きょうの社説 2012年1月1日

◎1番ものがたり 北陸にルネッサンスの熱気を
 出口の見えない閉塞感が漂うなかで、新たな年が明けた。東日本大震災、福島第1原発 事故からの復興が本格化する年に、私たちも勇気を持って北陸から日本を元気にしていく決意を固めたい。

 ものが売れない時代に、右から左に売れる人気商品がある。七尾市出身のパティシエ、 辻口博啓氏が手掛ける「スイーツ」の数々である。12のブランドで展開される和洋のスイーツは、どれも芸術作品のように個性的で美しく、味も折り紙付きだ。スイーツの世界大会で日本代表として3度世界一に輝いた辻口氏のように、北陸にはさまざまな分野で「世界一」、「日本一」の名に恥じぬプロがいる。

 きょうから本紙でスタートした「1番ものがたり」の第1部は、そんな北陸が生んだ逸 材を紹介していきたい。第2部以降は、対象を産業経済、生活文化にまで広げて多彩な人物や事象を掘り下げ、普段あまり意識されることのない北陸のポテンシャル(潜在能力)の高さ、可能性を浮き彫りにしていこうと思う。1番にこだわって取材を進めるなかで、北陸の意外な実力や個性、特徴がはっきりと見えてくると思うからである。

◆敦賀開業へ長期戦略を

 北陸にとって今年は飛躍の年になるだろう。待ちに待った北陸新幹線の敦賀延伸である 。政治の混迷と景気の低迷が続くなかで、北陸新幹線は、希望の星だ。陸上競技に例えるなら、2014年度末の金沢開業までが助走期間、金沢開業は「ホップ」、敦賀開業までが「ステップ」、敦賀開業は「ジャンプ」にあたる。財政面での制約から、金沢―敦賀間が開通するまで14年かかる見通しであり、上質なワインをじっくり寝かせ、熟成させていくように、北陸3県が連携して北陸全体の価値を底上げしていく長期戦略がほしい。

 敦賀開業まで北陸新幹線の終着駅になる金沢市では、「金沢21世紀美術館」の入場者 数がオープンから7年近くで1千万人を超えた。現代アートの美術館としては奇跡的な数字である。県庁跡地の「しいのき迎賓館」も1年4カ月で入場者が100万人を超え、兼六園(年間180万人)、金沢城公園(同100万人)ととともに、にぎわいを生む中核的な施設になっている。古い革袋に新しい酒を盛るがごとく、伝統に新しい血を加えて都市の実力を高めていく努力が実を結び始めた。

 ハードばかりでなく、ソフトの事業も充実期を迎えている。クラシックの祭典「ラ・フ ォル・ジュルネ金沢」や三茶屋街の芸妓衆による「金沢おどり」などは、全国から客を呼べる人気の催しに成長した。また、金沢市の中心部で開催中の「香林坊レトロ食堂」は地元のレストランなどが昔懐かしいメニューを再現し、好評を博した。お金をかけずともアイデア次第でにぎわいを生む一例だろう。

◆危機感共有で変化

 ストロー対策への取り組みが一定の効果を挙げ、金沢市の中心市街地に活力が出てきた のは間違いない。今年の初売りは人気セレクトショップがオープンした香林坊界隈が台風の目になるだろう。自治体や地元経済界などが牽引して来た金沢での都市再生、再創造の試みは、中世イタリアのルネッサンス(文芸復興運動)に似ている。新幹線開業に伴う都市間競争に備え、新たな魅力を付加していかないと、ヒト・モノ・カネを首都圏に吸い取られてしまうという危機感が徐々に共有され、保守的といわれる金沢人の意識を変えた。

 金沢の中心部で花開いたルネッサンスの熱気をこの周辺だけにとどめていてはもったい ない。北陸経済連合会など経済3団体の試算では、観光やビジネスの交流人口の拡大により、金沢開業で年間400億円、敦賀開業で960億円の経済波及効果が生まれる。この貴重なビジネスチャンスを足掛かりにして、古里に大きな絵を描きたい。金沢ルネッサンスの熱気を石川県全体、さらには北陸3県全域に広げていく必要がある。

 開業の2014年度まで2年余りとなった金沢以東は言うに及ばす、金沢以西もここか らが知恵の出しどころだ。敦賀開業まで先は長いが、今後の取り組み次第で工期短縮の可能性もある。各自治体が競い合って戦略を練り上げ、10年を一つの目安として、地域再生の物語を紡ぎ出す時に来ている。