今年秋、成功裏に終わった「よさこい高知国体」と「全国障害者スポーツ大会」のあとをうけ、県庁では多くの職員をおいていた国体局を廃止するのにあわせた組織改革の議論を広げている。そのなかで、橋本知事のシンポジウムでの発言をきっかけに取り組んでいるのが、物部川の明日を考える組織づくりだ。
「第3回ものべ川の水を考えるシンポジウム」(物部川漁業協同組合、物部川21世紀の森と水の会、高知県森と緑の会が共催)があった11月23日午後に、高知工科大学講堂でのパネルディスカッション終了近くになって、
橋本知事から
「物部川で感じていることは、漁協の方々も自分たちだけのためではなくて、地域でほかの活動をしている人たちと一緒に何ができるかと前向きに考えている意味では、非常に先進的な漁協であると思います。また、漁協と農協との間で話ができる間柄になっていることも珍しいことだと思います。そして、上下流の活動といえば他の川でもありますけれども、具体的な活動で長続きをしているという意味でも特筆すべき川だと思います。
ということで、県庁も物部川の問題を縦割りで考えれば、河川課、海洋漁政課、森林政策課とさまざまな課が、10ぐらいは簡単に指が折れそうなぐらい、関係する課がありますけれども、ひとつ、物部川の明日を考えるというような縦割りを排した組織を作ってみてはどうかと、これは岩神さん(物部川漁協組合長)のご提案ですが、ぜひやりたいと思っています。
もう二人でも、三人でもいいじゃないか。毎日毎日この周辺を歩きまわって、漁協の人や農協の人に話をし、説得をし、そして小泉さんじゃないけれども、三方一両損でどうこの川を明日につなげていくかということを考える組織をぜひつくりたい、その決意表明をして終わりたいと思います」
という趣旨の発言があった。
シンポジウム当日は、会場のなかには河川や環境を担当する県職員もきていたが、このシンポジウムでの組織づくりに関する知事発言は、翌日の新聞などにも紹介はされていなかったので、秘書課から組織改革を担当する行政管理課に発言テープをまわして、知事の気持ちを伝えるようにしている。
そもそもは、橋本知事がパーソナリティを務めるラジオ番組のゲストに、物部川漁協の岩神組合長においでいただき、「限られた水資源 物部川の鮎に現状を見る」というテーマで意見交換をしたのが、ここまで踏みこんだ発言をするようになるきっかけだった。渇水期になると水の流れがとだえてしまう話、鮎が住みにくくなっている話、一方で環境を考える取り組みを漁協が進め、地域の市町村や農協、森林組合を巻き込みながらがんばっている話などを聞くことができた。
そのうえで、一度、ゆっくりと漁協のみなさんと意見交換を現場でしたいという知事の希望があって、10月12日(土)には出張帰りの高知空港に着いたその足で、土佐山田町の物部川漁協におじゃました。
漁協の役員のみなさんとの意見交換では、地に足をつけた取り組みをうかがうなか、「これほど意識が高い内水面漁協は日本でもそんなに多くないのではないか」と知事が感想を述べるほど、環境への配慮や役員に女性をいれて議論を自由にやっている姿に共感を示していた。結局、鮎の試食や物部川の堰を見る現地視察もあって、役員の方によると「漁協の歴史上初めて」の知事訪問は、当初の予定よりも1時間近くオーバーして終わった。
知事と漁協のみなさんとの意見交換を聞いていると、漁協という組織内部の意識改革を徐々に行ったうえで、協調できる行動から地域で輪を広げ、周辺の啓発を焦ることなく着実に進めていく姿勢をみて、これならば県もいっしょになってモデル的な河川として物部川をより良い姿に変えていくことができると、知事は期待したのだと僕も感じた。
実は、知事のラジオ番組ゲストに物部川漁協の岩神組合長をお願いしたのには、2月17日に僕が参加した「物部川環境バスツアー」で大勢の参加者に分かりやすく物部川の危機を説明している組合長と、3月になって流域の永瀬ダムの放流量拡大を訴えて知事の前で説明をしていた組合長のようすが大きく違っていたからだった。
後者の場合は緊張をしていたせいか、それとも県庁という場所がそうさせるのか、応対する時間の短さがいけないのか、橋本知事に物部川流域で漁協が積み上げてきた地域づくりの魅力が伝わらず、どちらかといえば旧来型の陳情がきたぐらいの印象しかもたれていないのではないかと僕には感じた。
そのため、漁協が物部川の環境を流域で考えていこうと働きかけてきた取り組みを、もう少しゆっくりと話をする場で順序だててできれば、きっと互いに分かりあえるきっかけになるのではないか、県が物部川清流保全計画を策定するなかで残念なことだと思い、ラジオ番組のゲストに岩神組合長をお招きするようにした。
番組収録の雰囲気が、最初の打ち合わせのときは固かったので心配もしたが、ラジオ収録が終わったあと、橋本知事が「いやあ、すばらしいゲストの方でした」と帰り道で感想をもらしたので、引き合わせてよかったと感じた。
タネを明かせば、そもそも2月17日の物部川環境バスツアーに僕が参加することを強くすすめてくださる流域出身の方がいて、その方が岩神組合長を途中で紹介してくれるということがなければ、僕がここまで物部川の取り組みにかかわることはなかったかもしれない。
また、物部川流域には(社)高知県森と緑の会という、県民と森をつなぐ素敵なグループもあって、11月23日のシンポジウムには手弁当で会場のお手伝いをする大勢のメンバーの方がいた。地元の土佐香美農協青壮年部では、魚つかみ大会のような川の行事にも積極的に参加する動きが定着している。
今後は、そういった森のこと、川のこと、海のことを自分たちでなんとかしたいと考えて行動する多くの方が、高知県の物部川流域でたくさんいらっしゃるようになっていることに勇気づけられながら、人と自然の適切なバランスをはかっていく取り組みのお手伝いを、新しくできるであろう「物部川の明日を考える」組織の県職員とともにやっていくことができればと希望している。 |