2012年1月5日01時06分
小石川植物園の名で親しまれる東京大学理学系研究科付属植物園(東京都文京区白山3丁目、約16万2千平方メートル)の敷地が、塀の改修と周囲の区道の拡張で約1200平方メートル縮小される。江戸時代にほぼ現在の形ができあがり、縮小されるのは明治時代に民有地との交換があって以来約100年ぶりという計画に、近隣住民らから中止を求める声が上がっている。
塀の工事が実施されるのは同園南西の正門側と、南東の御殿坂沿いの側面。以前から塀が老朽化して危険だという意見が区や東大に寄せられていた。塀のデザインはコンペで公募、現在のコンクリート製の塀を取り払って、中が透けて見える鉄製のフェンスを新設する。
周囲の歩道が「狭くて危険だ」という近隣住民の声が多数寄せられていることから、塀の改修に合わせて園の敷地を削って、区道の幅を最大3メートル拡張する。御殿坂側は平均1.9メートル、正門側は平均1.3メートル幅で削られる。塀の改修費を基本的に区が負担し、東大が拡張される部分の道路使用を承諾した。工事は2015年度に完了する予定だ。
近隣に住む男性(64)は「すれ違う時に車道に出なければならない場合もあり危ない。住民の利便性も重要」と話す。区も「歩道と塀が整備されれば園との一体感が生まれる」と説明している。
一方で、近隣住民が結成した「小石川植物園を守る会」は、中止を求めて署名運動を進めている。正門前で来園者を中心に署名を集め、昨年の12月13日に3378人分を区長と東大に提出した。
昨年9月の区の調査によると、拡張工事では47本の木の移植や111本の伐採、剪定(せんてい)が行われる予定で、同会は園内の環境への影響を懸念する。特に御殿坂側には大きな樹木が多く、工事によって根が傷つくことを心配する。
同会の稲葉信子さんは「植物が失われるだけでなく、園内に生息する生物にも影響する。民有地を買い上げるなど選択肢は他にもあるはず。もっと時間をかけて周知し議論するべきで、文化的にも歴史的にも、また研究施設としても貴重な植物園の重要性が考慮されていない」。
区は住民との協議会や説明会で了解を得ているとして、計画の変更は予定していない。東大施設部の担当者は「植物園を大事にしたいという気持ちはありがたいが、東大としては街づくりに貢献し、植物園が地域の人に愛されるようにと計画を進めている」と話している。(松本千聖)
◇
〈小石川植物園〉 東大の付属研究施設。1684年に徳川幕府が作った「小石川御薬(おやく)園」が前身。1721年にほぼ現在と同じ広さになり、1877年に東大が設立されて付属施設になった。面積は約16万2千平方メートル。約4千種の植物が植えられている。規模縮小は1903年に北側敷地境界の変更があって以来。