きょうのコラム「時鐘」 2012年1月1日

 「里山里海(さとやまさとうみ)」に光があてられ、数ある棚田(たなだ)から奥能登の千枚田が世界農業遺産に選ばれたのは「里山」と「里海」が溶けあっていたからである

「里山里海」と「半農半漁(はんのうはんぎょ)」は、背中合わせだったことに気づく。いま、その半農半漁の田園地帯に「半農半芸」を楽しむ人が増えている。農山村に住み「芸術」や「芸能」を取りいれた余裕の日々を送る人々のことである

「半農半漁」は厳しい労働の代名詞(だいめいし)だったが「半農半芸」は豊かな人生の象徴だ。北陸には多くの「芸能」があった。例えば「あえのこと」は一人芸であり「風の盆(ぼん)」は美しい農民の舞である。かつての厳しい労働を喜びに変え、自然の美しさを磨(みが)き続けるのが芸である

里山里海の発見は、郷土を見直すふるさと教育と同じ発想にある。都市ではレトロやルネッサンスの言葉で、街の遺産が見直されている。身近にあるだけに、その価値に気づくのは意外と難しい。だが、暮らしを豊かにする材料は足もとにある

人はみな役者であり、街と自然は人生に華(はな)やぎを与える舞台である。先人の遺産を掘り起こし、新しい風の吹く年にしたい。