英
語学習者のための辞書紹介にあたって
ゴチャゴチャ言うのは抜きにして、さっさと結論から言ってしまうと:英語の習得には、自分に合った、良質の辞書を選ぶのがまず第一の近道。ホントです。私
は特に辞書オタクではない。それどころか、ウッカリ辞書を信用しては成り立たない商売をしている。そんな私が言うんだから、間違いない。
特に近年の英語の学習辞典は、非常に優れた(つまり、学習者にとって、使いやすくてわかりやすい)ものができている。やはり、世の中、進歩するのだ。携帯
電話が過去数年でどれぐらい進歩したかを考えれば、古い辞書にしがみついて英語の習得を試みるのがどれほど効率の悪いことか、よくわかるだろ
う。愛用の辞書がある人もない人も、英語の習得を目指すなら、自分に合った辞書を手元においておかねば、始まらない。
「末長く使おう」などと考えてはいけない。辞書は、バンバン使ってこそ値打ちがある。バンバン使ううちに、あなたはドンドン英語を習得する。辞書は変わら
ないが、あなたが変わるのだ。2〜3年も経った段階で、「この辞書、良い辞書だったけど、もう良いや」と判断し、次の辞書に移行するぐらいがちょうど良
い。古い辞書にしがみついていても、良いことはない。
(調べもの目的で古い辞書を使うことはある。例えば20世紀初頭に書かれた文献を読む際に、同じ頃に発行された辞書を見てみる、といった場合である。その
後に出てきた語義に惑わされないためには便利な手法である。いつもいつもOEDばかり信用するわけにはいかんし。…しかし、もうおわかりの通り、英語習得
目的の辞書の使用はまったく別の話である。)
選ぶ時には、ここで紹介する情報を参考に、本屋さんであれこれ手にとって見ることをお勧めする(実は英英辞典が良いに決まっているんだけど…)。示した値
段は、あくまでも目安(特に洋書の場合、値段は微妙に変わるので)。
ちなみに、辞書に書いてある「収録語数」というのは、かなりおおざっぱな目安である。そものも何を数えているのかの基準が決まっているわけではないのだ。
「9万語」と「7万5千語」が実はほとんど同じだったりする。とりあえず「10万と5万なら10万の方が多いな」ぐらいに考えておくぐらいで良い。もっと
大事なことは他にある。
なお、発行年代が1年ぐらいズレたりするのは普通なので、あまり気になさらないよう。(日本の)出版社としては、学校関係の新学年が始まる3〜4月にドー
ンと売れて欲しい。
だから「その年に出たばかりの新しい辞書」っていう印象を与えるために、その年の発行ですよと言いたくなる。ところが、これを学校関係者に選んでもらうた
めには、前もって関
係者各位に見てもらわないといけない。そのためには前年の秋〜冬には出しておく必要が生じる…という仕掛け。まぁ、良いじゃないですか。そういう具合に
やっておられるんだから、大きい心で見てあげよう。
ここでは、(1)英和辞典、(2)和英辞典、(3)英英辞典、(4)その他、の4つに分けて紹介。電子辞書についても、中身は「○○社
××辞典」であるから、以下の情報をそのまま参考にしてもらえれば良い。
<コンピュータ上での辞書>
まぁ、この駄文をコンピュータのモニターで眺めておられる時代だから、こういうことも紹介しないわけにいかない。昔からコンピュータを買うと辞書がついて
きたりしたものだったが、まぁ使えるもんじゃなかった。ところが、Mac OS X
スノーレパード(10.6)に付いてくる辞書群には、ちょっとびっくり。ここでの話の都合上、国語辞典の「大辞泉」と「類語例解辞典」、それに「ウィキペ
ディア」読み込み機能はさておくとして(しかし便利ですよ)、英語の辞書としてはNew Oxford American Dictionary
と小学館「プログレッシブ英和辞典」「プログレッシブ和英辞典」が付いている。使い勝手も良い。今、あなたがこうして眺めておられる画面上に表示され
ている英語の単語上にカーソルを当てながら「コマンド+コントロール+D」と押せば、アッと言う間にその語義が表示される。もちろん、アプリとして立ち上
げて使うこともできる。さらに、スクリーンセイバーとして辞書項目をランダムに表示させることもできる。楽しい時代になりましたなぁ。
また、Jamming と
いうプ
ログラムは大変便利で、いろいろな辞書のCD-ROMがこれで読める(2010年3月現在、これは Logophile
という新しいソフトになって対応辞書も増えた。マック版である。ウィンドウズ版もそのうち出るそうである。)そのCD-ROMに
Win××用とか書いてあっても関係な
く、そのデータを変換して(WinでもMacでも走るプログラムで)読むのである。ということは、元のCD-ROMはとりあえず不要となってしまうのであ
るが、えーコホン、ちゃんと当該CD-ROMを正規に買った上で使いましょうね…。この開発者には心からのありがとうを送りたい。
もう一つ、(日本にいれば)無視できないのがEPWING と
いう形式。この形式は、辞書データにおける標準規格になろうとしているものだけあって、いろいろなソフトが対応している。上記Jammingもそうだし、
Mac OS X ならコトノコという無料ソフト もある。この形式に
なっている辞書なら問題なく読める(例えば研究社の大英和、大和英、リーダーズ英和など)。それ以外の場合でも、「○○辞典の
EPWING化」のための道具が用意されている場合がある。まぁ、適当に調べて(例えばこちら とかに情報がありました)、やってみて
ください。
<補足> 「電子辞書」その他のメディアについて
いわゆる紙の辞書にせよ、電子辞書にせよ、CD-ROM版にせよ、ウェブ上のオンライン辞書にせよ、ただメディアが違う
だけである。だから、まずは中身、それから使い勝手が勝負となる。「電子辞書は紙の辞書と比べてどーのこーの」というのは、電車が良いのか自動車が良いの
かという話に近い。要するに、到着する値打ちのある目的地により快適に着けば良いのである。
ただし、一般に、学習辞典は紙の方が見やすいのは事実である。これは当たり前である。作る側がそれを前提
に作っているからである(多くの英語の先生が、「紙の辞書の方が良いよ」と言う背景にはこれがある)。そのうち、電子辞書として使われることを前提に一か
ら編集された学習辞典が出るかも知れない。そうなれば、対等な勝負となろう。
また、昨今の傾向として、すごく良い辞書を気前良く無料オンライン公開している場合が多い(COBUILD や LDCE
など)。やや古い版である場合が多いが、それでもせいぜい数年遅れといったところである。せっかく買った辞書を何年も使わない人もいることを考えると充分
に新しいという言い方もできようか。
問題は、携帯に便利な電子辞書というやつ。確かに便利そうに見える。事実、便利に使っておられる人もあろ
う。それはそれで良いと思うが、(1)基本的に見やすいとは言えない、(2)入力しやすいとは言えない、(3)要らんものもゴチャゴチャついてく
る、(4)ちょっと電池がなくなったり、故障したりしたらオシマイ、等々ストレスの多いものでもある。「自分は何のために辞書を使うのか」をもう一度考え
てから決断されることをお勧めする。「携帯に便利なものを使うため」なのか。「英語習得のため」なのか。「翻訳仕事で出てくる変な単語を調べるため」なの
か。等々。
その上で敢えて電子辞書を買う時の心得は、ズバリ:値段で選んでは
いけない 。例えば、2万8千円前後
の価格帯で各メーカーが争っていたら、ついそのあたりに目が行ってしまうものだ。収録辞書のリストなんか見ても、確かにお買い得に見える。しかし、そこで
敢えて
スッと3万円台の商品に目を移すべし。わずかな価格差で、驚くほど中身や使い勝手が違うのだ。「ちょっと高めのやつ」を選ぶだけで、今後2〜3年のあなた
の英語習得に大きな好影響を与える。2万8千円が払えるんなら、3万3千円だって払えるものである。こういう時、わずかな金額をケチッてはいけない。
安物の電子辞書は中身がどーしよーもなく悪いことが多い。あれなら無料の翻訳ソフトでも使った方が早いって。哀しいことに、お金の原理で動いている市場で
は、安くて悪いものを買わせようとする力が渦巻いている。まぁ、どんな分野でもそうですけど、「重い辞書を運ぶのはイヤだし、かと言ってお金も使いたくな
い」という怠惰な
精神には、それなりのものしかやって来ないのでありますなぁ…。
あなたという存在は、多分あなたが思っている以上に大規模で精巧な学習装置である。自分にとって良いものをちゃんと探して自分に与えてあげる、これが重
要。
ー 自分に合った辞書選びの三原則 ー
辞書は、新しいほど良い。愛用の辞典の新版が出たら、迷わず入手すべし。たとえ同じ名前の辞書でも、版が違えば、別の本。(ただし、新しく出
たものが常に必ず良いとは限らないので注意。)
英語の習得を目指すなら、学習辞典が最適。携帯用の小型辞書は避けるのが賢明。
欲しくなった辞書は、入手すべし。書いている人のすさまじい努力の量を考えれば、映画二本程度のお金で辞書一冊買えるのは、極めて安い。何冊
か比べるうち、良し悪しが実感できる。
…やがて自然に、「何だか使いやすい」「気に入った」辞書が出てくるもんです;それ
が一番♪
結局、あなたにとってどれが良いのかは、知りまっしぇ〜ん。自分に合った辞典を選ぶには、それなりの手間をかけないと。良いものをいろいろ見てくれ、とし
か言いようがない。例えば、chase
も pursue も「追いかける」という意味だが、chase が単に「追いかける」なのに対し、pursue
は興味などを追求するという意味で使うことが多い。この違いがバチッと載っていないようでは、学習辞典として不合格。また、例文も良い判断材料である。ど
う考えてもこんな不自然なこと言わんぞ、そもそも日本語がオカシイじゃないの、という用例が次々に出てくるような辞書は、まずダメ。
なお、辞書は、普通、何人かが集まって書くから、一つや二つの項目だけで判断すべきではない。いくつかの項目を検討し、またザーッと全体を見渡し、とやる
のが正解。
で、まぁまともだな、と判断できるモノの中から、今度は自分にとってわかりやすい、役に立つものを選ぶ。こうなると感覚と好みによる部分が大きくなる。ネ
チネチと言葉で解説してあるのが好きな人もいるし、直観的にスパッと書いてあると気分良くピンとわかる人もいる。十人十色だ。だから、この辺は、自分で確
かめてくれ。表紙の手触りや、(本の)開き具合も、意外と大きなポイントである。
世の中、進歩している。やはり内容は正確で、しかも学習者に役立つ情報を提供できないようではダメ、となってきた。英国では30年も前にその原則で辞
書を作り出し、今では極めて良質の学習辞典が三つも四つもできている。日本もまた、その方向に進んでいる。特別な理由があれば別だが、こんなに良いものが
そろっているのだから、使わない手はない。
悲
しいほどレベルの低い「英語本」があふれる中、一般に辞書のレベルは高い。単語が覚
えたいなら、おかしな単語本に手を出すよりも英和辞典の重要語句だけ
を拾い読みした方がはるかに早いし、また楽しいので続く(これ、私もやったことがある)。一般に語学力向上には音読+辞書なんだから、まず必要な道具は賢
く選ぼう。そのためのご案内です♪