「ラーメンもプロレスも“何でもあり”」
語ろう、1.8レジェンド・プロレス(PART.4/石神秀幸編)
2011年1月に旗揚げした『レジェンド・ザ・プロレスリング』。これは、かつて“金曜夜8時”に一大プロレスブームを巻き起こした立役者たちである藤波辰爾、長州力、初代タイガーマスクが中心となって定期開催をしているイベントで、いま、このレジェンドの会場が熱い盛り上がりを見せている。
そこで今回、12月19日に新創刊となった“世の中とプロレスするひろば”『KAMINOGE』(かみのげ/東邦出版)編集部が、新春1月8日に後楽園ホールにて開催される『LEGEND THE PRO−WRESTLING 2012』に向けて、“上野毛道場伝説”を作った男たちに敬意を表し、“昭和新日本”“金曜夜8時”に熱狂させられた漢(おとこ) 達にインタビューを敢行。それぞれに当時の熱い思いや、1.8後楽園大会の展望などを語ってもらいながらプロレス界において新たなマーケットを開拓したレジェンドを検証していく。
PART.4となる今回は、ラーメン評論家として名高い石神秀幸さんです。
【聞き手:井上崇宏(『KAMINOGE』編集部)】
■ラーメンってよくプロレスに例えられるんです
――石神さんはラーメンのみならず、プロレスに関しても相当造詣が深いらしいですね
石神 いやいや、そんなことないです。単なるファンですよ(笑)。僕もどうしても始まりはアントニオ猪木さんになってしまうんですけど、ものすごく猪木ファンで、やっぱり僕らの少年時代っていうのは「新日派」と「全日派」にはっきり分かれていて、僕は圧倒的に新日派でした。猪木さんの異種格闘技戦も含めて新日が好きになって、そこに佐山聡の初代タイガーが現われて圧倒的に魅せられちゃったという感じですよね。当時は全日の「リングアウト寸前でリングに戻ってきて勝ち」的なああいうプロレスがちょっと好きじゃなかったんで……(笑)。完全な新日派でした。
――全日はご覧になってなかったんですか?
石神 うーん、強いて言えば長州さんたちが全日に行ってからは観てましたよね。ああいう軍団同士の対抗戦みたいな面白さで。だけど、SWSが誕生して全日の選手が大量離脱して、残ったジャンボ鶴田がやたら強くて、三沢たちを蹴散らしていったことで四天王プロレスが盛り上がった時代は観てましたね。子どものころは全日を観るヤツなんて年寄りだけでしたから。だから、うちは自宅のとなりにじいちゃん、ばあちゃんの家があったんですけど、夕方に行くとそっちに行って全日を観てましたね(笑)。
――我が家は新日、隣では全日と(笑)。べつに時間帯がかぶってるわけじゃないんだから、どっちも自宅で観たらいいじゃないかと思いますけど(笑)。ちなみに新日本の大ブーム時代っていうのは、ラーメン界はどのぐらい熱かったんですか?
石神 えっ?(笑)。そのころは僕もまだ小学生だから、まだそんなに何ラーメンがっていう感じではないです。ラーメン自体は昭和30年代後半ぐらいから味噌ラーメンブームっていうのはありましたけど、僕の小学生時代っていうのは、しいて言うと博多ラーメンが東京でやっと食べられるようになってきたっていう感じですかね。
――いわゆるラーメン界では新日派、全日派みたいなのはなかったんですか?
石神 ないですね。それはいまでも特にないです(笑)。
――でも、ラーメン界もいまは多団体時代を迎えているというか、多種多様なバリエーションがありますよね
石神 そうそう、ラーメンってよくプロレスに例えられるんですよね。正道も邪道もないっていうか、「なんでもあり」っていう。本当は凶器を使っちゃいけないんだけど、5カウント以内ならOKだとか、なんでもありなところがラーメンの面白さっていう。
――旨けりゃいいだろっていう
石神 そうです。それがそばだったりすると、「こんなものはそばじゃないよ」とか、日本料理の格式とかがあるじゃないですか? そういうのが何もない、下手するとスープがないものでもいまは「油そば」として扱われていますし、それこそ醤油ラーメンと豚骨ラーメンはまったくべつの食べ物と言ってもいいぐらい違うと思うんですけど、それでもありだし。チーズが乗ってるものもあれば、イチゴが乗ってるのもありだと。だから、旨けりゃいいというか、それ以前に店のオヤジが「これがラーメンだ!」って言えば、下手すれば麺が入っていなくてもラーメンじゃないかっていう(笑)。
――麺が入ってなくても(笑)。言い切ったもん勝ちみたいな
石神 スープがないものはすでにありますからねえ。
――「なんでもあり」といっても、そこはMMAじゃなくてプロレスっぽいですね
石神 そうですね。ラーメンはそっちだと思います。
――たとえば、猪木さんのように現代のスタイルに対して苦言を呈するような人もラーメン界にはいらっしゃるんですか?
石神 それはいますよ。「中華そば原理主義者」って呼ばれる人がいますから。
――中華そば原理主義者!
石神 最近のラーメンは「超濃厚、ドロドロ、ギトギト」とかが多いんですよね。やっぱり中華そば原理主義者は「そういうのはラーメンじゃない!」と言う。「ラーメンっていうのは昔ながらの鶏がらで取ったあっさり醤油スープに、ちぢれ麺。それ以外はラーメンとは言えない!」みたいな、そういう人はいますよね。でも、それってやっぱり進化を止めちゃうんですよね。豚骨だっていまだに東京の年配の人は、「あんな白いスープはラーメンじゃねえよ」とか、逆に博多の人に言わせると「豚骨以外はラーメンじゃない」って。そうするとやっぱり新しい味が出てこない。「これはラーメンという枠にとどまるものじゃない」って言っちゃうと新しい味も出てこないので、進化が止まっちゃうというのはありますよね。
――石神さんのスタンスとしては、やはり全部OKだという?
石神 僕はなんでもありですよ。個人的に好きなもの、嫌いなものっていうのは多少ありますけど、「これはラーメンじゃない」っていうのは、なんでもありが面白いはずのラーメンの魅力を止めちゃうなっていうふうに思いますよね。
■藤波にはシャアに通ずる哀愁がある
――初代タイガーの登場に衝撃を受けたということですが
石神 初代タイガーと、あとはやっぱり長州さんも好きでしたね。藤波さんは、「敗れていく者の魅力」みたいなものでしょうね。やっぱりジュニア時代にアメリカから凱旋してきて天才的なレスラーだったのに、途中で長州さんの「かませ犬発言」によって噛みつかれ、のちに圧倒されて滅びゆく感じが、ガンダムで言うところのシャアみたいな。
――藤波さんはシャアですか(笑)
石神 シャアも最初は圧倒していたアムロに抜かれ、ララァにも抜かれ、Zガンダムでは「ニュータイプの成り損ないが」みたいに言われて落ちていくじゃないですか。そういう魅力、哀愁ですよね。そこを藤波さんにも感じましたね。
――いわゆる哀戦士という
石神 そうですそうです(笑)。その美学がありましたね。一方の長州さんは当時の新人類というか、革命戦士としてのインパクトがありましたね。僕が個人的に長州さんに思い入れがあるのは、長州さんはジャパンプロレスを作ったじゃないですか? あのジャパンプロレスの事務所が僕の家から歩いて3分くらいのところにあったんですよ。
――あっ、そうだったんですか。池尻大橋ですよね?
石神 そうです。で、僕も好きなもんだからよく行ってて、そうすると長州さんが外で水をまいていたりして、僕らが「うわーっ、長州だ!」とか言ってると、長州さんに「このガキめ!」ってふざけて水をぶっかけられたりとか、そういうのが楽しかったという思い出がありましたね(笑)。あとは、その後の橋本真也との遺恨や、大仁田厚とか、プロレスをガッツリ盛り上げてくれた人っていう感じですね。あとは『週刊プロレス』のターザン山本との確執とか。もう、存在自体でピリピリさせるところが昭和のプロレスラーとしての迫力を感じさせますよね。
――余談ですけど、むかし駒沢にあったラーメン屋『パワー亭』に行かれたことはありますか?
石神 もちろん! 名前のとおり長州さんの知り合いの人がやってたんですよね?
――たしかそうですね。オープン当初に行ったことがあるんですけど、どんなラーメンだったかまったく憶えてないんですよね(笑)
石神 僕もオープンのころに何回か行きましたね。で、やっぱり味をあんまり憶えてないですね(笑)。たしか味噌ラーメンが人気だったような気がしますね。
――あと、三軒茶屋に永源遥さんの身内の方がやられていた『永源ラーメン』っていうのもありましたよね
石神 ありましたねえ。もう店先からスープの臭いがきつかったですよね(笑)。それって、当時からしっかりとした豚骨を出していたと言えるかもしれないですね。
■レジェンドがウケてるのは当たり前の流れ
――それで、すいません。今回は『レジェンド・ザ・プロレス』のお話でした(笑)
石神 あのー、レジェンドがいまウケてるっていうのは、それはごく当たり前の流れだと思いますね。プロレス界の『コミックパンチ』ということだと思うんですけど、やっぱり昔人気だったマンガが10年、20年ぐらいの間をおいて、いま復活しているじゃないですか。『キャプテン翼』もワールドユースになったり、『シティハンター』がリニューアルされてやってたりとか。いまの子どもって少子化で人数が少ないじゃないですか? で、当時のプロレスやマンガのカルチャーを支えていた層が、高校生になってだんだん年齢が上がっていくと、ちょっとプロレスやマンガから離れる時期があったんですよね。でも、そこからさらに歳を重ねるとまた余裕が出てきて、いまはフィギュアなんかも大人買いをするじゃないですか、われわれの世代って。日本も成熟国になってきて、仕事がない、不景気だと言ってもなんとかやっていける状態で、そういう趣味にお金をつぎこめる状況ですから。そうすると、昔好きだったマンガやプロレスに戻ってくる。で、その層っていうのは人数でも圧倒的じゃないですか。
――我々はいわゆるベビーブーム世代ですからね
石神 そうですよね。そういう意味では『ガンダム』とかがいまだに人気があるのもそこに理由があると思うんですけど、そこで昔の凄みたいなものも兼ね備えているレジェンドのようなプロレスにファンが帰ってきてるっていうのはこれはまっとうな話ですよね。昔の怖い、リングの上での闘いだけじゃなくて思想とか、存在感の怖さに魅力を感じるっていうのは当然なんじゃないですかね。
次の対戦カードを見せてもらっていいですか? えーと、藤波&長井満也組vs.藤原喜明&石川雄規組? これはU系のなかに藤波さんが紛れこんじゃってる形ですね。こういう、なんとなく紛れこんじゃう藤波さんの「なんとなく感」が、無我な感じがしていいなっていう気はしますね(笑)。
――主役のはずなのに間違い探しのようになってるという(笑)
石神 でも、ここでもドラゴンリングインをして浮いてしまう感じが藤波さんらしくていいなっていう(笑)。で、ちょっと待ってくださいよ。この長州vs.橋本大地っていうカード……これは誰が求めたんですか?
――といいますと?
石神 だって長州さんと橋本真也って、ものすごい確執があったじゃないですか。そういう背景を知ってる側からすると、非常にゾクゾクする感じはしますよね。
――親父と確執のあった人間に挑むっていう
石神 これがまたプロレスの魅力ですよねえ。選手同士の確執が未来にも続くっていうのがビックリですよね。これは織田信長と森欄丸的というか、そういう戦国絵巻を感じますね。まあ、橋本大地はあっさりと、長州さんが横綱相撲で胸を借りるまでにも至らないとは思います。だけど、そこで親父が命をかけて闘った相手の怖さを知って、またひと回り大きくなってほしいなっていうことなんでしょうね。いやあ、これはゾクゾクしますねえ! 本来ならこの1試合だけで十分ですよ。それと、初代タイガーvs.エル・サムライですか。これはタイガーがサムライの土俵に乗って闘うのか、それとも佐山サトル的なところを出していくのか、そこが気になりますよね。
――石神さんの言う、サムライの土俵っていうのはどんなところですか?
石神 えっ?(笑)。いや、よくは知りませんが(笑)。初代タイガーっていまもタイガーマスク的な動きをするんですか?
――普通に空中殺法を駆使してますね。あと小林邦昭と闘ったりとか
石神 マジですか? 佐山さん、いまだにそんなに動けるんですか? ローリングソバットなんかもできるんですか?
――できますね。小林さんはやっぱり覆面を破りますし
石神 それは観たいなあ! なるほどなあ。やっぱり我々にとっては、藤波さん、長州さん、タイガーっていうのはプロレスが好きだった子どものころの象徴ですからね。
――最後に、プロレスから人生を学んだ部分ってありますか?
石神 やっぱりラーメンもプロレスもそうなんですけど、「制約は持たない」っていうことは思っていますね、常に。自分に対してもそうですけど、制約を持っちゃうとつまらないじゃないですか? 広がりがなくなってくるし。仕事でもなんでもそうですけど。それはモロにそうかなと思いますね。
――「なんでもありでいいじゃん」っていう
石神 やっぱりだんだん歳を取ると、それこそラーメンもそうなんですけど、最近は本当にいろいろ変わってるのが出てきて、「これはさすがにダメだろ」って思うときもあるんですけど(笑)、そう思ったらやっぱり終わりだと思うので。長州さんと確執のある相手として大仁田さんが出てきたとき、大仁田さんは「邪道」って言われていて、それでもあれはすごく評価されたじゃないですか? そういう意味ではいまのプロレスもこれからまた進化していくと思うので。いまの若い人たちにとっては温故知新という言葉もあるように、レジェンドの人たちの怖さをいまの選手たちも汲み取ってもらって新しいものを作ってもらえたらと思いますよね。
●石神秀幸プロフィール
中学生の頃より食べ歩きを始め、テレビ東京系「TVチャンピオン」ラーメン王選手権連覇。ラーメン評論家、フードライターとして活動を始める。
「和歌山ラーメン」「Wテイスト」「スープOFF」など数々のブームを起こし、「インスパイア系」「鶏白湯ラーメン」などのジャンルも確立。また、数種類の麺を一杯の丼の中で合わせたり、数種類の香味油を使い分けて複数のメニューを提供するといった技法の考案者でもあり、ラーメン業界に与えた影響は計り知れない。
その後ラーメン店やカップ麺などのプロデュース、飲食店の経営、コンサルティング活動など幅を広げ、また調理師の免許も取得しており、包丁を一切使わずにキッチンバサミだけで、おつまみから和・洋・中の料理・ラーメンに至るまで簡単に料理が作れるレシピ本「石神秀幸 チョキチョキクッキング」を発売するなど、現在では”食ソムリエ”として食全般にわたり活躍中。
現在でも1年365日昼・夜・深夜の3食、和・洋・中・焼肉・ホルモン等いろいろな料理を食べ歩いている(ブログを参照:http://ameblo.jp/ishigamihideyuki/)。
日本を代表する料理人で構成された組織「超人シェフ倶楽部」のメンバーにも選ばれ、理事を務める。著書も30冊以上執筆。(株)ZETTER代表取締役。
■LEGEND THE PRO−WRESTLING 2012
2012年1月8日(日)東京・後楽園ホール 開場11:15 開始12:00
【対戦決定カード】
<メーンイベント 第6試合 タッグマッチ 60分1本勝負>
藤波辰爾、長井満也
藤原喜明、石川雄規
<セミファイナル 第5試合 シングルマッチ 60分1本勝負>
長州 力
橋本大地
<第4試合 シングルマッチ 45分1本勝負>
初代タイガーマスク
エル・サムライ
<第3試合 タッグマッチ 30分1本勝負>
田中将斗、石井智宏
本間朋晃、アレクサンダー大塚
<第2試合 タッグマッチ 30分1本勝負>
ヒロ斉藤、ベアー福田、倉島信行
スーパー・タイガー、タイガー・シャーク、間下隼人
<第1試合 新春!お年玉マッチ 30分1本勝負>
菊タロー
えべっさん
お問い合わせ:LEGEND THE PRO-WRESTLING実行委員会 03-5951-1488
“世の中とプロレスするひろば”
『KAMINOGE』(かみのげ)創刊!!
東邦出版より絶賛発売中!(定価/税込1000円)
[巻頭スペシャルインタビュー]
2011年の甲本ヒロト
「僕が一番怖いのは、バチが当たること。幸せすぎる人に与えるバチというものがあるとし たら、それだけは当てないでほしいの。幸せのまんま放っといてほしい」
桜庭和志
「問題の“カブラル”戦、そして今後について語る」
LEGEND対談 “上野毛道場をまたいだ男達”
藤波辰爾×長州力×初代タイガーマスク
「来年は下関市役所の職員全員が、タイガーマスクをかぶって仕事するから」(長州)
ほか、所英男と語る 『元気ですか!! 大晦日!! 2011』 座談会、快楽亭ブラックが語る「立川談志」、ザ・ グレート・サスケ「岩手県議選に再出馬も落 選!」、マッスル坂井・坂井良夫「新潟在住・坂井 親子が育児を語る」、吉田豪が角川春樹氏の娘に迫る、田村潔司×山口日昇など、盛りだくさんの内容です!
・LEGEND THE PRO-WRESTLING公式サイト(外部) (2011/12/29)
・話題の『燃えろ!新日本プロレス』誕生秘話 (2011/12/29)
・DJ JIN<ライムスター>「“レジェンド”がグッとくるのはもう間違いない!」 (2011/12/25)
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・約14年ぶりの藤波VS長州に観客が熱狂 (2011/1/10)