官邸の5日間(連載第1回)
朝日新聞朝刊に連載中の「プロメテウスの罠」の本日(2012年1月3日)掲載分を以下に引用します。
プロメテウスの罠
■官邸の5日間:1
米軍には伝えていた
震災から4日目、昨年3月14日朝のことだ。
外務省北米局日米安全保障条約課の外務事務官、木戸大介ロベルト(33)のところに横田基地の在日米軍司令部から電話が入った。
「原発事故の支援に際して放射能関連の情報が必要だ。政府が情報を有しているなら提供してほしい」
当時、外務省は昼夜12時間の2交代で動いていた。木戸は朝9時に登庁し、仕事を始めたばかり。上司の許可を得て、経済産業省など思い当たる省庁に電話した。電話はあちこち回された末、文部科学省の防災環境対策室に行き着いた。
室長補佐の澄川雄(33)は「防災関係者で活用する分には提供して構わない」と答えた。
木戸は担当者に「データを直接米軍に提供してほしい」と伝えたが、「震災後のどたばたで手が足りません」。木戸は「それなら私の方でリレーしましょう」と答えた。
午前10時40分、木戸のパソコンに原子力安全技術センターからメールが届く。文科省の委託を受け、放射性物質の拡散を予測する機関だ。木戸は添付されたファイル名に「SPEEDI」の文字を見つけた。
SPEEDI(スピーディ)? 木戸は初めて聞く名称だった。
「名前も知らないし、なんのことか理解できませんでした」
木戸はメールを在日米軍司令部に転送した。
そのころ福島県では住民の避難が続いていた。気がかりは放射性物質の流れ方であり、それを予測するのが実はSPEEDIだった。
SPEEDIはほぼ正確に予測を出していた。しかしその予測は、避難の資料としてまったく使われなかった。それは第2シリーズ「研究者の辞表」で検証した通りだ。どこが危険かも分からぬまま、多くの住民が遠くを目指した。
SPEEDIが使われなかった理由は、そもそも存在自体が知られていなかったからだ。
3月14日の時点でSPEEDIを知る政治家はほとんどいなかった。首相の菅直人(65)や官房長官の枝野幸男(47)ですら認識していなかった。SPEEDI情報を官邸中枢に伝えるべき官僚が、それをしていなかったのだ。
官邸中枢が存在すら知らないSPEEDIのデータが、米軍にはいち早く渡っていた。昨年12月、その事実を伝えると、菅の声のトーンが上がった。
「全然知らなかった。一番伝えなきゃいけないところに、なぜ伝えなかったんだ」
1時間ごとのSPEEDIのデータは木戸のパソコンへ届いた。地図の画像データだったため、情報量は多かった。パソコンに入る情報量はメールの送受信に支障が出るほど膨らんだ。
木戸は自動転送と、転送後の自動削除にパソコンを設定した。データは7月まで順調に米軍へ流れた。
最初のSPEEDIデータが木戸に届いて20分ほど後のことだ。
官邸5階にある総理執務室で、菅は公明党代表の山口那津男(59)と党首会談をしていた。
会談が始まって10分ほどたったとき、執務室のドアがせわしくノックされた。
「テレビ、テレビ、4チャンネル、4チャンネル、爆発しています!」
テレビのスイッチが入れられた。福島第一原発の3号機が映し出されていた。
爆発の映像が繰り返し流れている。原子炉建屋がオレンジ色の閃光(せんこう)を放つ。煙が真上に高く噴き上がる。壊れた建屋のコンクリート片が落下する――。
福島中央テレビが第一原発の南南西約17キロの山中に設置した監視カメラの映像だった。
菅がつぶやいた。
「煙、黒いよなあ」
(木村英昭)
◇
第6シリーズ「官邸の5日間」は、3月11日直後の官邸に焦点を合わせます。肩書はいずれも当時。敬称は略します。
(引用終わり)
とまあ、こういうことなんですが、
SPEEDIは、2つの部門で使われていたということは、「プロメテウスの罠」第2部で報告されています。
以前、第2部は、当ブログでも掲載しておりましたが、ヤフーにより全部削除されています。
うかつにも、バックアップを取っていなかったのですが、朝日新聞社から、WEB新書が出ていますから、本文を全文復活させることは可能です。
話がずれましたが、SPEEDIを使っていたのは、文部科学省と原子力安全・保安院です。
これが、実際には官邸には伝えられず、官邸は同心円状の避難計画を立てることになります。
> 菅がつぶやいた。
「煙、黒いよなあ」
1号機の爆発は、水素爆発で矛盾しないのですが、3号機の爆発は水素爆発では説明できないのです。
当ブログでも何度かこの点に触れていますが、「プロメテウスの罠」のこのシリーズで何かいいそうなので、あえてここでは黙っておきます。御存知の方も多いでしょうが、どうしても知りたい方は、「3号機」をブログ内検索してみてください。 |
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