞った関係性の意識を改造しなくてはいけない。自己の利益のために他者に犠牲を押しつけ、その行為と関係を身勝手な理屈で合理化していた態度を反省しなければならない。それは、自意識が脂肪で肥満していた者(保守派)ほど内面の苦痛を伴う。観念を切り換えられず、精神をスリムにして縮小均衡させられない。不安定になり、鬱的になり、自己否定に苛まれる。そして病状が躁に転じたとき、敵対し嫌悪する対象である内部の他者を標的に据え、暴力で攻撃して抹殺しようとする狂気と衝動に至るのだ。社会心理的に見たとき、米国はきわめて不穏な状況にある。一昨年は右派(Tea Party)が動いて中間選挙を制し、昨年は左派(Occupy)が反撃して大きく勢力を得た。一昨年の右派のムーブメントは、4年前の草の根左派(Change)の運動と勝利に対する逆襲だった。今年は、順序で言えば右派がカウンターの潮流を隆起させるラウンドである。米国の保守層が、理性で自意識の縮小を無難に果たせるのか、混乱なく自己を制御し着地して、世界の他者と平等に関係し共生できる人格に生まれ変われるのか、イスラエル型の歪んだアイデンティティを払拭できるのか、第三の問題の注目はそこにある。

ところで、その歪んで腐った精神の問題については、米国の保守派以上に重症で厄介なのが、政治のマジョリティとなった日本の右翼である。昨日(1/4)の記事に対して、読者の方からメールがあり、日本が戦争をすると悲観する場合、その相手国はどこかという質問をいただいた。以下に回答をしたい。相手国は、中国と北朝鮮である。そして、可能性として韓国がある。簡単に言うと、北朝鮮とは10年前から、中国とは4年前から冷戦状態に入り、関係悪化の一途を辿っていて、韓国とは昨年から冷戦のとば口に入ったと言える。契機となった事件は、それぞれ、2002年の拉致事件騒動、2005年の反日デモと2008年のチベット騒動、2010年の慰安婦像問題。先進国を見渡したとき、周辺諸国とこれほど仲の悪い国はなく、敢えて挙げれば中東のイスラエルくらいだろうか。日本は東アジアで孤立して、イスラエルと似たような最悪の外交環境になっている。イスラエルと異なるのは、東アジアに冷戦構造が残っていて、日米同盟があり、形の上では中国・北朝鮮と日本・韓国の二つの陣営の対立がある事情だけだ。そのため、日本の独善や孤立といった問題が表面に浮上せず、人々によく認識されない。ここで、日米同盟を捨象して仮想すれば、日本の孤立状況が際立って見える。日本人は、孤立しているのは中国であり、独善は中国だと決めつけるが、その見方が短絡であることは想像力の働きで理解できるだろう。むしろ、最近の中国の独善と放恣は、靖国問題で日本が中国と関係を悪化させたことが発端で原因だと言えるはずだ。

戦争はどのようにして起こるか。この点は、また稿を改めて論を起こしたいが、可能性が最も高いのは、東シナ海で中国と紛争状態に入ることだろう。日中戦争。日本が他国と戦争を始めるときは、米国がそれにゴーサインを出すときだ。北朝鮮との関係では、米国は日本の戦争入りを許可しないか、姿勢としては消極的と思われる。戦略上のメリットが少ないからで、半島に戦火が飛び火して韓国を巻き込む可能性があり、収拾が面倒だからである。現状、米国は北朝鮮との武力対決を放棄している。しかし、中国と日本との限定的な局地戦については、逆に嗾ける立場に回っておかしくない。中国軍の軍事能力を実戦で測定するためであり、中国海軍を叩いて西太平洋への進出を阻止するためである。それと、日本の憲法を改定して、集団的自衛権を確固とさせ、米軍指揮下に置いた日本軍を自在に世界の戦場に派遣できるようにするためである。米国はアジア太平洋地域へのコミットを強め、中国封じ込め戦略を成功させたいが、それを米軍独力で敢行する財政的余裕がない。属国の日本にその機能の代行を求めるのであり、そのためには日本の憲法改定と軍備拡張が必須となる。日本をそこへ踏み切らせるためには、手っ取り早いのは先に戦争をさせることだ。衝突を起こすことである。不気味なことを言って恐縮だが、実際に、日中戦争は緒戦がもう始まっているのではないかと思うときがある。それは、昨年、頻繁に報道されたサイバー攻撃である。あれは、ジャブの応酬(威力偵察)なのではないか。

報道されている国内の諸被害が事実なら、それは中国が仕掛けたものだろうが、逆に米軍や自衛隊やCIAも、中国の軍事施設や政府機関にジャブを打ってデータを取っているだろう。サイバー戦の探り合いをやり、敵方の能力や反応を計測しているはずだ。革命の実態が20世紀と21世紀では異なるように、戦争の態様も20世紀と21世紀では異なる。だが、戦争は戦争だ。サイバー戦が局地的な紛争になり、戦争状態になり、次の瞬間にはゲーム感覚で核ミサイルが発射されるのが21世紀の戦争なのではないか。


by thessalonike5 | 2012-01-05 23:30 | Trackback | Comments(0)
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