スタジオパーク 「遠隔地避難者を忘れるな」2011年12月22日 (木)

早川 信夫  解説委員

(近田キャスター)
 東日本大震災から9か月あまりが過ぎましたが、原発事故の影響でふるさとを離れて遠くに避難した人たちは、年末をどう過ごしているのでしょうか。早川信夫解説委員に話を聞きます。

Q1.原発事故から逃れて各地に避難した人たちの状況はどうなっているのでしょうか?

A1.一時減っていたのが、秋以降再び増える傾向になっています。

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たとえば、震災直後に全国で最も多くの人たちが避難した新潟県では、9月を境に増えはじめ再び7000人を超えています。原発周辺地域だけでなく、線量が比較的高い地域からも放射能の影響を心配して自主的に避難する人が続いたためとみられています。NHKでは震災から9か月になるのを機に、民間の「311被災者支援研究会」と共同で以前に新潟県内で話を聞いた人たちに電話による聞き取り調査を行いました。合わせて107人からうかがいました。
 
Q2.現在はどんなところに住んでいるのでしょうか?

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A2.半数近い人たちが自治体の負担で借り上げたアパートなどに住んでいました。公営住宅や仮設住宅なども合わせると8割近い人たちが、自治体が費用を負担する住宅に住んでいます。一方、自宅に戻った人は17%、自分で借りた住宅に住んでいる人も4%いました。今の住まいに移った時期について聞いてみると、9月以降という人が3割近くに上り、避難所を出たあとも落ち着き先がなかなか決まらない状況だったことがうかがえます。
 
Q3.今回の調査から見えてきたのはどんなことでしょうか?

A3.3つあげたいと思います。

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一つは、二重生活長期化の苦しさ。二つめは、除染への揺れる思い。三つめは、薄れるふるさとへの思い。この3点です。

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 まず、二重生活長期化の苦しさですが、離れて暮らしている家族がいるかどうかを尋ねたところ、半数近い人がいると答え、家族離散の長期化が今も続いていました。理由として、仕事をあげた人が3分の2にのぼり、生活を維持するために仕事を続けざるを得ない事情が垣間見えます。また、こどもへの放射能の影響をおそれてと答えた人たちも多く、こどものために無理をしてでも二重生活を選択した家族の苦悩が浮かび上がりました。中には、少しでも家計の足しになるようにと育児のかたわら内職を始めたと話すお母さんもいました。新潟で出会った父親のひとりは、毎週仕事が終わると福島から家族に会いに往復しているということで、疲れが表情からもうかがえ、負担の大きさが気になりました。二重生活をする人たちへの支援を忘れないでほしいと思います。
 
Q4.2つめは除染への揺れる思いということでしたね?

A4.前回、震災から半年の調査で、除染への期待を口にする人が多かったことから、国や自治体が行っている除染をどう受け止めているか、複数回答で尋ねました。

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もっとも多かったのが、「気休めにしか過ぎない」という答えで半数以上にのぼりました。次いで「計画があいまいだ」「説明が不十分だ」の順で、除染への取り組みに対する不信感や不満が全体を覆っています。しかし、一方で、「線量の変化を知りたい」「除染を急ぐべきだ」という意見も一定の割合に上り、不満を感じながらも、何とかふるさとが住めるようになってほしいと願う揺れる思いが感じられる結果となっています。除染を行う国や自治体には、避難している人たちに気休めの言葉をかけるより、具体的な方向性を示し、実施結果をまめに知らせることが求められます。
 
Q5.3つめは、薄れるふるさとへの思いということですね?

A5.ふるさとに戻りたいという気持ちが次第に薄らいできていることが感じられます。

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今後の生活拠点をどうするかを尋ねたところ「できるだけ早く元の自宅に戻りたい」という人が13%にとどまりました。この質問は、震災から間もないころから続けているのですが、当初は半数を超えていたのが、時間の経過とともに下がり続け、ついに2割を切ってしまいました。原発周辺地域の放射線量が依然として高いことに加え、帰宅できたとしても生活基盤が整わず、周りに人が戻ってくるかどうかわからない現状では戻る決断ができないことを示しています。前回までは、政治に対して強い憤りの声が聞かれましたが、今回はあきらめにも似た心境を口にする人が目立つようになったのが気にかかります。
 
Q6.調査を通じて今後の課題としてどんなことがあるのでしょうか?

A6.避難者の孤立を防げ。この一点に尽きます。避難を続けている人たちは、これまでのように1か所にかたまって生活しているわけではありません。それだけにふるさとの自治体から見捨てられる不安があります。そのために住民票を移せないと話す人もいました。住民票を移せば、移した先の行政サービスは受けられるが、いったん元の自治体とのつながりを切らしてしまうと、たとえば、さかのぼっての健康調査が受けられなくなるのではという不安が聞かれました。「福島県や地元自治体の担当者がコロコロと変わり、問い合わせがあっても一から同じことを聞かれる。どこまで自分たちのことを思ってくれているのか信用できない」と話す人もいました。行政には、こうした冷たさで避難している人たちを突き放すことのないように、きめ細かい、そして血の通った支援を求めたいと思います。

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