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[30311] 【習作・ネタ】引換券と呼ばないで【DQ6 テリーに転生 現在DQM編】
Name: たこやん◆2192f57c ID:7fdc329e
Date: 2011/10/30 14:46
「おはようテリー。朝ご飯できてるわよ」

 目の前で微笑むのは僕の姉であるミレーユ。
 そしておそらくDQ6の仲間キャラクターであるミレーユだ。
 僕には前世の記憶がある。
 死因はもう覚えていないけどDQ6というゲームの記憶は良く覚えている。
 なぜなら小学生のなったばかりの当時、初めて親に買って貰ったゲームだからだ。

「うん。すぐ行くよ姉さん」

 そう子供らしく返事を返すが、最近は気が気でない。
 今後ゲーム通りに事が進むのなら、ミレーユは奴隷として売り飛ばされてしまうのだ。
 ゲーム内のテリーは凄腕の剣士だった。
 それはミレーユを守れなかった自分を恥じ、同じ過ちを犯さない様鍛えた結果だと思っている。

「どうしたの? 難しい顔をしながらゴハンを食べているけど」

「何でもないよ。心配かけてごめんね姉さん」

 良かったと安堵したミレーユは天使の様な笑顔を浮かべている。
 結果的に助かるとはいえこの人を危険な目に遭わせたくない。
 そこで、ミレーユを助けるため僕は策を練った。

 また前世の話に戻るが、小学生時分育成型RPGとしてポケ○ンの次に流行ったゲームがあった。
 それはテリーのワンダーランド、略してテリワンである。
 幼少期のテリーが異世界のタイジュという国に行き、モンスターマスターを目指すゲーム。
 最終的には敵国のマルタの国代表として出てくるミレーユを倒すとエンディングを迎えられる。
 僕のミレーユを守る策は、その際の仲間モンスターをこちらの世界に連れ帰るという単純なものだ。

「僕は最強のモンスターマスターになる!」

「あらあら。魔物まで味方につけるとは優しいテリーらしい夢ね」

 どうやら気合いが入りすぎて口に出ていたらしい。
 その為にも、今から長旅に対応できる様日々鍛錬しようと誓ったテリー(7歳)だった。



[30311] 腹黒の国タイジュ
Name: たこやん◆2192f57c ID:7fdc329e
Date: 2011/10/29 19:36
 モンスターマスターとして冒険するに当たって自分の身を守る術が必要だと思った僕は、
姉さんに魔法の修行をつけてもらうことにした。

「その調子よ。体の奥から魔力を引き出す感覚をしっかり覚えてね」

「はい姉さん」

 僕はホイミを唱えながら魔法が使える様になった喜びに震えていた。

 ホイミ程度ならすぐ使えるようになるだろうと高を括っていたが、中々奥が深い。
 姉さんによると魔力とは誰でも大なり小なり持っているものだが、
それを知覚できるのは一握りの人間らしい。
 魔法なぞ存在していなかった世界での記憶がある影響か、僕は魔力を知覚することに苦労した。
 それでも根気よく僕に教えてくれた姉さんのおかげで、
一年もの時間がかかったが知覚することができた。

 手から光が消えると同時に強烈な脱力感が襲う。
 僕は耐えきれずその場に蹲ってしまった。

「ね、姉さん。こ、これは?」

「落ち着いて。初めて魔力を使ったから体がびっくりしているだけ。最初は私もそうだったのよ」

 そう言って姉さんは僕を持ち上げてベッドへと運ぶ。

「おやすみ。テリー」

 そのまま僕は朝まで眠ってしまった。



 翌日、目が覚めると早速ホイミを唱えてみた。
 手からやさしい光が放たれる。
 光が消えるとやはり脱力感が襲ってきたが昨日ほどではない。

「あらあら。テリーは熱心ね。でも無茶はダメよ」

 僕を起こしに来ていた姉さんがこちらを見ていた。

「ごめんなさい」

「よろしい」

 ゴハンを食べましょうと姉さんに手を引かれながらリビングへと向かった。



 僕が9歳になったとある日、父と母が知り合いの家に泊まるらしく、
姉さんと二人で留守番することになった。
 ゲーム内のミレーユの日記には、
”きょうはるすばん。おそろしいまものがでてきませんように。”
と記されていた。もしかすると今日が異世界に旅立つその日なのかもしれない。
 
 魔法の修行を続けていた僕はホイミの他、スカラ・キアリーも使えるようになった。
 守備力アップは序盤~中盤では大きな効果を発揮するし、自身の身を守るためにも使える。

 ゲームではマスターを狙った攻撃をされることはなかった。
 しかし、ここは現実である。
 野生モンスターはマスター狙いの攻撃をしてくるだろう。
 そう考えると居ても立っても居られない。
 魔法の練習をしてから寝ようと思い起き上がってリビングへと向かう。

「テリー! 待ちなさい、もう寝る時間よ!
母さんと父さんが言ってたことわすれたの?
夜更かしすると魔物がさらいにくるのよ!」

 後から姉さんの声が聞こえた。
 このセリフには強烈な既視感を覚える。
 やはり今日がその日なのだろう。
 そう確信した僕は「ごめん」と姉さんに告げ、素直にベッドへ入った。


 
 しばらくすると床が軋む音が耳に届いた。
 隣のベッドを確認すると姉さんはそこに居る、ならばこれはワルぼうが来たということだろう。

 ふと目を離した隙にベッドはもぬけの殻となっていた。
 無事と言って良いかはわからないが、姉さんはマルタの国にさらわれたのだろう。
 正直心配だが、いつギンドロ組に連れて行かれるかわからないここよりはマシだ。
 そう自分に言い聞かせて平静を保った。

 ゲームでは間髪入れずにわたぼうが来た。
 それに備え、隣の部屋へと移動すると既に白い何かがキョロキョロと辺りを見回していた。
 あれがわたぼうなのだろう。
 僕を視界に捉えこちらに向かってきた。

「魔物の言葉がわかるんだな? ミレーユがどこにいるか知らないか?」

 想像通りの言葉が来た。
 実際に見ていた訳ではないが、ワルぼうにさらわれるという事実を知っていた僕はそれを伝えた。

「さらわれた?! そうか、遅かったか!」

 わたぼうは小さな拳を握りしめ、見るからに悔しそうにしている。
 姉さんはそれほどモンスターマスターとしての素質に優れていたのだろうか。

 しかし、それを考えていても仕方ない。
 わたぼうにタイジュに連れて行ってもらわないと話が始まらないと思い声を掛ける。

「姉さんはどこに連れて行かれたの?」

「ん~。じゃあついてきなよ。たぶん見つかると思うよ」

 キミが腕の良いマスターだったら良いなとだけ言い残し、わたぼうはタンスに入った。
 ロクな説明もせずに着いて来させる様にし向けるとは……実は結構腹黒いのかもしれない。

 着いていくために僕もタンスを開いた。
 中には青い渦巻きが広がっているこれが旅の扉なのだろう。
 手を突っ込んでみるが底がある気配はない。
 ケガをすることはないとわかっている僕でも躊躇するものがある。
 原作のテリーには敵わないなあと思いつつ、バッグに着替えを詰めると旅の扉へ飛び込んだ。



 旅の扉を抜けると木の根っこに囲まれた部屋だった。
 辺りを見渡していると杖を持った魔法使い風のおじいさんに話掛けられた。

「おお、そなたはマスターじゃろ? 長旅ご苦労だったのう。ここはタイジュの国じゃ。
早速じゃがワシに着いてきてもらうぞ。城に行き、王様にあいさつせねば」
 
 おじいさんに着いて最上階にあるお城へと向かう。

「そなたがが新たなマスターか? 早速だがわしの願いを聞いてくれ!
星降りの大会に出て優勝して欲しいのだ!」

 僕は姉さんを守る力を得るために強力な仲間モンスターを手に入れなければならない。
 一も二もなくイエスと言いたい所だが、一つだけ伝えないといけないことがある。

「優勝した際にお願いがあるのですが聞いていただけますか?」

「もちろんだ。優勝できるのならわしに出来る範囲でなら願いを聞こう」

 そして僕は王様に話した。
 姉さんがワルぼうにさらわれたこと、姉さんを取り返したいということ、
しかし元の世界に戻ると姉さんが奴隷にされてしまいそうなこと、
それを守るためにモンスターを元の世界に連れ帰りたいということを。

「なんじゃ、そんなことか。優勝できればおぬしの好きにするが良い。
それではおぬしに魔物を与えよう。魔物がおらんではマスターは務まらんからな。
上の階のプリオというものから受け取ると良い」

 願いはあっさり了承された。
 渋られればどうしようかと不安になっていたが、問題なく目的が達成できると安心した。
 しかし、気は抜けない。全ては星降りの大会で優勝しないことには始まらない。
 僕は気を引き締めながら魔物を迎えに行くことにした。



 牧場に行くと案の定スラぼうしか居なかった。
 プリオはゲーム本編と同じく他の魔物を逃がしてしまったらしい。
 
 仕方なくスラぼうを連れて玉座まで戻る。
 事態を察した王様は側近にプリオを連れてくる様に命令する。

 そして、王様のお気に入りのホイミンまで逃がしてしまったことが発覚する。
 プリオを牢に入れろという命令が出た所で僕は王様に嘆願した。

「王様、僕がホイミンを捕まえてきます。なのでどうかプリオを許してください」

「おもしろい。テリーよ、おぬしがホイミンを捕まえてくればプリオは許そうぞ」

 後の詳しいことは大臣に聞いてくれと言い残すと、慌ただしく玉座の裏の通路へと消えていった。

 しかし、逃げた先がたびだちの扉というのはあまりにもできすぎている。
 もしかするとこれはすべて狂言なのでは? 
 その国の精霊が腹黒ならそのトップも同じく腹黒なのかも知れない。
 そんな失礼なことを考えながら、スラぼうとともにたびだちの扉へ向かった。



[30311] 性格システムを考えた人は偉大だ
Name: たこやん◆2192f57c ID:7fdc329e
Date: 2011/10/30 14:54
 たびだちの扉をくぐった僕とスラぼうが降り立ったのは広大な平原だった。
 ここから下の階層に繋がる穴を見つけなければならない。
 ゲームは上空からの視点だったので探しやすかったが、
地面と平行な視点ではかなり近づかないと見落としてしまうだろう。

 たった四階層のチュートリアルレベルの扉だが実際に歩き回るとなるとかなり骨が折れそうだ。
 しかし、歩き回って探す他に方法はない。
 ぞうきんがけをする様に隅々まで平原を探索する。



「マスター、上空から魔物が近寄って来たぞ」

 魔物の気配を感じ取ったスラぼうが声を上げた。
 ちなみに魔物の言葉なので、モンスターマスターの才能がない人には「ピキー」としか聞こえないだろう。

 たびだちの扉に棲息するモンスターはスライム・ドラキー・アントベアの三種。
 その内ドラキー・アントベアはともに攻撃力が高く、初期レベルのスラぼうでは結構厳しい戦いになる。

 持久戦に備えるべく僕はスカラを自分とスラぼうに掛ける。

 上空から黒い物体が鷹が獲物を捕まえる時の様な猛スピードで僕に向かって一直線に迫ってきた。
 スラぼうはその攻撃から僕を守ろうとドラキーに向かって体当たりする。
 肉と肉が衝突する鈍い音が辺りに響き、僕は思わず目を瞑ってしまう。

「マスターもう大丈夫だ。目を開けてくれ」

 スラぼうに声を掛けられ、無事だったのかと安心した。
 そして僕は声の方向に振り向く。
 そこにはドラキーが「キュウ~」と鳴き声を上げてダウンしていた。
 体の上にスラぼうがどこか誇らしげな表情でのしかかっている。

「猛スピードでこちらに突っ込んで来ていたからな。
スカラで強化された体にぶつかった衝撃で気絶してしまった様だ」

 なるほど、意図せずとはいえ会心の一撃を食らわせることができたのか。
 HPは決して高くないドラキーなら戦闘不能に陥る。

「さて、マスターどうする? 止めを刺そうか?」

「ちょっと待って。仲間になってくれないか説得したい」

 僕は気絶しているドラキーへと手を伸ばし、ホイミを唱えた。
 ダメージが回復して意識が戻ったドラキーは僕とスラぼうの顔を交互に眺め不思議そうな表情を浮かべる。

「気が付いたかい? 僕の名前はテリー。最強のモンスターマスターを目指しているんだ」

 軽く自己紹介をしたがドラキーからは戦闘中と違い敵意を感じられない。脈有りか?

「キミの力を借りたいんだ」

 必殺? ”僕にはキミが必要なんだ!”を発動。
 オリ主()の様にニコポ・ナデポなぞ持たない上に、
肉も持っていない今は僕の気持ちを正直に伝える他ない。

「し、仕方ないわね! そこまで言うのならこのアタシが力を貸してやらなくもないわよ?」

 ツンデレ? 
 良かった、仲間になってくれた。という感情より先にそう思った僕は悪くないだろう。

 そう言えば仲間モンスターには性格があったな。
 戦闘前、戦闘中、戦闘後とマイペースを貫くスラぼうは冷静沈着というイメージだ。
 彼女は差し詰め高飛車と言ったところか。

「ありがとう。仲間になってくれるのなら早速名前を付けないといけないね」

 ドラクエ風に名付けるとすればどらきちが有力か。
 しかし、女の子に付ける名前ではない。
 すると、ド○美か? これもだめだ。某ネコ型ロボットの妹と同名だ。
 ドラキー、ラキー……。良し決まったぞ!

「今からキミの名前はラッキーだ。これからよろしくね」

 それを聞いたラッキーは何度か自分の名前をつぶやくと喜びを表す様にその場でクルクルと回りながら飛んでいた。



「それじゃあ偵察頼むよ」

 僕たちはその後ラッキーの働きによりあっさりと下の階層へと降りる穴を見つけられた。
 地上から見つけにくいのなら空から見つければ良いのだ。
 これに穴の方向がわかる様になるももんじゃのしっぽが加われば探索はかなり楽になる。
 帰ったらまずはバザーへ行こう。

「む。マスター、ラッキーが戻って来たぞ」
 
 スラぼうが僕に声を掛ける。
 考え込んでいる内にこの階層の穴も見つかった様だ。
 実に優秀だ。旅の扉探索でトリ系モンスターは外せないな。



 穴の前には巨大なアリクイ型モンスター、アントベアが待ち構えていた。
 ラッキーを見かけて僕たちがそこに行くと読んでいたのだろうか。
 意外と頭も回るのかもしれない。

 僕はスラぼうとラッキーにスカラを唱え終わると突撃を命じた。

 素早いラッキーは上空からの急降下攻撃でアントベアを吹き飛ばす。
 しかし、その程度では倒されてくれない。
 追撃しようと飛びかかったスラぼうが鋭い爪で切り裂かれ、その体から青い体液を吹き散らす。
 僕はあまりにも凄惨なその光景を前に何をどうしたら良いのかわからなくなってしまう。

「マスター、私のことは良い。ラッキーに指示を出してくれ……」

 声を聞いて平常心を取り戻した僕はラッキーに再び攻撃を命じると、スラぼうに駆け寄りホイミを唱える。
 スラぼうはやさしい光に包まれると同時に、惨たらしい爪痕とは体から消え去った。

「情けないところを見せてしまったな。もう大丈夫だ。
マスターはそこで私達の戦いを見ていれば良い」

 回復したスラぼうはそう言って再び体当たりを敢行した。
 ラッキーの方にばかり目がいっているアントベアの無防備なお腹にスラぼうが突き刺さる。
 するとアントベアはその場に倒れて動かなくなった。
 
 僕はラッキーの時の様に仲間に出来ないかと思いアントベアにホイミを掛けようと手をかざす。
 そこにスラぼうが割り込んできた。

「マスター、無駄だ。そいつはもう死んでいる」

 アントベアの体をさわってみるとまだ暖かいが、心臓の脈動は手に伝わって来ない。
 ああこれは死体なんだ。そう実感するとノドに何かが込み上げてくる。
 僕は耐えきれずその場にぶちまけてしまった。

 強い意志を持つ何かを殺すという経験は今までになかった。
 自身やスラぼう達の身を守るため仕方がなかったとはいえ、簡単に割り切れることではなかった。

 その後の道中は僕を気を紛らわそうとしてか二匹はやけに饒舌だった。
 
「アンタ中々やるじゃない。それでこそアタシのマスターよ」

「うむ。マスターのホイミのおかげで命拾いした。その若さで大したものだ」

 こんな僕をここまで信用してくれている仲間達がいるのだ。
 いつまでも落ち込んでいる訳にもいかないだろうと気を新たにし、
ホイミンのいる洞窟へと繋がる第四階層の穴へ飛び込んだ。



「ぼくを捕まえに来たんだろ? でも、やだよ。
牧場はつまらないから帰りたくないんだ!」

 穴を降りた先に居たホイミンは僕の姿を見るなりそう口に出した。
 それにスラぼうが返事する。

「気持ちはわからんでもないが、このままだとプリオが可哀想だからな。
悪いが力ずくでも連れ帰らさせてもらうぞ」

 プリオは意外と人望? があるんだなと関心しつつも、戦闘に備えてスカラを唱える。

「何かよく分からないけど、コイツをとっちめれば良いのね!」

 そのラッキーの言葉が口火となって戦闘が始まった。

 スラぼうが先制の体当たりを仕掛ける。
 ひるんだところをラッキーが噛みついて追撃する。
 ホイミンは「いたい! ごめっ! や……」と助けを求める声を上げている。

 ……。あれ? もしかしなくてもホイミン弱い?

 それもそうか。王様のお気に入りとして牧場で悠々自適な生活をしていたホイミン。
 対するは、僕との旅でレベルアップしたスラぼう、そして野生モンスターだったラッキー。
 衰えきった闘争本能でこの組み合わせに勝てる訳がないか。

 止めるタイミングがわからずそのまま眺めていると、どこからかわたぼうが現れた。

「もう良いんじゃないかな?」

 その声を受けてスラぼう達は攻撃の手を休めた。
 ”す○さん、○くさん。もう良いでしょう”ってお前は水戸○門か!
 この世界では誰にもわからないネタを考えていると解放されたホイミンが近づいて来た。
 
「強いねえ! テリーのこと気に入ったよ!
テリーの旅に着いていきたいな! 牧場に帰るのはイヤだよ」

 いや、そっちが弱いだけだと返したくなるのを抑える。
 貴重な回復役だ。是非とも仲間に加えたい。
 ただ、現状では使い物にならないからスラぼう達に鍛えてもらう必要があるな。
 
「テリーやったな! お城に戻してやるよ!」

 なんでお前は上から目線なんだ? 
 そんなことを考えていると辺り一面が青い光の伴流に包まれる。
 気が付けば僕たちは玉座の前に居た。



「テリーよ! ホイミンを連れてきてくれたか!」

 僕の後に隠れるホイミンを王様に見せた。
 そして、一部始終を説明する。
 ホイミンが牧場には帰りたくないということ、僕の旅に着いていきたいと言ったこと。

 それを聞くと王様は目を細めて品定めする様にこちらを見つめ「ほう……。なるほどのう」と、
意味深につぶやくと突然大声で笑い出した。

「魔物に好かれるとはあっぱれじゃ!
わしはそなたが気に入った、プリオは許そうぞ!」

 そう言ってまた玉座の後の通路へと消えていった。

 ここまでは何とか原作通り。
 ホイミンが弱すぎる気もするが、それはスラぼう達に鍛えて貰うことで解決させる。

 善は急げと牧場へ向かおうとすると大臣に呼び止められた。そしてやくそうを手渡される。
 ……。そう言えばこの人はこんなキャラ付けだったっけ。



[30311] この国大丈夫か?
Name: たこやん◆2192f57c ID:7fdc329e
Date: 2011/10/31 19:59
 僕はスラぼうとラッキーに戦闘訓練を付けられているホイミンを眺めている。

 最初の内こそ一方的にやられているだけだったが、今ではその触手を器用に操り、
攻撃を受け流したり、硬化させて突き刺したり、と中々動きが良くなってきた。

 この調子ならGクラスに挑戦しても好勝負が期待できそうだ。
 ただ、行動をする度に「うわっ」とか「ひぃっ」と情けない声が聞こえてくるのはどうかと。
 根っからの臆病者だな、こいつは。



 翌日、僕達は格闘場の受付に居た。

 頭にウサ耳、体にハイレグ、そして網タイツにハイヒール。
 紛れもないバニーガールの格好。世の男どもにはむしろご褒美だ。

 それを着用しているのが老婆でなければ……。

 説明してくれている目に猛毒な人物を視界に入れない様、僕は入り口の方を眺めていた。

「マスター、キアリーを頼む……」

 直視してしまったスラぼうが僕に解毒を頼んでくる。
 しかし、残念なことにそれは精神的外傷(トラウマ)の様なもの、キアリーでは治せない。
 当然ホイミも効かない。そう考えると呪いの様なものなのか。
 シャナクなら或いは。

 ラッキーは珍獣に向けるような視線をババーガールに送っている。
 止めなさい、「へぇ~人間にはこんな格好が流行っているのね」とか勘違いしないで。
 流行るわけありませんから! 残念! ババーガール切りぃ!

 格闘場の熱気にあてられて怯えているホイミンは僕の背に隠れている。
 こんなに臆病で大丈夫か? 
 そう心配になるが、目の前の人物が視界に入るとその瞬間ショック死してしまいかねない。
 不幸中の幸いか。
 いや、どちらにしても不幸だ。

「どうしてそんな格好をしているのですか?」

「趣味じゃ!」

 力強く断言された。
 精霊と王は腹黒、そして受付嬢? は変態。この国大丈夫か?
 おそらくモンスターじいさんや性別鑑定士も一癖二癖ある人物なのだろう。
 そう言えばツンデレ少女(幼女?)もどこかに居た気がする。
 たしか……サ、サンチョ? 
 何か「坊ちゃま~」とか言ってそうでツンデレではない、むしろデレデレだ。

「サンチじゃよ」
 
 そうそうサンチだ。ん? 今の誰だ。



 受付で一波乱あったが、Gクラスの戦いは始まった。

 一回戦の相手はドラキー×2・アントベア。
 成長したスラぼう達なら楽勝できる相手だ。ホイミンが足を引っ張らなければ……。

 スラぼうとラッキーは苦戦した経験があるアントベアに狙いを定めた様だ。
 ラッキーが上空から攪乱し、無防備になったところにスラぼうが体当たりを決める。
 前回の経験が糧になっている。二匹とも学習能力が高く、ずっと連れて歩きたいくらいだ。
 成長限界が近いのが残念でならない。

 ホイミンは「ひぃっ来ないで」と口に出しつつその触手でドラキーを絡め取る。
 動きを止められたドラキーにスラぼうがのしかかりKO。
 
 残る一匹もラッキーが仕留め、一回戦は楽勝で終わった。



 二回戦の相手はスライム×2・きりかぶおばけ。
 きりかぶおばけのラリホーが恐いが、スライムははっきり言って雑魚だ。
 例えスラぼうかラッキーのどちらかが眠らされたとしても問題なく勝てるはず。

 スラぼうとラッキーはきりかぶおばけを標的に決め連続攻撃を仕掛ける。
 相手も一方的にやられてはくれず、小枝の様な手を伸ばして二匹をなぎ払う。
 しかし、二匹ともそれほどダメージを受けている様子はなく押し切れそうで安堵する。

 一方ホイミンはスライム達に向かって「日頃の恨み!」と触手を硬化させ突き刺しにかかる。
 思い返せば一回戦もドラキーを相手にしていた。 
 スラぼうとラッキーによる牧場でのスパルタ教育の鬱憤を同種類のモンスター相手にぶつけているのか。
 小さいやつめ。

 そんなこんなで二回戦も楽勝。
 体に穴を開けられたスライム達から流れ出てはいけない量の体液が出ている気がする。
 やりすぎだろホイミン。



 三回戦の相手はゴースト×2・くさったしたい。
 ゴーストのなめ回しで動きを止められる上に、くさったしたいは攻撃力が高い。
 長期戦を覚悟しなけれなならない強敵だ。
 ホイミンのホイミがタイミング良く決まらないと負けてしまうかもしれない。
 これまで完全に私怨で動いていただけに不安がある。

 試合開始と同時に予想外の事態が起こる。
 ホイミンがくさったしたいに特攻を仕掛けた。
 スラぼう達も呆然としている。

 一、二回戦の楽勝で「ぼくって強いんじゃね?」と勘違いしたのだろう。
 さすが小物。

 くさったしたいはHPが高く、ゲームで表現するならば倒すのに二ターンはかかる相手。
 特攻するならゴーストにした方が良いと思うのだが。
 
 しかし、僕の考えとは裏腹にホイミンの特攻は成功した。
 くさったしたいはホイミンに風穴を開けられ動きが鈍る。
 そこにスラぼうが体当たりを決めて突き飛ばす。
 残るはゴースト二匹となった。

 こうなれば後は楽勝である。
 いくら向こうがこちらの動きを止められるとはいえ、数の不利は覆せない。
 スラぼうとラッキーの連携できっちり仕留められた。
 その間ホイミンはなめ回されて身震いしていた。やっぱり小物だ……。



 優勝後、王様に呼び出された。
 おそらく新たな旅の扉を解放してくれるのだろう。

「Gクラス優勝を見ていたぞ! ホイミンも中々活躍していたではないか。あっぱれである」

 私怨&勘違いによってだけど本当にホイミンはがんばってくれた。
 攻撃せずに後方支援に徹していればここまでの楽勝はなかっただろう。

「ありがとうございます。Sクラス突破までがんばります」

「うむ。頼んだぞ」

 そう王様と話していると後から声が聞こえた。

「ご機嫌いかがであるかタイジュ国王よ。そう言えば今回はこちらが主催国であったな。
主催国に恥じぬ戦いをして欲しい」

 この人はマルタ国王らしい。どうやらタイジュの国はかなり舐められている様子だ。
 でも今回は僕が居る。恥ずかしい戦いはしない、いやできない。
 そもそも姉さんを取り戻し、仲間モンスターを連れ帰る、というのは星降りの大会を優勝することが前提となっている。
 何が何でもやり遂げなければならない。

「おや? こんな所に子供が紛れ込んでおる。王様と遊んでいたのか?」

 今度は僕をダシにして王様をバカにしたいらしい。
 確かに子供だが、後にモンスターを連れているのを見ればマスターだとわかるだろうに。

「星降りの大会が楽しみだな」

 そう言い残して高笑いしながら去っていった。
 玉座に座る王様は羞恥と怒りで顔を真っ赤にしている。

「あそこまで言われればわしも我慢ならん! 星降りの大会で必ずや優勝してくれ!
Gクラス突破の褒美として待ち人と守りの扉を使用することを許可しよう」

 次のボスはドラゴンとゴーレムだったっけ。
 ゲームでは必ず仲間になってくれたが、現実だとどうなるのだろうか。
 どちらも序盤では強力な存在だっただけにかなり気になる材料だ。
 しかし、こればかりはやってみなければわからない。

 まずはラッキーのラリホーで完封も可能なゴーレムがボスの守りの扉から攻略するか。
 そう方針を決めた僕はスラぼう達を引き連れて旅の扉へと向かった。



[30311] そして牧場へ…
Name: たこやん◆2192f57c ID:7fdc329e
Date: 2011/11/01 23:30
「ラリホー」

 ラッキーがそう唱えると同時に薄紫の霧がゴーレムを包み込み、その双眸から光が消えた。
 動きの止まったゴーレムにスラぼうとホイミンが攻撃を加え、瞬く間にその体が削り落とされていく。
 やがてその巨体を支えきれなくなったゴーレムはその場に倒れ込んでしまった。



 眠りから覚めたゴーレムがつぶやく。

「お前強いんだな……ぼくもお前に着いていけば強くなれる?」

 どうやら仲間になってくれるらしい。
 その言葉を聞いた僕は「もちろんだ」と力強く肯定の返事をした。
 強くなるのは君の子供だが、という本音は隠して。
 彼もレベルアップである程度は強くなるのだから嘘は吐いてない。

 必ず仲間になる主は自分より強い者に着いていく習性があるのだろうか。
 それは僥倖。ドラゴンも問題なく回収できるということなのだろう。
 今後の方針が立てやすくなる。

 そう考えているとわたぼうがどこからか現れた。

「さあお城へ戻ろう!」

 その言葉と同時に青い光の奔流に包まれ、玉座の間へと移動していた。



「テリーよ! ゴーレムをその小さな体でよく倒した! 旅の扉には魔物が百万種類程おるらしい」

「それいいすぎ」

「おお、ちといいすぎたか」

 実に息の合ったコンビだ。
 もしかするとこのやりとりの練習をしていたのだろうか。
 大の男二人が夜な夜なボケとツッコミの練習をしている光景を思い浮かべ、少し悲しい気持ちになった。



 次はドラゴンを仲間にするために待ち人の扉へと向かった。
 メンバーはゴレムス・スラぼう・ラッキーの三匹。
 野生モンスター相手なら回復は僕のホイミで足りる。
 攻撃役を増やした方が効率が良いだろう。グッバイ小物。
 ホイミンクエストⅢ そして牧場へ…
 


 僕はゴーレムの肩に乗り、広大なフィールドを見渡していた。
 前回はゴーレムを仲間にするのが第一目標だったが、肉を手に入れた今回はドラゴンの他にも狙っている魔物がいる。
 それはカラフルなトリ系モンスター、ピッキーだ。
 自身の能力値・覚える特技は正直微妙だが、トリ系モンスターの成長の早さは魅力。
 配合材料として仲間にいると心強い。

 偵察に出ていたラッキーが戻ってきた。
 嬉しいことに下の階層に降りる穴だけでなく、ピッキーも見つけたらしい。

「べ、別にアンタのためじゃないわよ。たまたま見つけただけなんだから! アタシに感謝しなさいよね!」

 たまたまなのに感謝しろと申すか。



 ピッキーはあっさり仲間になった。
 一応肉を与えたのだが、もしかしなくても必要なかった気がする。
 巨大なゴーレムを目の前に「仲間になってくれ」と言われるのだ。
 ノーと言えば死は免れない。生き残るためにはイエスと言う他ない。
 スラぼうに「勧誘ではなくただの脅しなのではないか」と諫められたが、背に腹はかえられない。

 ロック鳥、ヘルコンドル、ホークブリザード、キメラ、キラーグースと夢が広がってきた。
 単体でも強力なモンスター達であるが、後三体を経由した前二体は更に強力である。
 中盤を激しい炎・凍える吹雪ゲーと化し、後半を誘う踊りゲーと化してしまう。

 トリ系×テトのひょうがまじん=ホークブリザード
 ホークブリザード×ゴレムス=ロック鳥
 が僕の正義。大防御も覚えるというのはマダンテ対策に使える。
 配合で強化したゴレムスjrを使うことで更なる能力の向上も見込めるが、
育てる手間が余分でかかるのでそこは時間との相談だ。

 しかし、メンバーが四匹になってしまった。
 ゲームでは四匹になった場合は”○○は牧場へ向けて~”とアナウンスされたが、どうやって向かったのだろう。
 まさか自殺ルーラか? そうだとすれば漢すぎる……。

 そんな事を考えていると、どこからともなくわたぼうが現れた。

「テリー、どいつを牧場まで送るんだ?」

 ピッキーを頼むと告げるとわたぼうとピッキーは消え去った。
 なるほどそういう形で仕事をしていたのか、腹黒でも精霊ということか。
 大会優勝後、ローズバトラーと触手プ……いや配合してやろうと思っていたが見直した。

「アンタの方がよっぽど腹黒じゃない……」

 呆れた様子のラッキーの声が響く。
 うるさい。ツンデレは黙ってろ。
 


 僕はローラ姫?と岩陰から戦いの行方を見守っている。

 ゴレムスの気合いが込められた拳がドラゴンの頭に吸い込まれる様に入る。
 ドラゴンの炎を纏った爪がゴレムスを切り裂く。

 二匹の戦いは苛烈を極めていた。さすがは元主と現主だ。
 動きがある度に轟音が鳴り響き、洞窟の壁がパラパラと崩れ落ちる。

 スラぼうは地上で、ラッキーは中空で待機させている。

 防御が紙な二匹は考えなしに飛び込むと一撃KOされるのが目に見えているだけに、
ゴレムスが何とか隙を作りだすしか方法がない。

 しかし、先に力尽きたのはゴレムスの方だった。
 巨体を支え切れなくなり膝をついてしまう。
 僕もこれには敗北を覚悟してしまった。

 それを好機とドラゴンは立ち上がり爪を振り上げる。
 防御力の薄い腹を露わにして……。

「今だ! 行け!」

 僕のその号令とともに、必殺の瞬間に隙を見せたドラゴンの腹へ、スラぼうとラッキーが体当たりを決める。
 ゴレムスとの戦いでダメージを蓄積していたドラゴンは耐えきれない。
 倒れてもがいている。
 僕はその隙にゴレムスにホイミを唱え回復させる。

 完全に態勢が逆転した。
 満身創痍のドラゴンに対して、全快状態のゴレムス。
 何とか立ち上がったドラゴンへ無情なゴレムスの腕が突き刺さる。
 そして、ドラゴンは完全に沈黙した。



「お前強い! 俺もまだ高みを目指せるのか?」

 しばらくして起きあがったドラゴンが僕を見つめながらそう言う。
 僕は「ああ」と短く言葉を返した。
 これで無事にドラゴンも仲間となり、配合解禁の条件となるFクラス優勝が見えてきた。

「さあ帰ろう!」

 わたぼうが現れた。決着の瞬間まで待っていたのであろう。
 その声と同時に玉座の間へと戻り、また王と側近のコントを聞くことになった。



 Fクラス挑戦のため、またパーティー編成を変更した。
 ゴレムス・ラッキー・ドランの攻撃的な布陣とする。

 二戦目の泥人形の不思議な踊りと、三戦目のスカルガルーのメダパニダンスが脅威である。
 早く倒すことだけを考えた方が良い。

 スラぼうでなくラッキーとしたのはラリホーがあるからだ。
 回復できないので被ダメージを少しでも減らすため相手の動きを止められるというのは大きい。

 ちなみにドランを最後方に置いているのは生存確率を少しでも上げるため。
 今回の戦いはドランの火の息が最終戦でどれだけ使えるかがカギだ。

 ドランは何があってもブレス攻撃、ゴレムスはいつも通りに、ラッキーはラリホーで足止め。
 そう作戦を伝え、僕達は格闘場へと向かった。



[30311] 深く腰を落としまっすぐに相手を突いた
Name: たこやん◆2192f57c ID:7fdc329e
Date: 2011/11/03 15:22
 一回戦の相手はぶちスライム×3匹。
 内一体はまねまねを使ってくる鬱陶しい相手ではあるが、能力値が低く苦戦することはまずない。

 ラッキーの開幕ラリホーで相手を一匹眠らせることに成功。
 その後ドランが火の息で焼き払った後にゴレムスが踏みつぶし一匹葬った。
 もう一発ラッキーのラリホーが成功。
 残った二匹は眠ったままとこの時点で勝利が確定した。

 殆ど損害がなく楽勝と言える結果だった。

 地面にはぶちスライムの体液と思われる紫色の染みが残っている。
 これは蘇生できるのだろうか? 風船が割れる音が聞こえた。他人事ながら心配だ。



 二回戦はアルミラージ・泥人形×2。
 ここが鬼門である。
 二回戦で負けるということはないと思っているが、不思議な踊りがドランに決まると三回戦が厳しくなる。
 幸いなことにラリホーに対する耐性は低い。ラッキーの活躍に期待だ。

 しかし、ラッキーの開幕ラリホーはアルミラージに向けられた。
 アルミラージを眠らせることには成功したが、泥人形が無事なのは少しまずい。
 悪いことは続く。泥人形の不思議な踊りは一発目はラッキーだったが、二発目はドランに当たってしまう。
 その後、火の息とゴレムスの打撃でアルミラージを退場させた。残るは泥人形×2。

 二発目のラッキーのラリホーは泥人形を眠らせることに成功。
 残る一匹の泥人形の不思議な踊りはゴレムスへ向けられホッとする。
 これでドランのMPがこれ以上減ることはないだろう。
 その後火の息とゴレムスの打撃で一体、ラッキーが残り一体に止めを刺した。

 MPを減らされたが一回だけならギリギリ許容範囲。
 被ダメージはなかったからかなりの好状態で三回戦に挑めそうだ。



 三回戦はアニマルゾンビ・デスフラッター・スカルガルー。
 スカルガルーのメダパニダンスが脅威である。
 使われる前に倒せると良いのだが……。
 ちなみに三匹ともラリホー耐性が高くラッキーの活躍にはあまり期待できそうにない。

 ラッキーのデスフラッターに向けられた開幕ラリホーはやはりというか不発。
 デスフラッターは羽ばたいて追い風を巻き起こしている。
 ドランのブレス攻撃はこれで一度無効化されてしまった。
 スカルガルーは力をためている。メダパニダンスではない。
 アニマルゾンビはゴレムスへ向けて飛びかかってきた。
 しかし、ゴレムスは全力で腕を振るって弾き飛ばす。まずはこれで一匹。

 ラッキーは再びラリホーを唱えるがまたもや不発。

「何で効かないのよ!」

 ラリホーを連続で外してラッキー少し苛立っている様子だ。

 デスフラッターは高く飛び上がり、滑空攻撃の態勢に入った。
 力をためていたスカルガルーの渾身の一撃がドランに向けられる。

「ここは通せないんだな……!」

 しかし、ゴレムスが壁となりその攻撃を身代わりに受けた。
 その足下には亀裂が走る。二発目は耐えられそうにない。
 ドランは炎を吐いた。上空のデスフラッターもろとも熱波に包み込む。

 デスフラッターはドランに目掛けて急降下。
 ゴレムスではこのスピードには対応できない……。

「いかせないわよっ!」

 ラッキーが射出線上に割り込み、その攻撃を体でもって止めた。
 そのまま地面に叩きつけられ二転三転すると動かなくなる。

「お前が作ったチャンス、無駄にはせん!」

 ドランの炎がデスフラッターを飲み込む。
 これで二対一。

 スカルガルーはその手に持つ頭骨をかかげ、奇怪な踊りを始めた。
 やられた。最後の最後でメダパニダンスとは……。
 
 直視してしまったドランは前後不覚に陥り、その場で暴れている。
 ゴレムスはドランをなだめるので手一杯だ。

 そんな二匹を尻目にスカルガルーは力をためている。
 一撃でけりをつけるつもりなのだろう。
 
 スカルガルーの打撃が無防備なゴレムスの頭に炸裂する。
 ゴレムスはその場に倒れ込むと起き上がることはなかった。

 なおも暴れ続けるドランの脳天にスカルガルーの攻撃が直撃する。
 ドランは苦しそうにふらついたが、目には理性の色が戻った。

「おかげで目が覚めたぞ……!」

 正気を取り戻したドランの炎を纏った爪がスカルガルーを切り裂いた。


 
 格闘場の入り口へと戻るとしわ枯れた声が僕にかかる。

「おめでとう。Fクラス優勝の褒美として新しい旅の扉が使えるようになったぞ」

 危なかった。さっきの戦いも危なかったが、危うく振り返ってしまいそうになった。
 そこにはその姿を見たものは三日三晩は魘されるという、タイジュ王国最凶兵器ババーガールが佇んでいるはずだ。
 僕は「ありがとうございます」と振り向かず返事をして、ゴレムスの後に体を隠す。

「そこまで露骨に避けられると傷つくのう……」
 
 どこか気落ちした声が聞こえる。
 なら普通の服を着てくれ。頼む。

「それは譲れん」

 さよか。



 その後僕達は早速配合をしようと星降りのほこらへと向かった。
 奥からはモンスターじいさんと思われる声が聞こえる。

「可愛いスライムじゃの~それはそうと、ちょっと見せてもらえるかの?」

「? まあ良いですけど」

 魔物好きなのか。さすがというかやっぱりというか。
 どうやらまともな人物な様だ。少し安心した。
 どんなスライムなのか気になってきた僕は奥の部屋へと足早に進む。

 そこには年の頃十四五と思われる少女と、少女のスカートをピラリと捲り上げているセクハラじじいが居た。
 ちょっと見せてもらえるかの? ってスライム関係ないじゃん! だから“それはそうと”と挟んだのか……。
 モンスターじいさんにそう聞かれれば魔物のことと勘違いするわ!

「キャー! 変態!」

 マスターの少女の叫び声と同時に頬を打ち鳴らす音が響いた。

 真っ赤に腫れ上がった頬をさすりながらジジイは口を開く。

「黒か。まだおぬしには早いと思うぞい」

 確かに。

「最っ低! 死ねクソジジイ!」

 少女は深く腰を落としまっすぐに相手を突いた。そして肩を怒らせながら立ち去っていく。
 ジジイは「これもまた愛か……」と世迷い言をつぶやきその場に崩れ落ちた。

 前言撤回。変態の様だ。ダメだこの国……。

「マスターもダメだと思うんだな……」
 
 何を言うゴレムス。



「おおテリーか。Fクラスを勝ち抜いたそうじゃの。これでおぬしも見習いマスター卒業じゃ。
これからは配合も使ってさらに強いモンスターを生み出してゆくがよい」

 僕を視界に捉えたジジイが真面目な顔を作って言う。
 しかし、ダメージでぷるぷると脚が震えている上に、頬には赤い手形が残っていて締まらない。
 コイツに任せて大丈夫なのか? と不安になった僕はおかしくないだろう。

「早速配合をしたいんですけど」

「あいわかった。血統はだれにするのかの?」

「血統はラッキーで相手はドラン。孵化もお願いします」

「ええっアタシ!?」

「むっ俺か……」

 ラッキーは単純に驚いている。相手がドランでも別に悪く思っていない様子だ。
 ドランは露骨に顔をしかめている。
 すまん……。

 まずはこの組み合わせでキメラを作る。
 キメラ自身が冷たい息を覚える上に、ドランから火の息を受け継ぐ。
 二種のブレス攻撃が使えるというだけでも優秀なのだが、さらにホイミも使える万能キャラになる。
 地味に耐性面でも優秀で多少の打たれ弱さはカバーできる。

「ふむ。それではそこで一晩待っておれ」

 そう言ってジジイはラッキー達を引き連れ、ほこらの奥へと入っていった。



[30311] ゲレゲレ派? プックル派? いいえ、ボロンゴ派です
Name: たこやん◆2192f57c ID:7fdc329e
Date: 2011/11/06 21:20
「キメラ♀じゃ。大切に育てるんじゃぞ」

 翌朝キメラを引き連れてジジイは戻ってきた。

「よろしくお願いいたします。マスターテリー」

 おお、このキメラからは不思議と知的な印象を受ける。
 人間で表すならメガネの似合うキャリアウーマンという感じだろうか。

 早速名前を付けることにする。
 ドラクエの伝統にのっとってメッキーとしよう。

「うん。こちらこそよろしく。期待してるよメッキー」
 
「メッキー、それがわたくしの名ですね。ありがとうございます。
父から受け継いだ炎のブレスとわたくしの氷のブレスで必ずやお役に立ってみせましょう」



 ゴレムス、メッキーの二匹だけではレベルが上がるまでが苦しい戦いになってしまう。
 なので、牧場へ向かいスラぼうをパーティに加えた。

 遠目に妙にテカテカしたラッキーとゲッソリと頬のこけたドランが見えた。
 本当にすまん。おまえの娘は大切に育てる。だからどうか成仏してくれ。

「お父様はまだ存命ですが」

 メッキーが不思議そうな顔をしてそう言った。

「ドランは人生の墓場へと足を踏み入れたんだ」

「……」

 その言葉を聞くとメッキーは黙り込んだ。

 配合で生まれた魔物には両親の半生がインプットされている。
 なので、実際に会ったことがなくても両親の人となりは理解できる。
 また、両親が使える特技を引き継げるのもそのおかげだ。

 ドランはどっからどう見ても地雷なツンデレ女ラッキーと一緒になってしまった。
 僕はその苦労を想像するといたたまれない気持ちになる。
 メッキーもそう思ったのかもしれない……。

 

「っ!」

 三匹を連れて思い出の扉へと向かっていると連れた戦士風の格好をした男とぶつかった。
 その傍らに佇むのはよろいムカデ。彼もモンスターマスターなのだろう。

「ああっとごめんね。君があまりにも小さいから気が付かなかったよ。
自己紹介が遅れたね。私はテト。Eクラスのマスターだ。
君が次に戦うことになるマスターだ。少しでも私を苦戦させられる様がんばってくれたまえ」

 そう一方的にまくし立てるとこちらの返事も聞かず、高笑いしながら去っていく。
 偉そうなやつだ。

 メッキーは怒りのあまり体を震わせている。 

「虫なぞ所詮わたくし達鳥類の食料です。コテンパンにやっつけましょう」

 お前は半分爬虫類だろ……いや爬虫類も虫は食べるか。

「ああいう輩には何を言っても意味がなかろう。力で証明するまでだ」

「ぼくもそう思うんだな……」

 スラぼう、ゴレムスもそれに追従する。
 テトをフルボッコするぞ! そう心を一つにした僕達は旅の扉を潜った。



 その後、メッキーが氷の息を習得するまで修行して、
キラーパンサーの待つ主の間へと僕達は向かった。

 メッキーにより氷結させられバラバラになったマドハンド、
ゴレムスに踏みつぶされて辺りに体液をまき散らしたキャタピラー、
そしてスラぼうのギラで燃えさかるファーラットの数はもう覚えていない。
 というかもう見たくない。
 そう思うのだが、レベル上げ作業をするたびにこの光景は繰り返されるのだろう。
 少し気分が重くなった。



「ラリホー」

 メッキーのその言葉と同時に現れた濃紫の霧が、キラーパンサーを包み込む。
 眠り込んだのを確認したスラぼうが体当たりをする。
 しかし、まだ目覚める気配はない。
 更にゴレムスの豪腕が突き刺さり、壁に叩き付けられた。

 ……動物虐待にしか見えない。

 キラーパンサーはヨロヨロと起き上がり、助けを求める様な視線を僕に向けている。
 もうこれ以上攻撃を加える必要はないだろう。
 ラリホーで再び眠らせようとしているメッキーを制止する。鬼畜か。

「メッキー、ベホイミをお願い」

「わかりました。ベホイミ」

 キラーパンサーの全身がやさしい光に包まれ、見る見るうちに傷が塞がった。
 僕は近づいてなでてみる。
 
「ニャーゴロゴロゴロ」

 猫だ。図体はデカイけど完璧に猫だ。

 さてこいつにも名前を付けないと。
 僕の周りではゲレゲレ派とプックル派が争っていたが、そこに一石を投じたい。
 ボロンゴもありではないかと。

「という訳で今日から君はボロンゴだ。よろしくね」

 

 城へと戻った僕達は、スラぼうを牧場へ戻し、
ゴレムス・ボロンゴ・メッキーとパーティを入れ替え、
戸惑いの扉の攻略は後回しにし格闘場へと向かった。
 
 一回戦の相手はとさかへび・スライムツリー・ポイズンリザード。
 こちらのパーティは眠りの耐性が低くスライムツリーの甘い息がやっかいだ。
 しっかり鍛えたから全滅することはないだろうが、長期戦になってポイズンリザードの毒を受けると後が苦しくなる。

 メッキーの開幕氷の息で相手は半壊。
 さらにボロンゴの攻撃でスライムツリーを撃破。
 とさかへび・ポイズンリザードの攻撃は最前線で大防御をし盾を務めるゴレムスに集中する。
 幸先良いスタートだ。

 その後メッキーの氷の息とボロンゴの攻撃で残り二匹も撃破。
 一回戦は楽勝だった。



 二回戦の相手はドラゴスライム・ドラゴン・フェアリードラゴン。
 攻撃力が高いドラゴンも強敵だが、それよりも厄介なのがフェアリードラゴン。
 甘い息とマヌーサで無力化されてしまう。
 今回は壁役のゴレムスも攻撃に参加させ、速攻でケリを付けたい。

 メッキーの開幕氷の息とボロンゴの攻撃でドラゴスライムを撃破。
 残り二匹となったが、フェアリードラゴンが残っているのはマズイ。
 フェアリードラゴンはマヌーサを唱えた。
 これで打撃は通じなくなってしまう。
 ドラゴンの炎を纏った爪はゴレムスに突き刺さる。
 ゴレムスは腕を振り回し反撃しようとしたが、視界を奪われており不発。

「ゴレムス・ボロンゴは身を守って! メッキーはガンガン攻めろ!」
 
 僕はそう命令した。
 今度はメッキーの氷の息でフェアリードラゴンを撃破。
 残るはドラゴンのみとなった。
 ドラゴンは火の息を吐いたが、身も守っているこちらには損害はほぼない。

 メッキーの三度目の氷の息でドラゴンを撃破。

 甘い息を使われなかったおかげで苦戦することなく終わらせられた。



 三回戦の相手はスライムつむり×2・よろいムカデ。
 前二戦はこちらの動きを止める補助特技を使ってくるいやらしい相手だったが、
こいつらはスカラ・バイキルトと自身を強化する特技しか使ってこない。
 キメラの圧倒的な攻撃力でもって押し切れる。
 はっきり言って前二戦のマスターより弱い。

「どうもテリー君。よくここまで来れましたね。私に負けても気にしちゃいけないよ」

 それを認識していない本人は大口を叩いている。
 そのにやけ面を絶望に染めてやる。覚悟しとけ。

「全員ガンガン攻めろ! 殲滅するんだ!」

 僕のその号令とともにメッキーが氷の息を吐く。
 耐性のないスライムつむりはかなりダメージを受けている様子だ。
 ボロンゴはよろいムカデへ向けて飛びかかった。
 思い返せば昔飼っていたネコもムカデを捕まえておもちゃにしていたなあ……。
 敵のスライムつむり達は仲間を助けようとボロンゴへと攻撃をしかけた。
 しかし、興奮しているボロンゴはその程度ではビクつかない。
 よろいムカデは自身にスカラを掛けて耐えようとしている。
 
「ぼくもまぜてほしいんだな……!」

 ゴレムスの巨大な脚がよろいムカデに突き刺さる。

「これで終わりです!」

 更にメッキーが氷の息で追撃。
 テトのモンスターは三匹とも氷付けにされ動かない。

 ちらっとテトを見るとまさかの瞬殺劇に頭の処理が追いついていないらしく放心している。

「勝者テリー!」

 格闘場に勝者を告げるアナウンスが流れた。
 Eクラス決勝戦は僕達の圧勝に終わったのだった。



 格闘場を出るとテトが話しかけてきた。立ち直り早いなこいつ。

「あっ! すいません! 僕偉そうなこと言って。
これからは心を入れ替えて一からやりなおします」

 腰を九十度に曲げて僕にそう言った。
 大の大人にそこまでやられては許さざるを得ない。
 僕は「気にしてませんよ。がんばってください」と返した。

「ところでテリー君、お見合いしませんか?
ひょうがまじんなんですけどお見合いしましょうよ!」

 多くの初心者を絶望の淵に叩き落とした文句が出てきた。
 しかし、学習した僕は騙されない。

「僕はピッキーを出します。よろしくお願いします」

 これでこちらはホークブリザード。
 そしてそっちはねじまき鳥だ。
 前世越しの恨みをついに果たせたのだ。
 そう僕が黒い笑みを浮かべているとメッキーのつぶやきが耳に入った。

「なるほど。マスターテリーは母上の知識にある通り腹黒なのですね」

 オイコラ、ラッキー。後でシメる。



[30311] 氷結の悪魔
Name: たこやん◆2192f57c ID:7fdc329e
Date: 2011/11/09 18:23
 早速僕は星降りのほこらへと向かい、ホークブリザード♀を孵化させた。
 高い耐性と早い成長が魅力のモンスターだ。
 当面は前線で活躍してくれるだろう。

「よろしくねっ! テリー君」

 元気の良いあいさつだ。
 人間で表すなら快活な幼なじみキャラという感じか。
 
「こちらこそよろしく。ブリード」

「了解しました! ブリードがんばるであります」

 ブリードは翼で敬礼をしながらそう言った。
 ……訂正。こいつは脳筋アホの子キャラだ。



 牧場へ向かい、ボロンゴを預け、ゴレムス・メッキー・ブリードとパーティを再編成する。
 そして、新たに開放された安らぎの扉に飛び込んだ。

 主であるスライムファングは配合材料として優秀だ。
 しかし、今回の主な目的は道中出現するネジまき鳥とボーンプリズナーを仲間に加えることである。
 前者はヘルコンドルの材料、後者は井戸の扉の出現条件である雷が使えるモンスター。
 ヘルコンドルは全体回復のベホマラーを覚えられるのが魅力であり、井戸の扉はメタルスライムの出現スポット。
 今後のことを考えるとこれを逃す手はない。


 
 青い空に青い海。
 辺りにはとてもモンスターが潜んでいるとは思えないのどかな風景が続いている。

 フィールドに降り立った僕は、メッキーにネジまき鳥の捜索を命じる。

「はい。お任せください」

 メッキーは返事をすると颯爽と飛び立った。
 あの親からどうしてこんなにしっかりした子が……これぞ生命の神秘。

「テリー君、私も探しましょうか? ネジまき鳥の百匹二百匹くらいあっという間に……」

 ブリードがそう口を開いた。
 同じ鳥系のメッキーに対抗意識があるのだろうか。

「そんなに見つけてどうするんだ?」

「どうって決まっているじゃないですか。食べます」

 何故そんな当たり前のことをと怪訝そうな表情を浮かべ、しれっと答えた。

「食うなっ!」
 
 ネジまき鳥はその名に【鳥】と入っているが立派な物質系である。
 たぶんおいしくないだろう。

 どうせなら大鶏とか暴れ牛鳥を食べてみたい。
 特に暴れ牛鳥はおいしいという描写がどこかにあった様な。
 鉄板の上でジュウジュウと音を立てる肉……って僕は何を!

 魔物は友達、魔物は友達なんだ!
 決して食料ではない。決して食料ではないったらないんだ!

「でもちょっとだけなら」

 氷結の悪魔のささやきが聞こえた。
 そうそうちょっとだけなら良いか。後でホイミで治療すればOK。

 オイ、ブリード。危ない方向に意識を誘導させるな。


 
 好き、嫌い、好き、嫌い……今僕は花占いならぬ羽占いをしている。
 引っこ抜くたびに「いたっ!」とか「ひぎぃ!」とか「ハゲるっ!」とか聞こえるのは幻聴だろう。
 そうブリードを虐た、いや教育的指導しているとゴレムスから声をかけられた。

「戻ってきたんだな……」

 遠目に見えるのはメッキーと思われる白黒の影、そしてその後には白い影。
 ってネジまき鳥連れてきてるし。

「マスター、連れて参りました」

 連れて参りましたってどうやって?
 ネジまき鳥が顔面蒼白になって震えているのを見るとだいたい想像はできるけど。

「ネジまき鳥の群れを発見しまして。ちょっとわたくしの特技を披露すると一匹差し出してくれました」

 ……それは脅迫だろう。

「お母様の知識にあった通りにしたのですが、何か間違いがありましたか?」

 ラッキィイイイイ! 
 ローズバトラー♂と配合の刑だ! 夫がいる? 知るか。

「テリー、漫才はいいとしてどいつを牧場へ送るんだい?」

 ようやく来たか性悪精霊。
 
「ネジまき鳥を頼む」

 そう伝えるとわたぼうとネジまき鳥は光の彼方へ消え去った。



 さて次はボーンプリズナーだ。
 ボーンプリズナーはダンジョン深部にしか棲息していない。

 メッキーにももんじゃのしっぽが指し示す方向へ向かわせ次の階層へと繋がる穴を発見させる。
 
 特に役目を与えられなかったブリードは拗ねていた。
 道中には芸術性の欠片も感じられないとさかへびの氷像が乱立している。
 頼むからボーンプリズナーは氷像にしないでくれよ。

 そんなこんなで穴を三つ降りた。
 
 そろそろボーンプリズナーが居てもいい階層だ。
 僕がメッキーにボーンプリズナーを探す様に命じると、ブリードが口を挟んだ。

「テリー君! どうかこのブリードに汚名挽回の機会をください。
私がボーンプリズナーを捕まえて参ります」

 汚名を挽回してどうするんだバカ。
 
「それではしばしお待ちください!」

 ブリードは僕の返事も聞かず、肉を引ったくって青空へと姿を消した。

 まあレベルも上がったし、一匹でも何とかなるはず。
 なるだろうきっと、なると良いなあ……。

「不安です」

「不安なんだな……」

 二匹とも奇遇だな。僕も不安なんだ。



 小一時間経っただろうかというころ、ブリードが戻ってきた。
 その強靱な脚でボーンプリズナーの肩を掴んで飛んでいる。

「テリー君、連れてきました」

 ブリードはどんなもんだと胸を張っている。

「うん。ありがとう。一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「はいっ! 何でも聞いてください!」

 ブリードは褒められると思ったのか、目を輝かせている。

「どうしてブリードのお腹が行きよりも膨れているんだい?
そう、まるで渡したお肉を食べてしまった様に」

「……さて、ボンちゃんにも名前を付けないと。テリー君どうします?」

 話題を逸らしやがった。
 こいつも相手を肉体言語で説得したんだな。
 クソッ誰に似たんだ!
 
「もうボンちゃんで良いよ……」

 こいつには二度と肉は持たせない。
 僕はそう心に深く刻み込んだ。



 扉の最深部は何故かカジノだった。
 ブリードは拾ったコインでスロットをしている。
 ……こいつスライムファングの存在忘れているだろ。

「出ます! 出ますよ! ガッポガッポです! お隣さんどうですか?」

 隣に座るスライムファングは全く当たらないらしくいらついた様子。
 僕達の心の叫びは一つになっていただろう。空気読めバカと。

「ぐぅうう! 何でお前ばっかり儲けてやがるんだ!
その魔物ゴールドはオレさまが頂くぞ。寄こせ!」

 スライムファングはキバを剥いてブリードを威嚇する。

「ダ、ダメです! これは私のコインです!」

 その言葉と同時にスライムファングの氷像が完成。
 ……メッキー、解凍してくれ。

「はい。お任せを」

 燃えさかる火炎が氷像を溶かしていく。

「アッチィ!」

 スライムファングは火の点いた栗の様に飛び跳ねている。

「わがままですね。ならばもう一度……」

 ブリードが再び氷の息を吹こうと息を吸い込み始める。

「ま、まいりやした姉御!」

 それを見たスライムファングはその場で降参。
 ブリードに向いて頭を下げている。

「オレ、いやあっしはもうお店の中で暴れたりしやせん。誓います!
仲良く遊んでみんなで楽しみます!」

 一件落着と判断したのかわたぼうがどこからか現れた。

「カジノの暴れん坊までなついてしまったね!」

 ああ、ブリードにな。嫌味かこの野郎。

「さあお城に帰ろうか」

 わたぼうが僕達を連れ帰ろうとすると、ブリードが制止する。

「ちょっと待ってください。コインをお肉と交換してきます」

「……ユニークな魔物を連れているんだな。テリー」

 誰かバカにつける薬を売っている道具屋を紹介してくれ。



[30311] 結局引換券じゃないか!
Name: たこやん◆2192f57c ID:7fdc329e
Date: 2011/11/17 22:55
 僕はスタメンメンバーとボンちゃんを連れて刺激臭漂う井戸の底に赴いた。
 実験に雷を使う魔物が必要だから譲って欲しいと頼まれていたからだ。

 原作通りになるのであれば、残念ながらこの実験は爆発オチだろう。
 しかし、その跡地に現れる旅の扉にはメタルスライムが棲息している。
 レベル上げの為に一刻も早く実験を行ってもらいたい。

「おお! ありがとうテリー君。これで実験を進められる。そうだな、お礼に……ばあさんをやろう!」

 ハーゴン風の衣装を纏った博士は、「これは妙案だ」と一人深く頷いている。
 助手のおばあさんは終始笑顔だった。
 しかし、額には青筋が浮かんでいる。

 いえ結構です。そう僕が断ろうとするとブリードが割り込んできた。

「ありがとうございます。実は人間って食べたことなかったんですよ~」

 いきなりの食人宣言にマッドな博士も表情が引きつっている。
 ……メッキー、喜色満面のバカにラリホーマを頼む。

「お任せを」

 ブリードは濃紫の霧に包まれると地面に落ちて寝息を立て始めた。
 ゴレムス、その危険生物の翼を縛っておけ。

「わかったんだな……」

「謹んでお断り申し上げます。それでは失礼します」

「う、うむ。また会おう」



 次は格闘場へと向かう。 
 勇気の扉の主ビッグアイは仲間にならないので、スルーする。
 メッキー・ブリードによる氷の息×2は強力だ。無耐性の相手なら一発で沈む。Dクラスも楽々突破できるだろう。
 すやすやと眠りこけているブリードを文字通り叩き起こして「ふぎゅうっ!」受付を済ませる。



 一回戦の相手はミノーン・はなカワセミ・マッドプラント。
 これといって強力な攻撃や、イヤな補助特技を使ってくる相手ではない。
 はっきり言って雑魚である。

 試合開始直後の氷の息×2であっさり壊滅。楽勝だった。

 
 
 二回戦の相手はメドーサボール×2・キラースコップ。
 キラースコップは攻撃力が高く、メドーサボールはマヌーサを使ってくる。
 打撃中心のパーティだと苦戦することもあるが、息攻撃中心だとさほど苦戦しない。

 開幕氷の息×2でメドーサボールは虫の息。
 キラースコップは反撃してきたが、メッキーの追撃でKO。
 またもや楽勝で終わった。



 三回戦の相手はミッキー。持ちモンスターはキラーパンサー×2・さまようよろい。
 さまようよろいの魔神切りで事故死の危険がつきまとう。
 しかし、三匹ともマヌーサが有効。
 父ピッキーからマヌーサを受け継いでいるブリードがいる以上、負けることはほぼない。
 
「やあ! 今日の相手はきみかい? 大丈夫かな? そんな魔物じゃ勝てるわけないと思うけどね!」

 お前の目は節穴か……いや、そうじゃないと中の人が前を見れないから節穴か。○ッキーなだけに。

「ゴレムスとメッキーはガンガン攻めろ! ブリードは補助で攪乱だ!」

 僕はそう命令する。

「後でお肉一枚ですよ! マヌーサ」

 ブリードが唱えると同時に相手は白い霧に包まれた。
 視界を奪われた相手モンスターは的はずれな方向に攻撃をしている。

 メッキーが火炎で焼き払い、ゴレムスの拳が突き刺さる。
 更にブリードが氷の息を吹きかける。最早ただの的である。

 そう時間を置かずに勝者を告げるアナウンスが流れた。

「勝者テリー!」

 

 場面は移って玉座の間。
 格闘場の入り口へと戻るや否や大臣に「王様がお呼びだ」と強制連行された。

「おおテリーよ! よくぞDクラスを勝ち抜いた! 今後はCクラス以上を受けることを許そう!
……と言いたいところなのだが、実はテリーよ力と怒りの部屋の旅の扉がちとおかしいのだ。
恐ろしい数の魔物が出現しておるらしい! これは主催国として見過ごせぬ問題だ。
ただちに力と怒りの部屋に赴いてくれぬか? この異変の原因をどうか突き止めて欲しい!」

 そう言い放つと僕の返事も聞かずにイソイソと立ち去った。
 それ投げやりすぎ、とツッコまずにはいられない。

「頼みましたぞテリー殿」

 大臣はそう言って薬草を手渡してきた。
 ……せめてアモールの水にしてくれ。



 さて、ここで即怒りの扉へと向かうのは三流のテリー、つまりドランゴ引換券だ。

 王妃の部屋へと向かい、ミッキーの死霊の騎士とお見合いをするだけではまだ二流のテリーである。
 DQ6のEDで、はぐれの悟りのヒントを示してくれるテリー、つまりはぐれの悟り引換券だ。

 キメラを差し出しキラーグースを手に入れて初めて一流のテリー、一流の引換券と呼ばれる。

 ん? 結局引換券じゃないか!

 キラーグースが覚える誘う踊りは強力無比だ。
 一ターン相手を止められるというだけでも優秀である。
 更に動きが止まった相手には攻撃が必中する。
 魔神切りを使えるドランゴと組ませれば実戦に、メタル狩りにと大活躍してくれる。

 僕達は足早に王妃の部屋へと向かった。

「こういうときは潔く負けを認めるべきだろうね……。
君との友情の印だ。お見合いしよう!
死霊の騎士だけどお見合いしてくれるね!?」

「は、はい。僕はキメラを出します」

 ミッキーはもの凄い剣幕で迫ってきた。
 あまりの態度の豹変ぶりに窓際に佇んでいた王妃が目をパチクリさせていたのが印象的だった。
 はねスライム? 用意していません。



 僕は早速キラーグースのタマゴを孵化させた。
 
「キラーグース♂じゃ。残念じゃったのう。男とは……」

 ……コラ、エロジジイ。

「よろしく、グース」

「……よろしく頼むマスター」

 アホっぽい顔をしているが、その言葉にはどこか知的な雰囲気がある。
 メッキーの良い部分を受け継いでくれた様だ。
 “隔世遺伝でツンデレになりました”という最悪の事態は避けられた。



 ゴレムス・ブリード・グースのパーティで怒りの扉へと突入した。

「テリー君、ミミズですよミミズ!」

 フィールドに降り立つや否や、ブリードが騒ぎ始めた。
 いただきま~す、と言って氷の息で大ミミズの群れを仕留めるとポリポリと捕食し始める。

「グースもどうですか? 美味しいですよ」

「うむ。同伴させてもらおう」

 グースまで加わりあっという間に大ミミズ達は胃の中へと収まった。

「あっしまった。テリー君の分を残していませんでした。今から捕ってきましょうか?」

 いらねーよ。



 最下層に降りると底は洞窟だった。
 僕達の前に広がるのはタマゴ、タマゴ、そしてタマゴ。
 優に一メートルはあろうかというそれが所狭しと並んでいる。

「テリー君、一つ二つつまんでも良いですか?」

「食うな!」

 このツッコミは何度目だろうか……。
 ブリードの子供にこの食い意地が遺伝されない様、願いたい。



 更に奥に進むとオノを持った二足歩行型のドラゴン――バトルレックスがそこに居た。
 その前に佇むのは青い服で身を固めた剣士。
 何かを探す様にキョロキョロと辺りを見回している。
 彼が“僕”という存在がなかった場合のテリーなのだろう。

「この世で我が種族が最も栄えること。それこそが我が望み。
何の用でここに来たのかは知らぬが、我のジャマをする様なら容赦はせぬぞ!」

 バトルレックスはそう忠告するが、テリー(大)は気にも止めていない様子だ。

「くそっ! ここにもなかったか……」

 そう舌打ちすると、剣を一閃させる。
 それと同時に辺り一面のタマゴが両断された。

「……お前は!? フン、お気楽な魔物使いってヤツか……。
くだらん……モンスターと仲良くする必要などない!」

 テリー(大)はこちらを見ると、顔をしかめ、そう吐き捨てた。
 今後姉に降りかかる不幸を知らず、のうのうと生きている過去の自分に自己嫌悪しているのだろうか。
 この言葉で過去の自分が変われば良いなと思ってこう言ったのだろうか。
 もしかすると彼なりの励ましの言葉であり、忠告でもあるのかもしれない。

 しかし、僕が返す言葉は一つだけだ。

「僕は絶対に姉さんを取り返し、そして守り抜いてみせる。
その為に最強のモンスターマスターになる!」

「……お前は何を知っている?」

 僕が言い返すとテリー(大)は目を白黒させている。

「まあいい、勝手にしろ」

 テリー(大)は僕を一瞥し、そう言い残し去っていった。

「あの男からは情熱的なダンス魂を感じた。誘ってみるか……」

 やめてやれグース。耐性が低いから本当にこの場で踊り始めるぞ。



「何というマネを……! 許せん……許せんぞーっ!
我が種族が世界の頂点に立つべきなのだ! 消えろ!」

 タマゴを全て破壊され怒り狂ったバトルレックスが襲いかかってきた。

「グース、誘う踊りだ! 動きを止めろ!」

「任せろ!」

 僕がそう命令するとグースはバトルレックスの前に出て踊り始めた。
 直視してしまった相手はつられて踊っている。

「ブリード、頭を冷やしてやれ!」

「お肉二枚ですっ!」

 ブリードの放つ凍える吹雪がバトルレックスを包み込む。

「これで終わりなんだな……!」

 相手が身震いしているとゴレムスが追撃を仕掛ける。
 戦いは終始こちらのペースで進められ、そう時間を置かず決着した。



 満身創痍のバトルレックスがこちらを見つめながら口を開く。

「怒りでは何も成し遂げられぬ。そういうことか……。
少年、そなたの強さいったいどこからきているのか?
我も旅に着いて行きそれを見極めさせてくれまいか」

 原作知識(チート)です、とは口が裂けても言えない……。

 そんな会話をしているとどこからかわたぼうが現れた。

「何だかさっきの男、少しテリーに似てるね」

 中身はともかく肉体は同じだから。

「魔物が増えたのはタマゴのせいだったみたいだし……。
これで事件は解決だ。王様に報告に行こう!」
 
 わたぼうのその言葉と同時に玉座の間へと場所を移した。



[30311] 女の子にしてあげようかな?
Name: たこやん◆2192f57c ID:7fdc329e
Date: 2011/12/28 17:12
 僕達は王様の演説を適当に聞き流し、牧場へと向かっていると強烈な地震に見舞われた。

「テリー君もダンス魂に目覚めたんですか?」

 転ばない様バランスをとっているとブリードが的はずれなことを聞いてくる。
 どうやら空を飛んでいるこいつには事態が飲み込めない様だ。

「何っ? マスターもついに……なら俺に任せてくれ。最高の誘う踊りとマホトラ踊りを伝授しよ
う」

 確かに誘う踊りは確かに魅力的だ。ってそういう問題じゃない!
 グース、お前もか。

「違う! 僕じゃなくて地面が踊っているんだよ!」

「その発想はありませんでした」

「なるほど、さすがマスターだ。その慧眼恐れ入る」

「見てりゃわかるだろ!」

 この脳筋どもめ。

「少年、連れる魔物は選んだ方が良いぞ」

 ドランゴは僕をひょいと抱え上げるとそう言った。
 種族は選べるけど、中身は選べないんだよ……。



 牧場でスカイドラゴンのタマゴを回収すると次は王妃の部屋へと向かう。
 メダルおじさんのスライムファングとお見合いするためだ。
 こちらはキラーパンサーを差し出し、ユニコーンを手に入れる。ホイミ・キアリー・ザオラルを
覚える回復役として最適な魔物である。


 
 ユニコーンを牧場へ預けると、道具屋で聖水と肉を買い込み井戸の底へと潜った。

「おお、テリー君。この通り実験は失敗してしまった。跡に旅の扉が出てきたから好きに使ってく
れて良いぞ」

「ありがとうございます」

 僕と博士がそう話しているとおばあさんとボンちゃんの声が聞こえた。

「人をもの扱いするからそうなるんじゃ。のうボンちゃん」

「ひゃ、ひゃい。私何も見ていません。何も見ていませんとも!」

 おばあさんに声をかけられたボンちゃんは明らかに何かに怯えている様子だった。

「やはりアレを混ぜておいて良かったのう……」

 おばあさんはそうこぼし、口元には黒い笑みを浮かべていた。
 僕は聞いていない、何も聞いていないんだ。うん、今のはきっと空耳だろう。
 


 テリー達が井戸の扉へと潜った後、牧場の厩舎にある巨大な肉を置いているテーブルをタイジュ
の国の有識者達が囲んでいた。

「今年のマスターは中々やりおる。わしは優勝も狙えると思うのじゃがどうだ? ん?」

 王は顎髭をさすりながら全員を見渡す。
 正面にはタイジュの精霊わたぼうが座っている。会議など関係なしにひたすら肉を頬張ってい
る。右手には妙齢の女性。優雅にハープを弾いている。その奥には魔法使い然とした格好の老人、
モンスターじいさん。左手には僧侶然とした格好の壮年の男性、タイジュ国の大臣。その後にはま
だ幼さがかなりの残る少年、牧場世話係のプリオが控えていた。

「……ちと順調過ぎやせんかのう」

 楽観的すぎるじゃろと付け足して、モンスターじいさんは眉に皺を寄せる。

「そうねぇ、私のところには1回も来てないし……。あの子苦労ってものを知らないんじゃないか
しら。ふふ、女の子にしてあげようかな?」

 女性はハープを弾くのをやめ、拳をゆっくりと握りしめた。まるで“球形の何か”を握り潰すか
の如く。

「ヒィッ! つ、次はCクラスか。相手マスターは誰がつとめるのかの?」

「次はテトです。Eクラスでボコボコにされた」

 王の疑問に大臣が間髪入れずに答えを返した。

「期待できそうにないのう……。やつはどんな魔物を持っているんじゃ?」

「ストーンスライム1匹とボックススライム2匹のパーティです。そちらは?」

 大臣がそう言うと皆の視線がプリオに集まる。 

「うちで預かっているのはネジマキ鳥だけですだ」

「バランス悪いのう……。テコ入れした方が良さそうじゃな。頼めるか?」

 我関せずと肉にがっついていたわたぼうの動きが止まる。そして王の目をじっと見つめる。

「扉を探索中のテトの前に偶然(・・)傷ついたキメラが倒れているという感じでどうだ?」

 王はわたぼうにシチュエーションを提案する。

「……偶然(・・)ね」

 わたぼうはそう一言つぶやいて、その場から姿を消した。

「キメラをそのまま使うも良し、ネジマキ鳥と配合してヘルコンドルにするも良し。後はうまくや
ってくれるじゃろ」



~テリーのワンダーランド(hardモードに突入しました)~



 さてそろそろメタルスライムが居て良いはずの階層だ。
 肉を地面に置くと、僕達は聖水で気配を消して辺りの茂みに身を隠す。
 しばらくすると肉の匂いを嗅ぎつけた魔物達が集まってきた。その中には銀色に光るアレ――メ
タルスライムの姿もあった。

「グース頼んだぞ」

 僕がそう告げるとグースは魔物の群れの前へ飛び出て踊り始めた。
 魔物達はつられて陽気に踊り始めた。

「ドランゴ行け。狙いはメタルスライムだ」

 ドランゴはつられて踊っているふりをしながら魔物の群れへと接近。そして、その手に持つ巨大
なオノをメタルスライムへ向け力一杯振り下ろした。

 その後も同様の戦法で、ブリードが通常攻撃でメタルスライムが葬れる様になるまでレベル上げ
を続けた。

 フィールドのあちらこちらに真っ二つに割れたメタルスライムの残骸が転がっている。
 生き残りはいるのだろうかと不安になってしまった。



 最深部まで潜るとギガンテスが待ち構えていた。

「ウホッうまそうな肉がいる!」

 ギガンテスがそう言うとブリードとグースは辺りを見回す。

「えっ!? どこですか?」

「ふむ、ちょうど小腹が空いてきたところだ」

 お前らのことだバカ。

「ふざけたことを抜かすな。来るぞ、構えろ鳥肉一号二号」

 良く言ったドランゴ。

「オォォォォ!」

 雄叫びをあげながらギガンテスが持つこんぼうを振り下ろす。その姿は正に修羅。
 しかし、徹底的にレベルを上げたこちらの敵ではない。
 ドランゴは避けようともせずその体で攻撃を受け止める。

「その程度の力で我を倒せると思ったか! 笑わせてくれる!」

 ドランゴはオノを振り払いギガンテスを突き飛ばす。
 そして、オノを高く振り上げるとギガンテスの脳天目掛けて下ろした。



[30311] 我らが腹黒精霊は許さない
Name: たこやん◆2192f57c ID:7fdc329e
Date: 2011/12/29 16:32
 メタル狩りで力を付けた僕達は、力の扉へは向かわず、Cクラスに挑戦することにした。力の扉
の主である動く石像は仲間にならないし、もう十分過ぎるほどレベルは上げたので、これ以上戦闘
をこなす必要性も感じられないからだ。

 牧場へ向かい、パトリシア(ユニコーン♀)が順調に育っていることを確認した後、格闘場へと足
を運んだ。
 しかし、なぜ牧場で食っちゃ寝しているだけの魔物が力を付けているのだろうか。不思議でなら
ない。


 
 一回戦の相手はとげぼうず2匹とガンコ鳥。
 高い吹雪耐性があり、ブリードとの相性はいまいちだが、炎は素通し。ドランゴとグースの激し
い炎・灼熱で殲滅可能だ。
 
 やはり試合開始直後の炎で全滅。楽勝であった。



 二回戦の相手はホイミスライム2匹とさまようよろい。
 ホイミスライムは炎・吹雪ともに素通し。正に紙耐性である。回復呪文もホイミだけ。これは一
回戦にも言えることだが、いったいどうやってCクラスまで昇格したのだろうか。まさか魔神切り
頼りの運ゲーか? そうだとしたら魔物達にはお疲れ様と声を掛けてあげたい。きっと気が遠くな
るほど挑戦したのだろう。ちなみに、さまようよろいは吹雪耐性があるが、炎は素通し。もはやた
だのブレスゲーである。

 一回戦と同じく試合開始直後の炎で全滅。楽勝であった。こちらはただの一度も攻撃を受けるこ
となく三回戦にコマを進めることができた。やはりメタル狩りの効果は絶大である。



 前回の会議のメンバーは王妃の部屋から試合を観覧していた。

「一二回戦の圧勝は想定通りじゃな。まあ、星降りの大会を目指すマスターに、あの程度の相手に
苦戦してもらうわけにはいかん」

 そうじゃろ? と王は大臣に問いかける。

「ええ。しかし、キメラをネジまき鳥と配合するまでは当初の予定通りでしたが……」

 テトはストーンスライムを持っていた。ヘルコンドルとそれを組み合わせたなら……。大臣はモ
ンスターじいさんへと視線を向ける。

「うむ、あの空中要塞を生み出してしまうとはな……。どちらに転んでもおかしくないぞ」

 モンじいはあごに手を当て、考え込む。高い耐性と、壊れているんじゃないかと思えるほどのH
Pを持ち、さらに成長速度もそこそこのあのモンスター。その頑強さは空中要塞と評される。

「ふふ、私は鑑定と祝福で潤ったからどうでもいいんだけど……あの子のすました顔がゆがむのを
想像しただけで、ちょっとゾクッとしちゃったわ」

 女性はサディスティックな笑みを浮かべ、舌をなめずりながらテリーを見つめている。

「ヒィッ!」

 それを間近が見たプリオが思わず悲鳴を上げてしまう。きっと獲物を見つけた蛇の様な目をして
いたのだろう。

「あら、ごめんなさいね。でも、あなたも良く見ると私好みの顔してるわね。そう……食べちゃい
たいくらいに」

 彼女は先ほどテリーに向けていた目をプリオに向ける。

「お、王様、オラ用事を思い出したから牧場に戻るだ!」

 この女はドS&ショタコン。そう確信し、身の危険を感じたプリオは全速力で階段へと駆けてい
く。しかし、それを我らが腹黒精霊は許さない。どこからか木の枝が伸びてきてプリオの手足を拘
束。あえなくご用となった。

 そこに王が近寄り耳打ちする。

「ホイミンの件、許すのやめちゃおっかな~」

「そ、そんな! あ、あれは王様が逃がせって……」

「わし、王様。おまえ、家来。民はどちらを信じるかのう?」

「……」

 さすが黒幕。自身の逃げ道は用意済みである。
 がっくりとうなだれるプリオに大臣が近寄る。

「薬草はいかがですか? 心の傷は治せませんが、S○プレイで付いた体の傷なら元通りですよ」

 正に四面楚歌。モンじいに至ってはうらやましいのうと指をくわえている。ここに、プリオの味
方はいないのか。でも、あの人なら、とプリオは一縷の望みを抱き王妃に目を向ける。

「これが禁断の……。いけませんわっ! 相手はまだ子供……。いや、でも……」

 しかし、そこには顔を真っ赤にして、イヤンイヤンと顔を振っている淑女がいるだけだった。王妃の頭の中で自分は
くんずほぐれつの醜態をさらしているのだろう。プリオは全ての望みが消え去ったのを否応なしに自覚させられた。

(テリー、次会う時、オラは女の子になっているかもしれねえだ……)



 一方そのころ、テリーは格闘場でテトと対峙していた。

「テリー君、僕は生まれ変わりました。新生マスターテト、どうぞ御賞味あれ」

 こいつは何が言いたいんだ? とテリーは怪訝そうにテトを見つめている。

「ふふふ、テリー君。こいつが僕の新たなパートナーですよ!」

 その言葉と同時に格闘場に強風が吹きすさぶ。テリーは思わず目をつぶった。

「そ、それは……」

 風が吹き止むと、目を開け、そして、テトの魔物が視界に飛び込んできた。それは形容し難いほ
ど巨大な鳥。尾の先からは三本のかぎ爪が伸びている。見た目は不気味であるが、どことなく神聖
な気配を醸し出している。

「そう……ロック鳥です! テリー君とのお見合いで作ったネジまき鳥から全てが始まりました」

 その時、テトは知るよしもなかったが、テリーによる前世越しの仕返し、いや、八つ当たりと言
い換えた方が適切な仕打ちによりネジまき鳥となっていたのであった。しかし、それはブーメラン
ではなく、刃のブーメランとなったテリーに返って来ていた。もちろん、邪悪精霊や腹黒王のテコ
入れがあったのも大きな要因であるが。

「私が生まれた時の話ですね」

 ブリードはテトの氷河魔神とテリーのピッキーとの間で生まれた。彼女はテトのこともよく知っ
ていた。

「その通りです、ブリード君。先日扉を探索中に傷ついたキメラを見つけ、仲間にしました。その
時、これは天啓だと確信したんです。僕はストーンスライムを連れていましたし、キメラがいれば
ヘルコンドルが作れる。そして、ヘルコンドルとストーンスライムを組み合わせれば……っと話が
長くなってしまいましたね。今ならテリー君に勝てるのではないかと自信があるんです。さあ、早
速始めましょう」

 そう言ってテトは最後方に下がる。

 格闘場の真ん中ではボックススライム2匹・ロック鳥とブリード・グース・ドランゴがにらみ合
いながら、試合開始の合図を待っていた。

「試合開始!」



[30311] 起きろ! 起きろよ! 起きてくれよ!
Name: たこやん◆2192f57c ID:7fdc329e
Date: 2011/12/31 03:56
 試合開始の合図とともに両者の魔物が一斉に飛び出した。

「グース、相手を止めろ!」

 テリーの号令が飛ぶ。ロック鳥は誘う踊りに対して高い耐性を持っているが、ボックススライム
は無耐性。実質3対1の勝負に持ち込める、テリーはそう判断した。

「まかせろ、マスター!」

 グースは力強く返事をすると同時に、最前線へと華麗なステップを踏みつつ、文字通り“躍り”
出る。それにつられて、テトのボックススライム2匹も踊り出した。

「クソッ! ロック鳥、こっちも相手を止めるんだ!」

 テトの叫びと同時に、テリーの魔物達を濃紫の霧が包み込む。

「ラリホーマかっ! 霧から離れろっ!」

 ドランゴはオノで眠りの霧を振り払い、グースは上空へと退避する……しかし、あと一匹が出て
こない。どうやらブリードは眠らされてしまったらしい。
 だが、テトにとって眠らせることではあくまでも副次的な効果。真の狙いは別にあった。

「崩しましたねテリー君、誘う踊りを!」

 そう、これでボックススライム達を止めるものはいなくなった。そして、ボックススライムはド
ランゴへと狙いを定めると全生命力を込め、体当たりを決行。その鋼の肉体を貫いた。当然、全生
命力を使い果たしたボックススライムも虫の息だが、力差を考慮すればその大金星を挙げたと言え
る結果である。

「グァァ……」

 ドランゴはその巨体を支えきれなくなり、呻き声をあげながらその場に倒れた。
(バカな!? ボックススライム相手にドランゴが!?)

「グース急げ! 回復だ!」

 テリーは思わぬ伏兵の一撃で思考停止していたが、現状を飲み込んで回復を指示する。しかし、
グースは未だ格闘場の上空。それよりも早く相手の追撃が来てしまう。

「遅い! 止めだ!」

 もう一匹のボックススライムから放たれた火球がドランゴに直撃。そして、ピクリとも動かなく
なった。

「これで3対2。どうですかテリー君、窮地に立たされるというのは」

「……なんでそうなる。体当たりを使ったボックススライムは瀕死。実質2対2だろう」

「おっと忘れていました。ロック鳥、回復を頼むよ」

 突いたら死んでしまうのではないかと思えるほど憔悴しきっていたボックススライムだが、ロッ
ク鳥のベホマによって一気に活力を取り戻した。それと反比例する様にテリーの顔色が悪くなる。

「もう一度言いましょうこれで3対2。テリー君のもう一匹はお荷物ですし、誘う踊りも意味があり
ません」



 ところ変わって、王妃の部屋の腹黒達。

「なんと! レベル差をそんな方法で覆すとは……。中々やるのう」

 王は感嘆の声をあげる。

「いえ、これはテリー殿のミスでしょう。レベル差があるからこそ、誘う踊りなぞ使わずに灼熱で
も吐いていれば良かったのでは? そうしていれば、今頃戦闘は終わっていたかもしれません」

 しかし、大臣はそれに異を唱える。

「わしも大臣と同じ意見じゃな。格下相手に変に頭を使って戦おうとするからじゃ」

 モンじいは、若いくせにひねくれとるのうと付け足し、大臣に追従した。

「私は良かったわ。どんどん顔色が悪くなっていくあの子を見ていたら……興奮してきたわ」

 そう言ってタマゴ鑑定士はほほを染める。そして熱っぽい目をテリーへと向けている。

「んーっ! んーっ!」(すんでの所でたすかっただ! ありがとうテリー)

 その足下に転がる捕食される寸前にあったプリオは、テリーに最大級の感謝の念を送った。



(ブリードさえ起きていればっ……!)
 テリーは唇を噛みしめる。こちらの戦力が実質グース1匹ならば誘う踊りによる足止め作戦はな
んの意味も持たない。テリーは仕方なくグースに作戦の変更を伝える。

「グース、ボックススライム達を焼き尽くせ!」

 グースはテリーの声を聞いて、大きく息を吸い込む。

「やらせません! もう一度体当たりだ!」

 ボックススライムは再び全生命力を振り絞り、その身を光弾と化す。そして、グースへと飛びか
かった。

「ゲホォッ……」

 息を吐く寸前で無防備だったグースはまともにくらってしまい弾き飛ばされる。そして、地面を
二転三転とした。

(ここまま終われるかっ!)
 グースは、痛みのあまり震える体を気力で奮い立たせる。そして、霞む視線の中、テトの魔物達
を捉え灼熱を放った。ロック鳥は持ち前の耐性で堪えるが、熱に弱いボックススライムはそうはい
かない。体を保つことができず、常温で放置された氷の様に溶けていた。
 
「ブリード……後は頼んだぞ……」

 グースはそう言い残し、ロック鳥の凍える吹雪でそのまま氷像となった。しかし、当のブリード
は吹雪の中平然と寝息を立てている。元より氷を司る魔鳥、多少の吹雪ではビクともしないが、今
回はそれが裏目に出ている。

「起きろ! ブリード!」

 テリーも起こそうと必至で呼びかけるが、想いは届かない。

「無駄ですよ、テリー君。ラリホーマの眠りはそう簡単に覚めません。今引導を渡しましょう」

 テトは右手を上げ、ロック鳥に攻撃を命じた。ロック鳥はブリードを正面に捉えると、その大き
な口から閃熱をはき出した。そして、ブリードの身を少しずつ溶かしていく。

「起きろ! 起きろよ! 起きてくれよ!」

 テリーの悲痛な叫びが格闘場内に響き渡る。しかし、ブリードは未だ眠り姫。その間にも体は溶
け続けている。だが、テリーは諦めない。

「肉だ! 起きたらしもふり1枚……いや、あずかり所にある4枚全部! お前にやる!」



 だから、起きろ!



「アッチィッ! 熱いっ! 熱い熱い熱い熱い!」

 飛び起きたブリードは叫びながら体を冷やそうと転げ回る。

「バ、バカな……。完璧に眠り込んでいたはずなのに……」

 信じられない、と開いた口が塞がらない様子のテト。

「うちのは特別製だ。ブリード! あのいけ好かない鳥に一発ぶちかませ!」

「もう少しで焼き鳥になるところでしたっ……!」

「ロック鳥、もう一度ラリホーマだ!」

 ブリードを再び濃紫の霧が包み込もうとする。

「ブリード、輝く息で吹き飛ばせ!」

 しかし、それをブレス攻撃で無理矢理消し飛ばす。そして、その先にいるロック鳥までも輝く息
がなぎ払った。

「ロック鳥、回復しろ」

 ロック鳥の体の傷はベホマの優しい光に包まれると見る見る内に塞がっていく。

(クソッ! きりがない)
 テリーが戦法を模索している間も戦闘は続いている。ブリードは果敢に輝く息で攻撃を仕掛ける
が、ロック鳥はベギラマでちょろちょろと反撃しつつ、ダメージが蓄積する前にベホマで自身を癒
す。一見ブリードが押している様に見えるが、ダメージを回復する方法がない。ロック鳥のMPが
先に切れない限りはブリードの負けだ。

(このままじゃ削り殺される、何とか一撃で……ん? 一撃? アレがあった! いける!)

「ブリード、やつの命を凍らせてせれ!」

「……! お任せを!」

 ブリードは死の言霊を紡ぐ。恨み、妬み、苦しみ、悲しみ……ありったけの負の感情が込められ
た言霊はやがて実体化し、ロック鳥の心臓へと手を伸ばす。
 氷の魔鳥――ホークブリザード。彼らの手にかかれば“命”という形のないものまで氷に閉こめ
られてしまう……。

「なっ……! ロック鳥、耳を塞ぐんだっ!」

 テリー達の意図に気が付いたテトはあわててロック鳥にあわてて声を掛ける。だが、もう遅い。

 床にロック鳥が落ちると同時に勝者を告げるアナウンスが流れた。

「勝者、テリー!」



[30311] 手札整理(11話時点)
Name: たこやん◆2192f57c ID:7fdc329e
Date: 2011/12/31 03:56
手札整理(11話時点)。
ドラン♂×ラッキー♀=メッキー♀ 引退
ボンちゃん♀ 井戸の博士行き
ピッキー×氷河魔神(テト)=ブリード♀ スタメン
メッキー♀×死霊の騎士(ミッキー)=グース♂ スタメン
ボロンゴ♂×スライムファング(メダルおじさん)=パトリシア♀
スラぼう♂
ホイミン♂
ゴレムス♂
ネジ♂
ファング♂
ドランゴ♀ スタメン
スカイドラゴン?(タマゴ)


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