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暴排条例の水面下で新シノギを模索する暴力団 狙われる?葬儀業界

産経新聞1月3日(火)18時30分

【疑惑の濁流】

 暴力団への利益供与を規制し、企業との関係を絶とうとする各都道府県の暴力団排除条例施行を受け、暴力団が生き残りをかけて新たな資金源獲得に必死だ。法規制が少なく、暴排条例の網にかかりにくい“事業”はないか模索しており、最近では、インターネットで 格安葬儀をうたう「葬儀ブローカー」への“参入”を狙う動きもある。関係者は「故人を送る神聖な儀式が、反社会勢力の食い物にされてしまう」と危機感を募らせている。

■何かよさそうなシノギある?暴力団幹部が興味津々

 「おたくの業界、何かよさそうなシノギはある?」

 東京都暴排条例の施行を控えた昨年春ごろ。都内のある葬祭業者は、付き合いのあった指定暴力団幹部から、こんな「相談」を持ちかけられた。

 「シノギ」とは暴力団にとって金儲けになる“仕事”のことだ。この暴力団幹部は、葬祭業を新たなシノギに利用しようとしているのだった。

 葬祭業者は、深く考えず、この幹部に葬祭ビジネスの特徴を教えた。葬祭業は許認可事業ではないため業界組合などに加盟する義務はないこと。特別な資格も不要なこと。店舗がなくても、葬祭業者を取り次ぐ「葬儀ブローカー」として営業できること…。

 暴力団幹部は熱心に話を聞いた。その場は、特に何も言っていなかったが、数カ月後、再び会ったとき、この幹部はこう言ってきた。

 「あれ、いいな。振り込め詐欺より簡単だ」

 葬儀ブローカーが、新たな資金源になり、警察など公機関の監視の目にかかりにくいと考えたようだった。

 「結果的に暴力団の参入を許す片棒を担いでしまった…」

 事の重大さに気づいた葬祭業者は愕然とした。

■組合未加盟、マージン…葬儀ブローカーとは

 葬祭関係者によると、葬儀ブローカーは、複数の葬祭業者と普段から関係を築いておき、インターネットなどで顧客を募集。葬儀の依頼がくれば、6万〜8万円の紹介料をとり、業者を紹介する。

 生花、料理、返礼品などもなじみの業者に発注するが、その際にもマージンをとる。例えば生花を1万円で業者に発注した場合、5千円のマージンを上乗せして1万円5千円で販売。こうすれば手数料の総額は1つの葬儀につき 10万〜15万円となり、受注が月に10件以下でも、年間1千万円以上の売り上げになるという。

 昨年10月に全都道府県で出そろった暴排条例では、一般の事業者に暴力団関係者との商取引を規制しており、警察が発見すれば中止勧告を受けて業者名が公表されるが、業界組合などに加盟しない葬儀ブローカーは正規の「事業者」ではないため、暴力団監視の目から逃れやすい。

 また、暴力団組員が葬儀ブローカーになる際には、反対に、あたかも事業者のように装うこともできる。ある葬祭関係者は「暴力団関係者には、都合のいいビジネスだ」と話す。最近、こうした葬儀ブローカーは急増しているという。

■一般利用者にもメリット 中身を問わず

 ある葬祭関係者は「協同組合などに加盟していない葬儀ブローカーは都内で1千業者以上いる」と話す。

 人の「死」を扱う葬祭業は、長年、家族経営の大手業者が地域ごとに葬儀の請負をほぼ独占してきた。しかし近年では、簡素な葬儀や密葬を望む人が増えたため、「低価格・明朗会計」を売りにした異業種からの新規参入や 大手からの独立業者が急増。自分では店舗を構えず、新規業者のために、“仕事”を割り振る葬儀ブローカーが活動の場を広げるようになった。

 葬儀ブローカーは、顧客にとって利点もある。ブローカーの紹介する葬儀は、以前からの業者よりも、安いことが多いからだ。実際に葬儀を引き受ける新興の葬儀業者は、その分、安く仕事を引き受けさせられるのだが、少々安くても仕事が入ることを優先しているようで、ある葬祭関係者は「仕事を回してくれるブローカーがどんな人間なのか、中身を問うことはほとんどない」という。

 こうした状況に、業界側も対応に苦慮している。都内の約300業者が加盟する東京都葬祭業協同組合の浜名雅一理事長は「得体の知れないブローカーは増えているが、実体がつかめない」。首都圏の霊柩車大手・東礼自動車(東京都新宿区)の村田和隆常務も「ブローカーが暴力団関係者かどうかを確かめるすべがないのが現状」と打ち明ける。

■懸念される暴力団の地下化 業界全体で防御策を

 葬祭業界に限らず、さまざまな業界に、暴力団が姿を隠して浸透していく危険はある。

 日本最大の指定暴力団「山口組」の篠田建市(通称・司忍)組長は昨年9月、産経新聞の単独取材に応じた際に「山口組としてはあまりよしとしていないが、取り締まりが厳しくなればなるほど、潜っていかないといけなくなる」と、暴排条例で暴力団が地下組織化する可能性があることを指摘している。

 暴力団問題に詳しい元慶応大学教授の加藤久雄弁護士は「暴排条例の施行に伴い、暴力団はさまざまな業界に入り込んでおり、葬儀仲介業などはその典型的なケースといえるのでは」としたうえで、「警察当局の取り締まりはもちろん、業界全体で防御策を考えることが必要だ」と話している。

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産経新聞

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