先月21日、大阪府吹田市の垂水神社では、恒例の秋祭りが行われていました。
いつもと変わらぬ賑わいですが、今年は少し違うところが・・・
<署名をお願いしている人たち>
「建設反対の署名にご協力お願いします」
<竹内真哉宮司>
「署名、ご協力お願いします」
なぜか屋台行列の片隅で行われているのは署名集め。
よく見ると配られている風船には・・・。
「垂水の森を守ろう」「マンション反対」。
実は、マンション建設の反対署名をしていたのです。
<垂水神社 竹内真哉宮司>
「1360年続いている神社ですので、常にいろんな地域の人たちが集まってくる場所である。それを失うようなことはしたくない」
<署名した子ども>
「断固反対!」
<署名した子ども>
「森がなくなるのが嫌なので、サインしました」
飛鳥時代に出来たとされる垂水神社。
万葉集にも詠まれた豊かな湧き水から、こう名付けられたといいます。
マンション建設は、その垂水神社のすぐ隣に計画されていました。
<竹内真哉宮司>
「『マンション建設予定地反対』となっていますが、その向こう側、このフェンスのギリギリのところまでマンションが建つ計画なんですね」
<記者>
「ここに建つ?こんなそばに建つのですか?」
<竹内真哉宮司>
「そうですよ、本当に近くですね。こんなとこにという場所ですよ、これ」
神社の境内のすぐ隣、その距離わずか4メートルです。
業者は既に吹田市に建築許可の申請を出していて、それによると延べ床面積、およそ1,500平方メートルとなっています。
再現してみると―
これまで緑に囲まれていた境内の景観が、がらりと変わってしまいます。
それだけに反対署名は、既に1万人を超えました。
<参拝者>
「やっぱり、これだけの立派なお宮さんの中にマンションはちょっと反対です」
<周辺住民>
「『どんと焼き』って火も焚くんですね。あそこでね。それもやっぱりできなくなってしまう。やっぱり今の状態を保ちたい」
【問題点<1> 鎮守の森がなくなる】
「憤懣取材班」が、宮司に案内された先は神社が一望できる場所でした。
<竹内真哉宮司>
「見ていただいたらわかるように、この辺りはほとんどビル街ですからね。こういう自然のまま残っている森は、まるでここが島のようにね、ここしかないという場所。100年、200年、300年という、できれば500年1000年という長い時間の中でこれを今崩すことがいいのかということを考えていただかないと」
これまでも山を切り開いては、次々と住宅やマンションが建設されて来た場所ですが、
周辺住民にとっては残りわずかな緑がなくなるのは残念なことです。
しかし、住民がマンション建設に反対する理由は、それだけではありませんでした。
【問題点<2> 安全性に疑問】
<周辺住民 春日井典子さん>
「ここなんですね、ここから一切合切、『ザアッ』と流れたんです」
マンションの建設予定地と同じ山に住む春日井さん。
実は44年前、この山で梅雨の頃に「土砂崩れ」が起きたというのです。
<春日井さん>
「もう凄い大きな『土砂崩れ』で。ここは本当にこういう水害が起こる場所なんだな、と認識していたんで、よもやこういう斜面を使って、マンションを建設するなんて考えもつかなかった」
大阪府もこの場所を、山が切り立った「急傾斜地崩落危険箇所」に指定しています。
ここは垂水神社の由来の通り昔から湧き水が多い地層で、境内には当時から枯れることなく水が湧き出ています。
付近の住民らは、業者が斜面を造成することで再び「土砂崩れ」が起きやすくなるのではと心配しています。
しかも、業者から事前にマンション建設について全く説明がなかったことに不信感を持っていました。
<春日井さん>
「(マンション建設について)こちらの方から『どうなっているのか?』と問い合わせに行って、初めて知らされまして。業者さんの地域に対する対応について、非常に憤りを感じている」
【問題点、<3> 住民に説明なし】
確かにマンション建設では、付近の住民への説明会が行われることが多いのですが…。
<吹田市都市整備部 松本康司課長>
「対象となっている建築物の高さが10メートルを超える建築物を『中高層建築物』としている。今回はその対象となっていないので、住民の方々への説明は特に求めていない」
吹田市では、高さ10メートル以上のマンションは、条例で住民に対し説明会を開くことを義務付けています。
しかし今回のマンションは5つのフロアがあるのですが、斜面に建っているため法律上は地上3階、地下2階となります。
このため、地上部分は10メートル以下となり、説明会を開く義務はないというわけです。
これに対し、黙ってはいられない住民側。
業者が市に提出した資料を取り寄せたところ、思いもよらないことが判明したのです。
<記者>
「ここに資料があるんですけどね」
<住民>
「そんなん私ら聞いてなかったんですよ、全然」
<住民>
「説明ありません」
業者が市に提出した資料でさらに波紋が・・・
<竹内真哉宮司>
「マンション建設反対、署名ご協力お願いしまぁす」
歴史ある静かな神社の境内そばに突如持ち上がった、マンション建築騒動。
<子ども>
「断固、反対!」
反対署名は1万人に達しました。
そして住民らが吹田市に対し、業者が提出した資料を情報公開したところ、驚くべき資料が出てきたのです。
【問題点<4> 業者の書類に嘘?】
業者が8月に市に提出していた資料、ゴミ置き場近隣説明結果報告書。
市の指導により業者側がマンションのゴミ置き場について、周辺関係者に説明した資料です。
問題のマンション建設予定地の隣には、多くの住民が住む団地があります。
その団地側の意見の欄を見てみると、「特になし」とあります。
ところが「憤懣取材班」が団地の住民に尋ねてみると─
<記者>
「業者の書類には、説明があったとなっているが?」
<隣の団地住民>
「説明は全然聞いてないね」
<記者>
「ゴミ置き場の設置について、『特になし』となっているが?」
<隣の団地住民>
「そんなん私ら聞いていなかったんですよ、全然」
住民は誰も、業者から説明を聞いた覚えはないと言います。
それどころか、団地の住人のほぼ全員がマンション建設に反対署名をしていました。
では、団地を所有する府の住宅供給公社は─
<大阪府住宅供給公社住宅経営課 草野幹男グループ長>
「公社の方にいわゆる開発業者さんから何か説明があったという形跡はございません」
<記者>
「ゴミ置き場の説明はない?」
<大阪府住宅供給公社住宅経営課 草野幹男グループ長>
「そうですね、ありません」
こうした住民の訴えを受けて、吹田市は業者に対し住民にきっちり説明するよう求めています。
【問題点<5> 境界の印がコンクリに】
さらに、このマンション建設業者はマンションすぐ横の宅地も開発を進めていますが、
そこでも問題が起きていました
<周辺住民>
「(業者が)ここの開発をするときに、向こうの端の標柱(土地の境界を示すプレート)とこっちの端の標柱を勝手に抜いてしまっている。抜いて自分のとこで作ったプレートに張り替えたり勝手にしてます」
取材班がその場所にいくと、確かに土地の境界を示すプレートが新たに壁に貼り付けられていました。
本来、プレートを設置する際、境界線の両側の者が立ち会うはずですが、住民によると
業者は何の連絡もないままプレートを付けたといいます。
これについても吹田市は事実関係を確認するため、現地調査をするとしています。
これらの問題点について、業者に取材を申し込みましたが、「答える必要がない」として取材に応じてもらえませんでした。
周辺に大きな影響を与えるマンション計画。
法律上、問題がなければ建設は止められませんが、説明が不十分なままでは今後、地域の中で溝ができかねません。
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