年金記録不備問題や「政治とカネ」の問題で国民の批判を浴び、参院選で惨敗した安倍晋三首相にとって、泣き面にハチの状況だろう。
第2次大戦中の従軍慰安婦問題をめぐって日本政府に公式謝罪を求める決議が、米国下院の本会議で初めて可決されたからだ。
国内で求心力が急激に低下している中で、同盟国として頼みにしている米国の議会から、首相声明の形で謝罪するよう要求された。法的拘束力がないとはいえ、日米関係の悪化を招きかねない決議だ。
同様の決議案は2001年以来、米下院で4度提出されている。昨年9月には外交委員会で可決されたが、共和党指導部が本会議の採決を見送ったため廃案になった。
5度目の今回は共同提案者が160人を超え、6月の外交委でも39対2の圧倒的大差で可決。初めて本会議での採決となった。
参院選の歴史的大敗もそうだが、今回の米下院決議も、本はといえば安倍首相がまいた種である。
ことし3月1日、首相が「(旧日本軍による従軍慰安婦動員の)強制性について、それを証明する証言や裏付けるものはなかった」などと記者団に発言したことが大きく影響した。韓国をはじめ米国、中国などでも反発が広がり、米議会の決議推進派を勢いづかせた。
首相は4月に訪米した際、民主、共和両党の上下両院幹部に対し「真意や発言が正しく伝わっていない」と釈明。「おわびと反省」を表明した1993年の河野洋平官房長官談話を継承する立場を伝えたが、後の祭りだった。
日本で言ったことと米国で話す内容が違っているのだから、二枚舌を疑われ、理解されなかったとしても無理はない。
下院の決議は「従軍慰安婦制度は日本政府が第2次大戦中にアジア太平洋地域を支配した時代に行った軍用の強制的な売春」「日本にはこの問題を軽視しようとする教科書もある」などと非難した。
文部科学省の教科書検定で沖縄戦の「集団自決」に関し日本軍の強制の記述が修正・削除された問題と本質的に共通している。
どちらも、旧日本軍による非道な行為を可能な限り覆い隠し、都合の悪い歴史的事実を薄めたいとの意図が感じられる。
日本政府に求められるのは過去の間違った行為を正当化することではない。歴史を直視し反省を踏まえ、過ちを繰り返さないことが何よりも大切だ。
1993年の河野官房長官談話は「軍の要請を受けた業者が、甘言、強圧により、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くある。官憲などが直接、加担したこともあった」と日本軍の関与を認定し、謝罪した。政府は、この姿勢を堅持すべきだ。
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