東京電力福島第1原発事故で放射能汚染の不安が続く中、首都圏にある九州・山口の自治体アンテナショップなどで、九州・山口産の米や野菜が人気を集めている。熊本県産の米は前年比4~10倍の売れ行き。各店舗は「原発事故が原因のようなので素直に喜べない」と複雑な表情を浮かべながら、野菜の販売コーナーを拡充するなど対応に追われている。【吉川雄策、写真も】
「いらっしゃいませ!」。昨年12月28日、熊本県のアンテナショップ「銀座熊本館」(東京都中央区)。午前11時の開店と同時に、キャベツやトマト、ニンジンなどを買い求める客がレジ前に列をなした。商品の値札貼りが追いつかないほどの混雑ぶりだ。
同店によると、野菜の売り上げは昨年7月以降、前年比2~3倍の伸び。米は8月以降、4~10倍に増えた。取り扱う野菜の種類を増やし、約25種類を毎日、熊本県から取り寄せている。
同店を訪れた横浜市の主婦(35)は約4000円分の野菜を購入し、「放射能汚染の不安は大きく、この店での買い物は安心できる」。同様の声が多く寄せられるという同店は「原発事故が原因なら素直に喜べない面もあるが、一度買った客からはおいしいとの反応があり、リピーターも増えた」と話す。
山口県のアンテナショップ「おいでませ山口館」(東京都中央区)でも、昨年7月ごろから米や野菜を買い求める客が目立ち、同7~10月にはタマネギが前年比1・5倍の約700個、県産の新米も9月から年末まで1・5倍に。野菜全体で前年比7割増の売れ行きが続き、人気は衰えていない。石川隆三店長は「最近は山口出身者でない客が増えた。客の安全安心の期待に応えられるように山口の農作物の充実を図りたい」と語った。
また震災直後に東京都の水道水から放射性セシウムが検出されたことから、九州・山口の商品を扱う物産店「ザ・博多 有楽町店」(東京都千代田区)では、子育て中の女性らが大分県産の天然水を求めて駆け込み、売り上げが通常の5~6倍になったことも。保存食として、豚骨味のカップラーメンを買い求める客も多いという。
2012年1月4日