12年がスタートした。今年は消費増税法案の国会提出が予想されるほか、エネルギー政策の抜本見直し、海外では米露仏の大統領選など「節目の年」となりそうだ。欧州債務危機や歴史的な円高、原発事故による電力不足など経済社会の課題が山積する中、私たちの生活と日本経済はどこに向かうのか。トップリーダーに聞いた。
--12年は、どんな年になってほしいですか。
◆東日本大震災の本格的な復興が一番重要だ。東北の被災地の人たちの生活を安定させ、産業も復興させていくことだ。復興が始まると、経済も活気が出てくると思うので、経済界もいろんな形でサポートしたいと思っている。
--若者がやりがいをもって働き、お年寄りが安心して暮らせる社会にするには、どうすべきでしょうか。
◆持続可能な経済成長が重要だ。消費増税も「なぜこの時期に」という声もあるが、社会保障の目的税となれば抵抗感も少なく、安心してもらえるのではないか。もちろん生活に苦しい人が食料や薬を買う場合は、ちゃんと税金を払い戻してあげる制度も必要だ。消費税を引き上げ、社会保障制度を完備することが将来の安心につながると思う。
--震災後の世論調査では6~7割が脱原発を望んでいます。
◆脱原発は人類の夢だと思う。その夢を実現するため、どうすればよいのか。私の会社(住友化学)も再生可能エネルギーを必死にやっているが、火力発電などに比べるとまだ高い。もっともっと研究開発を加速することが必要だ。その結果として、原発の比重が下がっていくのは本当に喜ばしい姿だと思う。
--経団連は「原発推進」ではありませんか?
◆いや、僕らはそんなこと一回も言ったことがない。ただ、政府のトップが「脱原発」と、何の筋道もなく、国民の感情をかき立てるようなことを言うのは無責任だと言っている。政府には、どうやったら安定した電力の供給ができるか、ちゃんと筋道を立てたエネルギー政策をまとめてもらいたいと思っている。
--環境分野に強い日本は、再生可能エネルギーや「スマートシティー」と呼ばれる次世代環境都市の技術を完成すれば、世界をリードできるのでは。
◆まさにその通り。経団連は「未来都市モデルプロジェクト」という実証実験を推進中で、環境エネルギー、交通、医療、農業などの分野で、先端技術を用いて電力をムダなく効率よく使う研究をやっている。完成すれば新しい産業として、未来的な都市づくりができる。国内だけでなく、輸出もでき、新しい需要を生み出すことになる。そのためにも海外との経済連携協定は重要で、日本は世界と一体化していく。そのために必要な条件は何かと言えば、やはり人材と技術力だろう。【聞き手・川口雅浩】
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■人物略歴
1960年東京大卒、住友化学工業(現住友化学)入社。同社社長、会長を経て、10年5月から経団連会長。74歳。兵庫県出身。
毎日新聞 2012年1月5日 東京朝刊