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平田容疑者:ちらつく支援者の影 捜査幹部「用意周到」

 特別手配されていた元オウム真理教幹部、平田信容疑者(46)が突然出頭し、1日、警視庁に逮捕監禁致死容疑で逮捕された。17年近くの逃亡生活から一転、オウム真理教事件の一連の裁判が昨年12月に終わったばかりという時期に姿を現した理由は何なのか。警視庁の捜査のポイントと出頭の影響を探った。

 平田容疑者を巡る最大の謎は17年近い逃亡生活だ。96年2月までは仙台市の女性信者宅に同居していたとみられるが、現段階で判明している逮捕前の行動は、東京都内の駅から乗車し、東京メトロ霞ケ関駅で下車、警視庁本庁舎に行った後、徒歩で丸の内署に向かったということだけだ。警視庁は、近くの雑居ビルや霞ケ関駅などに設置された防犯カメラの映像を解析するなどして足取りを追っている。

 平田容疑者は調べに「住所不定、無職」と供述しながら、出頭時の所持金は約10万円にも上った。これだけでも支援者がいたと考えるのが自然だが、平田容疑者は供述を避けているという。捜査幹部は「出頭には用意周到さを感じる。本人は言わないと思うが、何とか支援者の存在を引き出したい」と話す。

 出頭の狙いもはっきりしない。平田容疑者は「一区切り付けたかった」と供述し、弁護士を通じたコメントでも「国松(孝次警察庁)長官狙撃事件が時効になって、間違った逮捕があり得なくなったので」としている。しかし、捜査関係者は「額面通りには受け取れない。松本智津夫死刑囚の死刑執行を停止させようとした狙いも感じる」と話す。

 平田容疑者を巡っては、射撃の経験者であることや一部の教団幹部の供述から、長官狙撃事件への関与が取りざたされたこともある。警視庁は狙撃事件の時効を迎えた10年3月、平田容疑者とは別の教団元幹部ら8人(氏名は未公表)が関与したとする捜査結果を公表しているが、この元幹部らと接触した可能性もあるため、事情を聴くとみられる。

 オウム真理教事件では、他に高橋克也容疑者(53)と菊地直子容疑者(40)も特別手配されている。警察当局は1人につき最大500万円の懸賞金をかけて捜査しているが、96年以降は有力情報がないのが現状だ。高橋容疑者は、平田容疑者とともに仮谷清志さん(当時68歳)拉致監禁致死事件の実行役だったとみられ、関係が近かった可能性がある。だが、平田容疑者は「2人の行方は知らない」と供述しているという。

 高橋容疑者は井上嘉浩死刑囚(42)がトップを務めた「諜報(ちょうほう)省」に所属。地下鉄サリン事件や仮谷さん拉致監禁致死事件、3件のVX殺害・同未遂事件など6事件に関与したとされる。地下鉄サリン事件では、実行役10人で唯一、逃亡を続けている。菊地容疑者は教団「厚生省」で土谷正実死刑囚(46)が中心となったサリン製造プロジェクトに参加。工程をノートにまとめたとされている。96年11月まで高橋容疑者らとともに、埼玉県所沢市内のマンションに潜伏していたとされる。【内橋寿明、村上尊一】

◇逃亡中の2容疑者が関与したとされる事件(カッコ内は事件発生時期と容疑名。※は警察庁による特別手配事件)

 高橋克也容疑者(53)=6事件 

・水野昇さんVX殺害未遂事件

(94年12月、殺人未遂容疑)

・浜口忠仁さんVX殺害事件

(94年12月、殺人容疑)

・永岡弘行さんVX殺害未遂事件

(95年1月、殺人未遂容疑)

※仮谷清志さん拉致監禁致死事件

(95年2月、逮捕監禁致死容疑)

※地下鉄サリン事件

(95年3月、殺人・殺人未遂容疑)

・東京都庁小包爆発物事件

(95年5月、殺人未遂・爆発物取締罰則違反容疑)

 菊地直子容疑者(40)=2事件 

※地下鉄サリン事件

・東京都庁小包爆発物事件

 ◇松本死刑囚ら 執行先送りも

 平田容疑者の出頭で、既に死刑判決が確定している松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚らオウム真理教元幹部に対する死刑執行が、先送りされる可能性が出てきた。

 刑事訴訟法は、死刑執行について「法相の命令で判決確定の日から6カ月以内にしなければならない」と定めているが、「共同被告人の判決が確定するまでの期間は6カ月に算入しない」とのただし書きを付けている。政府は「6カ月」規定について「違反しても直ちに問題とはならない『訓示規定』にとどまる」との見解を示し、実際に確定から6カ月以内に執行されるケースはまれだが、共同被告人(共謀者)の裁判が確定するまで執行されない傾向がある。

 平田容疑者が起訴された場合、共謀者の死刑確定者が、公判での証人尋問に呼ばれる可能性が出てくる。

 平田容疑者が特別手配されていた事件のうち、仮谷さん拉致監禁致死事件には、松本死刑囚や井上嘉浩死刑囚、中川智正死刑囚らも関与したが、平田容疑者の捜査・公判ではこうした死刑囚らとの共謀が焦点になる余地もあり、事実上、平田容疑者の裁判終結まで、共謀者に対する死刑執行は難しくなるとみられる。

 ある法務省幹部は「まず、平田容疑者が起訴されないと『共同被告人』にはなりえないので、捜査の成り行きを見守りたい」と慎重な姿勢をみせるが、有罪確定者の供述などを支えに起訴される可能性は高い。

 平田容疑者の手配容疑は他に、東京都杉並区のマンションに時限爆発物を仕掛けたとされる爆発物取締罰則違反事件(95年)だけで、事件数自体は他の元幹部らに比べて少ないが、弁護側の法廷戦術によっては公判が長引く恐れもある。

 別の法務省幹部は「平田容疑者が松本死刑囚らの死刑阻止を目的に出頭したかどうかは不明だが、残る2人の逃亡者(高橋克也、菊地直子両容疑者)も出頭すれば、今後の死刑執行にさらに影響を与える可能性もある」と語った。【伊藤一郎】

 ◇死刑判決が確定した教団元幹部

※松本智津夫(56)

 新実智光 (47)

※中川智正 (49)

 林泰男  (54)

 土谷正実 (46)

 遠藤誠一 (51)

 端本悟  (44)

 横山真人 (48)

 豊田亨  (43)

 広瀬健一 (47)

※井上嘉浩 (42)

 岡崎一明 (51)

 早川紀代秀(62)

☆呼称略。 ※は平田容疑者が逮捕された仮谷清志さん拉致監禁致死事件に関与。

毎日新聞 2012年1月3日 9時48分

 

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