(4)その他:面白いものが、いろいろ
<ちょっとした参考書など>
小学館『英語多義ネットワーク辞典』(2007年)
これは、驚いた。基本語について、その意味が中核的なものから周辺的・比喩的なものへと枝分かれしていく「感じ」を記述しようという試みである。いわゆ
る歴史的な研究に基づく派生関係ではなく、とにかく現在の英語における語義を位置づけようというのである。いわゆる(英語の世界の)認知言語学に基づく試
みであり、「それは、どうかな?」という点もないわけではないが、私は「へぇ、これは面白い。将来性ありそう」と思ったので紹介する次第。(8500円)
M. Swan 2005. Practical
English Usage (Third Edition). Oxford: UP.
辞書形式になっており、例えば both の使い方に迷ったら both
のところを引く。すると普通の辞書なんか色あせるほど懇切丁寧な説明と例文。手紙や電子メールの書き方に迷ったら
correspondence を引く。なんとそこには各種手紙の形式や書き方の説明と手紙文の例がある(電子メールについても同様)。—
という具合で、とにかく便利で使いやすくわかりやすい。一冊持っていても損はない。
三省堂『クラウン受験英語辞典』(2000年)
「受験英語」と聞くと、誰もが嫌な顔をする。「使える英語ではない」「つまらない」等々、悪口ばかり言われる。ホントに嫌ならやめれば良いのに、センセ
イも高校生もイヤイヤやっている
—
そんなアホらしさを打破したければ、これである。思い切って「受験英語」に的を絞り、開き直ってキチンと取り組めば、こうなるというわけだろうか。意外な
ことに、なかなかの出来で、英検準2級〜2級対策、あるいは家庭教師のバイトのお供にお勧めできる仕上がりとなっている。(2940円)
研究社「英語語源辞典」(1997年)
ある単語にぜんぜん違った意味が二つある。どういう関係があるんだろう…というとき、これを見れば一目瞭然。そもそもの形、意味、その変化の過程が見事
にたどれる。そればかりか、サンタクロースとは何者か、「カンガルー」という名前の真実は等々、ほとんど雑学に属する内容までもしっかり書いてあり、大い
に楽しめる。これからも「語源で覚える英単語」みたいな本はさらに増えるだろうが、本物の面白さには、かなうまい。(大判26250円、中身は同じ縮刷版
で7770円)
Brewer's Dictionary of
Phrase & Fable. (15th edition) 1995 London: Cassell.
こんな面白い本、滅多にあるもんじゃない。「ジーニアス」とはそもそも何者か、「オランダ人」に関する言い回しの数々、有名人の臨終の言葉、ギリシャ神
話の神々の名
前等々、とにかく雑学的辞書としては最高の出来であろう。(色々な版が出ている;2000円〜5000円といったところか)
H.W. Fowler, A Dictionary of
Modern English Usage. 1926/2002 Oxford: UP.
これは語法書というべきものであるが、近年の客観的・正確にしてつまらない語法書とは違い、一つの言葉好きの魂というか、一個の人格というかが貫いてい
る名作なので、ここに挙げる次第。例えば「フランス語(FRENCH
WORDS)」では、「相手にわからないようなフランス語を正確な発音で自分の話す英語に入れてみせるのは嫌味かつ失礼なもんだよ」と注意を促す(今の日
本語における英語を考えれば良いかな)。あるいはWardour
Streetという骨董品店が並ぶ通りの名を見出し語にして、「今じゃ使う人も少なくなったけど、私は好きなんだよねぇ」という語句を愛おしそうに並べ
る。要するに、好き勝手やってるというか、著者の人柄と切り離せない「ことばの話」集なのである。
それが高い評価を受け、古典的名著ということになっている。その語何度も版と改訂を重ね、現在の版は、英語という言語が英語話者の手から離れた現代を反
映する客観的記述が中心となっている。ところがこの種の記述は、「科学的」で「世界の英語を視野に入れた」ものになるほど著者の人格が見えなくなり、つま
らなくなる。だからその初版たる本書が見直され、復刻され、安価に手に入るようになったという具合(ペーパー版で1800円程度;だから私も買えた…)。
嬉しいことである。
<ふと英語を学ぶことに迷ったら>
田中 菊雄『英語研究者のために』講談社学術文庫
英語の独学と辞書の編集を中心としたこの人の活動は、決してくじけず、白けず、全身で進む美しい迫力に満ちている。ここで「英語研究者」というのはプロ
の研究者というのではなく、英語学習者のこと。英語の学習について、英語の教育について、ちょっと考え込んでしまいがちなあなたには、ぜひ一読をお勧めす
る。とても元気の出る一冊。
斎藤 兆史『英語達人列伝』中公新書
いわゆる英語圏で生まれ育ったわけでもない、普通の日本人がどのようにして尋常ならぬ英語力を身につけるに至ったのかを示す記録の数
々。特に齋藤秀三郎
と岡倉天心の伝記は圧巻。とにかく読むしかない面白さ。