2012年1月5日03時00分
■すし店経営者に罰金
酒類販売業免許がない名古屋市港区のすし店経営者(38)が、入手が難しい「プレミア焼酎」をインターネットオークションなどで違法に転売し、約2年間で約1億1千万円を売り上げていたことが分かった。名古屋国税局は酒税法違反(無免許販売など)で経営者に罰金50万円の納付を通告したほか、約1500万円の所得隠しを指摘したという。
関係者によると、違法転売された焼酎は、鹿児島県や宮崎県で製造された「魔王」や「佐藤」「百年の孤独」「萬膳(まんぜん)」「なかむら」などの銘柄。生産が少ないうえ蔵元が特約店にしか卸さず、市場で品薄が常態化しており、プレミア焼酎と呼ばれる。仕入れた価格の1.5〜3倍で、酒の販売店などに売られていたという。
経営者は2009年春から、名古屋市や近郊の特約店に「ゴルフコンペの景品に使う」とうそを言ってプレミア焼酎を他の焼酎と抱き合わせて仕入れ、ネットオークションで売っていた。特約店とは以前から取引もあり、入手しやすかったという。日本酒も販売していたという。
ネットで焼酎を買った一部の販売店はその後、この経営者と直接取引した。「免許がある」と聞かされたこともあったという。
関係者によると、11年夏までの2年3カ月間で関東、関西地方など1都2府8県の十数社に、日本酒を含めて、一升瓶(1.8リットル)換算で約2万本分を売ったという。売り上げは約1億1千万円だったとみられる。
経営者は、販売代金を妻名義の口座に振り込ませて所得を隠したとされる。国税局は、消費税や重加算税を含め約400万円を追徴課税したとみられる。
経営者は11年7月、酒類販売業免許を取得した。しかし、ネット販売に必要な通信販売酒類小売業免許は取っていなかったという。
経営者は、手元の焼酎が高値で売買されているのを知って、ネット販売を始めた。朝日新聞の取材に、「当初は免許が必要ないと思っていた」と話す。すでに免許を返上し、罰金や税金を納めているという。
■定価3千円→1万円に
プレミア焼酎について、大阪市内で酒屋を営む男性(54)は「一時の焼酎ブームの時ほどではないが、人気は健在」と話す。
男性によると、プレミア焼酎の多くはメーカーが特約店に直接卸している。特約店の数は限られているため、問屋などに転売されたものを定価より高い値段で買い入れる酒屋もあるという。男性は「客から『置いてないのか』とたびたび聞かれるが、簡単に入手できない」と言う。
神戸市内で飲食店を経営する男性(34)は、2年前に百貨店に注文していたプレミア芋焼酎を先日ようやく入手した。ネットでも出回っていたが、定価の3倍以上。他の銘柄も入手しようとしたが、適正価格では手に入らないという。「流通過程で何人もの人が介在し、値がつり上がっている」とこぼす。
こうした中、今回のような違法なネット転売が広がっているとみられる。2010年までに、酒類販売業免許がない九州の46の個人と法人が鹿児島県で製造された「森伊蔵」などをネットで販売したとして福岡国税局などに摘発された。定価3千円の焼酎が1万円以上で売られるケースもあるといい、ネットオークション大手の「ヤフー」はサイトで酒類販売には免許が必要と注意を促す。
「魔王」の蔵元の白玉醸造(鹿児島県)は「一般消費者による違法な転売を防ぐのは困難で、消費者のモラルに頼るしかない」と頭を痛める。
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〈酒類販売業免許〉 酒類を継続して販売するには酒税法で定めた販売管理体制などを満たし、販売場を管轄する税務署長から免許を受ける必要がある。無免許や、免許があっても条件違反の時は1年以下の懲役または罰金50万円以下の罰則がある。