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(28時間27分前に更新) |
横浜で生まれ育ち、3年前に沖縄に移り住んだ田幸亜季子さん(36)は、「ムーチー」のころになると、おじいちゃんを思い出す
▼生きていれば90を超える那覇出身の祖父は大学進学で本土へ渡り、二度と古里へ戻らなかったという。その祖父の好物が「ういろう」だった
▼沖縄へ引っ越して、那覇の市場でムーチーを口にした時、ういろうに似ていると感じた。穀物の粉を練って蒸した菓子だからだろうか。もちもちとした食感と控えめな甘さが重なった。「意識して離れたが、それでも離れられない染み付いたもの」が、ほの見えた
▼県系2世の父、静岡出身の母のもとで育った田幸さんだが、南の島に強く引かれた。竹富島で聞いた笛の音に心奪われ笛を習い、琉球芸能の舞台に通い詰め、組踊の旋律に魅了されていった
▼国立劇場おきなわからは「皆勤賞」と言われるほど、先月だけでも鑑賞した舞台は10本を超える。「世の中に美しいものはたくさんあるけれど、自分の心にしっくりと応えてくれるものはこれしかない」
▼自らを「回帰者」と呼ぶ。その美意識とアイデンティティーはつながっている。昨年から琉球舞踊保存会の事務局を手伝い、将来は組踊の脚本を書きたいと修業を続ける。祖父が帰らなかった土地で、「回帰者」としての物語を紡ぐために。(森田美奈子)