◇派遣転々…身も心もボロボロ
「何とか就職できたよ」--昨年秋の高校の同窓会。近況報告でとっさにうそが出た。同級生は働き盛りの会社員や公務員。仕事の苦労も楽しそうに語り合っていた。
横浜市で1人暮らしの31歳のダイスケさん(仮名)は今、生活保護を受けている。派遣切りに遭い、仕事が見つからないままもう2年がたった。
埼玉県の私立高を99年に卒業。家計が苦しく進学できなかった。フリーターになり、ファミレスで週5日のアルバイト、うち2日はコンビニと掛け持ちした。多い日は1日14時間働いた。それでも月収約13万円。
8年目、長時間労働がたたって体を壊し、アルバイト生活をやめた。だが、正社員の面接を受けても不採用が続く。履歴書の資格欄はいつも「なし」。運転免許すら持っていない。
専門学校に行く学費を稼ごうと、派遣労働者になった。製造業派遣が解禁された頃。フリーペーパーの求人に「月収30万円!」「入社祝い金もあり」と景気のいい文字が躍っていた。
初めての派遣先は自動車組み立て工場。1週間で後悔した。諸経費と寮費を引かれて手取りはわずか月10万円。学費などたまらない。自分が何の部品を組み立てているかも分からず、やりがいを持ちようがなかった。
働く仲間は40~50代の元正社員。「バブルの頃はよかった」「パチンコ行くから残業代わって」と、だらしなく映った。「俺が正社員だったらまじめに働いていたぞ」。生まれた時代を呪った。
リーマン・ショック翌年の09年秋、派遣先を解雇された。年始に寮を追い出され、とうとう生活保護を申請した。月13万円を受け取る。
ハローワークで職を探す毎日。履歴書の写真代や面接の交通費が響き、月に3、4日は3食を抜く。面接までたどり着ける会社は多くて月に5社。「また『ご縁がなかった』という言葉を聞かされるのかと思うと緊張して眠れない。心はとっくに折れた」。唯一の楽しみは子どもの頃から買い続ける「少年ジャンプ」。1週間、繰り返し読む。
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高速道路の中央分離帯に激突しそうになり、あわててハンドルを切る。心臓がバクバクし、冷や汗が流れた。しばらくするとまた、まぶたが重くなる。
09年までの約3年間、関東地方の運送会社でトラック運転手として働いた31歳のコージさん(仮名)は「1日の睡眠は2、3時間。いつ大事故を起こしてもおかしくなかった」と振り返る。
午前5時出社。7時に東京都内の配送センターで荷物を受け取り、午後9時ごろまで関東一円の工場に部品を運ぶ。月収は手取り約20万円。残業代もボーナスもなかった。友人の葬儀のため休みを申し出ると、上司から「サボりたいだけだろ。嫌なら辞めろ」と言われた。
高校卒業後、都内の職業訓練校に通った。金属加工会社に就職したが、「違う仕事も経験したい」と再び職業訓練校に。ところが体調を崩して中退。約1年半の休養後は、建設作業や警備員、引っ越し、代行運転手、日雇い仕事で食いつないだ。
プリンター工場や自動車部品工場の派遣も経験したが、休日出勤を断ると嫌がられ、半年で契約を切られた。26歳で飛び込んだトラック業界は、ようやく見つけた正社員の職だった。
だが不況で業界はコスト削減に追われ、ドライバーにしわ寄せがきた。「高速道路は使うな」と指示され、荷待ちや車両点検の時間は勤務外と見なされた。得意先の配送センター社員は王様みたいに振る舞った。それでも愛想良くしないと、会社が契約を切られる。
一般道を時速100キロで飛ばし、食事やトイレもがまんした。事故より、遅配による上司の責におびえた。居眠り運転は日常茶飯事、信号無視もした。
大学を出ていればと何度思ったか。でも「自分みたいに選択肢がない人間は、クズみたいな使われ方でも続けるしかない」。運転中に追突され、持病の腰痛が悪化して退職した。傷病手当ももらえなかった。
運送会社の次に就いた仕事も長時間残業が当たり前。昨年夏、うつ病と診断されて辞めた。失業保険は1月半ばに切れる。
いつまで使い捨てなんだろう。「もうすぐ自分もああなるのかな」--視線の先には、寒風が吹く公園で背を丸めるホームレスがいる。真冬の路上生活は死と隣り合わせだ。「普通に働いて、普通に眠って、普通に食べられる生活をしたい」。途切れがちの声が冬空に吸い込まれていく。【水戸健一、鈴木敦子】
=つづく
◇非正規雇用25~34歳の4人に1人
25~34歳の非正規雇用率は、1991年は約10人に1人(10.9%)だったが、2010年は約4人に1人(25.9%)となった。男性の非正規雇用労働者(全年齢)の6割は年収200万円未満で、生活保護の受給水準よりも低い「ワーキングプア」になっている(総務省調べ)。
一方、生活保護の受給者は11年9月時点で過去最高の206万人。09年のデータでは、働き盛りの30代の受給者が約11万2000人と00年の約1.9倍になり、全体の伸び率(約1.6倍)を上回った(厚生労働省調べ)。
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2012年1月3日